上 下
12 / 82
1 日向と怜の出逢い編

好きになる人

しおりを挟む
「なるほど‥‥今はLGBTQプラスっていう言い方なのね」
亜里沙がスマホで何やら調べている。
あたしは大学で日向の一番近くにいながら、彼のことを何も理解していなかった。世の中にどういう人がいるのか、そしてうっかり差別的な発言をしないように気をつけないとね‥‥

そしてそれを受け入れて日向とは良い友人関係でいたい。友人として日向の近くにいたい、そのぐらい亜里沙にとって日向は大切な存在となっていた。
思えば、亜里沙の長い話に対して何も言わずずっと聞いてくれていたのは日向ぐらいだった。これからも話を聞いてもらいたい、じゃなくて今度はあたしが日向の話を‥‥聞けるなら聞きたいところだが‥‥

「そうだ」
亜里沙は思い立って大学の帰りに怜のバー「ルパン」に1人で入った。
「いらっしゃいませ、どうぞカウンターへ」
奥に怜がいる。
「いらっしゃい、元気にしてるか?」と怜。
「どうにか元気はあるわよ。ねぇ、お任せであたしに合いそうなカクテル作ってくれますか?」
「かしこまりました」

ピンク色のカクテルが亜里沙の前に置かれた。
「可愛い色‥‥ありがとうございます」
亜里沙がカクテルを口にする。
美味しい‥‥この人、本当にお客さんのことよく見てるのね‥‥
「あの‥‥あたし‥‥最近大学でLGBTQプラスっていうのを知ったんです」と亜里沙が話し出す。
「そうか」と怜。

「これまで周りにそんな人いなかったから全然知らなかった‥‥だけどもしかしたら、あたしが知らないだけで今まで会った人の中にはそういう人もいたかもしれない‥‥」
「色々な人間がいるからな」
「そういう人がいた場合、どうすればいいと思いますか?」
亜里沙が怜に尋ねた。

「君はよく考えてるんだな。そういう人達を理解したいという気持ちが伝わってくるよ」
「いえ‥‥最近知ったばかりですし‥‥」

怜が話す。
「ああいう括りがあるが気にしすぎないで、目の前にいる人を一人の人間として尊重することかな」
「一人の人間‥‥確かにそうですね」
「気にする人もいるし、気にせずにオープンにしている人もいる。世間の理解を得るためにああいった括りを作っているんだろう。それで救われる者もいるが‥‥中には一括りにされて微妙な気持ちになる人だっているかもしれないな」

「そうですね‥‥みんな違ってみんないいって言いますものね」
「数え出すとアルファベットの数じゃ足りないぐらいだ。結局のところ、誰一人として同じ人はいないということかな」

怜さん‥‥この人を好きになる日向の気持ちが少し分かる気がする。何にもとらわれない、何でも受け入れてくれそうな大人のおじさん。職業柄そうなのかもしれないけれど、それでもこの人には‥‥言葉で表せないような魅力がある。
「じゃあ‥‥怜さんは、どういう人を好きになるのですか?」と亜里沙が言う。
「そうだな‥‥フフ‥‥素直で放っておけないような人だろうか」
「日向みたいな‥‥?」

一瞬、怜の表情が変わったが、
「‥‥確かにあいつはどこか放っておけない感じかもな」と言った。
あたしはよく日向に自分の話を聞いてもらってたけど‥‥怜さんにとって日向は素直で放っておけない人なのね。
「じゃあ、あたしには‥‥どういう人が合うと思いますか?」

「何か思い悩んでいるようだな」
「これまであたしは‥‥自分ばかり喋っていることが多くて、相手の話も聞かなきゃ駄目だって友人にも言われて‥‥だけど、ついつい自分の話をしたくなっちゃうし‥‥」

