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森の小さな家まで
しおりを挟む「アリス、俺の休みを全て君との時間に使いたい。いいか?」
「ぁ。はい。」
おそらく聞いていないんだろう。
ずっと下を向いて耳を赤くしていた。
マスクで表情が見えないのがもどかしい。
あの白い頬を赤く染めた顔を見てみたい。
俺は聞いてないとわかっているが、もう一度繰り返す事はせず話を続けた?
「ありがとう。 では明日またあの家に行くから。」
「ぇ、あの!」
聞き返そうとしているアリスに礼をして背を向ける。
まだ一緒にいたいが、聞き返されて断られるのは怖い。
このまま宿に戻り明日からの事を考えよう。
馬車の前まで行くとマルクスが待っていた。
「お疲れ様でした。」
「ああ。」
俺が馬車へ乗り込んだ後マルクスが乗る。
扉を閉めたのを確認してからマルクスに話しかける
「アリスがいた。」
「先日の?」
「あぁ。令嬢だと思わなかったが、おかげで婚姻の申し込みがし易くなった。」
「そうですね。 帰宅後すぐにどちらのご令嬢か調べます。」
「頼んだぞ。 そうだ、明日からアリスと毎日会う事に決めた。お前は忙しいなら宿で待ってろ。」
「え、いやしかし。」
「剣術や体術に不安もない。宿で待ってろ」
「・・はい。」
せっかく会えるというのに従者がいるのはあまりに無粋だ。
宿に着いて部屋へ入る。
マルクスも入ってきて俺が着ていた燕尾服を脱ぐとそれを拾っていく。
今回のパーティーは男側は全員用意された燕尾服と決まっていた。
まぁ、ある意味楽である。
裸にガウンを着ている間にマルクスがグラスに酒を注ぐ。
そして静かに下がっていくマルクス。
「明日はまた逢えるのか。」
グイッと飲み干しベッドへ沈む。
明日が楽しみだ。
まだ外が薄暗く、遠くの方が少し明るくなり始めた頃に目が覚めた。
「早く起きすぎたか」
もう一度寝ようにももう目が冴えてしまっている。
起きて湯浴みをし、部屋のソファーで寛ぎながら外をみる。
やっと明るくなり始めた時、ふと思った。
アリスは他国の貴族だ、俺が個人的な事の為とは言え、貴族を調べる等失礼に値する。
「陛下に書状を書くとしよう。」
陛下と言ってもこの国の国王陛下だ。
アリスに関して調べる事への許可をもらう為の書状だ。
書状の最後にサインを書き封筒に入れる
封筒に蝋を垂らし開かないように封印する。
外を見るとちらほらと人が出てきた。
隣室で待機しているマルクスを呼ぶとすぐにきた。
「失礼致します。」
「マルクス、この書状をこの国の国王陛下に渡してきてくれ。そうだな。アル近衛隊長を呼んでもらい、アプト国クロヴィス・アーベライン公爵から王様へと伝えればすぐ届くだろう。ここに居られる期間が短いので出来れば今日中に返事が欲しいと伝えてくれ。」
「承知いたしました。」
アル近衛隊長は1年間だけアプト国へ軍事研修を兼ねた近衛兵の交換留学の際に知り合った。
屈強な戦士とすぐわかる大きな身体と、国王への忠誠心はまさしく男の中の男といった感じだ。
仲間を大事にし、悪には容赦がない。
だが、実はとてつもない愛妻家で妻の話をするとまるで蕩けた顔になる。
あの頃はそんなに女にハマるとは・・と思っていたが今ならわかる気がする。
「そういえば、アリスはどこの令嬢か分かったか?」
「はい、ウィドーソン男爵の娘との事ですが、」
「なんだ。」
「ウィドーソン男爵家は色々と噂が絶えないようで。」
「そうか。 この国の国王にアリスの家の事を調べる了承を得る為の書状なのだが、俺が調べる事によってもしかしたら国王にとってもプラスになるかも知れんな」
「そうですね。 こちらすぐにお届けいたします。」
「あぁ。頼んだ」
失礼します。と書状を持って下がっていく。
「さて、そろそろ支度をするか。」
黒のシャツに深緑と濃い赤のチェック柄のジャケットとパンツを着る。
黒のシャツはボタンを少し開けて長い髪は後ろで縛る
外に出て馬小屋まで向かい馬を出す。
アリスのあの小さな家までは少しかかる。
「さぁ、行こうか。」
馬に声をかけて人通りが少ない場所まではゆっくり進む。
途中でケーキ屋を見つけたので店員に聞いてケーキやクッキー等を包んでもらう。
それを持ってまた進む。
「そろそろ大丈夫そうか。」
馬の両腹を蹴りスピードをあげる。
アリス、早く会いたい。
あの青い瞳に俺を映してほしい。
アリスの顔を思い浮かべながら進むとあっという間に着いた。
コンコンッ
扉を叩くと中からはーい!と声が聞こえる。
パタパタとこちらに向かって来る音が聞こえガチャリと扉が開いた。
「クロヴィス様、いらっしゃいませ。」
優しい笑顔で笑うアリスが出て来た。
そうだこの顔。
これが見たかった。
俺の身体が満たされていく。
アリスといると身体の足りない何かが埋まる。
ずっと埋めたかったものが。
「アリス、遅くなってしまった。すまない」
「いえ、お家の中を掃除していたので大丈夫です!」
扉を閉めて中に入る。
「これ、アリスは何が好きかわからなかったから適当に買って来たんだが。」
先程買った物を手渡すと嬉しそうに笑う。
「わぁ!甘い物大好きです。」
キラキラとした顔を見ると身体の奥の方から暖かい物が溢れて来る感覚になる。
これが世に言う好き、と言う気持ちなのだろうか。
「それならよかった。」
「すぐに紅茶お出ししますね。」
どうぞお座りくださいと言われ丸テーブルの椅子に座る。
お湯を沸かしてティーカップに入れる手付きはとても慣れているようだ
「お茶も入れられるんだな」
「はい、自分でやらなければいけないので。」
「メイドや執事は?」
「いますが、人数が少ないので。」
まただ。
家の事を聞くと暗くなる。
『ウィドーソン男爵家は噂が絶えない』マルクスが言っていた事と関係があるんだろうか。
そういえば!とアリスが付けていたエプロンから何かを出した。
「昨日結局お渡しするのを忘れていて。」
と俺の筆入れを渡して来た。
「あぁ。すっかり忘れていた。」
「うふふ。私もです、どうぞ」
差し出して来た筆入れごとアリスの手を握る。
一瞬で頬が赤くなるアリスを見て、少なからず嫌われていないと分かり嬉しくなる。
「アリス、昨日君に言った事を覚えているか?」
「え?」
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