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シュベルト編

追放?つまり大ピンチ

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「もちろんです。”まだ”アルバ様はシュベルト家の一員ですから、何なりと」

 少しでも俺に有利な、死なないための一手を手繰り寄せる。

「追放すると言っても、俺が直ぐにのたれ死んで、見つかりでもしたら面倒なことになるだろう?」

「ええ、そうですね。死体の身元が割れれば悪い噂は広がりますし、良くないことは確かです」

「そこでだが、一人で問題なく生きていける。少なくとも東部から独力で離れられる程度に力が付くまで匿っておくというのはどうだ?死ぬにしてもある程度の年齢だったら、問題にはならない。東部を離れていれば発覚すらしない可能性もある」

 せめて数年、時間さえ稼げば何か打開策が見つかるかもしれない。無理なら無理であきらめがつく。どの道、計画に遅れは生じる。どう転んでも一杯食わせることにはなる。

「まあいいでしょう。使われていない離れがあったはずです。そこで十五歳まで住むことを認める。でどうですか?」

 八年か。十分すぎる時間だ。 

「ああ。それでいい」

「お舘様もよろしいですか?」

 苦虫を噛み潰したような表情で父は頷いた。
 俺が追放を認めた上で要求している以上、拒否のしようがないのだが、やはり父として思うところがあるのだろう。
 努力では変えられないスキルの存在で、安寧を手放さざるを得ないのは悔しいが、最低限、最低限は勝ち取ることができた。今はこれで良しとしよう。

この八年が勝負になる。本気で頑張るのは何年ぶりかな。何が何でも生にしがみついてやる。

「アルバ様、あなた様がこれから住む新たな家がこちらです」

 屋敷の裏手、あまり手が付けられていない雑木林の中に、その小屋はあった。小屋と言っても、流石は貴族基準。数人が十分に住むことができる大きさで、外観もそれほど汚れてはいない。人気の無さと言い、男の子なら誰もがあこがれる秘密基地感満載で、割とワクワクしている。

「どうですかな?」

「悪くない。病に罹って死ぬかねないような、ボロ小屋かと思っていたから安心したよ」

「ご、ご冗談を」

 思ったよりこの男、面白い。その反応は一回は考えたってバレる反応だぞ。この慌てようから見て、今謀殺を企んでいる様子は感じられない。実際、疑惑程度ならともかく、証拠付きで父に報告されれば、俺の追放を含めて全てが水の泡になる。そんな最悪のシナリオに一歩間違えばなっていたとなれば、冷や汗ものだろう。俺としても、この八年は警戒に神経を使いたくはない。賢明な判断には感謝しないと。
 分かりやすく気を取り直すように、ヴァイザーは大きく咳ばらいをした。

「子供では生活もままならないでしょうから、使用人を一人つけることといたしました。挨拶を」

 促され、一人の女性が俺の前で膝をつく。

「アルバ様の担当となりました。メイドのマリアです」

 いつものメイド服ではなく、亜麻色の簡素な服で身を包み、少し長い茶色の髪は高めで束ねている。村娘と同じ恰好は、俺を貴族でないと認識させるためかヴァイザーめ回りくどいことをする。だが、残念だったな。俺はこういうスタイルも結構好きだ。
 くだらない話はこんなところにしておこう。
 マリアとはそれなりに親交がある。彼女は元々母の専属の一人で、少し前から書斎の管理を任されていた。暇だからと書斎で本を漁っているときに、よく話をしていた。
 彼女について特筆すべき点はそのスタイルだ。可愛い系と美人系が上手く合わさった美貌。身長は女性にしては高い。胸を除き全身に程よく付いた肉。さらに愛嬌もあるとあって、生まれさえ違えば華やかな世界にいたかもしれない。

「すまない、付き合わせてしまって。これから頼む」

「いえ、これからよろしくお願いいたします。アルバ様」

 マリアが再び丁寧に頭を下げ、俺がそれに答えたのを見てから、ヴァイザーは屋敷へと体の向きを変えた。

「それでは私は仕事に戻りますので。アルバ様は間違っても変な気など起こされないようお願いしますよ」

 ここでは何の価値もない無限回復持ちのガキの何が怖いんだか。

「父上、兄上の迷惑になることはしませんよ」

 満足のいく回答だったのか、ヴァイザーは振り替えることなく、足早に屋敷の方向へ歩いていった。

「さてさて、新居の探検といきますか~」

 鼻歌混じりで扉を開けようとしたら、マリアが困惑して口を開きっぱなしにしているのが見えた。

「どうしたのマリア?」

「どうしたもこうしたもないですよ。アルバ様は屋敷を追われたのですよ。どうしてそんなに機嫌がいいんですか?屋敷にいる時より元気じゃないですか」

「追放されたと言っても屋敷の敷地だし、父上の目があり、約束した以上そう簡単に命も奪えない。安全に好き勝手できる場所が与えられたと考えたら悲観的になる必要は全くないよ」 

「そうかもしれませんが……」

 まだどこか納得しきれていない様子。それもそうか。傍からみたら俺の状況は完全に詰み。座して死を待っているようにも見える。
 強がりややけくそと思われていると、後で勘違いに繋がるかもしれない。しばらく一緒に住むんだ。俺の思惑もある程度伝えておくべきだろう。

「中にテーブルぐらいはあるよね」

「はい、最低限の家具と飲食物は提供する手筈となっているはずです」

「じゃあ、そこで落ち着いて話そう」

 手を引き、扉を開け、マリアを先に入れる。なんて紳士的なことができたならかっこいいんだが、身長差が……。現実は非情だ。手を引こうにもマリアを中腰にする必要があり、扉の取っ手は、俺では届かない高さにあった。結局マリアが開けた。うん。早く大きくなりたい。
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