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幕間
今の秩序をかけて戦うものたち-7
しおりを挟む二日後の朝、マッコイの街の港、その一角に王家の紋章が染め抜かれた陣幕が張られた。周囲を鎧と武器を身に着けた騎士団が取り囲み、一種物々しい雰囲気に包まれていた。
陣の内側には儀仗兵が展開し、その中心にはアドニス国王ダリル三世の姿がある。
その正面には、「ヤードリー商会」所属の武装フリュート船を背に、8名の戦士が横一列になって並んでいた。
「夜明けの戦星団」の出陣式である。
国王や騎士団長、更には「来賓」として現れた貴族らの訓示や挨拶、「天の神」及び「戦の女神」への戦勝祈願を経て、式次第は最後へと差し掛かっていた。
出陣式の司会を務める、大闘技場付き魔道士・セドリックが「夜明けの戦星団」の面々の名を読み上げていく。
「『夜明けの戦星団』団長、『黒猫の魔道士』スヴェン・ヴィルヘルム・ヤマダ・ダンケルス!」
いつもと変わらぬ微笑みを湛えた表情のまま、スヴェンは一歩前に進み出た。その傍らには、黒猫の姿をした造魔獣・メネスが寄り添っていた。
「『初代スワイマル候』、『戦星の勇者』ヒロキ・スワイマル・ヤマダ!」
腰に「スミゾメ」を提げ、綿襖冑を身にまとったヒロキは一つうなずいて歩みを進めた。この軽くも丈夫な鎧は、リネン家傘下の商人から買ったものだ。
「『天神武闘祭覇者』、『紅き稲妻の双剣士』フィオラーナ・フレデリック・ヤマダ・ダンケルス!」
家伝の双剣を両腰に、新調した黒い鎧を身に着けたフィオの顔には、あの地下で見せた迷いの陰はなかった。正面をまっすぐに見据えている。
「『アドイック冒険者ギルド筆頭』、『銀炎の剣士』バジル・フォルマース!」
今回の戦いに加わるにあたって、バジルはアドイック冒険者ギルドの筆頭冒険者に推薦されていた。その背の真新しい大剣と同様、本人はその称号を固辞していたが、結局どちらも半ば押し付けられるような形で託されていた。
「『氷の微笑』グレース・アイシア・ガンドール!」
美貌の女魔道士はいささか疲れた顔をしていた。極大魔法を超える禁断魔法の完成は未だならず、魔王の島へと向かう途上まで修行は持ち越すことになってしまったためであろう。
「『七色の魔道士』ヘンリエッタ・ハンナ・レーゲンボーゲン!」
対照的に明るい顔をしているのがエッタであった。こちらは「八色目」である「邪」属性魔法の習得はうまく進んでいた。
この両魔道士の世話をしていた「戦の女神神殿前大祭司代理」クロエ・カームベルトは、その素性を隠して船員の中に紛れ込み、端の方から式典を見守っている。「戦の女神」への戦勝祈願の際には特に深く頭を垂れ、自分に代わって儀式を執り行う今の大神官代理ウーゴのやや上ずった祝詞に耳を傾けていた。
「『鋭覚の狩猟者』、クサン・ヤーギソク!」
慣れねェな、と小声でつぶやきながら、赤毛の小男はのっそりと前に進み出る。この日のために用意された二つ名は、アドイック冒険者ギルドの食堂の給仕・ビビが考えたものである。
次か、とザゴスはクサンの背中越しにセドリックの方をうかがった。
かれこれ二刻(※アドニスでは一日を12等分した一刻を単位としている)ほど続いているこの式典に、そろそろ飽きてきていたところだ。
国王ダリル三世の訓示はともかく、見ず知らずの騎士団長だの「ヤードリー商会」の番頭長だの、何故かしゃしゃり出てきたどこぞの領主だのの「お話」にはうんざりであった。立ったまま目を開けて寝られる隣のクサンが、羨ましくてしょうがなかった。
この式典でザゴスが気になるのは一つだけ、フィオが考えたという「二つ名」である。当日まで「内緒だ」と頑として教えてくれなかった。フィオのことだからそう悪いものではないだろうが――。
「『天神武闘祭覇者』……」
などと考えているとセドリックが口を開いた。
「『ダンケルスの番犬』」
は? とザゴスは踏み出しかけた足を止める。
ダンケルス? 俺のことじゃないのか? いや、フィオは呼ばれたしな……。
そもそも、列にはもうザゴスしか残っていない。式典の見栄えの問題で大男の彼は一番端に追いやられていた。
「ザゴス・ガーマス!」
やっぱり俺のことじゃねェか。少し慌ててザゴスは仲間たちの列に追いつく。
「以上、8名!」
名を呼び終わったのを見てダリル三世が腰を上げて進み出てきたが、最早、何を言われているのか頭に入ってこない。ザゴスは国王ではなくフィオに横目で視線を送る。
それに気づいたのか、フィオはちらりとこちらに視線を向けて微笑を浮かべた。今のフィオには珍しいような、どこか悪戯っぽい笑みであった。
ダンケルス、とついてるのはともかくだ。
国王の訓示を聞き流しながら、ザゴスは思いを馳せる。
(フィオを守ってやってくれ。あいつは親友の――)
わかってるぜ。そのための「番犬」になら、喜んでなってやるよ。なあに、「噛ませ犬」よりかはよっぽどマシじゃねェか。
遥かな青い海の先、更に激しい戦いが待っていることだろう。
それでもザゴスに迷いはない。生きるため進んでいくだけだ、とその胸に誓った。
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