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バックストリア編

47.意外な再会

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 どこの冒険者ギルドも、変わり映えのしねぇ作りをしてやがんな。

 冒険者ギルドの扉をくぐって、まずザゴスが抱いたのがそんな感想であった。

 玄関から入って正面が受付のカウンター、右手奥に食堂が併設されている作りは、アドイックのものと変わらない。フィオによれば、ヤーマディスのギルドも同じ構造だという。

 更にここに限って言えば、「城門からほど近く、大通りに面している」という立地もアドイックのものと似ている。

 まあ、わかりやすくていいか。ザゴスは受付カウンターへ向かった。

「あら、いらっしゃい。初めての方ね」

 そう言いながら姿を見せた受付嬢を見て、ザゴスは大きな目を更に見開いた。

「エリス……!?」

 現れた受付嬢は、容姿も声も所作もアドイック冒険者ギルドの受付嬢・エリスとそっくりだったのだ。

「いいえ、わたしはエリンですけど」

 名前まで似ている。面食らいながらも、ザゴスは名乗る。

「あら、アドイックからはるばるお越しで」
「うちの冒険者ギルドの受付が、あんたとそっくりなんだが……姉妹か何かか?」
「そうなんですの?」

 エリス、ではなくエリンは微笑を浮かべて首を傾げる。

「でも、わたしに姉妹はいないわ。生まれも育ちもバックストリアだし、アドイックには行ったこともありませんよ」
「それにしたって似てるぜ?」

 こうなってくると、ヤーマディスの受付嬢もそっくりな女なのかもしれない、と思えてきた。確かめてから出ればよかったかもしれない。

「どこにでもいる顔ですから」

 涼しげに言い放つその口ぶりに、ますます似てやがる、とザゴスは肩をすくめる。

「まあいいか。臨時活動証とかいうのをもらいにきたんだが」

 別の街のギルドで「クエスト」を受けるには、臨時活動証の交付を受けねばならない。

 この活動証があれば、交付されたギルドの冒険者として見なされるようになり、「クエスト」の受領の他、宿泊手当や街の道具屋や武器屋の利用、「健康の神」礼拝所での魔剤の補充などのサービスが受けられるようになる。

 現在、ザゴスはフィオとエッタとパーティを組んでいることになっており、その旨が「記録織紙」製の冒険者証に記録されている。臨時活動証はパーティごとに交付を受けられるので、せっかくだからと先に手続きを済ませておくことにしたのだ。

 この臨時活動証であるが、場合によっては交付を渋られたり受けられない場合もある。特に、冒険者資格の停止などの処分を受けたことのある者には厳しい。そういう人間がパーティに一人でもいると、申請が却下される可能性がある。

(もし断られたら、陛下から賜った通行手形を見せるように――)

 そのことをフィオは十分承知しているようで、別れ際にザゴスはそう指示されていた。

 冒険者証を受け取り、読み取り装置にかけるエリンを見ながら、ザゴスは懐の通行手形を握りしめる。

「……はい、問題ありませんね」

 エリンの返答に、身構えていたザゴスは少し拍子抜けする。

「『アドイック冒険者ギルド所属』ザゴス・ガーマス、『紅き稲妻の双剣士』フィオラーナ・ダンケルス、並びに『七色の魔道士』ヘンリエッタ・レーゲンボーゲン。ギルドマスター代行権限に基づき、以上3名を本日より28日間、バックストリア冒険者ギルド所属と見なします」

