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一年生編 第一章 オルエイ入学
第七話 オルエイ入学前
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入学が決まった俺は、その場で書類にサインをして、一度宿に戻った。
荷物の整理をする為だ。
オルエイ高等学校には学生寮がある。
近場に家がある生徒なら使う必要は無いが、俺のような遠くから来ている人は大抵学生寮を利用する。
学生寮を利用する生徒は夜に荷物を持って移動らしいので、今夜までに荷物の整理を終わらせなければいけない。
とはいっても、俺のここにある荷物などたかがしれているのだが。
俺は洗濯した服を畳んでカバンに詰め込む。
あとは日曜品を少しと筆記用具。
移動の準備が終わると、指定された時間まで待つ。
やる事がなく、時間を持て余しそうだったので、持ってきていた剣を持って広場へと向かった。
「そう言えば、エイリア先生と出会ったのも、剣を振っている時だったな。」
なんだか感慨深くなる。
もう半年か。
彼女と出会わなければ、俺がこうして王都に来ることなかったんだ。
俺は気分転換に剣を振るった。
受かった興奮が全然抜けきれていない。
数時間経った今でなお、バクバクと心臓の鼓動がなり続けている。
あそこへ行けるのだ。
ギャルバン1の高等学校、オルエイへ。
俺の心は期待と緊張でいっぱいだった。
しかし同時に、不安もあった。
俺は今回の入試で改めて自分の実力不足を知った。
Hクラス、160番、おそらくビリケツ。学校で1番成績が低い。
歴代の魔王達はほぼ皆、オルエイを主席で卒業している。
俺が目指すべきはアーシャの座だ。
しかしそれは簡単な事では無い。俺はこの在籍中に、159人の天才達を追い抜かなければならない。
出来るだろうか、俺に。
それがどれだけ難しい事なのかは、アーシャを間近で見てきた俺だからわかる。
正攻法じゃ、絶対に辿り着けない。
1分1秒の努力も惜しんではならない。
「我ながら、大変な道のりを選んだな。」
俺は時間ギリギリまで剣を振った。
火が沈む頃、宿に戻ると俺は軽くシャワーを浴びた。
いつも以上に特訓に力を入れていた為、かなり体が疲弊していた。
正直この程度でへばってる場合ではない。
オルエイ高等学校はかなりハードなスケジュールだと聞く。
もっと体力をつけないといけないな。
濡れた髪をタオルで乾かす。
宿の借り物なので、使い終わったら綺麗に畳んで重ねておいた。
一応宿を出る前に忘れ物の確認だけする。
ベッドの下など、落ちているものがないかチェックした。
それを終えたら、いよいよリュックを背負った。
これから出ようというとき、不意に、三回ノックがなる。
誰だ?と思ったが、俺の部屋をノックする人なんてほとんどいないので、すぐに誰なのかは察した。
扉を開けた前にいたのは、赤髪赤目の中性的な見た目をした少年。
「どうしたんだ、ナルキ。」
「エスタ、合格おめでとう。学生寮に泊まるでしょ? 一緒に行かない?」
ナルキは満面の笑みでそう言った。
「お、おう。というかナルキも、受かってたんだな。そっちこそおめでとう。」
俺は彼から目をそらしながら返事する。
何故か? 若干の後ろめたさがあったからだ。
AからHグループまで全て確認していたので、ナルキの名前もどこかで見たはずだったが、俺は自分の名前がいつまでたっても見つからなかった事もあり完全に見逃していた。
というか、彼の存在を今さっきまで忘れていた。
だから目をそらした。
そういう心情からの行動だったのだが、何かを察したのか彼はジト目で、俺の事を刺してきた。
「まさかエスタ、僕のこと完全に忘れてた?」
「げっ、ばれた。」
「ひどいよ、エスタ。大親友のぼくの存在を忘れてしまうなんて、、、」
彼は演技臭く涙を流す。
いや大親友ってまだ会ったの二度目だろ、と突っ込もうとしたが、忘れてた俺に非があるのであまり強く言えなかった。
俺が口を噤んでいると、彼は続けて言う。
「受験発表の時だって君の上に名前が書いてあったはずなのに、、、」
「え? 俺の上って、、、」
「159番目、受験番号2667、ナルキ。」
「滅茶苦茶ギリギリじゃねえか、よく受かったな。」
「いや君には言われたくないよ。」
