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ヤーマディス編
129.そう、あれは300年前のこと(中)
しおりを挟む「マーガン前哨」を落とした「夜明けの戦星団」らは、王国の他の地域は他の部隊に任せ、魔王軍のアドニス王国での本拠地となっていたフォーク地方を目指すことになる。
その途上、ヒロキの前に一人の刺客が立ちはだかった。
「それがフリーデだった」
領民と父親を人質に取られた稀代の女戦士は、魔王軍の主力としてその槍を振るわされていた。
「フリーデは、これまで戦った誰よりも強かった……。はっきり言って、あの時は死んだと思ったな……」
ヒロキの「ゴッコーズ」は一人で戦うのに向いていない。フリーデの襲撃は、ヒロキが一人の時を狙って行われたため、弱点を突かれた格好ではあった。それを差し引いても厳しい相手だったという。
ゼノンとマーシャの救援により、何とか命を拾ったものの、 ヒロキは重傷を負う。
「療養中はグリムが看病してくれたんだが……。まあ、ひと月くらいかかったっけな……」
その間に、ヒロキはフリーデの事情を知ることになる。
即ち、領民と実父を人質に取られ、従わざるを得ない状況にあるということを。
ヒロキの療養中に、グスタフ師は一度臨時王都アドイックに戻り、指示を仰いできていた。グスタフ師が受けた王命は、「ダンケルス家は既に魔王に与している逆臣である。裏切り者を根絶やしにし、フォーク地方を奪還せよ」という非情なものだった。
「さすがにそんな命令は受けられない、って俺は言ったんだ。あの子を殺すなんて、そんなことできない、って……」
殺されかけたというのに、いや死闘を演じたからこそか、ヒロキにはフリーデの気持ちが伝わっていた。繰り出されるその槍は鋭いが、迷いや怯えが透けて見えていたという。それがなければ、「確実に殺されていた」とも。
ダンケルス家は武門ゆえに名誉を重んじる。敵に捕らわれ生き恥を晒し、あまつさえ守るべき国を攻撃せねばならないのなら、滅ぼしてやるのがむしろ情けというものだ。グスタフ師はそうヒロキに説いたという。
「グスタフ師も辛そうだった。ガンドール家とダンケルス家は、どっちに王国黎明期からの譜代の臣ってやつで、交流もあったみたいでさ……」
恥の概念を理解できないヒロキではない。しかし、この時は「それでも……」という気持ちが強かった。
「可哀想だっていうのもあったけど、何とかしてあのフリーデを味方に引き入れたかった」
だってさ、とヒロキは目を輝かせた。
「すごく強いんだぜ? もったいないだろ?」
それはある意味、彼女への恋の始まりだったのかもしれない。
ヒロキの傷が治った後、「夜明けの戦星団」はフォーク地方へ進軍する。「邪神の神殿」を攻め落とし、ダンケルス家とその領民たちを救うためだった。だが、イアクを落としてもフリーデは抵抗をやめなかった。
「最終的にスプライマンミまで追い込んで、そこでフリーデに一騎打ちを挑んだ」
再戦の結果は、ヒロキの勝ちだった。「ヤマダ戦記」では、フリーデは伏兵を潜ませていたとあるが、そんな事実もなく純然たる一騎打ちだったという。
「あの本にあったみたいに、洗脳されてたってわけでもないしな。ずっとまっすぐな戦士だったよ、フリーデは」
激しい攻防の末、敗れたフリーデは「これまで自分がしてきたことの責任を取る」と自害しようとした。満身創痍のヒロキに代わり、それを押しとどめたのは他ならぬグスタフだった。
既知の間柄である宮廷魔道士の説得の末、フリーデは提案を受け入れ、「夜明けの戦星団」に加入することになる。
