甘い毒の寵愛

柚杏

文字の大きさ
22 / 23

22

しおりを挟む
「俺はもともと、男しか愛せない。王になる予定もなかったから妻を娶るつもりもなかったんだ。だけど今はおまえがいる。俺はおまえを妻として娶りたいと思っている。子供は作れないけれどおまえ以外を娶るつもりはこの先、王になってもない」
 王子の告白になんと返せばいいかわからず、シアンは目を見つめたまま次の言葉を待った。
「おまえ以外いらない。おまえを手に入れたくて無理やり抱いた。手付きになればずっとここでおまえと一緒にいられるから」
「王子……でも、そんな……オレは奴隷だから拒否することはできないのに……。手付きにしなくても命令したら……」
「俺は奴隷のおまえを抱いたんじゃない。シアンを抱いたんだ。確かに奴隷だから拒めないとわかっていた。もっと段階を踏むべきところを無理やり抱いたんだから信じられなくて当然だ。始まりは酷かったけれど止められなかった。何度も何度も抱いて俺なしじゃいられない身体にして離れられなくしたかった」
 王子の作戦は大成功だ。この身体は王子が与えてくれる快楽を求めている。
「でも本当は……俺がおまえに溺れているんだ。毎晩ここに通ってしまうくらいに」
「嘘だ……」
 溺れているのはこっちだ。奴隷だから拒めなかったわけではない。香のせいでも香油のせいでもない。
 全ては自分の意思で彼を受け入れたのだ。
 そして自分を受け入れてほしいと願ったのだ。
(最初から、惹かれていたんだ……)
 身分違いだとわかっていながらその紺碧の瞳に溺れた。気が付いた時にはもう手遅れだった。
「嘘じゃない」
「でもっ、でもオレは奴隷でっ……だからきっと王子の足手まといになる。王子が悪く言われる……。そんなのは嫌だ」
「誰にも何も言わせない。そのためにここのところずっと動き回っていたんだ。両親にも兄弟にも、重臣たちにも、反対されないように説得して回ってた。今日やっと一段落ついたから報告しにきた」
 そんなうまい話があるもんか。奴隷が王子のそばで暮らしていけるなんて。
 明日、ここを出て行くと決めたばかりなのに。
「……世継ぎは……」
「問題ないと言っただろ。一番上の兄の子を養子にすることにした。将来的にはその子が王になる」
「一番上……え……?」
 侍女が噂していたことを思い出した。
 ――第一王子には隠し子がいる。
 そういえば第四、第五王子が国王の子供ではないという噂も当たっていた。
 侍女には絶対逆らってはいけない。この先この王宮で暮らすならそれだけは守ろうとシアンは心に強く誓った。
「もう国王にも承諾済みだ。第一王子の子供だ、すんなり了承されたよ」
「じゃあ……なんの問題も……?」
「何も問題はない。あとは、シアン次第だ」
 止まっていた涙がまた溢れてきた。
 答え決まっているのに、言葉が上手く出てこない。
「シアン、答えは?」
 涙を拭った王子の指先が唇に触れる。
「……こういう時、なんて言葉を使うのか、セシルに教わった……」
 いつだったか、文字の練習でどういう時に使えばいいのか聞いた。
「なんて言葉だ?」
「……愛してる、って」
 貴方をとても愛している。
 心から――深く、深く。
「シアン」
 短くなった赤い髪に触れて王子はそっと額に口付けを落とす。
「愛してる――」
 それは、一番ほしかった言葉。
 一生誰からももらえないと思っていた言葉。
 何度も口付けをした唇から唱えられた魔法の言葉。
「王子……」
 答えは言えなかった。
 王子の唇がシアンの唇に重なってきたからだ。
 柔らかい口付けにシアンはそっと目を閉じ、王子に身を委ねた。
 ずっと冷たいと思っていたその手は、今はとても温かくて、そして官能的にシアンに触れている。
 触れられた場所から温もりを感じ、同時に艶めかしく思う。
 もっと触れてほしい。
 髪の先から指先まで。肌のあらゆるところを愛でて、その唇で、舌で、吐息で、行き着く先まで連れて行って。
 短くなってしまった赤い髪をそれまでと変わらず柔らかく撫でて包み込む腕。
「王子はロマンティストだから、初代の王みたいに赤い髪の人間を隣に置きたいんだって……」
 ふと思い出したハリス公の台詞を、なんとなしに呟いた。
 それを聞いた時は少しだけ傷付いたけれど、今は気にならない。王子がこの髪を好いていてくれるなら、どんな理由でも構わない。
 目立つだけで嫌いだった赤い髪を、シアン自身、誇りに思うようになった。
 どんな経緯で赤い髪の一族が衰退したのかは文献には残っておらず、誰にもわからない。
 初代王とその妻に子供がいたら、シアンの運命も変わっていた。
 もしかしたらこの世に生まれていなかったかもしれない。
 生まれていなかったら、王子を助けることができなかった。
「俺がそれだけのためにおまえをそばにおくと思うか?」
 出会ってすぐだったらそう思っていただろう。だけど今は違う。
 王子に心から大切だと思われていると実感できる。
 言葉ではなく、触れ方で。
 感じるのだ、愛されていると。
「ううん、思わない」
 それはとても幸福なこと。奇跡のような出来事。
 王子は微笑みながらシアンを抱きかかえ、ベッドまで運んだ。
 そっとベッドに下ろされると、王子がシアンの頬に触れる。
 シアンの寝着の裾から手を入れて、あらわになった肌に口付けを落としていくその唇が背中へと移動する。
 背筋に沿って舌が這う。
 ゾクゾクと肌が粟立ちシアンは背を仰け反らせた。
「おまえの身体は甘いな。いくら舐めても飽きない」
「んっ……もう、そんなに舐めなくても……」
「どうして? 身体中こんなに甘いのに」
「だって……毒はもう……」
 王子がシアンの体液を摂取する必要はなくなった。この身体を舐め、唾液を貪り、吐き出した欲を飲み込む必要も。
「確かに……毒を治療する必要はない。だからこれは、俺がそうしたくてしてるんだ。必要だから抱いたと言っただろ。おまえを抱きたいから抱いた。この意味、わかるか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

処理中です...