思った事を率直に口に出すと見事に言い返されてしまった。
完全に反論できない。
「というか、159番目ってことは、Hクラスじゃねえか。」
「同じクラスだね、これからよろしく。」
一連の会話を終えると、とりあえず俺は部屋を出て戸締りをする。
短いとはいえ一週間もお世話になった宿だ、若干の安心感も持ち始めていたので少し寂しい気持ちになった。
鍵を閉めると、ナルキと二人で一緒に宿の受付を行き、鍵を渡す。ついでにお礼などもしっかりする。
宿を出ると、俺たちはついにオルエイに向かって歩き出した。
周囲を見ると、数は少ないが、俺たちと同じくらいの年代の人達が魔車の駅に向かって歩いていた。
あの中にはオルエイを落ちた人も混ざっているのだろうかと考えると、ほんとよく受かったなと安心感が芽生える。
「それにしてもまさか、同郷のやつと同じクラスになるとはな。」
俺が呟くと彼は相槌を打つ。
「ねー、正直僕、エスタは落ちると思ってた。」
「おいこらどういうことだ。」
「えー? だってエスタ弱そうじゃん。」
いや、否定はできないけど。
実際、受かった中では最下位だし、なんで受かったのかは俺にもわからないくらいだし。
「それ言ったらお前も変わらんだろ。」
「それなー」
彼は半笑いで返した。
いや、否定してこんのかい。
俺はナルキに対して何だかしゃべりずらさを感じ始めていた。
なんといえばいいのか難しいのだが、彼は独特なペースを持っている。
合わせるのが非常に苦労する。
ナルキは思い出したように話題を変えた。
「そういや同郷といえば、彼女もいたよね。氷の白姫、アーシャ。」
それを聞いた瞬間、俺は何も飲み物など含んでいないのに、吹き出しそうになった。
「ちょっと待て、あいつ氷の白姫なんて呼ばれてんのか???」
「え? なに? 知り合いなの?」
「知り合いどころか幼馴染だ。最近はあんま話してないけどな。」
「へえ、それ滅茶苦茶すごいことだよ。なんたって将来の魔王って言われるくらいの天才らしいからね。」
普通にびっくりした。
彼女が天才で、数多くの大人に目をつけられていたのは知っていたが、まさかそこまでの大物になっているなんて。
「ていうか、幼馴染なのに二つ名も知らないの? アースティンどころか国中で呼ばれてるあだ名だよ?」
「へ、へえ。まあ、そういうこともあるだろ、、、」
とりあえず、適当に返した。
だが改めて考えてみると、なんで知らなかったんだろう。
中学校に進学してからはあまり話さなくなったとはいえ、仮にも幼馴染で家も近い。
それなのに、思い返すと彼女の事、全然知らない。
それはなぜか。
きっと俺は心のどこかで彼女を遠ざけていたのだろう。
才能が開花し順調に道を進む彼女と、方や立ち止まり、かつての親友の夢さえ忘れようとしていた愚かな俺。
まっすぐ自分の道を行く彼女が眩しく、同時に嫉妬していたんだ。
だから、なるべく自分から遠ざけて、目に入らないようにしていた。
キラキラしている彼女を見たくなかったのだ。
我ながら屑にもほどがあるな。
そりゃ呆れられて嫌われるわ。
大昔、レオンの誘拐事件が起こってから、俺たちの人生は大きく変わった。
俺はあの日からレオンの事を忘れたことはない。
彼の無邪気な笑顔、後ろ姿。
彼女だってきっとそのはずだ。
壊れてしまった友情、俺たちの関係。
俺は今まで逃げていたのだと改めて実感する。
「決めた、入学したら、アーシャに声をかけよう。」
俺はそう宣言する。
隣にいたナルキは意味が分からなさそうな表情をする。
「急にどうしたのさ。」
「いや、こっちの話だ。」
逃げていた。
逃げ続けていた。
でも、いい加減向き合わなければ。
それはガールと一戦を交え、オルエイ高等学校の入学試験を乗り越えた、俺の成長だった。
荷物の整理をする為だ。
オルエイ高等学校には学生寮がある。
近場に家がある生徒なら使う必要は無いが、俺のような遠くから来ている人は大抵学生寮を利用する。
学生寮を利用する生徒は夜に荷物を持って移動らしいので、今夜までに荷物の整理を終わらせなければいけない。
とはいっても、俺のここにある荷物などたかがしれているのだが。
俺は洗濯した服を畳んでカバンに詰め込む。
あとは日曜品を少しと筆記用具。
移動の準備が終わると、指定された時間まで待つ。
やる事がなく、時間を持て余しそうだったので、持ってきていた剣を持って広場へと向かった。
