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「俺はもともと、男しか愛せない。王になる予定もなかったから妻を娶るつもりもなかったんだ。だけど今はおまえがいる。俺はおまえを妻として娶りたいと思っている。子供は作れないけれどおまえ以外を娶るつもりはこの先、王になってもない」
王子の告白になんと返せばいいかわからず、シアンは目を見つめたまま次の言葉を待った。
「おまえ以外いらない。おまえを手に入れたくて無理やり抱いた。手付きになればずっとここでおまえと一緒にいられるから」
「王子……でも、そんな……オレは奴隷だから拒否することはできないのに……。手付きにしなくても命令したら……」
「俺は奴隷のおまえを抱いたんじゃない。シアンを抱いたんだ。確かに奴隷だから拒めないとわかっていた。もっと段階を踏むべきところを無理やり抱いたんだから信じられなくて当然だ。始まりは酷かったけれど止められなかった。何度も何度も抱いて俺なしじゃいられない身体にして離れられなくしたかった」
王子の作戦は大成功だ。この身体は王子が与えてくれる快楽を求めている。
「でも本当は……俺がおまえに溺れているんだ。毎晩ここに通ってしまうくらいに」
「嘘だ……」
溺れているのはこっちだ。奴隷だから拒めなかったわけではない。香のせいでも香油のせいでもない。
全ては自分の意思で彼を受け入れたのだ。
そして自分を受け入れてほしいと願ったのだ。
(最初から、惹かれていたんだ……)
身分違いだとわかっていながらその紺碧の瞳に溺れた。気が付いた時にはもう手遅れだった。
「嘘じゃない」
「でもっ、でもオレは奴隷でっ……だからきっと王子の足手まといになる。王子が悪く言われる……。そんなのは嫌だ」
「誰にも何も言わせない。そのためにここのところずっと動き回っていたんだ。両親にも兄弟にも、重臣たちにも、反対されないように説得して回ってた。今日やっと一段落ついたから報告しにきた」
そんなうまい話があるもんか。奴隷が王子のそばで暮らしていけるなんて。
明日、ここを出て行くと決めたばかりなのに。
「……世継ぎは……」
「問題ないと言っただろ。一番上の兄の子を養子にすることにした。将来的にはその子が王になる」
「一番上……え……?」
侍女が噂していたことを思い出した。
――第一王子には隠し子がいる。
そういえば第四、第五王子が国王の子供ではないという噂も当たっていた。
侍女には絶対逆らってはいけない。この先この王宮で暮らすならそれだけは守ろうとシアンは心に強く誓った。
「もう国王にも承諾済みだ。第一王子の子供だ、すんなり了承されたよ」
「じゃあ……なんの問題も……?」
「何も問題はない。あとは、シアン次第だ」
止まっていた涙がまた溢れてきた。
答え決まっているのに、言葉が上手く出てこない。
「シアン、答えは?」
涙を拭った王子の指先が唇に触れる。
「……こういう時、なんて言葉を使うのか、セシルに教わった……」
いつだったか、文字の練習でどういう時に使えばいいのか聞いた。
「なんて言葉だ?」
「……愛してる、って」
貴方をとても愛している。
心から――深く、深く。
「シアン」
短くなった赤い髪に触れて王子はそっと額に口付けを落とす。
「愛してる――」
それは、一番ほしかった言葉。
一生誰からももらえないと思っていた言葉。
何度も口付けをした唇から唱えられた魔法の言葉。
「王子……」
答えは言えなかった。
王子の唇がシアンの唇に重なってきたからだ。
柔らかい口付けにシアンはそっと目を閉じ、王子に身を委ねた。
ずっと冷たいと思っていたその手は、今はとても温かくて、そして官能的にシアンに触れている。
触れられた場所から温もりを感じ、同時に艶めかしく思う。
もっと触れてほしい。
髪の先から指先まで。肌のあらゆるところを愛でて、その唇で、舌で、吐息で、行き着く先まで連れて行って。
短くなってしまった赤い髪をそれまでと変わらず柔らかく撫でて包み込む腕。
「王子はロマンティストだから、初代の王みたいに赤い髪の人間を隣に置きたいんだって……」
ふと思い出したハリス公の台詞を、なんとなしに呟いた。
それを聞いた時は少しだけ傷付いたけれど、今は気にならない。王子がこの髪を好いていてくれるなら、どんな理由でも構わない。
目立つだけで嫌いだった赤い髪を、シアン自身、誇りに思うようになった。
どんな経緯で赤い髪の一族が衰退したのかは文献には残っておらず、誰にもわからない。
初代王とその妻に子供がいたら、シアンの運命も変わっていた。
もしかしたらこの世に生まれていなかったかもしれない。
生まれていなかったら、王子を助けることができなかった。
「俺がそれだけのためにおまえをそばにおくと思うか?」
出会ってすぐだったらそう思っていただろう。だけど今は違う。
王子に心から大切だと思われていると実感できる。
言葉ではなく、触れ方で。
感じるのだ、愛されていると。
「ううん、思わない」
それはとても幸福なこと。奇跡のような出来事。
王子は微笑みながらシアンを抱きかかえ、ベッドまで運んだ。
そっとベッドに下ろされると、王子がシアンの頬に触れる。
シアンの寝着の裾から手を入れて、あらわになった肌に口付けを落としていくその唇が背中へと移動する。
背筋に沿って舌が這う。
ゾクゾクと肌が粟立ちシアンは背を仰け反らせた。
「おまえの身体は甘いな。いくら舐めても飽きない」
「んっ……もう、そんなに舐めなくても……」
「どうして? 身体中こんなに甘いのに」
「だって……毒はもう……」
王子がシアンの体液を摂取する必要はなくなった。この身体を舐め、唾液を貪り、吐き出した欲を飲み込む必要も。
