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リズリン

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「リズリン様ー!!」
「リズリンー!」
「リズリン様どこで御座いますかー」

譲位式が終わり数日が経った頃、世話係の目を盗みリズリンが部屋から居なくなった。
クラウスも居ても立っても居られず王宮の中を探し回る。
わたくしも共に探そうとしたものの、待つように言われさらに公務室から自室へ戻るように言われた。
公務室から自室は廊下を少し歩き階段を降りてすぐの場所にありリズリンを探す為に侍女を出したので今はわたくしと侍女の2人だけだ。


廊下を歩いている時、お付きの侍女に話しかける。
「リズリンは一体どこに行ったのかしら。」
「リズリン様はよくお勉強の時間に抜け出されますので、きっとまたどこかにこっそり隠れておいでかと思います。」
「隠れているだけならまだ良いのだけれど・・・」
側室の子と言えども姫なのだ、よからぬ事に利用される可能性ももちろんある。

「リズも共に探しているの?」
「いえ・・・リズ様は・・・」
「そう・・・心配でないのかしら。」
「恐れながら申し上げます」
「何?」
「リズ様はリズリン様をあまり可愛がって居られないように感じます・・・」
「・・・そうね・・・」
否定は出来ない。
リズはリズリンが女の子だった事に心底絶望し、産まれてしばらくは共に寝るのも嫌がるほどだった。
今はなんとか共に過ごす時間も増えているが、夜伽の日を指折り数え月のものが来るとヒステリックになる事が多い。
そのような母を目の当たりにして例え5歳と言えども母の愛情が自分に向いていないと気付かない筈がないし、傷付かない訳がない。

「リズリンもきっと母の愛が欲しくてこのように抜け出したり、動物にひどい事をするのかも知れないわね・・・」
「おそらくは・・・」

ふぅ、とため息をつきながら廊下の窓の外を見ると必死な顔をしたクラウスが庭園の茂みをかき分けリズリンを探しているのが見えた。
「・・・せめてリズリンには父の愛がきちんと注がれているのだと気付いて欲しいわね。」
誰に言うわけでもない独り言を小さくもらし、階段を降りようとした時

「おうひさまっ!!」
小さな少女の声が後ろから聞こえ振り向いた
「まぁ!リズリン!いったいどこにいたの?」
わたくしはリズリンに問いかけると、リズリンはわたくしに向かって走り出した
すると侍女は慌てて大きな声で叫ぶ
「リズリン様、王妃様に飛び付いてはいけませんっ!」
その言葉を無視してリズリンは走ってくる
「リズリン!止まって頂戴!」
後は階段だ普段ならまだしも今飛びつかれてはリズリンと一緒に落ちてしまいかねない。
そう思っていると、わたくしの隣にいた侍女はリズリンを止めるためにリズリンに向かって走り出した。

だけれど上手くかわされこちらに迫ってくる。
わたくしはリズリンを受け止めようと両手を広げる。
その時リズリンは声をあげた
「ばいばい、あかちゃん」
「え?」

広げた両手のせいでお腹を守る事が出来ず、トンッとリズリンの小さな手がわたくしのお腹を押した。
グッと足に力を入れたものの重い身体を支える物がなく咄嗟に掴んでしまったリズリンと共に10段程の階段から下まで落ちた。

「王妃様!!リズリン様!!誰かー!!誰か来てー!!!」
わたくしの侍女が慌てて階段を駆け降りてくる。
目の前を見ると頭から血を流して目を開けないリズリンが
「リズリン。起きて頂戴・・・痛っ!!」
ズクンッと鈍い嫌な痛みがお腹に走り、太ももの辺りにじわっと濡れた感覚がある。
「ぁああ!王妃様!!これは、破水しておられます!!」
「ぅ・・・っ」 
起きあがろうと思ってもあちこち痛くて起き上がれない。
横になったままお腹を押さえる事しか出来ずにいると叫び声を聞きつけた従者達がやってきた。

「早く!王妃様をお部屋に運ぶのを手伝って頂戴!それから医師と産婆を!!」
侍女が来た従者に指示を出し、わたくしは従者に抱えられ部屋へ行き、リズリンは別室へ運ばれて行った。





「王妃!!」
バンッとドアが壊れてしまいそうな勢いで開けてクラウスが部屋へ入ってきた。
「産婆よ、王妃とお腹の子はどうなのだ。」
凄い剣幕で産婆に尋ねるクラウスに動じる事なく産婆は答える。
「早産です。破水の量も多く陣痛も来ていますので一刻も早くお子様をお産みにならなければ、母子ともに危険でございます。」
「そんな・・・では、早く出産の準備を」
「もちろんで御座います。これ以上王妃様を動かすのは危険ですので、王妃様専用の産室ではなくここでご出産となります。」
「それは構わん。なんとしても王妃と子を助けるのだ」
「全力を尽くします」
産婆はクラウスに深くお辞儀をすると出産の準備に取り掛かっていく。

クラウスはそれを見た後ベッドで横になっているわたくしのところへ来て、手をギュッと握る
「サーシャ」
「クラウス・・・ごめんなさい。わたくし・・・また・・・」
「君は悪くない。 リズリンが悪いんだ。」
「そんな、まだあの子は小さいわ・・・っ痛」
ギューっと来る痛みに息も出来なくなり苦しんでいるわたくしの腰をクラウスの暖かい手が摩る。
すると暫くしたら少し楽になってきた。

「はぁ・・・はぁ・・・それで・・・リズリンは大丈夫だったの・・・?」
「僕は話を聞いてこちらに来たからまだリズリンの容体は知らないんだ。」
「そんな・・・クラウス、リズリンをどうか優先してあげて?」
リズリンには今、愛情が必要な時だ。
目が覚めた時に父親も居ないなんて可哀想な事はない。
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