冒険者ギルドの受付でチート持ち主人公の噛ませ犬にされた男の一生

雨宮ヤスミ

文字の大きさ
上 下
11 / 222
アドイック編

11.クサンとイーフェス

しおりを挟む
 
 
 遅いな。

 アドイック冒険者ギルドの食堂兼酒場、その一角のテーブルで、フィオはそう呟いた。

「おう、あんた昨日の……」

 そこに、声をかけてくる者がいた。簡易な鎧に身を包んだ少し背の低い男と、フードをかぶったローブの男の二人組だ。

 見覚えがある。確か、昨日ザゴスについて聞いて回っていた時に話をした。

「……確か、クサンとイーフェスだったか」
「へへっ、覚えてくれてたか」

 背の低い方、クサンが団子鼻の頭をこする。何を隠そう、タクト・ジンノにザゴスがケンカを売って敗北した話をフィオに聞かせたのは、このクサンである。

「待ち合わせですか?」

 ローブのイーフェスが落ち着いた声音で尋ねる。怪しげなフードの奥には、意外や愛想のいい顔がのぞいている。

「ああ。この街でパーティを組んでくれる人間が見つかってな」

 一般に、ギルドに登録された冒険者はパーティを組んで行動する。昨日のザゴスのような単独行動は稀な例である。

 へえ、とクサンは笑みを浮かべる。

「ところで、ザゴスはとっちめたのか? あんた手練れみたいだからな、あんな山賊野郎、そりゃもうボッコボコに……」
「いや、そのことだが……」

「誰が誰にボッコボコだってぇ?」

 ギルドの建物を揺るがすような胴間声、それを聞いたクサンはびくりと肩を震わせ、フィオは「来たか」と口元に微笑をたたえる。

「ああ、ザゴスさん、ご無沙汰です」
「ようイーフェス。調子はよさそうだな」
「お陰さまで。聞きましたよ、一昨日は災難でしたね」

 ちっ、と舌打ちをして、ザゴスはクサンの方に向き直る。

「テメェだな、一昨日の話を触れ回ってやがるのはよぉ」
「そうだってんだったら、なんだ? また壁ごと吹っ飛ばされんのか?」

 クサンは体を揺らしながら、ザゴスを下からにらみつける。

「まあまあ、クサンさん。ここで揉めてはエリスさんに迷惑がかかりますよ。ザゴスさんも、私に免じて、ね?」

 間に入ってきたイーフェスを払いのけ、クサンはザゴスに詰め寄る。

「しかしよぉ、落ちぶれたなぁ、ザゴス。お前、他の街から来た冒険者の財布を盗んだんだって?」
「あぁ?」

 なあ、とクサンはフィオの顔を同意を求めるように見た。

「まーた、自分じゃ敵わないからって人に振る……」
「うるせぇぞ、イーフェス! お前、どっちの味方だ!」

 怒鳴り返してから、クサンは念を押すように「なあ?」ともう一度声をかける。

「いや、それが……財布を盗られたというのはボクの勘違いだったようで……」

 え、とクサンは目が点になる。それを見てザゴスは大声で笑った。

「がっはっは、そういうわけでな。色々あって、俺らはパーティを組むことになったんだ」
「そういうことなのだ、クサン」
「な、何だとテメェッッ!?」

 そんなに驚くか、と思うほどの大きさの声でクサンは叫んだ。

「なるほど、待ち人というのは、ザゴスさんのことでしたか」

 対照的にイーフェスは落ち着いた様子でうなずくと、腰さえ抜かして座り込んでいるクサンの襟首をつかんだ。

「では、我々はお邪魔になるかと思うので。お先に『クエスト』へ行ってきますね」
「おう、気を付けろよ」
「はい、ザゴスさんもフィオさんも」

 手を振るイーフェスに引きずられながら、クサンは捨て台詞を吐く。

「ザゴス、てめぇ! 勝ったと思うなよ!」
「もう勝負ついてますよ、クサンさん……」

 クサンとイーフェスが冒険者ギルドを出て行ったのを見届けて、ザゴスはフィオの向かいの椅子にどっかと腰を下ろした。

「待たしたな」

 少しな、と肩をすくめてフィオはザゴスに尋ねる。

「さっきの二人は知り合いなのか?」
「ああ。俺と前にパーティを組んでた二人だ」
「その割に嫌われていたようだが……」

 主にクサンに、とフィオは付け加える。

「イーフェスとは今でも時々組むんだがな、クサンの野郎、俺があいつの女に手を出したとか言い出してな……」

 今から3か月ほど前、クサンはこのギルドの食堂で給仕をしていた女性に一目惚れをした。

 クサンの再三のアプローチにもかかわらず、彼女は彼に振り向くことなく、ある日突然「商人になる」と言い出し、その頃街にやってきていたキャラバン隊に入り、出て行ってしまった。

 実は、これはクサンの求婚を迷惑がった給仕の女を助けるために、エリスが出した緊急の「クエスト」であった。当時クサンとパーティを組んでいたザゴスとイーフェスが、責任を取る形で引き受けた。現在、彼女はキャラバンに送り届けてもらった遠くの街の食堂で、給仕の仕事をしているそうだ。

 これをクサンは何を勘違いしたのか、「ザゴスが彼女に手を出したから、嫌がって街を出た」と言い出し、一方的にパーティを解散した。以降この関係が続いている。

「クサンがパーティ解散って言い出したのは、これで三度目でよぉ。しかも全部女絡みだからな、参るぜ……」

 いずれまた組むこともあるだろうがな、とザゴスは顎の無精ひげを撫でる。

「なるほど、そんな事情だったのか……」

 若干頬を引きつらせて、フィオはうなずいた。

「ところでザゴスには、その……懇意の異性はいるのか?」
「いねぇよ。たまに商売女と寝るぐらいだな」

 ザゴスはモテない。そう自分で思っている。実際のところ、言い寄ってくる女もいたことはあったが、どうにも不器用なこの男は、一度のデートで見限られてしまうことばかりだ。

「そうなのか……。では、今気になる相手は?」
「何でそんなこと聞くんだよ?」

 ふと、何故かカタリナの顔が浮かぶ。ねえよ、とザゴスは頭から彼女の姿を追い払うように首を振った。

「西通り角の道具屋の娘さんが好きだったわよね」

 と、そこへ新しい声が割り込んでくる。

「エリス、テメェ! 何年前の話してやがる!」

 うふふふ、とお盆を片手に持ったギルドの受付嬢は口元に手をやった。

「それと、『風の実り亭』の看板娘の……」
「そいつもう結婚して5人もガキ産んでんじゃねえか!」

 とっとと注文取れ、とザゴスは口を尖らせる。

 エリスはギルドの受付業務の他に、併設された食堂兼酒場の給仕も兼務している。

 無論、これは前の給仕がクサンのせいで辞めたための緊急の処置だ。「あれから新しい人が来ないのよ、大変だわ」というのがエリスの最近の口癖だが、言葉ほど苦にしているように見えないのが、底知れないところである。

「どうせいつものでしょ?」
「そうだ、とっとと持ってこい」

 はいはい、とエリスは応じてフィオの食べ終わった食器を持って、奥に下がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...