「確かに……毒を治療する必要はない。だからこれは、俺がそうしたくてしてるんだ。必要だから抱いたと言っただろ。おまえを抱きたいから抱いた。この意味、わかるか?」
王子の告白になんと返せばいいかわからず、シアンは目を見つめたまま次の言葉を待った。
「おまえ以外いらない。おまえを手に入れたくて無理やり抱いた。手付きになればずっとここでおまえと一緒にいられるから」
「王子……でも、そんな……オレは奴隷だから拒否することはできないのに……。手付きにしなくても命令したら……」
「俺は奴隷のおまえを抱いたんじゃない。シアンを抱いたんだ。確かに奴隷だから拒めないとわかっていた。もっと段階を踏むべきところを無理やり抱いたんだから信じられなくて当然だ。始まりは酷かったけれど止められなかった。何度も何度も抱いて俺なしじゃいられない身体にして離れられなくしたかった」
王子の作戦は大成功だ。この身体は王子が与えてくれる快楽を求めている。
「でも本当は……俺がおまえに溺れているんだ。毎晩ここに通ってしまうくらいに」
「嘘だ……」
溺れているのはこっちだ。奴隷だから拒めなかったわけではない。香のせいでも香油のせいでもない。
全ては自分の意思で彼を受け入れたのだ。
そして自分を受け入れてほしいと願ったのだ。
(最初から、惹かれていたんだ……)
身分違いだとわかっていながらその紺碧の瞳に溺れた。気が付いた時にはもう手遅れだった。
「嘘じゃない」
「でもっ、でもオレは奴隷でっ……だからきっと王子の足手まといになる。王子が悪く言われる……。そんなのは嫌だ」
「誰にも何も言わせない。そのためにここのところずっと動き回っていたんだ。両親にも兄弟にも、重臣たちにも、反対されないように説得して回ってた。今日やっと一段落ついたから報告しにきた」
そんなうまい話があるもんか。奴隷が王子のそばで暮らしていけるなんて。
明日、ここを出て行くと決めたばかりなのに。
「……世継ぎは……」
「問題ないと言っただろ。一番上の兄の子を養子にすることにした。将来的にはその子が王になる」
「一番上……え……?」
侍女が噂していたことを思い出した。
――第一王子には隠し子がいる。
そういえば第四、第五王子が国王の子供ではないという噂も当たっていた。
侍女には絶対逆らってはいけない。この先この王宮で暮らすならそれだけは守ろうとシアンは心に強く誓った。
「もう国王にも承諾済みだ。第一王子の子供だ、すんなり了承されたよ」
「じゃあ……なんの問題も……?」
「何も問題はない。あとは、シアン次第だ」
止まっていた涙がまた溢れてきた。
答え決まっているのに、言葉が上手く出てこない。
「シアン、答えは?」
涙を拭った王子の指先が唇に触れる。
「……こういう時、なんて言葉を使うのか、セシルに教わった……」
いつだったか、文字の練習でどういう時に使えばいいのか聞いた。
「なんて言葉だ?」
「……愛してる、って」
貴方をとても愛している。
心から――深く、深く。
「シアン」
短くなった赤い髪に触れて王子はそっと額に口付けを落とす。
「愛してる――」
それは、一番ほしかった言葉。
一生誰からももらえないと思っていた言葉。
何度も口付けをした唇から唱えられた魔法の言葉。
「王子……」
答えは言えなかった。
王子の唇がシアンの唇に重なってきたからだ。
柔らかい口付けにシアンはそっと目を閉じ、王子に身を委ねた。
ずっと冷たいと思っていたその手は、今はとても温かくて、そして官能的にシアンに触れている。
触れられた場所から温もりを感じ、同時に艶めかしく思う。
もっと触れてほしい。
髪の先から指先まで。肌のあらゆるところを愛でて、その唇で、舌で、吐息で、行き着く先まで連れて行って。
短くなってしまった赤い髪をそれまでと変わらず柔らかく撫でて包み込む腕。
「王子はロマンティストだから、初代の王みたいに赤い髪の人間を隣に置きたいんだって……」
ふと思い出したハリス公の台詞を、なんとなしに呟いた。
それを聞いた時は少しだけ傷付いたけれど、今は気にならない。王子がこの髪を好いていてくれるなら、どんな理由でも構わない。
目立つだけで嫌いだった赤い髪を、シアン自身、誇りに思うようになった。
どんな経緯で赤い髪の一族が衰退したのかは文献には残っておらず、誰にもわからない。
初代王とその妻に子供がいたら、シアンの運命も変わっていた。
もしかしたらこの世に生まれていなかったかもしれない。
生まれていなかったら、王子を助けることができなかった。
「俺がそれだけのためにおまえをそばにおくと思うか?」
出会ってすぐだったらそう思っていただろう。だけど今は違う。
王子に心から大切だと思われていると実感できる。
言葉ではなく、触れ方で。
感じるのだ、愛されていると。
「ううん、思わない」
それはとても幸福なこと。奇跡のような出来事。
王子は微笑みながらシアンを抱きかかえ、ベッドまで運んだ。
そっとベッドに下ろされると、王子がシアンの頬に触れる。
シアンの寝着の裾から手を入れて、あらわになった肌に口付けを落としていくその唇が背中へと移動する。
背筋に沿って舌が這う。
ゾクゾクと肌が粟立ちシアンは背を仰け反らせた。
「おまえの身体は甘いな。いくら舐めても飽きない」
「んっ……もう、そんなに舐めなくても……」
「どうして? 身体中こんなに甘いのに」
「だって……毒はもう……」
王子がシアンの体液を摂取する必要はなくなった。この身体を舐め、唾液を貪り、吐き出した欲を飲み込む必要も。
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