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アリスの母
しおりを挟む「私のお母様が埋まっているのです。」
何となく言いにくくて、自分の夫に毒を盛られていた上に階段から落ちた母の事を、言うべきではないけれど。
クロヴィス様に嫌われてしまうかも知れないと思った途端にとても悲しくなったし、優しいクロヴィス様は言わなくても良いと言ってくださった。
でも、クロヴィス様には隠し事をしたくなかった。
クロヴィス様に、私がウィドーソン男爵の娘だと言う事。
父が妾と手を組み母に少しづつ毒を飲ませていた事。
そして10年前のあの日のこと
全て話した
「お母様は男爵家のお墓に入れてもらうことも出来ませんでした。 お母様のお葬式の時にあった棺には砂の入った袋が入れられているだけなのです。」
クロヴィス様は静かに聞いてくださっている。
「ですが、お母様はあの木の下で穏やかに眠っていますし、私のあの小屋からも近いので・・」
これ以上言葉が出なくなってしまった。
すると今まで静かに話を聞いてくださっていたクロヴィス様が口を開いた。
「アリス。」
「はい。」
「お前も、母上もとても辛い思いをしたのだな。」
「クロ、ヴィス、様」
ポロッと頬を伝った暖かいもの
お母様の事は今まで沢山泣いてきたからもうあの出来事を思い出しても涙は出ないと思っていた。
なのに、クロヴィス様の言葉に優しくて強くて美しいお母様との思い出がどんどん溢れてきた。
「お、母様・・は、とても強く美しい方でした。」
「ああ。」
「ですが、お父様の裏切りに心を、・・とても痛めたと、思います。」
「そうだろう。 どれだけ気高く強い人であっても、信頼していた者の裏切りは辛く苦しいものだ。」
優しい言葉が私の凍りついたお母様との思い出を溶かす。
「お、母様・・・お母様ぁああああ!!!」
クロヴィス様は、しがみつきはしたなく叫びながら泣く私の背中を優しく撫でて下さった。
誰かに、お母様の事を話したかった。
お母様は間違っていないと言って欲しかった。
お母様。
お母様。
貴女は本当に気高くて強くて美しい方でした。
泣き虫の娘でごめんなさい。
今一度お母様を想って泣かせて下さい。
「落ち着いたか?」
「は、い。 申し訳ありません。とてもはしたなく・・」
「気にするな。 まだ目が赤いな。」
私の目元に優しく触れて下さるクロヴィス様。
赤い瞳を見ると私の顔が映っている。
キラキラと輝く小川のせいなのか、クロヴィス様が眩しい。
ドキドキと鼓動が鳴り響いて体全体が震えているような気すらする。
「好き・・・」
ハッと慌てて口に手をやる。
何も考えずに出てきた言葉。
その意味が頭で理解出来るまでに少し時間がかかった。
理解できた途端に顔が熱くなる。
クロヴィス様を見ると目を見開き心なしか頬が赤く染まっている
完璧に聞かれていた。
恥ずかしいし、もうダメ・・・とギュッと目を瞑った。
「アリス、それは・・俺を、男として好いていると言う事か? 」
そんな風に聞かれると思わなくて瞑った目を開けてキョロキョロと地面を見る。
「・・・ぁ、の」
ドキドキで身体が破裂しちゃいそう。
「それともただの友人として・・・か?」
「ぃぇ・・・その。・・・・男性として。好き、です。」
身体が心臓になってしまったのかと思うくらいドキドキと脈打っている気がする。
クロヴィス様に聞こえていないかしら。
ギュッと握った両手が震える。
そんな事を考えていたら、急に視界が暗く暖かい・・・クロヴィス様に抱きしめられていた。
「!!?ク、クロヴィス様!?」
こんな事をされたらドキドキで溶けてしまいます!!
