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譲位

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クラウスが王宮に戻ってから5日程経った時、王宮から帰ってきたお父様が大慌てで部屋に入ってきた。
「サーシャ!!」
「お父様、お帰りなさいませ。今日はお早いお帰りですね。」
「サーシャ・・・はぁ・・・はぁ、落ち着いて、聞きなさい・・・」
はぁはぁと肩で息をするお父様の様子を見てただならぬ事があると思い、お父様とソファーへ移動した。
「お父様、何があったのですか?王宮で何かあったのですか?」
侍女から水を貰い一気に飲み干したお父様は、はぁ・・・と一息呼吸を整えるとわたくしをじっと見て口を開いた。

「王様が・・・王子様へ譲位なさるそうだ。」
「何ですって!?それは公に出たのですか?」
「いや、まだ知っているのは私と王妃様・王子様のみだ。」
王様はわたくしが懐妊した事を公表する際にクラウスに王位を譲位すると仰ったらしい。

「そんなこと、だめだわ!」
クラウスはまだまだ王様の下で学ぶ事が沢山あるし、わたくしだって王妃様から色々教わらなくてはいけない。
この国での譲位は、現在の王様が王宮を出るという事だ。
「だめよ・・・そんなの。 お父様!わたくし王宮へ戻ります!!」
「そうだな。お前も王様をお止めするんだ。」
「はい!」


わたくしは大急ぎで王宮へ戻る準備を整えて屋敷を出て馬車に乗り込む。
「・・・すまんな、身重のお前には伝えない方がとも思ったんだが。」
お父様は馬車の中でわたくしに謝ってくる。
「何を仰るんですお父様、身重など関係ありません。わたくしは王子妃、クラウスが王になると言う事はわたくしが王妃となるのですよ?」
「もちろんそうだが・・・私は今回、お前が無事に出産出来るまで屋敷に置いておくつもりだったのだ。」
「お父様・・・」
「思えば、今までだってそうしておけば良かったと後悔ばかりが残っている。 だから今回こそお前に子を産んで貰いたい。」
そう話すお父様のお顔は悲しげでわたくしの事を思ってくださっていると感じた。
「お父様、わたくしもこの子を産みたい。ですが今は、王様の行動を止めるのが先です。」
「あぁ、そうだな。」

あっという間に馬車は王宮内に入り、わたくしとお父様は王様に謁見するべく急いだ。






「王様、王子妃様と大公がお越しです。」
「通しなさい。」
「はい。 どうぞ」

「「失礼致します」」
わたくしとお父様は王様の執務室に通され部屋に入った。

すると王様の座っている机の前にクラウスが立っていた。
「サーシャ!君も来たのか?」
「王子様・・・えぇ、居ても立っても居られなくて・・・」
わたくしはクラウスの隣に立つと王様の方を向いた。
「王様・・・」
「サーシャ、久しぶりだな。お腹の子は順調に育っていると聞いたぞ。その調子で大事にしてやりなさい。」
「王様、そう仰って下さるならどうか!どうか突然の譲位のお話をお取り下げ下さい!」

「お前達は・・・なぜそんなに嫌がる。」
わたくしはまだまだ未熟者で御座います。王妃様にまだまだ教えて頂きたい事が沢山あるのです。それなのに、王様や王妃様が譲位をされると言う事は、この王宮を出られるという事でございましょう?」
わたくしは王様に思いの丈をぶつけた。
「王様、私もまだまだ未熟で王様にこれからも教えて頂かねばならぬ事がたくさんあります。 どうか私やサーシャの気持ちを汲んで譲位をお取り下げください。」
クラウスはわたくしに援護するように王様に申し上げると、王様は首を傾げる。

「お前達、何か勘違いしているんじゃないか?」
「「「え?」」」
わたくしとクラウス、そしてお父様は王様が何を仰りたいのかさっぱり分からず声を上げる。


「まだまだ国政をクラウス1人に任せるつもりはない。少なからず2年は。」
王様はクラウスとわたくしをみてそう答えると、お父様は王様に問いかけた。
「王様、それは一体どういう事ですか?王様は王妃様や王子様と私に譲位すると仰いました。 それは国政も全て王子様に委ね、王様は先王として王宮を出られると言うことではないのですか?」
「余は王の座を譲位すると言った。 だが、クラウスにはまだ教える事が残っておる。故に余は王妃と共にしばらくこの王宮に留まり王子クラウスと王子妃サーシャにさまざまな事を教え、引き継いで行くつもりだ。余が何故この状態のクラウスに譲位するのかと問われれば理由はただ一つ・・・サーシャ、お前の為だ。」

「え・・・わたくし、ですか?」
「そうだ。お前と、そのお腹の子の為だ。」
わたくしは王様にそう言われ、そっとお腹に手を添える。
「サーシャは今まで幾度も懐妊と流産を繰り返してきた。その原因は第三者によるものが多い。そして残念な事に、未だ犯人も捕まえることが出来ていない状態にあること。」 
「・・・。」
「そして、側室に王子が生まれている事。 王子妃と言う立場で王子だけでなく姫もいない今の状況を、側室達の後ろ盾であるノーマン公爵とカルナーレ侯爵が黙って指を咥えて見ている筈がない。」
「そう・・・ですね。」
それはなんとなくわかっていた。
現に今も新しい側室を迎えるか、側室2人がまた懐妊するよう力を入れるかと言う話が上がってきている。

「お腹の子が王子であったなら良いが、姫であった場合万が一にも王子妃の座を奪われる可能性も考えなくてはならない。」
「・・・はい」
側室の子を未来の王に据える時、やはり問題になってくるのは実母である側室が国政に関わろうとしてくる事だ。
そして、王の母であるが故に欲するのは王妃としての座。
我が国の古い歴史の中にも側室と王妃とでその座を奪い合う過去がいくつかある。
わたくしは、王子妃として未来の王妃として、この国の未来の為にこの座を明け渡す訳にはいかないのだ。
そんな事を考えていると王様はピンッと人差し指を立てニコリと笑った。

「そこで今回の譲位だ。」


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