11 / 23
11
しおりを挟む
***
「いいですか。くれぐれも粗相のないように、教えた通りにやれば上手くいきますからね」
翌朝、早くからセシルが侍女を数人連れてやってきて今までの復習だと言ってテーブルマナーを再度たたきこんだ。
その横で侍女たちがシアンにさまざまな色の衣装をあてては、ああでもないこうでもないと相談しあっている。
王族へのお披露目は昼食時にすることになった。
昨晩の王子との行為の余韻に浸る隙もないまま、起こされ湯殿に連れていかれ隅々まで洗われた。他人に身体を洗われるのはすっかり慣れてしまっていたが、行為の最中につけられたであろう口付けの跡が身体に残っているのに気が付きいたたまれない気持ちになった。
跡をつけるなんて今までなかったのに、昨晩の王子は幼い子供のようだった。
行為が終わったあとも処理もせずにシアンに抱きついて眠ってしまった王子の寝息を聞きながら、頭を撫で続けているうちにシアンも眠ってしまった。
王子は起きた時にはもうベッドにはいなかった。朝いないことはたまにあったが、今朝は少し寂しく感じた。
「王族の方々は気難しいですから、なにを言われても黙っていなさい。王子が答えるまで何も言わないこと」
「挨拶もなし?」
セシルは最初の頃はいつも眉間に皺を寄せて、ため息ばかりついていたが最近はなにかを諦めたのか眉間の皺はなくなった。
自分で見つけ出した文献にあった王子を助ける赤い髪の一族の末裔が、まさか奴隷だとは思わなかったのだろう。
王子が足繁く通うとは予想していなかった、と思わず愚痴をこぼしていたのを聞いたことがある。
セシルからしてみれば大切な王子の命が狙われている上に、男に惚れ込んでいるなどと噂されれば従者として面目もたたないのだ。
「王子が代わりに貴方を紹介します。それにあわせて丁寧に頭を下げれば問題ありません。とにかく、必要以上の会話はしないように。いいですね?」
「……わかりました」
その方が自分も粗が出なくて助かる。付け焼き刃のマナーだけではたくさんの王族の前で通じない。奴隷だと知られれば王子の立場も悪くなる。それだけは避けたい。
「セシル、オレ絶対失敗しないよ」
「シアン?」
「オレだって王子の立場を悪くしたくない。オレができることならなにでもする。だって王様になってほしいもん」
「そうですね……」
食事の場には王と王妃は来ないとセシルから説明を受けた。二人は仲違いしてから自室で食事を摂ることが多いらしい。
王様に会うのはさすがに緊張するのでシアンはホッとしたが、それなら王子も自室で食べられないのかと疑問に思った。
「王の弟君――王子の叔父上にあたるハリス公が王族の親睦を深めるためにと、食事は出来るだけ王族同士集まって摂ろうという決まりになったのです。それまでは顔も知らない親族がいたくらいですから。おかげで顔を知れた方々も多いはずです」
「へぇ……」
けれどそれが裏目に出て、王子は食事のたびに毒を盛られているのだから決して良いことだけではない。
食事の際の席順は決められていて、身分の高さの順に座る。王と王妃はほとんど来席しないので、実質一番身分が高いのはノア王子ということになる。
二人の兄は療養中で王宮にはおらず、気候の穏やかな地で暮らしている。
「王族以外でその席に座ることができるのは稀です。今回も異例中の異例。次期国王のお相手を見定める席なのだと覚悟して臨みなさい」
釘を刺されてシアンはゴクリと喉を鳴らして生唾を飲んだ。
「席順が毎回同じなら、毒も簡単に入れられるってことか……」
王子が食事をする部屋に来る前に誰かが入れることは十分可能だ。それ以前に料理を作る者が王子の食事にだけ毒を盛ることもできる。給仕をする者、従者、侍女。一回の食事で王子の食べ物の中に毒を入れる機会がある者は数え切れない。
それがもし、一人の黒幕によって何人もが唆され、複数の毒を食事に混ぜられていたとしたら。
「第二王子がいつから毒を盛られていたかは定かではありませんが、少量を一食ごとに混入されていたのでしょう。ノア王子が体調不良を訴えはじめたのは第二王子がお倒れになってすぐ。首謀者は王位継承者を一人ずつ手に掛けていっています。王子が倒れたら次は……」
「王子が倒れることはないよ。そのためにオレがいるんだから」
「いいですか。くれぐれも粗相のないように、教えた通りにやれば上手くいきますからね」
翌朝、早くからセシルが侍女を数人連れてやってきて今までの復習だと言ってテーブルマナーを再度たたきこんだ。
その横で侍女たちがシアンにさまざまな色の衣装をあてては、ああでもないこうでもないと相談しあっている。
王族へのお披露目は昼食時にすることになった。
昨晩の王子との行為の余韻に浸る隙もないまま、起こされ湯殿に連れていかれ隅々まで洗われた。他人に身体を洗われるのはすっかり慣れてしまっていたが、行為の最中につけられたであろう口付けの跡が身体に残っているのに気が付きいたたまれない気持ちになった。
