甘い毒の寵愛

柚杏

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「いいですか。くれぐれも粗相のないように、教えた通りにやれば上手くいきますからね」
 翌朝、早くからセシルが侍女を数人連れてやってきて今までの復習だと言ってテーブルマナーを再度たたきこんだ。
 その横で侍女たちがシアンにさまざまな色の衣装をあてては、ああでもないこうでもないと相談しあっている。
 王族へのお披露目は昼食時にすることになった。
 昨晩の王子との行為の余韻に浸る隙もないまま、起こされ湯殿に連れていかれ隅々まで洗われた。他人に身体を洗われるのはすっかり慣れてしまっていたが、行為の最中につけられたであろう口付けの跡が身体に残っているのに気が付きいたたまれない気持ちになった。
 跡をつけるなんて今までなかったのに、昨晩の王子は幼い子供のようだった。
 行為が終わったあとも処理もせずにシアンに抱きついて眠ってしまった王子の寝息を聞きながら、頭を撫で続けているうちにシアンも眠ってしまった。
 王子は起きた時にはもうベッドにはいなかった。朝いないことはたまにあったが、今朝は少し寂しく感じた。
「王族の方々は気難しいですから、なにを言われても黙っていなさい。王子が答えるまで何も言わないこと」
「挨拶もなし?」
 セシルは最初の頃はいつも眉間に皺を寄せて、ため息ばかりついていたが最近はなにかを諦めたのか眉間の皺はなくなった。
 自分で見つけ出した文献にあった王子を助ける赤い髪の一族の末裔が、まさか奴隷だとは思わなかったのだろう。
 王子が足繁く通うとは予想していなかった、と思わず愚痴をこぼしていたのを聞いたことがある。
 セシルからしてみれば大切な王子の命が狙われている上に、男に惚れ込んでいるなどと噂されれば従者として面目もたたないのだ。
「王子が代わりに貴方を紹介します。それにあわせて丁寧に頭を下げれば問題ありません。とにかく、必要以上の会話はしないように。いいですね?」
「……わかりました」
 その方が自分も粗が出なくて助かる。付け焼き刃のマナーだけではたくさんの王族の前で通じない。奴隷だと知られれば王子の立場も悪くなる。それだけは避けたい。
「セシル、オレ絶対失敗しないよ」
「シアン?」
「オレだって王子の立場を悪くしたくない。オレができることならなにでもする。だって王様になってほしいもん」
「そうですね……」
 食事の場には王と王妃は来ないとセシルから説明を受けた。二人は仲違いしてから自室で食事を摂ることが多いらしい。
 王様に会うのはさすがに緊張するのでシアンはホッとしたが、それなら王子も自室で食べられないのかと疑問に思った。
「王の弟君――王子の叔父上にあたるハリス公が王族の親睦を深めるためにと、食事は出来るだけ王族同士集まって摂ろうという決まりになったのです。それまでは顔も知らない親族がいたくらいですから。おかげで顔を知れた方々も多いはずです」
「へぇ……」
 けれどそれが裏目に出て、王子は食事のたびに毒を盛られているのだから決して良いことだけではない。
 食事の際の席順は決められていて、身分の高さの順に座る。王と王妃はほとんど来席しないので、実質一番身分が高いのはノア王子ということになる。
 二人の兄は療養中で王宮にはおらず、気候の穏やかな地で暮らしている。
「王族以外でその席に座ることができるのは稀です。今回も異例中の異例。次期国王のお相手を見定める席なのだと覚悟して臨みなさい」
 釘を刺されてシアンはゴクリと喉を鳴らして生唾を飲んだ。
「席順が毎回同じなら、毒も簡単に入れられるってことか……」
 王子が食事をする部屋に来る前に誰かが入れることは十分可能だ。それ以前に料理を作る者が王子の食事にだけ毒を盛ることもできる。給仕をする者、従者、侍女。一回の食事で王子の食べ物の中に毒を入れる機会がある者は数え切れない。
 それがもし、一人の黒幕によって何人もが唆され、複数の毒を食事に混ぜられていたとしたら。
「第二王子がいつから毒を盛られていたかは定かではありませんが、少量を一食ごとに混入されていたのでしょう。ノア王子が体調不良を訴えはじめたのは第二王子がお倒れになってすぐ。首謀者は王位継承者を一人ずつ手に掛けていっています。王子が倒れたら次は……」
「王子が倒れることはないよ。そのためにオレがいるんだから」
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