「フフ‥‥自分の話をしたい人なんてごまんといるぞ。遠慮して何も話せないままでは、相手だって心配するんじゃないか?」
「そうかも‥‥」
「君の話を聞きたい人だってどこかにいるはずだ。少なくとも、俺はどんな客の話でも聞くからな」
「それで鬱陶しくなったりしないの?」
「俺も人間だからな。全員と相性が合うわけではないが、この仕事をするにあたって様々な人から多くの話を聞けるのは‥‥楽しみでもあるから」

亜里沙は怜と話すことができ、心が落ち着いていく感じがした。今まで親以外でこんな年上の人にここまでの話をしたことなんてなかった。
‥‥あたしはこのままでもいいんだって思える、自信を与えてくれるような人だわ。


「いらっしゃいませ」という声と共に日向が現れた。
「亜里沙! 来てたんだね」
「お疲れ様、日向。課題進んでる?」
「もう少しかかりそうだよ。あ、怜さん、いつものお願いしていい?」
「はいよ」

「亜里沙、怜さんと‥‥何か話してたの?」
「色々と相談に乗ってもらったわ、さすが大人の男性ね、日向」
「えっ‥‥亜里沙‥‥怜さんに何を相談したの?」
「秘密」
「‥‥だよね。解決できた?」
「まぁね、とっても頼りになるってことが分かったわ」
「‥‥」

日向の前にいつものノンアルコールのカクテルが置かれた時、日向はジッと怜の方を見た。まるで拗ねている少年である。
分かりやすく嫉妬している日向を見て、亜里沙はクスっと笑った。
「怜さんはどういう人を好きになるんですかっていうのは聞いちゃったわよ」と亜里沙。
「え? 何て言ってたの? 何て? 何て?」と必死になる日向を見て亜里沙も怜も笑いが止まらなかった。

「自分で聞きなさいよ、というかこんなに通ってたら分かってんでしょ? 日向ったら‥‥じゃあ、あたし明日早いからこれで。怜さん、また‥‥来ますね」
そう言って亜里沙は帰っていった。

「怜さん‥‥亜里沙と何喋ってたの?」
「色々だな」
「‥‥怜さんのこと頼りになるって言ってたね」
「彼女だけじゃない、ここには色々な悩みを抱える人が来るからな」
「そうだね‥‥僕だってそうだったよね」

明らかに嫉妬しているひなも見ていて楽しいな、と怜が思う。
「じゃあ、僕からも聞くけど‥‥怜さんはどういう人を好きになるんですか?」
「え?」
ここでそれを聞くのか‥‥? よっぽど亜里沙と俺の会話が気になるんだな。

「‥‥素直で放っておけないような人」
「そうか‥‥素直で放っておけない人になれば‥‥怜さんはもっと僕のこと、見てくれるんだよね?」
いや、ひなのことを言ったのだが‥‥と怜は思いながら、
「そういうことになるな」と言った。
ひなが、さらに素直でさらに放っておけない人になったら‥‥どうなるのだろうか。フフ‥‥

「はぁ‥‥疲れちゃった」
「さっき言っていた、大学の課題が大変なのか?」
「うん、それもあるけど‥‥」
日向が怜を見つめる。
「疲れちゃったから2階に行っていい?」
いつもよりだいぶ早い2階行きである。


2階に行った日向が言う。
「僕‥‥怜さんと一緒にソファに座ったら疲れがマシになるかも」
と、いうことで2人でソファに座る。
日向が怜の肩に頭を乗せた。
「僕‥‥嫉妬しちゃったな。怜さんが亜里沙の相談に乗ってたって聞いて」
「やっぱりな」
「ええ? 分かってたの?」
「分かりやすくて‥‥嬉しかったさ」

「本当?」
「教えてやるよ、俺がどういう人を好きになるかって‥‥一言でいうと」
「一言でいうと?」
「‥‥」
「‥‥」
「ひな」

怜にそう言われ、抱き寄せられた。
「ちゃんと答えたぞ? そういうお前はどういう人を好きになるんだ?」
「‥‥」
「‥‥」
「怜さん」

2人は甘い口付けを交わした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...