そう思っていたら、とても早い鼓動が聞こえてきた、、
これは、私のと、似ているけれど違う。
「アリス、私もだ。」
「え?」
両肩を持って少しだけ体を離して視線が絡まる。
クロヴィス様の赤い瞳に私が映る。
きっと私の目にはクロヴィス様が映っていると思う。
「私も、お前が好きだ。・・・1人の女性として。」
「クロヴィス、様」
ドキドキし過ぎてクラクラする。
だんだんとクロヴィス様のお顔が近づいてくる
美しいお顔が近づいてきて、恥ずかしくて目をまたギュッと閉じた。
ふにっと柔らかいものが唇にあたる
それがキスだと気付くのに少し時間がかかった。
「!?ぁ、ぁの。」
「だめだ。好きだと言われて感情が抑えられん」
「ク、クロっん。」
名前を呼ぼうと思ったらまたキスされた
それから2回、チュッチュッとリップ音が鳴るキス。
「はぁ、・・クロヴィス様」
初めてされた行為に頭が甘く痺れる。
クロヴィス様をみると切ない瞳をしている。
「・・・っ今日の所はここまでだ。 アリス。俺が帰る日に一緒にアプト国へ連れて帰りたい。」
「嬉しいです。 ですが・・・」
親とも言えないがとりあえず保護者と言う立場にあるあの2人のせいで、クロヴィス様が不利益を被るかも知れないと思うと喜べない。
「ウィドーソン男爵とその後妻のことか?」
「・・・はい。」
「心配しなくていい。 その件も含めて色々準備があるから、すまないが明日はアリスの元へ行く事が出来ない。準備が終わり次第すぐにウィドーソン男爵家へ婚姻の申し込みをしに行く。」
「はい。」
「アリス、これを。」
「これは、」
するりと私の右手首にキラッと光るものを付ける。
これは先日一緒に市場に行った時にクロヴィス様が買っていたもの・・・?
「今日という日の記念だ。俺が常に一緒にいると言う事を忘れない為にこれをお前の腕に付けていなさい。」
「はい」
見てみると金のチェーンに赤い小さな宝石が付いてる。
「俺はこれだ」
そう言いながらクロヴィス様の腕に付けた物を見せてくれた。
シルバーのチェーンに青い小さな宝石が。
「この2つの石はもともと同じ石で、石の中に入っている不純物の量で色が変わるんだ。」
「そんな不思議な石が・・」
「だから・・」
クロヴィス様のお顔が穏やかに微笑む
「お前と俺は1つという意味だ。」
「っ、はい!」
甘くて優しい言葉に頭がクラクラしてしまう。
もう、一人じゃないのね。
お母様、こんな素敵な方を私の元に遣わして下さり本当にありがとう。
それから小川で2人で過ごしてその日は別れた。
家の片付けをして屋敷に戻る
「ただいま戻りました。」
「アリス、おお我が娘よ。今日はどうだった?」
私が戻ると嬉しそうに声を掛けてくる。
「・・・おや?その腕の飾りは?」
目敏く見つけられてしまって慌てて後ろに隠す。
「いえ、・・・これは。」
じりじりと近づいてくるので後ろに少しづつ下がると後ろに回していた手を細いてに掴まれた。
コレットが静かに近づいて来ていたのに気付かなかった。
「あらあらまぁまぁ!アリス、こんな物を頂戴したの? お父様に言わなきゃダメじゃない。」
「あっ!やめて下さい!!」
サッとブレスレットを外されて男に渡す。
「どれどれ・・・・なっ!!!なんだこれは!!!しょうもない屑石のブレスレットじゃないか!!!!」
違う、それはクロヴィス様がくれた大切な宝物
「こんなしけた贈り物とはとんだハズレの男だ!大方男爵家の者だろう! アリス!!あれ程お父様を失望させるなと言っただろう!!」
ブレスレットを投げ捨て酷い怒鳴り声で唾を飛ばしながら叫ぶ声に身体が強張る。
その時コレットが後ろから私の両肩を掴んだ
「まぁ、まぁアナタ。アリスも殿方の見る目が無かっただけですわ。 どうでしょう?早々にレートル伯爵様にお声がけしてこのまま妻にして頂くのは。」
レートル伯爵も喜びますわ。
後ろからまるで音楽でも奏でているように楽しそうに話す残酷な言葉にゾッとした。
嫌・・・クロヴィス様。
私は、クロヴィス様の奥さんになりたい
「・・・そうだな」
ニヤニヤと汚く笑う男をみて、お父様の面影が完全に無くなっている事に何故かホッとした。
お父様は、やはりあの時にお母様と共に死んでしまった。
そう思う事が出来る。
「レートル伯爵は今日は王都の屋敷に御在宅のはずだ。ここからレートル伯爵のお屋敷までは馬車で2時間もかからん!誰か!!使いを頼む!!!紙とペンを!」
「わ、私が行きます。」
使いをするメイドに大慌てで紙とペンを持ってこさせサラサラと何かを書く。
「アリス、お前はレートル伯爵が迎えに来たらそのままレートル伯爵夫人だ。」
嬉しそうに笑う男はこちらを見る
「!!・・そんな。」
ガタガタと身体が震える。
そんな・・・私は、クロヴィス様の妻になれないの?
震える私にコレットが
「心配せずともレートル伯爵はとてもお優しいわアリス。」
さぁさ!支度をしましょう!!
と嬉しそうに私を違う部屋へと連れて行く。
クロヴィス様!!クロヴィス様!!
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