跡をつけるなんて今までなかったのに、昨晩の王子は幼い子供のようだった。
行為が終わったあとも処理もせずにシアンに抱きついて眠ってしまった王子の寝息を聞きながら、頭を撫で続けているうちにシアンも眠ってしまった。
王子は起きた時にはもうベッドにはいなかった。朝いないことはたまにあったが、今朝は少し寂しく感じた。
「王族の方々は気難しいですから、なにを言われても黙っていなさい。王子が答えるまで何も言わないこと」
「挨拶もなし?」
セシルは最初の頃はいつも眉間に皺を寄せて、ため息ばかりついていたが最近はなにかを諦めたのか眉間の皺はなくなった。
自分で見つけ出した文献にあった王子を助ける赤い髪の一族の末裔が、まさか奴隷だとは思わなかったのだろう。
王子が足繁く通うとは予想していなかった、と思わず愚痴をこぼしていたのを聞いたことがある。
セシルからしてみれば大切な王子の命が狙われている上に、男に惚れ込んでいるなどと噂されれば従者として面目もたたないのだ。
「王子が代わりに貴方を紹介します。それにあわせて丁寧に頭を下げれば問題ありません。とにかく、必要以上の会話はしないように。いいですね?」
「……わかりました」
その方が自分も粗が出なくて助かる。付け焼き刃のマナーだけではたくさんの王族の前で通じない。奴隷だと知られれば王子の立場も悪くなる。それだけは避けたい。
「セシル、オレ絶対失敗しないよ」
「シアン?」
「オレだって王子の立場を悪くしたくない。オレができることならなにでもする。だって王様になってほしいもん」
「そうですね……」
食事の場には王と王妃は来ないとセシルから説明を受けた。二人は仲違いしてから自室で食事を摂ることが多いらしい。
王様に会うのはさすがに緊張するのでシアンはホッとしたが、それなら王子も自室で食べられないのかと疑問に思った。
「王の弟君――王子の叔父上にあたるハリス公が王族の親睦を深めるためにと、食事は出来るだけ王族同士集まって摂ろうという決まりになったのです。それまでは顔も知らない親族がいたくらいですから。おかげで顔を知れた方々も多いはずです」
「へぇ……」
けれどそれが裏目に出て、王子は食事のたびに毒を盛られているのだから決して良いことだけではない。
食事の際の席順は決められていて、身分の高さの順に座る。王と王妃はほとんど来席しないので、実質一番身分が高いのはノア王子ということになる。
二人の兄は療養中で王宮にはおらず、気候の穏やかな地で暮らしている。
「王族以外でその席に座ることができるのは稀です。今回も異例中の異例。次期国王のお相手を見定める席なのだと覚悟して臨みなさい」
釘を刺されてシアンはゴクリと喉を鳴らして生唾を飲んだ。
「席順が毎回同じなら、毒も簡単に入れられるってことか……」
王子が食事をする部屋に来る前に誰かが入れることは十分可能だ。それ以前に料理を作る者が王子の食事にだけ毒を盛ることもできる。給仕をする者、従者、侍女。一回の食事で王子の食べ物の中に毒を入れる機会がある者は数え切れない。
それがもし、一人の黒幕によって何人もが唆され、複数の毒を食事に混ぜられていたとしたら。
「第二王子がいつから毒を盛られていたかは定かではありませんが、少量を一食ごとに混入されていたのでしょう。ノア王子が体調不良を訴えはじめたのは第二王子がお倒れになってすぐ。首謀者は王位継承者を一人ずつ手に掛けていっています。王子が倒れたら次は……」
「王子が倒れることはないよ。そのためにオレがいるんだから」
0
あなたにおすすめの小説
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~
槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。
公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。
そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。
アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。
その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。
そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。
義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。
そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。
完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる