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九章
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しんしんと降る雪がつけたばかりの足跡をすぐに隠していく。
少しでも立ち止まれば進んでいた方向を見失ってしまいそうな程、辺り一面真っ白に染まる雪の中を覚束無い足取りで歩く。
春に再会し、夏に大切な人を見送り、秋に一生分の愛を感じ、そして季節は冬になった。
気が付けば随分と遠い所まで来てしまった。雪が自分の身長よりも降り積もる寒い地域まで。
一度は来てみたいと思っていた有名な観光地の一つ。そこから少し離れた小さな町に移り住み、初めての冬を迎えた。
想像していたよりずっと厳しい寒さと雪の多さに戸惑いながらも、何とかやっている。この寒さもいつか慣れていくだろう。長く住んでいれば。
菫が大学卒業まで契約してくれていたマンションはそのままにして、定期的に清掃サービスを頼んでいる。菫との思い出の詰まった部屋を解約する気にはなれずに結局、契約が終わるまで借りたままにする事にした。荷物も殆どマンションに置いたままだ。
あの日、紫ノ宮の屋敷を後にしてすぐ大事なものだけを持って電車に乗り込んだ。目的地があった訳じゃない。たまたま乗った電車の終点が空港だっただけだ。
そして空港で一番出発の早い便に乗った。それがこの雪の多い場所への飛行機だった。
行き当たりばったりで行動すれば誰にも行き先はバレないと思った。バレた所で藍に逢える訳じゃない。行き先は何処だって良かった。
この町に着いて直ぐに住む家を探し、一番陽当たりの良かった部屋を契約した。今まで住んでいたマンションに比べたら古くて狭い。
寒冷地仕様の二重窓が珍しくて窓を開けると冬の冷たい空気が入って来て、肺まで凍りそうな気がした。
直ぐに住み始めて最低限必要な寝具や着替え、日常品を買い揃えるとようやくホッとした。
寒冷地の住宅は寒さ対策がしっかりしているのか、ストーブをつけると部屋中すぐにポカポカと暖かくなり買ったばかりの寝具を敷いて眠りについた。
色んなことが一度にあって疲れきっていた永絆はその日、夢も見ないでぐっすりと眠る事が出来た。
一人きりの生活に苦はなかった。元々、親に捨てられ一人で公園で暮らしていたのだからそれに比べれば屋根があって布団もあって暖かくて快適な部屋に住んで、栄養を考えながら食事が出来ている。
お金だって働かなくても生きていける程、たくさんある。尤も、それを湯水の如く使う気にはなれないのだが。
あとは仕事を探してその収入で生活出来るようになればいい。落ち着いたら菫の希望だった大学卒業も通信制か大検でも受けてきちんとしようと思っていた。
ほとぼりが冷めたら藤にも連絡を入れよう。携帯は水没させられたまま新しい物は持っていないから、公衆電話から掛ける事になる。そこまで考えて、携帯の登録機能に頼りきっていたから番号が分からない事に気が付いた。今の住所も知らないし連絡の取りようがない。
せめて一言、何の相談もなく居なくなった事を謝りたかった。
番になりたいと思ってくれた気持ちに感謝と謝罪を伝えなければ。
そしてそんな風に思ってくれていると知らずに藍と離れる為に藤を利用して苦しめた事を償いたい。番にはなれないけれど、何か別の方法で償いたかった。
溜息をつくと白い息が空気に溶けていく。冬の空気は凍てついているけれど、とても澄んでいて肺の中が綺麗になった気がする。
外階段を登って二階の一番手前が今の住処。ドアノブに手をかけるとガチャリと古い音がしてドアが開く。部屋の中の温度差で身体が痺れる。
「ただいま」
肩や頭に積もった雪を払って靴を脱いでいるとリビングに続くドアが開いた。
「おかえり、永絆。寒かっただろ?」
そう言って永絆の身体を優しく包み込んだのは他ならぬ魂の番である藍だった。
***
何もかもを諦めて極寒の地へ辿り着き、一週間が過ぎた頃に気が付いた。
自分の身体の異変に。
最初は色々あった疲れから来るものだと思っていた。そうであってほしいと。
しかし自らの身体を風呂上がりや着替えの際に見る度にそれは確実なものになっていった。
何度も藍の腕の中で抱かれながら噛まれた項。いくつもの歯型は少しずつ薄く消え始めていたのに、いつまで経っても薄くならない歯型があった。
一体それがいつ噛まれたものかなんて、永絆にも分からない。そのくらい何度も噛み跡を残されたから。
抑制剤は藍が全て捨ててしまって、あの一ヶ月半の間、一度も飲んでいない。けれど、発情期が来た感覚はなかった。
それでもこの噛み跡は、間違いなく番が成立しているから消えないのだと証明している。
永絆自身が気付かないうちに、藍と番になってしまった。
その事実に動揺して、藍に連絡を取ろうとも思った。けれど、藍が気が付いていないのであれば藍が誰かを抱いた瞬間、番は解消される。
藍の為にはこの事実を伝えない方が良いだろうと判断し、束の間の番関係を過ごす事にした。
藍と番になる夢が叶った。たとえ、永絆だけしか知らなくとも。それだけでこの先も生きていけると思った。
それなのに、永絆の前にその番が現れた。
猛吹雪の悪天候の日に、永絆の住む部屋に着の身着のままでやって来た藍はブルブルと震え今にも凍えて死んでしまいそうだった。
目の前の現実に思考が追いつかないまま、とにかく藍を部屋へ入れて暖かいお風呂で冷えきった身体を温めさせた。
熱いお茶を淹れ、十分に藍が温まってからようやく話をしようと口を開くと同時に強く抱き竦められ言葉をなくした。
藍の匂い。藍の温もり。藍の力強さ。
何もかも全て鮮明に憶えている。忘れるはずがない。
堪らなく愛しくて、どうしようもなく惹かれる、運命の人。
どんなに離れていても思わずにはいられない、愛しい人。
「藍……」
藍の指先が永絆の項を撫でた。噛み跡を辿るようにそっと。
「消えてない……」
「藍、これは……」
別のαに噛まれたんだと嘘をつくことも出来た。藍の為にはそう言った方がいいはず。なのにその言葉はどうしても言えなかった。
「俺の……俺の番に……?」
温まった筈の藍の手が小刻みに震えていた。何度も項の跡を指で確認しながら、永絆の答えを待っていた。
「藍、ごめん」
「なんで謝る? 俺は嬉しいのに」
「番が成立したなんて分かれば藍の立場が悪くなる……」
藍を守る為に身を引いたのに、まさかの番成立で藍を困らせる事になる。
解消するには藍が他の誰かを抱く事だけで済む。今、彼は勢いでここまでやって来ただけだ。きっと直ぐに連れ戻されてしまう。その時に藍が責任を感じたりしなければいいのに。
「立場なんてもう気にしなくていいんだ。全部捨ててきた。もう俺には紫ノ宮の名前はない」
「な、に言ってるの? そんな簡単に捨てられる訳ないって……一ヶ月半一緒にいて分かったでしょ? きっとまた連れ戻される。藍が何度捨てても、捨てられないものだってあるんだよ」
これ以上、藍と共に居ればまた別れの辛さを味わう事になる。もうあんな痛みは嫌だ。次にあの痛みを受けたら立ち直ることが出来なくなる。
「だから、早く誰かに連絡して迎えに来てもらってよ……。オレが唆したって思われたら面倒だし、もう二度と会わないって決めたんだから」
藍と居ると、何度も嘘をつく事になる。
本当は逢えて嬉しくて今すぐ抱き締めたい。その肌に触れて、自分の奥に入って来て欲しい。離れたくない。離されたくない。
だけど出来ないから嘘をつく。もう会わないと、迷惑なのだと嘘をつく。
「今度は連れ戻しに来ないよ」
髪にキスを落とした藍が優しく微笑む。その綺麗な笑顔に見惚れて目が離せない。
「結婚もしない。紫ノ宮の跡も継がない。援助も何もいらない。だから永絆と一緒にいさせてほしいって父親に直談判した」
「そんな……でもっ、許すはずないよっ」
「そこまで言うならやってみろってさ。どうせ世間知らずの温室育ちが援助もなしに生きてはいけないのだからって。すぐに音をあげて帰ってくるだろうって言われたよ」
永絆の項を何度も撫でて、藍は静かに微笑む。
もう誰が何を言おうと藍は引き下がらない。その微笑みの中に強い決心が見えて永絆は拒む言葉を紡ぐのをやめた。
本当に藍が自分と一緒にずっといる気なのならば、これ以上の喜びはない。番が成立した今、藍と共にいることは自然な事でこの先最悪なことが起こっても構わないからそばに居たいと思わずにいられなかった。
「オレは藍を独り占めしていいの?」
紫ノ宮藍という立場のαではなく、魂の番としての藍を。
この先の未来までずっと独占したい。誰にも渡したくない。醜いと思われたって構わない。もう藍なしでは生きていけないと、項が熱く疼く。
「俺も永絆を独り占めしたい」
「……オレはずっと、藍だけだよ」
抑えていた感情が、爆発してどうにかなりそうなくらい項が熱く燃えるようだった。
暫く忘れていた発情期の熱が感情と共に戻って、永絆の身体を支配しようとしていた。
「花の……匂いがする……」
永絆の首に鼻を近付けて匂いを嗅ぐ藍。その藍からもクラクラする匂いがしていた。
「なんで、かなぁ……」
「何が……?」
首筋にキスを落とされてピクリと身体が反応する。
「発情期……今頃まともな発情期が来るなんて……」
はあ、と熱い吐息を出すだけで身体の体温はどんどん上昇する。今にも花の匂いに包まれておかしくなりそうだ。
「きっと……やっと、通じ合えたから……安心したの、かな……」
クラクラ、クラクラと目が回る。
ふわりと優しく口唇を重ね合って吐息を混じり合わせると、ゆっくりと身体を倒され大きな手で髪を撫でられる。
甘く溶けていきそうな感触に擦り寄って酔いしれる。
「藍……」
顔のあちこちに小さなキスが幾つも降ってくる。
発情したΩのフェロモンがどんどん濃くなって部屋中を満たしていくのに、何故かお互いの理性はギリギリで保たれ、藍が口唇で触れていく箇所全てに敏感に反応していた。
これが番になった者達だけが知る発情期の交わりなのだろうか。
理性が途切れる一歩手前にいて、触れられる度に理性が揺らぐのに切れる事はない。
何度も何度もキスをして、舌を絡ませあい、視線を交わし、微笑み合う。やがて肌と肌が直接重なり合ってもその湧き上がる愛しさだけは見失う事無く混ざりあって一つになる。
「藍……藍……。もう離れたくない……」
「永絆……」
大丈夫、ずっと一緒にいるからと囁いた声に煽られまたフェロモンが濃くなる。
荒く息を弾ませた藍を濡れた窄みが受け入れていく。深く深く繋がり合い、奥を刺激する様に腰を揺らされその度に甘い声が吐息と共に漏れていく。
熱い身体を藍に委ね、発情期の匂いを醸しながら幾度も揺すられ扱かれ、貫かれては精を吐き出す。奥の深い場所を抉る様に体制を変えながら藍の熱が萎む事を忘れたかの様に何度も中に放たれる。
一ヶ月半もの間、抱かれ続けたあの日々よりも今が一番気持ち良くて幸せだ。
永遠にこの時間が終わらなければいいとさえ思える程、藍から与えられる快楽に溺れて喘ぐ。
混ざり合い、溶け合い、一つになる心と身体。
もう何も諦めないと決めた。藍と共に居るために、自ら身を引く事をやめると決意した。どんな困難が待ち受けていようとも構わない。藍がいればいくらでも乗り越えられる。強くなれる。
「もう何処にも行かない」
藍のそばにずっといると告げると、藍は嬉しそうに微笑み愛しさの溢れるキスをくれた。
その日はひたすら発情期に身を任せてお互いの身体を貪りあった。力尽きて眠りに落ちるまでずっと繋がり続けた。
身体も布団も何もかもがベトベトのまま、手を繋ぎ指を絡ませて眠りについた。
夢の中でも手を繋いで抱き合って眠っていた。それはとても幸福な夢だった。
***
あの日からずっと二人で細々と暮らしている。
お互いに貯金は使い切れない程持ってはいたが、贅沢な暮らしはせずに二人では少し手狭な部屋で寄り添うように過ごす毎日。特別な物は何も無かった。毎日、雪の降る窓の外を眺めながら身を寄せ合っていられる事に深い歓びを感じていた。
藍はいつの間にか仕事を探してきて、働きに出るようになった。バイトすらした事のない藍が工場での力仕事を選んできたことに永絆は驚き、心配した。
世の中はそんなに甘くない。αとして産まれ、何不自由なく生きてきた藍にそんな仕事が続くとは思えなかった。
ところが藍は毎日、清々しい顔をして帰宅した。
誰かの下についてひたすら体を動かし、一からやる事を覚えていく。それが自分の為になり、永絆の為になると思うと頑張れるんだと目を輝かせて言った。
「永絆を養えるくらいは稼がないとな」
汗や埃で汚れた作業着が様になって、いつも上質な服を着ていた事が嘘のように思えた。
無理に働かなくても生きていけるのに藍が選んだ道はαとは思えない楽ではない道。彼はいつでもそうやって自分の目線まで下りてきてくれる。今までもこれからも藍は隣に並ぼうと懸命で、永絆はそんな彼を堪らなく愛しいと思った。
もし今、藍を連れ戻そうとする誰かがやって来ても藍にしがみついて離れないと決めていた。ピッタリとくっ付いて誰にも隙間を与えない。藍の隣は自分のものだと胸を張って主張出来る。
「それで、風邪だったのか?」
工場はシフト制で平日が休みになる事が多い。
外から帰宅した永絆を温かい部屋で向かえた藍が「やっぱり一緒に行けばよかった」と心配して永絆の額に手を乗せ熱がないかを確かめた。
「休みなんだからゆっくり休まないと。病院くらい一人で大丈夫だよ」
数日前から微熱と倦怠感が続いていた永絆はそれを藍に悟られないように気を付けていた。藍はとにかく永絆の事となると過保護で、永絆の体調が少しでも悪いと仕事を休むと言い出す。以前、風邪を引いた時もそうだった。それでは迷惑がかかるからと説得して仕事に行かせるが、休憩の度に電話をしてくるので仕事にならないのではないかと気が気ではない。
だから今回、少し体調を崩している事をバレないようにしていた。藍が仕事に行けば一人でゆっくり休むようにして、帰宅したらいつもと変わらない様に振る舞った。
しかし昨晩、貧血でも起こしたのかフラリとしてその場に座り込んでしまった。丁度、藍が帰宅して夕飯の準備をしている時だった。
今すぐ病院へ行こうと慌てる藍を何とか落ち着かせ、翌日朝から診察を受ける約束をした。藍は納得いかない顔をしていたがすぐにふらつきも落ち着いたので早めに就寝して、今日病院へ行ってきた。
一緒に付いていくという藍に、休みなんだからゆっくりしていろと少し強めに言った。心配してくれるのは嬉しいし有り難いが、働いて疲れている藍にもちゃんと身体を休ませてほしかった。
それに、永絆には何となくこれが何なのか心当たりがあった。だから向かった病院は内科ではなくΩ専門の医者がいる病院だった。
この寒い土地で共に暮らし始めて三ヶ月。発情期は毎回きちんとやって来て、その度に藍は永絆を深く激しく、そして労るように抱いた。
発情期以外でも寒い夜は肌と肌を重ねて温めあった。
番になってこの地で一緒に暮らしてから、数えきれない交わりをしてきた。
番になると通常の発情期よりも妊娠の確率が上がると言われている。そして当然それは永絆にも当てはまっていた。
「藍……あのね、風邪じゃなかったんだ」
今から話すことを聞いて藍はどんな反応をするだろう。
喜んでくれるだろうか。それとも驚いてパニックになるだろうか。いらないと言われたらどうしよう。藍に限ってそんな事はないと信じてはいるけれど、万が一そう言われたら一人ででも何とかしようと決めていた。
でも出来れば、この身に宿った小さな生命の事を、魂の番である彼が喜んでくれますように。
そう祈りながら永絆は藍にその事実を告げた。
「やっぱり、このままじゃダメだよな」
仕事から帰宅した藍が携帯を片手に難しい顔をしていた。
夕飯の準備をする手を止めて携帯を握り締める藍の手に自分の手を重ねる。
「藍……無理はしなくてもいいよ。嫌なら連絡しないで構わない」
「でも、このままじゃ籍を入れられない。産まれる前にちゃんとしておきたいんだよ」
妊娠を告げた時、藍は一瞬固まってしまった。そして一気に全身を真っ赤にして部屋の中をウロウロと歩き出し、しばらく落ち着かないままだった。
やはり突然そんな事を言われたら焦って当たり前だ。いくら番になったからといって、それとこれとは別問題。いつかそのうち、とは考えていたけれどまさかこんなに早く親になる日が来るとは思わなかった。
永絆は既に産むという答えしか持ち合わせていなかった。藍が反対しても一人で産み、育てる決心を病院の帰り道で固めてきた。
問題は藍と、藍の家族だ。
Ωを蔑視している紫ノ宮家が藍と永絆の子供を認める筈がなかった。下手をしたら無理にでも堕胎させられる可能性も考えられた。
落ち着かずに部屋をウロウロしていた藍が急に立ち止まり永絆の元まで戻ってくると、深呼吸をして満面の笑みを見せた。
「男の子? 女の子? あ、名前どうしよう? ベビーベッドとかオムツとか……ああ、その前にちゃんと籍を入れなきゃいけないな! 子育てするならもう少し広い部屋がいいかな……。それで、男の子? 女の子?」
今度はこちらが固まる番だった。
まだ小さな小さな人の形にもなっていない細胞の固まりで、永絆自身、病院でエコーを見るまで実感が沸かなかった。けれど間違いなくこの中にいるのだと確認した瞬間の歓びは言葉では表せない。
「まだ分からないよ。ゆっくり考えていこう? 一緒に育ててくれる?」
「当たり前だろ、何言ってんだよ。そりゃびっくりしたけど、嬉しさのあまり何から言えばいいか分からなかっただけだから!」
まだ少しびっくりしたままで軽くパニックになっている藍が可愛くて永絆は思わず笑ってしまった。それを見て藍も照れたように笑う。
「な、ちゃんと籍を入れような? 紫ノ宮の姓が嫌なら永絆の苗字でも構わない。ちゃんと父親のとこに俺の名前書かせて」
「うん」
そんな幸せな会話をした後、早速入籍しようと婚姻届を取りに行った藍。ドキドキしながら名前を書く手が震えていた。
証人の欄に藍の職場の上司の名前を書いてもらい、妊娠発覚から二日後の藍の仕事の昼休みを利用して役所に婚姻届を出した。
しかしそれは受理出来ないと言われ、突き返されてしまった。
理由を聞くと二十歳に満たない婚姻には親の承諾が必要なのだという。
永絆はとっくに親の籍から抜かれ、菫が後見人になっていた。菫の専属の弁護士に連絡を入れると永絆には親の承諾はなくてもいいとの事で後は藍だけが問題だった。
一年待てば親の承諾が無くても二十歳になるので籍を入れる事は出来る。しかしその前に子供が産まれてしまう。産まれてから籍を入れると血の繋がりがあっても養子扱いになってしまう。それだけはどうしても避けたかった藍は何度も実家の両親に連絡を入れようとしていた。
藍と永絆が何処で暮らしているかはとっくに藍の親には知られていた。定期的に紫ノ宮家に雇われた人間が様子を見に来ているのを二人とも気が付いていた。
しかし様子を見ているだけで話し掛けてはこないので二人もそのままにしていた。
今回、妊娠がわかった事ももしかしたらもう伝わっているかもしれない。籍を入れようとして出来なかった事も。
結局、親に頼らなければいけない事が藍には悔しくて仕方がない。けれどこのままではいられない。永絆は無理をしなくていいと言うが、もう二人だけの問題ではないのだ。産まれてくる生命の為にも万全の体制でいたい。
その為には籍を入れる事は藍にとってとても重要なことだった。
「ねぇ、藍」
切羽詰まった藍の手を取って永絆はその手を自分の頬にあてた。
「オレは別に籍を入れなくても構わないよ」
「永絆? なんで? 俺じゃ嫌か?」
頭を横に振って否定すると、重ねた手をぎゅっと握った。
「戸籍なんてさ、大して問題じゃないんだよ。オレはそれをよく知ってる。実の親でも簡単に縁を切られて他人になるんだ。そんな紙の上だけの形、オレは拘らないしいらないよ」
「……永絆……」
Ωというだけで未成年だった永絆を捨てた親。同じΩだからと永絆を家族として受け入れた菫。どちらも今の永絆を作り上げた存在。
形式だけのものがどれほど脆いかを永絆は誰よりも知っている。
「それに、オレには藍がいる。番がいるんだ。しかも逢えるかわからない魂の番だよ? こんなに凄い事は無いよ」
「永絆……永絆の気持ちは分かったけど、子供にとっては良くないんじゃないか?」
いつか戸籍の欄に父親の名前がない事でショックを受けるかもしれない。そんなのは辛い。
「俺はさ、永絆に家族になってほしいんだ。戸籍上でも、毎日の生活の中でも、絶対に切れない絆が欲しいんだよ」
家族に恵まれなかった永絆に今度こそ幸せな家族を与えたい。捨てたり、拾ったり、簡単に切れる関係しか出来なかった永絆の為に。
「大丈夫だよ、藍。切れたりなんかしない。オレにはこれがある」
そう言って自らの項の噛み跡に触れると永絆は藍を見上げて微笑んだ。
「藍を信じてる。離れ離れになっても番が解消される事はないって今は信じられるんだ。でも離れたくないから、縋りついて離さないよ」
沢山の不安と憤りを抱えながら生きてきた。そんな中で出逢えた魂の番にさえも素直になれないまま、いつもどこかで諦めていた。
だけど今は違う。こんな寒い場所まで何も持たずに追いかけて来て、自分の意思で全てを決めるようになった藍が居る。
まだまだこれからもっと困難が待ち受けている。藍の家の事も避けては通れない。
それに新しく産まれてくる生命がこの身体に宿っている。人間を一人育てる事がどんなに大変か、想像でしか分からないけれどそれでも大切に育てたいと心から思う。
産まれてくる子がαでもΩでも構わない。βの可能性もある。どんな性別でも構わない。この子を誰よりも愛し、家族がどんなに良いものなのか教えてあげたい。自分にはなかった家族の幸せを沢山与えたい。
「それにね、この子がいる。オレと藍の遺伝子、半分ずつ分けた魂《いのち》だよ。オレ達、もうちゃんと繋がってるんだ。家族なんだよ」
お腹に触れて心から慈しむ。
こんな未来が待っている事をあの頃の自分は知らなかった。
親に捨てられ、この世の終わりの様な生活をして、儚く哀しいΩに拾われたあの頃。全てに絶望して自分の性を呪い、それでも何かを期待して生きていた。
やがて出逢った魂の番との未来のない関係にもΩだから仕方ないと冷めた目で見ていたのに、今ここでその番と幸せに暮らし新しい生命を授かった。
これ以上、何を望むことがあるだろう。
「藍がオレを諦めないでくれて良かった。藍がオレの魂の番で、本当に良かった」
今、心からそう思える。
何度も悩み迷い、打ちのめされて、それでも手を伸ばし抱きしめてくれた彼の強さを番として誇りに思う。
「永絆……」
永絆の頬に藍の手が触れる。それはとても温かくて心地良い手のひら。頬を擦り寄せて甘えると優しいキスで口唇を塞がれる。
今がとても幸せで、これ以上の幸せはないのではないかと思うくらい満たされた毎日。
けれどきっとこの小さな生命が産まれてきたら、もっと幸せになれるだろう。子育てへの不安はあるけれど、それもいつか懐かしい思い出となって幸福で包まれる。
未来はきっと、自分が思うより明るい。
抱き合って幸せを噛み締めていると玄関のチャイムが鳴った。あまり近所とは関わらないように暮らしてきたから誰かが訪れるのは珍しい。
藍が玄関まで行き、「どちら様ですか」と尋ねるとやや間があってから男の低い声がした。
「紫ノ宮家の旦那様より、言伝を預かって参りました」
その名前にさっきまでの幸せな気分はあっという間になくなって、緊迫した空気に包まれた。
顔を見合わせた二人は今まで見張られていても話しかけて来なかった事で油断してしまっていたのを悔やんだ。
「お二人にお話があるので、帰ってくるようにと」
「……帰る? 帰るわけないだろ!」
扉を挟んで紫ノ宮の使いの者に怒鳴る藍の袖を掴み、永絆はぎゅっとその腕に巻き付いた。
「藍……」
「大丈夫だから。永絆を一人にさせない。ずっとここにいる」
「でも……二人でって言ってた。二人に話があるって」
急な接触と話に藍も永絆も困惑しきったまま、身を寄せ合った。
もう離れたくない。番になって、生命を宿し、二人でこれからの幸せを描いていたのだ。けれど藍の実家がいつ介入してくるか、いつも不安だった。
藍と別れさせられた挙句、子供を産むなと言われたらどうしよう。従うつもりは毛頭ないが、目的の為に何をしてくるか計り知れない。
「……おい、永絆は身重なんだ。長距離の移動は負担になる。話があるならそっちから来いって伝えとけ」
「承知しました。お伝えします。では、これで失礼します」
去っていく足音が遠くに聞こえるまで二人は不安を紛らわす様に寄り添っていた。
藍の父親が話をする為だけにこんな所まで来るとは思えない。しかし、いつか話はしなければいけない。自分から連絡をしようと思っていた藍より先に父親からコンタクトがあった事に不満が募る。先手を打たれたのが気に食わない。
「藍……大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んでくる永絆の髪を撫でて額にキスをした。
「大丈夫だよ。永絆も心配しないでいいからな?」
「うん……」
けれど、不安は消しきれず、その日は出来るだけ側に寄り添って過ごした。互いの温もりを感じるだけで、少しだけ不安が消えた気がしていた。
少しでも立ち止まれば進んでいた方向を見失ってしまいそうな程、辺り一面真っ白に染まる雪の中を覚束無い足取りで歩く。
春に再会し、夏に大切な人を見送り、秋に一生分の愛を感じ、そして季節は冬になった。
気が付けば随分と遠い所まで来てしまった。雪が自分の身長よりも降り積もる寒い地域まで。
一度は来てみたいと思っていた有名な観光地の一つ。そこから少し離れた小さな町に移り住み、初めての冬を迎えた。
想像していたよりずっと厳しい寒さと雪の多さに戸惑いながらも、何とかやっている。この寒さもいつか慣れていくだろう。長く住んでいれば。
菫が大学卒業まで契約してくれていたマンションはそのままにして、定期的に清掃サービスを頼んでいる。菫との思い出の詰まった部屋を解約する気にはなれずに結局、契約が終わるまで借りたままにする事にした。荷物も殆どマンションに置いたままだ。
あの日、紫ノ宮の屋敷を後にしてすぐ大事なものだけを持って電車に乗り込んだ。目的地があった訳じゃない。たまたま乗った電車の終点が空港だっただけだ。
そして空港で一番出発の早い便に乗った。それがこの雪の多い場所への飛行機だった。
行き当たりばったりで行動すれば誰にも行き先はバレないと思った。バレた所で藍に逢える訳じゃない。行き先は何処だって良かった。
この町に着いて直ぐに住む家を探し、一番陽当たりの良かった部屋を契約した。今まで住んでいたマンションに比べたら古くて狭い。
寒冷地仕様の二重窓が珍しくて窓を開けると冬の冷たい空気が入って来て、肺まで凍りそうな気がした。
直ぐに住み始めて最低限必要な寝具や着替え、日常品を買い揃えるとようやくホッとした。
寒冷地の住宅は寒さ対策がしっかりしているのか、ストーブをつけると部屋中すぐにポカポカと暖かくなり買ったばかりの寝具を敷いて眠りについた。
色んなことが一度にあって疲れきっていた永絆はその日、夢も見ないでぐっすりと眠る事が出来た。
一人きりの生活に苦はなかった。元々、親に捨てられ一人で公園で暮らしていたのだからそれに比べれば屋根があって布団もあって暖かくて快適な部屋に住んで、栄養を考えながら食事が出来ている。
お金だって働かなくても生きていける程、たくさんある。尤も、それを湯水の如く使う気にはなれないのだが。
あとは仕事を探してその収入で生活出来るようになればいい。落ち着いたら菫の希望だった大学卒業も通信制か大検でも受けてきちんとしようと思っていた。
ほとぼりが冷めたら藤にも連絡を入れよう。携帯は水没させられたまま新しい物は持っていないから、公衆電話から掛ける事になる。そこまで考えて、携帯の登録機能に頼りきっていたから番号が分からない事に気が付いた。今の住所も知らないし連絡の取りようがない。
せめて一言、何の相談もなく居なくなった事を謝りたかった。
番になりたいと思ってくれた気持ちに感謝と謝罪を伝えなければ。
そしてそんな風に思ってくれていると知らずに藍と離れる為に藤を利用して苦しめた事を償いたい。番にはなれないけれど、何か別の方法で償いたかった。
溜息をつくと白い息が空気に溶けていく。冬の空気は凍てついているけれど、とても澄んでいて肺の中が綺麗になった気がする。
外階段を登って二階の一番手前が今の住処。ドアノブに手をかけるとガチャリと古い音がしてドアが開く。部屋の中の温度差で身体が痺れる。
「ただいま」
肩や頭に積もった雪を払って靴を脱いでいるとリビングに続くドアが開いた。
「おかえり、永絆。寒かっただろ?」
そう言って永絆の身体を優しく包み込んだのは他ならぬ魂の番である藍だった。
***
何もかもを諦めて極寒の地へ辿り着き、一週間が過ぎた頃に気が付いた。
自分の身体の異変に。
最初は色々あった疲れから来るものだと思っていた。そうであってほしいと。
しかし自らの身体を風呂上がりや着替えの際に見る度にそれは確実なものになっていった。
何度も藍の腕の中で抱かれながら噛まれた項。いくつもの歯型は少しずつ薄く消え始めていたのに、いつまで経っても薄くならない歯型があった。
一体それがいつ噛まれたものかなんて、永絆にも分からない。そのくらい何度も噛み跡を残されたから。
抑制剤は藍が全て捨ててしまって、あの一ヶ月半の間、一度も飲んでいない。けれど、発情期が来た感覚はなかった。
それでもこの噛み跡は、間違いなく番が成立しているから消えないのだと証明している。
永絆自身が気付かないうちに、藍と番になってしまった。
その事実に動揺して、藍に連絡を取ろうとも思った。けれど、藍が気が付いていないのであれば藍が誰かを抱いた瞬間、番は解消される。
藍の為にはこの事実を伝えない方が良いだろうと判断し、束の間の番関係を過ごす事にした。
藍と番になる夢が叶った。たとえ、永絆だけしか知らなくとも。それだけでこの先も生きていけると思った。
それなのに、永絆の前にその番が現れた。
猛吹雪の悪天候の日に、永絆の住む部屋に着の身着のままでやって来た藍はブルブルと震え今にも凍えて死んでしまいそうだった。
目の前の現実に思考が追いつかないまま、とにかく藍を部屋へ入れて暖かいお風呂で冷えきった身体を温めさせた。
熱いお茶を淹れ、十分に藍が温まってからようやく話をしようと口を開くと同時に強く抱き竦められ言葉をなくした。
藍の匂い。藍の温もり。藍の力強さ。
何もかも全て鮮明に憶えている。忘れるはずがない。
堪らなく愛しくて、どうしようもなく惹かれる、運命の人。
どんなに離れていても思わずにはいられない、愛しい人。
「藍……」
藍の指先が永絆の項を撫でた。噛み跡を辿るようにそっと。
「消えてない……」
「藍、これは……」
別のαに噛まれたんだと嘘をつくことも出来た。藍の為にはそう言った方がいいはず。なのにその言葉はどうしても言えなかった。
「俺の……俺の番に……?」
温まった筈の藍の手が小刻みに震えていた。何度も項の跡を指で確認しながら、永絆の答えを待っていた。
「藍、ごめん」
「なんで謝る? 俺は嬉しいのに」
「番が成立したなんて分かれば藍の立場が悪くなる……」
藍を守る為に身を引いたのに、まさかの番成立で藍を困らせる事になる。
解消するには藍が他の誰かを抱く事だけで済む。今、彼は勢いでここまでやって来ただけだ。きっと直ぐに連れ戻されてしまう。その時に藍が責任を感じたりしなければいいのに。
「立場なんてもう気にしなくていいんだ。全部捨ててきた。もう俺には紫ノ宮の名前はない」
「な、に言ってるの? そんな簡単に捨てられる訳ないって……一ヶ月半一緒にいて分かったでしょ? きっとまた連れ戻される。藍が何度捨てても、捨てられないものだってあるんだよ」
これ以上、藍と共に居ればまた別れの辛さを味わう事になる。もうあんな痛みは嫌だ。次にあの痛みを受けたら立ち直ることが出来なくなる。
「だから、早く誰かに連絡して迎えに来てもらってよ……。オレが唆したって思われたら面倒だし、もう二度と会わないって決めたんだから」
藍と居ると、何度も嘘をつく事になる。
本当は逢えて嬉しくて今すぐ抱き締めたい。その肌に触れて、自分の奥に入って来て欲しい。離れたくない。離されたくない。
だけど出来ないから嘘をつく。もう会わないと、迷惑なのだと嘘をつく。
「今度は連れ戻しに来ないよ」
髪にキスを落とした藍が優しく微笑む。その綺麗な笑顔に見惚れて目が離せない。
「結婚もしない。紫ノ宮の跡も継がない。援助も何もいらない。だから永絆と一緒にいさせてほしいって父親に直談判した」
「そんな……でもっ、許すはずないよっ」
「そこまで言うならやってみろってさ。どうせ世間知らずの温室育ちが援助もなしに生きてはいけないのだからって。すぐに音をあげて帰ってくるだろうって言われたよ」
永絆の項を何度も撫でて、藍は静かに微笑む。
もう誰が何を言おうと藍は引き下がらない。その微笑みの中に強い決心が見えて永絆は拒む言葉を紡ぐのをやめた。
本当に藍が自分と一緒にずっといる気なのならば、これ以上の喜びはない。番が成立した今、藍と共にいることは自然な事でこの先最悪なことが起こっても構わないからそばに居たいと思わずにいられなかった。
「オレは藍を独り占めしていいの?」
紫ノ宮藍という立場のαではなく、魂の番としての藍を。
この先の未来までずっと独占したい。誰にも渡したくない。醜いと思われたって構わない。もう藍なしでは生きていけないと、項が熱く疼く。
「俺も永絆を独り占めしたい」
「……オレはずっと、藍だけだよ」
抑えていた感情が、爆発してどうにかなりそうなくらい項が熱く燃えるようだった。
暫く忘れていた発情期の熱が感情と共に戻って、永絆の身体を支配しようとしていた。
「花の……匂いがする……」
永絆の首に鼻を近付けて匂いを嗅ぐ藍。その藍からもクラクラする匂いがしていた。
「なんで、かなぁ……」
「何が……?」
首筋にキスを落とされてピクリと身体が反応する。
「発情期……今頃まともな発情期が来るなんて……」
はあ、と熱い吐息を出すだけで身体の体温はどんどん上昇する。今にも花の匂いに包まれておかしくなりそうだ。
「きっと……やっと、通じ合えたから……安心したの、かな……」
クラクラ、クラクラと目が回る。
ふわりと優しく口唇を重ね合って吐息を混じり合わせると、ゆっくりと身体を倒され大きな手で髪を撫でられる。
甘く溶けていきそうな感触に擦り寄って酔いしれる。
「藍……」
顔のあちこちに小さなキスが幾つも降ってくる。
発情したΩのフェロモンがどんどん濃くなって部屋中を満たしていくのに、何故かお互いの理性はギリギリで保たれ、藍が口唇で触れていく箇所全てに敏感に反応していた。
これが番になった者達だけが知る発情期の交わりなのだろうか。
理性が途切れる一歩手前にいて、触れられる度に理性が揺らぐのに切れる事はない。
何度も何度もキスをして、舌を絡ませあい、視線を交わし、微笑み合う。やがて肌と肌が直接重なり合ってもその湧き上がる愛しさだけは見失う事無く混ざりあって一つになる。
「藍……藍……。もう離れたくない……」
「永絆……」
大丈夫、ずっと一緒にいるからと囁いた声に煽られまたフェロモンが濃くなる。
荒く息を弾ませた藍を濡れた窄みが受け入れていく。深く深く繋がり合い、奥を刺激する様に腰を揺らされその度に甘い声が吐息と共に漏れていく。
熱い身体を藍に委ね、発情期の匂いを醸しながら幾度も揺すられ扱かれ、貫かれては精を吐き出す。奥の深い場所を抉る様に体制を変えながら藍の熱が萎む事を忘れたかの様に何度も中に放たれる。
一ヶ月半もの間、抱かれ続けたあの日々よりも今が一番気持ち良くて幸せだ。
永遠にこの時間が終わらなければいいとさえ思える程、藍から与えられる快楽に溺れて喘ぐ。
混ざり合い、溶け合い、一つになる心と身体。
もう何も諦めないと決めた。藍と共に居るために、自ら身を引く事をやめると決意した。どんな困難が待ち受けていようとも構わない。藍がいればいくらでも乗り越えられる。強くなれる。
「もう何処にも行かない」
藍のそばにずっといると告げると、藍は嬉しそうに微笑み愛しさの溢れるキスをくれた。
その日はひたすら発情期に身を任せてお互いの身体を貪りあった。力尽きて眠りに落ちるまでずっと繋がり続けた。
身体も布団も何もかもがベトベトのまま、手を繋ぎ指を絡ませて眠りについた。
夢の中でも手を繋いで抱き合って眠っていた。それはとても幸福な夢だった。
***
あの日からずっと二人で細々と暮らしている。
お互いに貯金は使い切れない程持ってはいたが、贅沢な暮らしはせずに二人では少し手狭な部屋で寄り添うように過ごす毎日。特別な物は何も無かった。毎日、雪の降る窓の外を眺めながら身を寄せ合っていられる事に深い歓びを感じていた。
藍はいつの間にか仕事を探してきて、働きに出るようになった。バイトすらした事のない藍が工場での力仕事を選んできたことに永絆は驚き、心配した。
世の中はそんなに甘くない。αとして産まれ、何不自由なく生きてきた藍にそんな仕事が続くとは思えなかった。
ところが藍は毎日、清々しい顔をして帰宅した。
誰かの下についてひたすら体を動かし、一からやる事を覚えていく。それが自分の為になり、永絆の為になると思うと頑張れるんだと目を輝かせて言った。
「永絆を養えるくらいは稼がないとな」
汗や埃で汚れた作業着が様になって、いつも上質な服を着ていた事が嘘のように思えた。
無理に働かなくても生きていけるのに藍が選んだ道はαとは思えない楽ではない道。彼はいつでもそうやって自分の目線まで下りてきてくれる。今までもこれからも藍は隣に並ぼうと懸命で、永絆はそんな彼を堪らなく愛しいと思った。
