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サーシャ・ローズグリーン
しおりを挟む私はサーシャ。
サーシャ・ローズグリーン。
ローズグリーン国の王様の弟である父の最愛の娘。
そして王族。
私はこの国の国母である王妃様がお産みになった王子クラウスの妃となる為に産まれてきた。
幼い頃から、王妃となる為に教育を受けてきた。
32年前。
私が5歳の頃、現在の国王クラウスが産まれた。
「サーシャよ。」
「おとうさま!!おかえりなさいませ!」
お仕事の忙しいお父様が久しぶりに屋敷へ帰宅して、私はとっても嬉しくなり、お父様に飛びついた。
「おとうさま、おつかれさまでした!おうひさまのおなかのあかちゃんはおげんきですか?」
「サーシャ・・・とうとうお産まれになったのだ!王子様が!!」
お父様はとっても嬉しい顔をして私の両肩をグッと掴んだ。
「ほんと!おうじさまなの!わぁーはやくあいたい!!」
私もとても嬉しくてその場でぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
でも、私の喜びとお父様の喜びは違っていたの。
私とお父様は数日後王妃様の元へ向かった。
「サーシャ。来てくれたのね。」
「おうひさま!」
「サーシャ、キチンとご挨拶しなさい。」
「あ・・・おうひさま、このたびは・・・おうじさまごしゅっさん、・・・おめでとうございます。」
「うふふ、ありがとうサーシャ。キチンと出来ましたね。立派なレディだわ。」
「えへへ!おうひさま、あかちゃんをみせていただきたくてきました!」
パタパタと走り王妃様の元へ向かうとお父様は慌てて止めようとしていたけれど、まだ幼い私には聞こえていなかったし、王妃様は咎める事もなかった。
「ええ、勿論よ。貴女には1番に見せたかったくらいだもの。」
「わぁー!!」
近くにいた侍女は産まれたばかりのクラウスをシルクのお包みに包んで抱っこして王妃様の元へ連れてきた。
「さぁ、サーシャ。どう?名前はね、クラウスと言うの。この国の第一王子よ。」
「クラウスおうじさま・・・とっってもかわいいわ!!」
産まれたばかりのクラウスの手に私が指を近付けるとクラウスはギュッとその指を掴んだ。
「かわいい・・・わたしもおとうとかいもうとがほしいのだけど、おかあさまのおからだがしんどいからむりっておにいさまがいうの。」
「そうね・・・サーシャのお母様は最近は起き上がっていらっしゃる?」
「いいえ・・・ベッドでおやすみしていることがおおいの。」
「そう・・・」
お母様は、元々お身体が弱かったらしいのだけれど、5歳上の兄を産んだ後心臓の病気になった。
その後予定外にも私を妊娠。
医師が止める中お母様は頑なに中絶を拒み出産した。
結局産後の肥立ちが悪く、私を出産した後はほぼ寝たきりで5年が経った。
「サーシャ、王妃様も王子様をお産みになってお疲れだからそろそろお暇しようか。」
「・・・はい。おうひさま、おつかれなのにごめんなさい。」
「あ、待って頂戴サーシャ。」
王妃様は私に手招きしてベッドの近くまで来させてギュッと両手を握った。
「おうひさま?」
「サーシャ、本当の弟にはなれないけれど、クラウスのお姉さんになってくれる?」
「・・・え?」
「クラウスは王子としてこれから大きくなると大変な事が沢山あるの。 そんな時、貴女が側でクラウスを助けてあげて欲しいの。・・・どう?出来る?」
「はい!もちろんです!!わたし、おうじさまをずっとずーっとまもります!」
今思えば、クラウスが産まれるずっと前には私がクラウスの王妃となる事が決まっていたのかも知れない。
幼かった私には政治の事も何もかもわからなかったけれど。
「そう、良い子ね。 バルト王弟・・・いえ、大公・・・今の通りです。明日からサーシャを王宮へ通わせるように。王様もそれを望んでおります。」
「はっ!ご命令のままに・・・」
この後から私の次期王妃教育が始まった。
勿論、まだそんな事もわからない年頃の私には、王族としての嗜みで、淑女としての手習いだと言われていた。
王子様をお守りする為にも必要な事だと言われ、可愛い従姉弟であるクラウスの為にも辛い日があってもとても頑張った。
クラウスもまた、大きくなるにつれ王子としての教育が始まり、お勉強の後に落ち込んだり涙を流すクラウスを、年上として姉として励ましたり、宥めたりした。
あの頃は純粋に将来の旦那様の為に、素敵な淑女になる為にそう思っていた・・・
だけれど、転機が訪れた。
それは私が13歳の頃。
お兄様が度々屋敷に連れてきた宰相の御子息のアルヴィン様へ恋をした時だった・・・
彼はとても聡明で誰にも優しく、お顔立ちも華やかな方だった。
お兄様以外で18歳の男性を見る機会が殆どない幼い私には彼は本当に私の王子様のように感じていた。
お手紙を送れば、お返事には可愛らしいお花が添えられていたり、お会いする度に素敵な贈り物を下さった。
『いつか、君がもう少し大人になった時、僕の気持ちを伝えよう・・・』
そう書かれた手紙はお気に入りのハンカチに包んで毎日持ち歩いていた。
アルヴィン様も私と同じ気持ちなのだと確信していたし、将来は好きな方と添い遂げる事が出来ると勘違いしていた。
だけれど、何故かこの手紙がお父様の手に渡った。
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