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シュベルト編

スキルつまり天賦の才

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 あれから、更に実験を続けて、割とこのスキルについて分かったと思う。
 まず、言葉通り無限であること、傷だけでなく失った血も含めて万全の状態に回復すること、適用範囲は自己の肉体のみで他者を癒すことも、衣服など身につけているものが回復することはなかった。
 治癒速度も申し分なく、痛みを感じた直後には回復が始まり、一秒と待たず完治する。
 再生能力持ちの弱点として定番の、傷口を焼いて再生阻止も試してみたが、焼かれようが平気で回復した。マリアが持つスキル、「火属性魔法」でも試してみたが、ただの火と魔法の火で治りに違いを感じることはできなかった。
 純粋に回復が無限なだけ、シンプルで強力なのは嫌ほど理解した。だが、あまりにもシンプル過ぎるせいで、活用法が全く思いつかない。

「どうすりゃいいんだよ」

「ここ数日、実験をしたと思ったら、考え込んでばかりで疲れているんですよ。疲れを癒さないといい考えも浮かびません」

「そうかもな」

「夕食ができたので、食べてください。空腹は全ての敵です」

 エプロンを身に着けたマリアが、テキパキと皿を運び、あっという間に食卓は色とりどりの料理で彩られた。

「いただきます!!」

 両手を合わせ、料理にかぶりつく。
 まずは、パンにスープを浸して~
 不思議なほどマリアのご飯は美味しいんだ。俺の主観だが、屋敷の料理人にも勝る。

「マリアの火属性魔法には、料理が上手くなる効果があったりして」

 回りくどい誉め言葉が伝わったようで、彼女の顔が緩んだ。

「アルバ様はお上手ですね。残念ながら、そのような効果はございません。火を付ける時に少し役立ってはいますが、味に影響はないはずです」

「じゃあ、この美味しさは努力の賜物なんだね」

「好きで長く続けていただけですよ。料理のスキルをお持ちの方には及びませんし」

 やっぱりどこまでいってもスキルか。スキルより才能って呼んだ方がいいんじゃないか?
 でもスキルがないのにここまでできるなんて、マリアは本当に優秀なんだな。


 スキルがなくても。長く続ければ。料理のスキルがないのは俺もマリアも同じ。だけど腕は天と地ほども違う。違いは努力をしたかどうか。
 スキルは天賦の才能なんだ。なにも絶対の権能なんてものではない。だから、スキルを持っていても鍛錬は必要だし、スキルを持っていないからといって一切できない訳でもない。
 ただ、努力では超えることができない高い壁があるだけだ。
 そうと分かれば。

「ごちそうさま」

 夕食を平らげ、視界に入った訓練用の模擬剣を掴んで外へ出る。

「どうしたんですか?」

「俺はこの現実を受け入れていた。諦めていた。だけど、抗わなければ、なんでもっと早くに気づかなかったんだ。死なないことに甘えるんじゃなくて、生きるんだ」

 夜風が肌寒い中、何度も何度も剣を振る。クビにされたぐらいでへこたれて、無気力になって、だらだら過ごして、女の子の気持ちも負け犬根性で無下にして、後悔なんていくらしてもし足りない。だから。
 一振り一振りに力が入る。全部振り切るように何度も何度も。
 今まで殆ど触れてこなかったせいで、振るというより振り回されているというべき無様な格好だが、気にせず振り続ける。

「ふぅ。もうダメ、ちからが入んない」

 完全なスタミナ切れになり、地面にへたり込んでいると、マリアがコップを持って近づいてきた。

「飲んでください」

「ありがとう」

 乾ききった体に水分が染み渡る。

「どうして突然剣を振り始めたのですか?」

 覗くその目は、心配と怒りが入り混じったものだった。

「説明せず飛び出してすまなかった」

「心配しましたが、何か理由があるのですよね」

「マリアは料理のスキルがないのに、あれだけ美味しいのが作れているでしょ。スキルが無くても努力すれば、追いつけないとしても無駄になることはない。才能が無くても頑張るなんて当然のことなのに、スキルに囚われて全くしようとしてこなかった。せめて身を守るぐらいの剣術は身に付けないと」

 ヴァイザーの思い通り落ちぶれてやるのもムカつくし、上手くいけばそんな状況にならないかもしれない。
 納得したような優しい表情で手を伸ばしてくれた。

「ええ、そうですね。でも今日はもう中に戻りましょう。風邪をひきますよ」

「分かった」

 頭に突拍子もない考えが浮かんだ。

「ちょっと待って、スキルで風邪ってどうなるんだろう。治るのかな?」

「今試すのは辞めておきましょう」

 本気で怒りそうなマリアの眼光に負け、力なく頷いた。

「聞き訳が良い子で助かります」

「俺は子供じゃないぞ」

「いえ、アルバ様はまだまだ子供ですよ~」

 頭をわしゃわしゃと撫でてくるマリアが笑顔なのは、俺を揶揄うのを楽しんでいるのだろう。

 (アルバ様、ご自分では気づいていらっしゃらなかったみたいだけど、塞ぎこんだ表情がなくなって本当に良かった)

 安堵の表情も見せた彼女に理由を問うが、帰ってくるのは暖かい笑みだけでよくわからなかった。
 察しが悪いのは転生しても変わらずだな。精神が俺のままだから当然か。
 連れられ小屋へ戻り、ベットに入るなり、強烈な睡魔が襲ってきた。久しぶりの運動であれだけ動けばこうなるよな。
 悩むこともないし、今日はこの睡魔に委ねよう。
 頭に人の手の温もりを感じながら意識を手放した。

「おやすみなさい」
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