もし今、藍を連れ戻そうとする誰かがやって来ても藍にしがみついて離れないと決めていた。ピッタリとくっ付いて誰にも隙間を与えない。藍の隣は自分のものだと胸を張って主張出来る。
「それで、風邪だったのか?」
工場はシフト制で平日が休みになる事が多い。
外から帰宅した永絆を温かい部屋で向かえた藍が「やっぱり一緒に行けばよかった」と心配して永絆の額に手を乗せ熱がないかを確かめた。
「休みなんだからゆっくり休まないと。病院くらい一人で大丈夫だよ」
数日前から微熱と倦怠感が続いていた永絆はそれを藍に悟られないように気を付けていた。藍はとにかく永絆の事となると過保護で、永絆の体調が少しでも悪いと仕事を休むと言い出す。以前、風邪を引いた時もそうだった。それでは迷惑がかかるからと説得して仕事に行かせるが、休憩の度に電話をしてくるので仕事にならないのではないかと気が気ではない。
だから今回、少し体調を崩している事をバレないようにしていた。藍が仕事に行けば一人でゆっくり休むようにして、帰宅したらいつもと変わらない様に振る舞った。
しかし昨晩、貧血でも起こしたのかフラリとしてその場に座り込んでしまった。丁度、藍が帰宅して夕飯の準備をしている時だった。
今すぐ病院へ行こうと慌てる藍を何とか落ち着かせ、翌日朝から診察を受ける約束をした。藍は納得いかない顔をしていたがすぐにふらつきも落ち着いたので早めに就寝して、今日病院へ行ってきた。
一緒に付いていくという藍に、休みなんだからゆっくりしていろと少し強めに言った。心配してくれるのは嬉しいし有り難いが、働いて疲れている藍にもちゃんと身体を休ませてほしかった。
それに、永絆には何となくこれが何なのか心当たりがあった。だから向かった病院は内科ではなくΩ専門の医者がいる病院だった。
この寒い土地で共に暮らし始めて三ヶ月。発情期は毎回きちんとやって来て、その度に藍は永絆を深く激しく、そして労るように抱いた。
発情期以外でも寒い夜は肌と肌を重ねて温めあった。
番になってこの地で一緒に暮らしてから、数えきれない交わりをしてきた。
番になると通常の発情期よりも妊娠の確率が上がると言われている。そして当然それは永絆にも当てはまっていた。
「藍……あのね、風邪じゃなかったんだ」
今から話すことを聞いて藍はどんな反応をするだろう。
喜んでくれるだろうか。それとも驚いてパニックになるだろうか。いらないと言われたらどうしよう。藍に限ってそんな事はないと信じてはいるけれど、万が一そう言われたら一人ででも何とかしようと決めていた。
でも出来れば、この身に宿った小さな生命の事を、魂の番である彼が喜んでくれますように。
そう祈りながら永絆は藍にその事実を告げた。
「やっぱり、このままじゃダメだよな」
仕事から帰宅した藍が携帯を片手に難しい顔をしていた。
夕飯の準備をする手を止めて携帯を握り締める藍の手に自分の手を重ねる。
「藍……無理はしなくてもいいよ。嫌なら連絡しないで構わない」
「でも、このままじゃ籍を入れられない。産まれる前にちゃんとしておきたいんだよ」
妊娠を告げた時、藍は一瞬固まってしまった。そして一気に全身を真っ赤にして部屋の中をウロウロと歩き出し、しばらく落ち着かないままだった。
やはり突然そんな事を言われたら焦って当たり前だ。いくら番になったからといって、それとこれとは別問題。いつかそのうち、とは考えていたけれどまさかこんなに早く親になる日が来るとは思わなかった。
永絆は既に産むという答えしか持ち合わせていなかった。藍が反対しても一人で産み、育てる決心を病院の帰り道で固めてきた。
問題は藍と、藍の家族だ。
Ωを蔑視している紫ノ宮家が藍と永絆の子供を認める筈がなかった。下手をしたら無理にでも堕胎させられる可能性も考えられた。
落ち着かずに部屋をウロウロしていた藍が急に立ち止まり永絆の元まで戻ってくると、深呼吸をして満面の笑みを見せた。
「男の子? 女の子? あ、名前どうしよう? ベビーベッドとかオムツとか……ああ、その前にちゃんと籍を入れなきゃいけないな! 子育てするならもう少し広い部屋がいいかな……。それで、男の子? 女の子?」
今度はこちらが固まる番だった。
まだ小さな小さな人の形にもなっていない細胞の固まりで、永絆自身、病院でエコーを見るまで実感が沸かなかった。けれど間違いなくこの中にいるのだと確認した瞬間の歓びは言葉では表せない。
「まだ分からないよ。ゆっくり考えていこう? 一緒に育ててくれる?」
「当たり前だろ、何言ってんだよ。そりゃびっくりしたけど、嬉しさのあまり何から言えばいいか分からなかっただけだから!」
まだ少しびっくりしたままで軽くパニックになっている藍が可愛くて永絆は思わず笑ってしまった。それを見て藍も照れたように笑う。
「な、ちゃんと籍を入れような? 紫ノ宮の姓が嫌なら永絆の苗字でも構わない。ちゃんと父親のとこに俺の名前書かせて」
「うん」
そんな幸せな会話をした後、早速入籍しようと婚姻届を取りに行った藍。ドキドキしながら名前を書く手が震えていた。
証人の欄に藍の職場の上司の名前を書いてもらい、妊娠発覚から二日後の藍の仕事の昼休みを利用して役所に婚姻届を出した。
しかしそれは受理出来ないと言われ、突き返されてしまった。
理由を聞くと二十歳に満たない婚姻には親の承諾が必要なのだという。
永絆はとっくに親の籍から抜かれ、菫が後見人になっていた。菫の専属の弁護士に連絡を入れると永絆には親の承諾はなくてもいいとの事で後は藍だけが問題だった。
一年待てば親の承諾が無くても二十歳になるので籍を入れる事は出来る。しかしその前に子供が産まれてしまう。産まれてから籍を入れると血の繋がりがあっても養子扱いになってしまう。それだけはどうしても避けたかった藍は何度も実家の両親に連絡を入れようとしていた。
藍と永絆が何処で暮らしているかはとっくに藍の親には知られていた。定期的に紫ノ宮家に雇われた人間が様子を見に来ているのを二人とも気が付いていた。
しかし様子を見ているだけで話し掛けてはこないので二人もそのままにしていた。
今回、妊娠がわかった事ももしかしたらもう伝わっているかもしれない。籍を入れようとして出来なかった事も。