「グスタフ師、最後は俺の意見を聞いてくれたんだよ。死ぬんじゃなくて、魔王軍を倒すことで責任を取れって。陛下にも説明してくれたし、ホント助かった」
二大拠点の陥落により、アドニス王国での魔王軍の勢力は大きく弱体化した。ここまでくれば、魔王軍を王国内から追い出すのは容易かった。
こうしてアドニス王国を魔王から解放したヒロキは、フォサ大陸の他の国々まで進軍を開始し、一年以上をかけて大陸全土から魔王の勢力を一掃した。
更に隣のマグナ大陸やシュンジンにも渡り、他国の戦士たちとも協力しながら魔王軍を駆逐していく。
「最終的に、魔王を本拠地の孤島にまで追い込んだんだ」
現在、「魔王の島」という通称で呼ばれるその島へ、ヒロキはドルネロの用立てた軍船に乗り込み、攻め入った。「夜明けの戦星団」の主だった面々、つまりゼノン、マーシャ、グリム、フリーデに加え、グスタフ師を頭としたアドニス王立騎士団、そしてワウスやモウジ神国、シュンジンといった国々の戦士団を率いての大戦さとなった。
多大な犠牲を払いながらも、ヒロキはどうにか魔王を打ち滅ぼし、その背後にいた邪神も神々の力でこの世界から放逐された。戦いの詳細はともかく、その流れと結末は「ヤマダ戦記」に書かれている通りであるようだ。
「魔王は強かった。何せ、あいつも『ゴッコーズ』を持ってるからな……」
先述の通り、魔王もまた邪神征伐のため勇者として召喚された異世界人であった。魔王に堕ちた時「ゴッコーズ」は剥奪されたが、邪神から新たな「ゴッコーズ」を授けられたようだ。
「どんな『ゴッコーズ』を?」
魔王の能力というのは詳細は伝承されていない。「ヤマダ戦記」にも「天を衝く巨人で、大地を割り、海を裂く」などとしか書かれていなかった。
さすがにそんな巨人ではなかった、と言いつつもヒロキは「信じられないくらいに強かったのは確かだ」とこぼす。
「魔王の手が光ったと思ったらみんな吹っ飛んでたり、相手の攻撃に反応して結界を自動的に張ったり、魔力消費なしで高速で動き回ったり……」
「それ、あのクソガキが使ってたやつじゃねぇか!」
ザゴスは目を剥いた。魔力消費なしで高速移動は「流星転舞」、自動で結界を張るのは「星雲障壁」、手が光ると相手が吹き飛ぶのはまさしく「超光星剣」、どれもタクト・ジンノが用いていた「ゴッコーズ」とそっくり同じであった。
そうなのか、とヒロキも驚いた様子だった。
「タクトって子、あのブキミノヨルみたいな感じの姿に変身したんだっけ?」
「ああ。魔人化つったか……」
そうだ、とフィオも首肯する。
「魔王も近い姿だった。蝙蝠の翼があって、角が生えてて……。その子に使われた『神玉』は、『欲望の邪神玉』だったのかもな」
もう一つ、とフィオは人差し指を立てた。
「先ほど説明にあったような能力はヒロキ、どちらかと言えば貴殿のものだと『ヤマダ戦記』には書かれていたが……」
高威力攻撃、完全防御、高速移動……。これらこそが勇者の「ゴッコーズ」であると「ヤマダ戦記」には記載されていた。「超光星剣」などを操るタクトが勇者だと認められたのは、その記述の影響が大きい。
「書いてあったなあ……。俺の『ゴッコーズ』、味方の強化しかできないのに誇張しすぎだろ、むしろ魔王じゃん、って……」
同時に、英雄物語にこういう誇張はありがちか、とも思ったようだ。
「何せ、嫁の数が5倍になってるんだ。俺の能力も5倍くらいの描写になっててもしょうがないかな、って」
「それで、魔王討伐後に何故元の世界に帰ることになったんだ?」
「ああ、それはな……」
ヒロキは居住まいを正し、話を続ける。
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