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幼い頃の記憶
しおりを挟むコンコンッ
軽快なノック音と共に私は扉を開けてひょっこり頭を中に入れる。
中の人を起こすような大きな声を発して
「ロイ、おはよう!!」
「お姉さま!!おはよう!」
ベッドにいる可愛い弟の元まで走り、前まで来ると私の手と、私よりも小さな手が重なる。
ギューっと抱きしめ合って朝の挨拶。
ローズマリー・オベール
私の本当の名前。
アヒム・オベール男爵の長女だった私は当時12歳
その時弟のロイは5歳だった。
ロイは、生まれつき身体が弱く1日のほとんどをベッドで過ごしていた。
「今日は体調どう?」
「うーん。大丈夫!」
「本当に?」
「うん!平気だよ。」
「じゃあ、お姉さまもここで一緒に食事しても良い?」
「もちろん! 僕、お姉さまと一緒に食べるの大好きだよ!」
ギューっとまた抱き合う。
可愛くって大好きな弟。
弟が生きていた時、我が家は本当に幸せだった。
だけど、愛してやまないロイが、死んでしまった。
ロイの6歳の誕生日の前日に。
「ロイー、ロイィイイイ!!!目を開けてよ!!!明日は、明日は貴方の誕生日なんだよ? ケーキ食べて、歌を歌って・・・楽しもうって言ったじゃない・・・」
返事のない弟。
朝は一緒に食事してたのに、お昼から急に咳が止まらなくなった。
定期的に起こる発作だった。
だけどその日はいつもよりもずっと酷くて呼吸が浅くなり、大慌てで呼んだお医者様に診てもらっても明日まで持つかわからない・・・そう言われた。
泣きじゃくって、亡骸になってしまったロイに縋り付いて。
父様も母様も、メイドも執事もみんな悲しんだ。
ロイが死んでから、我が家は変わった。
もともとお金で成り上がって得て男爵になった父様は、母様と結婚したのも遅く。
母も適齢期を過ぎていた為、ロイはかなり高齢出産だった。
ロイを出産した母様は、その後子どもを産めなくなった。
子宮がもう耐えられなくなるから、と。
長男が産まれた事で、男爵家は安泰になると思っていたら、生まれつき身体が弱かったロイ。
それでも、父様も母様も必死にロイを大切に育てた。
もちろん、私の事も大切にしてくれた。
それが、ロイが死んでから父が家にあまり帰ってこなくなった。
父が外に若い妾を作ったからだ。
お金で群がった若い妾に男の子を産ませようとしていたらしい。
母は精神を病み、ベッドから起きられなくなっていった。
その頃には私は14歳になっていた。
「ローズ、ローズマリー・・・ごめんなさい。 弱い母を許さないで・・・ごめんなさい。」
「母様・・・そう思うなら、ちゃんと食事してよっっ!! 母様、お願い・・・許すから、ねぇ? 父様も帰ってこないの。1人にしないで・・・お願い。」
「ごめんなさい・・・」
食事も、ほとんど食べなくなり最後は私に謝りながら死んでいった。
父様はお葬式が終わって、その後全く帰ってこなくなった。
成り上がって得た男爵を振りかざしお金を他の男爵や庶民から借りたり巻き上げ、捕まった。
男爵を剥奪され屋敷は取り上げ、私は父のたった1人の身内だったので、父が借りたり巻き上げたお金を返すために、奉公に出る事になった。
最後にもう一度屋敷を見たい。
取り壊される前に。
そう思って、奉公先に行く前に屋敷の前に行った。
家財はほぼ取り上げ。
開けられた門から中を覗くと椅子や足の折れたテーブルが外に出されていた。
ロイが部屋で使っていた小さな椅子や棚もあった。
思わずその椅子と棚の所まで行って抱きしめる。
「~っ・・・っ。ロイ・・・母様っ」
すでに枯れたと思った涙がまだ出てくる。
泣きじゃくっていた私の頭にポンッと誰かが手を乗せた。
「っ、誰っ!?」
バッと後ろを振り返る
そこに居たのはクライヴ・アータートン公爵様だった。
「君がローズマリーかな?」
「・・・はい。」
「僕はクライヴ・アータートン」
「アータートン・・・!?こ、公爵様ですか!?」
慌てて淑女の礼をする。
ついこの間までは末端と言えど男爵令嬢だったのだ。
公爵様なんて初めてお目にかかったけれど、そこは母様に厳しく育てられた者としてキチンとしなければいけない。
「かしこまらなくて良いよ。 ・・・色々、大変だったね。」
背の高い公爵様は私の頭をポンポンと優しく撫でる。
「・・・はぃ」
泣きそうになりながらも耐える。
人前で泣いてはいけません。
母様が口を酸っぱくして言っていた。
「君は、これからどこに身を寄せるんだい?」
「エッカルト男爵家です。」
「エッカルト・・・ね。」
「と・・・父が大変お世話になったので、そちらでこれからはメイドとして働く予定です。」
父様が1番お金を沢山借りた所だ。
あそこの男爵様は少女趣味があるともっぱらの噂だ。
すでに15歳になった私は、もう私がそちらでどう言う仕事をする事になるのか・・・なんとなくわかっていた。
目の前の公爵様は顎に手を当てて何やらぶつぶつと独り言。
「うーん・・・この屋敷の視察に来ただけだったんだけど。」
そろそろお暇しなければ。
そう思っていると公爵様に肩にポンっと手をおかれた。
「ローズマリー、君。家に来なさい。」
「・・・・・へ?」
思わず変な声が出た。
「エッカルト男爵には僕から言っておこう。」
「え・・・そ、それは無理です!!」
「・・・なぜ?」
キョトンとした顔でこちらをみる公爵様。
「あの・・・公爵様に、こんな事を言うのは・・・本当に我が家の恥ですが。」
「言ってみなさい。」
「・・・父は、エッカルト男爵様に多額の借金をしておりまして。 私はそちらに身を寄せて借金を返そうと・・・」
「なるほどね・・・」
恥ずかしくて泣きそうになる。
「で、ですから・・・私は、公爵様のお屋敷に行くのは・・・」
「そんな事なら心配しないでいいよ。 僕に任せなさい。」
「え?」
思わず公爵様をみる。
「僕に任せて、取り敢えず僕の屋敷においで。 エッカルト男爵には僕から話をしよう。」
「えっ?え?」
さぁさぁ!と私を屋敷の外に引っ張り、乗ってきていた馬に乗せる。
公爵様の後ろにはいつのまにか兵士の格好をした人達が並んでいる。
あれよあれよと私はアータートン家へ連れて行かれた。
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