結局、親に頼らなければいけない事が藍には悔しくて仕方がない。けれどこのままではいられない。永絆は無理をしなくていいと言うが、もう二人だけの問題ではないのだ。産まれてくる生命の為にも万全の体制でいたい。
その為には籍を入れる事は藍にとってとても重要なことだった。
「ねぇ、藍」
切羽詰まった藍の手を取って永絆はその手を自分の頬にあてた。
「オレは別に籍を入れなくても構わないよ」
「永絆? なんで? 俺じゃ嫌か?」
頭を横に振って否定すると、重ねた手をぎゅっと握った。
「戸籍なんてさ、大して問題じゃないんだよ。オレはそれをよく知ってる。実の親でも簡単に縁を切られて他人になるんだ。そんな紙の上だけの形、オレは拘らないしいらないよ」
「……永絆……」
Ωというだけで未成年だった永絆を捨てた親。同じΩだからと永絆を家族として受け入れた菫。どちらも今の永絆を作り上げた存在。
形式だけのものがどれほど脆いかを永絆は誰よりも知っている。
「それに、オレには藍がいる。番がいるんだ。しかも逢えるかわからない魂の番だよ? こんなに凄い事は無いよ」
「永絆……永絆の気持ちは分かったけど、子供にとっては良くないんじゃないか?」
いつか戸籍の欄に父親の名前がない事でショックを受けるかもしれない。そんなのは辛い。
「俺はさ、永絆に家族になってほしいんだ。戸籍上でも、毎日の生活の中でも、絶対に切れない絆が欲しいんだよ」
家族に恵まれなかった永絆に今度こそ幸せな家族を与えたい。捨てたり、拾ったり、簡単に切れる関係しか出来なかった永絆の為に。
「大丈夫だよ、藍。切れたりなんかしない。オレにはこれがある」
そう言って自らの項の噛み跡に触れると永絆は藍を見上げて微笑んだ。
「藍を信じてる。離れ離れになっても番が解消される事はないって今は信じられるんだ。でも離れたくないから、縋りついて離さないよ」
沢山の不安と憤りを抱えながら生きてきた。そんな中で出逢えた魂の番にさえも素直になれないまま、いつもどこかで諦めていた。
だけど今は違う。こんな寒い場所まで何も持たずに追いかけて来て、自分の意思で全てを決めるようになった藍が居る。
まだまだこれからもっと困難が待ち受けている。藍の家の事も避けては通れない。
それに新しく産まれてくる生命がこの身体に宿っている。人間を一人育てる事がどんなに大変か、想像でしか分からないけれどそれでも大切に育てたいと心から思う。
産まれてくる子がαでもΩでも構わない。βの可能性もある。どんな性別でも構わない。この子を誰よりも愛し、家族がどんなに良いものなのか教えてあげたい。自分にはなかった家族の幸せを沢山与えたい。
「それにね、この子がいる。オレと藍の遺伝子、半分ずつ分けた魂《いのち》だよ。オレ達、もうちゃんと繋がってるんだ。家族なんだよ」
お腹に触れて心から慈しむ。
こんな未来が待っている事をあの頃の自分は知らなかった。
親に捨てられ、この世の終わりの様な生活をして、儚く哀しいΩに拾われたあの頃。全てに絶望して自分の性を呪い、それでも何かを期待して生きていた。
やがて出逢った魂の番との未来のない関係にもΩだから仕方ないと冷めた目で見ていたのに、今ここでその番と幸せに暮らし新しい生命を授かった。
これ以上、何を望むことがあるだろう。
「藍がオレを諦めないでくれて良かった。藍がオレの魂の番で、本当に良かった」
今、心からそう思える。
何度も悩み迷い、打ちのめされて、それでも手を伸ばし抱きしめてくれた彼の強さを番として誇りに思う。
「永絆……」
永絆の頬に藍の手が触れる。それはとても温かくて心地良い手のひら。頬を擦り寄せて甘えると優しいキスで口唇を塞がれる。
今がとても幸せで、これ以上の幸せはないのではないかと思うくらい満たされた毎日。
けれどきっとこの小さな生命が産まれてきたら、もっと幸せになれるだろう。子育てへの不安はあるけれど、それもいつか懐かしい思い出となって幸福で包まれる。
未来はきっと、自分が思うより明るい。
抱き合って幸せを噛み締めていると玄関のチャイムが鳴った。あまり近所とは関わらないように暮らしてきたから誰かが訪れるのは珍しい。
藍が玄関まで行き、「どちら様ですか」と尋ねるとやや間があってから男の低い声がした。
「紫ノ宮家の旦那様より、言伝を預かって参りました」
その名前にさっきまでの幸せな気分はあっという間になくなって、緊迫した空気に包まれた。
顔を見合わせた二人は今まで見張られていても話しかけて来なかった事で油断してしまっていたのを悔やんだ。
「お二人にお話があるので、帰ってくるようにと」
「……帰る? 帰るわけないだろ!」
扉を挟んで紫ノ宮の使いの者に怒鳴る藍の袖を掴み、永絆はぎゅっとその腕に巻き付いた。
「藍……」
「大丈夫だから。永絆を一人にさせない。ずっとここにいる」
「でも……二人でって言ってた。二人に話があるって」
急な接触と話に藍も永絆も困惑しきったまま、身を寄せ合った。
もう離れたくない。番になって、生命を宿し、二人でこれからの幸せを描いていたのだ。けれど藍の実家がいつ介入してくるか、いつも不安だった。
藍と別れさせられた挙句、子供を産むなと言われたらどうしよう。従うつもりは毛頭ないが、目的の為に何をしてくるか計り知れない。
「……おい、永絆は身重なんだ。長距離の移動は負担になる。話があるならそっちから来いって伝えとけ」
「承知しました。お伝えします。では、これで失礼します」
去っていく足音が遠くに聞こえるまで二人は不安を紛らわす様に寄り添っていた。
藍の父親が話をする為だけにこんな所まで来るとは思えない。しかし、いつか話はしなければいけない。自分から連絡をしようと思っていた藍より先に父親からコンタクトがあった事に不満が募る。先手を打たれたのが気に食わない。
「藍……大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んでくる永絆の髪を撫でて額にキスをした。
「大丈夫だよ。永絆も心配しないでいいからな?」
「うん……」
けれど、不安は消しきれず、その日は出来るだけ側に寄り添って過ごした。互いの温もりを感じるだけで、少しだけ不安が消えた気がしていた。
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