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徳のない人生

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キキィィイイイッ!!!!
ドンッ


嗚呼・・・
人生って残酷。
親の都合で産まれてから30年。
彼氏ができる気配もなく、おじさんおじいちゃんばっかの会社で出会いなし。

唯一の楽しみはスマホの乙女ゲームだけ。
なのに今回のイベントはかなり課金したものの推しは一向に出ないし・・・
がっかりしながら歩いてたら車に轢かれた・・・


あー・・・浮くってこんな感じなのね。
てか、これは走馬灯的な時間なのかな・・・
死にたくなかったなぁ。
ていうか、せめて推し出してから死にたかったなぁ・・・

そんな事を考えていたらいつの間にかゆっくりと瞳が閉じていく。
閉じたかったわけじゃない。ただ、急に重たくなった瞼に抗えなかったのだ。





「ん・・・・ここは・・・」
今しがた閉じたと思った瞼は思ったより長く閉じていたのか、窓から差し込む光が痛いくらい眩しい。

慣れてきてよく見ると茶色い天井
良かった・・・私生きてたんだ。
身体を起こしてみると、思ったよりもずっと身体が軽い。

「なに・・・ここ・・・病院・・・?」
周りを見渡すと、豪華な調度品が沢山ある置かれている。

周りを見回していると急にキーンッと耳鳴りがして、その途端に酷い頭痛に見舞われた。
「っ・・・ぃた・・・」

瞬間、事故に遭った私以外の私と別の人生が頭に流れてきた。

「私の・・・名前は、ステラ・・・」
自然と出た名でハッとする。
そうよ・・・私はステラ・バダンテール
ローズグリーン王国内のバダンテール伯爵領に住んでいる。
この王国では珍しい薄いピンクの髪色と赤い瞳を持つバダンテール伯爵夫人
夫のリチャード・バダンテールとは幼馴染で、15で婚約。
私の20の誕生日に結婚をした。
彼のご両親が仕事の関係で乗った船の事故で亡くなってしまい、悲しみに明け暮れた事もあった。

それでも、彼は私の為に明るく努めた。
幸せな家庭でいたもののまだ子どもに恵まれず。
今日が私の25歳の誕生日。
リチャードは私の誕生日に合わせて今日仕事で行っていた王都から帰って来る。


はずだった・・・


-奥様!!!旦那様がっ!!!道中盗賊に襲われお亡くなりにー

-そんなっ!あぁぁ。リチャード!!!ー
ー奥様っ!奥様ぁー

「・・・私は、倒れたんだっけ。」
ポロポロと流れる涙は拭いても拭いても溢れてくる。


でも・・・待って。
拭っていた手を止めて考える。

このステラの記憶は本物
だけれど、30歳で事故に遭った私の記憶も・・・
「もしかして・・・痛っ!!」
夢かと思い頬を抓る。
痛みから手を離してもジーンと頬に痛みが広がる。
「転生・・・・とか?それとも、この身体の主に乗り移ったの?」
誰に言うわけでもないのについ声を出してしまった。
現実か確かめるかのように。

いや、いやいやいやありえない。
漫画やゲームじゃあるまいし。
「ははは・・・・もう一回寝よ。」

慌ててもう一度寝直そうと横に倒れる。

ーコンコンッー
その瞬間、ドアのノックが。
無視したくても、身体が口が勝手に動いているように自然に声がでる。

「・・・はい。」
「奥様。失礼致します。」
そう言って入ってきたのは、執事長のロミオだった。
懐中時計を常に身につけ、ブラウンの髪には白髪が混ざっている。
口の上には綺麗に整えられた髭がまさに彼らしい。
いつも侍女や他の執事達に厳しくも優しく指導しているし、もちろんこの屋敷の女主人である私にとても優しい。
だけれど、間違っている事はキチンと指摘してくれる。
まさに理想のおじいちゃん!
・・・ではなくて、理想の執事長だ。

「ロミオ・・・」
「お目覚めになりましたか。」
私の元に来て脈をとる。
彼は医師の資格も持っている。
彼曰く「大した事は出来ませんが、応急処置程度で有れば私が致します。」
と、謙遜していた。

「もう、大丈夫のようですね。」
「えぇ・・・寝てばかりはいられないもの。」

思わず涙が出そうになるのをグッと堪える。
リチャードに対してなんとも思っていない、30歳の私と、私の中のステラの記憶がぐるぐると身体の奥で混ざる。
愛しいリチャード!!!
胸が張り裂けそう!

そんな気持ちがどんどん押し寄せてくる。
そうやって耐えていると、ロミオが声をかけてきた。



「旦那様は・・・ご帰宅の道中盗賊に襲われた際に崖から落ちてしまわれたようで、残念ながらご遺体が見つからず・・・」
「そんな・・・っ!!いえ、でも。生きている可能性は・・・」
遺体が見つからないのならば、奇跡的に助かっている可能性もある。
そう思ってロミオを見るが、ロミオは苦しそうな顔をしながら首を横に振った。

「落ちた崖は、少なくとも10メートルの高さはあると・・・」
「10っ・・・」

堪えていた涙はとうとう零れてしまった。
一度零れてしまえば、次から次へと流れていく。

「リチャード・・・っ」
悲しい、悲しい、悲しい・・・!!
30歳の【私】と25歳の【私】が混ざる
流れてくるリチャードとの思い出。
大好きなリチャード。
私の支えだったリチャード
愛しているのに、何故私を置いて先にお義父様やお義母様の元へ行ってしまったの?


涙を流してどれほどの時間が経ってしまったのか。
ロミオは涙する私に気遣って1人にしてくれた。
そして、窓を見れば外は真っ暗だった。
そろそろ、私の誕生日が終わる。
本当ならば私の誕生日を祝ってくれていたリチャード。
沢山笑って、抱きしめあって、この広いベッドで一緒に寝ていた筈のリチャード。

「夢であって・・・欲しかった・・・」
ポツリと呟く。
そして、悟った。

私は、30歳で死に。
このステラに生まれ変わった。
ステラがショックで倒れた拍子に前世の記憶が蘇ったのだと。

まだ25歳の私と30歳の私の気持ちがぴったりハマってないものの、身体が理解してきた。
「リチャードは死んでしまった。私は未亡人になる。ここの女主人は私。 残りの人生は、リチャードが残したこの屋敷で暮らしていかなければ。」

まさか、前世は喪女だったのに。
今世は気が付いた時点で未亡人。
つくづく私って徳積んでないんだなぁ。


深いため息が出て、ベッドから出る。
これから葬儀とか色々あるだろう。
ここの屋敷の執事や侍女はとても優秀だから、この悲しみのどん底にいるステラの代わりに色々動いてくれているだろう。
私は胸に手を当てる。

「ステラ、大丈夫よ。前世の私が貴女の代わりに色々な手続きをするからね。」
そう声に出した途端ステラの記憶と意識が前世の私とぴったり混ざった。
そして「頼んだ」とでも言うように、前世の私の意識で気持ちが動くようになった。

悲しみで覆われていた心が少し明るくなった。
ふわふわと腰の辺りまである長いウェーブの髪をグッと後ろの高い位置で纏めて、近くにあったリボンで上手に縛る。
この辺の動作はが無意識に出来るのは元がステラだからかしら。

私はドアに手をかけた。
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