 口上を述べて、エリンはザゴスの冒険者証を返却するとともに、三人分の臨時活動証を手渡した。

「この街は土地柄魔道士が多いから、あなたのような純粋な戦士は貴重なの。大歓迎よ」
「やっぱそうなのか」

 ザゴスは食堂の方を一瞥する。ローブをまとった魔道士や治癒士ヒーラー風の冒険者の姿が目に付く、というかほとんどがそうだ。

 そんな中、唯一と言っていい戦士風の男が、こちらに近寄ってきた。

「おいおい、アドイックから何の用だよ」

 ザゴスのものと似た鎧をまとった男は、その三白眼をこちらを値踏みするようにじろじろと動かした。

「あら、ウルリス。珍しく一人のようね」

 戦士風の男、ウルリスはエリンを一瞥して尋ねる。

「何しに来たんだよ、このデカブツはよぉ」
「あぁ? テメェに関係あるかよ?」

 ザゴスはウルリスを見下すようににらみつけた。

「あるだろうがぁ」

 ザゴスよりも頭半分ほど背の低いウルリスであるが、怯んだ様子もなくにらみ返してきた。

「俺らの取り分が減るだろ。特にお前みたいな、いかにも無駄飯ぐらいなデカブツがきやがったらよぉ」

 そうだろ、と嘲るように笑い、ウルリスは食堂の方に目を向ける。10人ほどの冒険者の姿があったが、みんな目を背けた。

 ヤジすら飛んでこねぇとは、とザゴスは少し呆れた。魔道士どもがよっぽど臆病なのか、それともこのウルリスって野郎が恐れられてるのか……。

「ほら見ろよ、みんなお前の悪人面が、迷惑だって顔背けてんじゃねぇか」

 何にせよ、カマしとく必要がある。

「テメェだって俺のこと言えた面じゃねぇだろうが。鏡見たことねぇのか? それとも、黒目が小さすぎてよく見えねぇか?」

 んだとぉ、とウルリスの目つきが怒気を帯びる。

「建物の中でのケンカは、止めてくださいね」

 エリンはのんびりした口調で注意して、奥に引っ込んでしまった。冒険者同士の荒事を諦めている節があるのも、アドイックのエリスと同じなのだろう。

 ウルリスはギリギリと奥歯を噛んで、こちらをにらんでいる。今にも殴りかかってきそうに見えた。

 よし、来い。最近は「天神武闘祭」だの「魔人」だの「七色の魔道士」だの、普通のケンカをまったくしていなかった。久しぶりに楽しめそうだ――

(くれぐれも、現地の冒険者といざこざを起こすなよ?)

 そこでザゴスの脳裏に、フィオの言葉が蘇った。

 まずいか、こういうことになるのは……。

「お前、もういっぺん言ってみろやコラァ!」

 いや、もう考える間はない。激高したウルリスの拳がザゴスに迫る。フィオの忠告を思い出すのは遅かったが――いざこざじゃなくてケンカだからいいか。

 ザゴスは少し身を引いて、拳の衝撃を和らげる。体格差から顔を狙った拳は、ザゴスの胸板に当たった。

「この――」

 二発目も、ザゴスは後ろに引いて受け止める。大したことはない。食堂の方をうかがう余裕すらザゴスにはあった。

 食堂にいる連中は、恐れた様子でこちらをうかがっている。誰かが乱入してくる気配はない。「学術都市」だけあって、あまり荒事が起こる風土ではないのかもしれない。

「どこ見てんだ、オラ!」

 三発目は力いっぱいの大振りであったが、それ故にザゴスは簡単にかわす。

 こんなもんか。ザゴスは「天神武闘祭」の二回戦を思い出していた。あの時は、ハンマーによる打撃を数十発は受けた。それに比べれば、こいつの拳なんかは虫が止まった程度だ。

 更に、動きも遅い。フィオや、「ゴッコーズ」を使ったタクト・ジンノ、準決勝の相手であったバジル・フォルマースはもちろんのこと、「天神武闘祭」で戦った誰と比べてもトロくさくて欠伸が出る。

「クソがァ!」

 四発目の拳をザゴスはかわすと、瞬時にその突き出された右手首を捕えた。

「あだだだだ!?」

 ザゴスは捕まえた右手首を思いきりひねり上げる。後ろ手にねじられて、ウルリスは情けない悲鳴を上げた。

 しょうもねぇ野郎だ。こいつ、格下としかケンカしたことねぇな。

 ザゴスはギルドの扉の方へ突き飛ばした。うつぶせに倒れ、したたか胸を打ったウルリスを見下し、言い放つ。

「失せろ。テメェじゃ俺に勝てねぇ」
「んだとぉ!」

 手首を押さえながらウルリスは、ザゴスの方を振り返った。

「デカブツがぁ! 思い知らせてやる!」

 そう叫ぶ彼の手には炎がちらついている。魔法か、とザゴスはさすがに身構えた。右手が瞬時に腰の斧に伸びる。

「ウルリス! 街中で魔法は……」
「黙ってろ、セロォ!」

 ここで初めて食堂の方から警告が飛んだが、ウルリスはそれに怒鳴り返しただけで、錬魔を止めようとしない。

「食らえ、火炎ファイア……」

 生成した火球を投げようとした、その時であった。

 ウルリスの背後にいた魔道士風の女が、その長い足を振り上げ、彼の脳天に踵を落としたのは。

「ぐぇぁ……」

 マヌケな声を上げて、ウルリスは昏倒した。火球も霧散し、魔素へと戻っていく。

「まったく、品のない冒険者が多くて困るわ」

 魔道士の女は、ふーっと長い息を吐いた。その顔を見て、ザゴスは「あ!」と声を上げる。女の方もザゴスを見て「あら」と驚いた様子であった。

「グレース! どうしてこんなとこに……」
「ザゴス、あんたこそ、何でバックストリアにいるのよ?」

 彼女こそは、「天神武闘祭」の準決勝でザゴス・フィオのコンビと戦った、「氷の微笑」の異名を持つ魔道士、グレース・ガンドールであった。
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