「そう言えば、エイリア先生と出会ったのも、剣を振っている時だったな。」
なんだか感慨深くなる。
もう半年か。
彼女と出会わなければ、俺がこうして王都に来ることなかったんだ。
俺は気分転換に剣を振るった。
受かった興奮が全然抜けきれていない。
数時間経った今でなお、バクバクと心臓の鼓動がなり続けている。
あそこへ行けるのだ。
ギャルバン1の高等学校、オルエイへ。
俺の心は期待と緊張でいっぱいだった。
しかし同時に、不安もあった。
俺は今回の入試で改めて自分の実力不足を知った。
Hクラス、160番、おそらくビリケツ。学校で1番成績が低い。
歴代の魔王達はほぼ皆、オルエイを主席で卒業している。
俺が目指すべきはアーシャの座だ。
しかしそれは簡単な事では無い。俺はこの在籍中に、159人の天才達を追い抜かなければならない。
出来るだろうか、俺に。
それがどれだけ難しい事なのかは、アーシャを間近で見てきた俺だからわかる。
正攻法じゃ、絶対に辿り着けない。
1分1秒の努力も惜しんではならない。
「我ながら、大変な道のりを選んだな。」
俺は時間ギリギリまで剣を振った。
火が沈む頃、宿に戻ると俺は軽くシャワーを浴びた。
いつも以上に特訓に力を入れていた為、かなり体が疲弊していた。
正直この程度でへばってる場合ではない。
オルエイ高等学校はかなりハードなスケジュールだと聞く。
もっと体力をつけないといけないな。
濡れた髪をタオルで乾かす。
宿の借り物なので、使い終わったら綺麗に畳んで重ねておいた。
一応宿を出る前に忘れ物の確認だけする。
ベッドの下など、落ちているものがないかチェックした。
それを終えたら、いよいよリュックを背負った。
これから出ようというとき、不意に、三回ノックがなる。
誰だ?と思ったが、俺の部屋をノックする人なんてほとんどいないので、すぐに誰なのかは察した。
扉を開けた前にいたのは、赤髪赤目の中性的な見た目をした少年。
「どうしたんだ、ナルキ。」
「エスタ、合格おめでとう。学生寮に泊まるでしょ? 一緒に行かない?」
ナルキは満面の笑みでそう言った。
「お、おう。というかナルキも、受かってたんだな。そっちこそおめでとう。」
俺は彼から目をそらしながら返事する。
何故か? 若干の後ろめたさがあったからだ。
AからHグループまで全て確認していたので、ナルキの名前もどこかで見たはずだったが、俺は自分の名前がいつまでたっても見つからなかった事もあり完全に見逃していた。
というか、彼の存在を今さっきまで忘れていた。
だから目をそらした。
そういう心情からの行動だったのだが、何かを察したのか彼はジト目で、俺の事を刺してきた。
「まさかエスタ、僕のこと完全に忘れてた?」
「げっ、ばれた。」
「ひどいよ、エスタ。大親友のぼくの存在を忘れてしまうなんて、、、」
彼は演技臭く涙を流す。
いや大親友ってまだ会ったの二度目だろ、と突っ込もうとしたが、忘れてた俺に非があるのであまり強く言えなかった。
俺が口を噤んでいると、彼は続けて言う。
「受験発表の時だって君の上に名前が書いてあったはずなのに、、、」
「え? 俺の上って、、、」
「159番目、受験番号2667、ナルキ。」
「滅茶苦茶ギリギリじゃねえか、よく受かったな。」
「いや君には言われたくないよ。」
思った事を率直に口に出すと見事に言い返されてしまった。
完全に反論できない。
「というか、159番目ってことは、Hクラスじゃねえか。」
「同じクラスだね、これからよろしく。」
一連の会話を終えると、とりあえず俺は部屋を出て戸締りをする。
短いとはいえ一週間もお世話になった宿だ、若干の安心感も持ち始めていたので少し寂しい気持ちになった。
鍵を閉めると、ナルキと二人で一緒に宿の受付を行き、鍵を渡す。ついでにお礼などもしっかりする。
宿を出ると、俺たちはついにオルエイに向かって歩き出した。
周囲を見ると、数は少ないが、俺たちと同じくらいの年代の人達が魔車の駅に向かって歩いていた。
あの中にはオルエイを落ちた人も混ざっているのだろうかと考えると、ほんとよく受かったなと安心感が芽生える。
「それにしてもまさか、同郷のやつと同じクラスになるとはな。」
俺が呟くと彼は相槌を打つ。
「ねー、正直僕、エスタは落ちると思ってた。」
「おいこらどういうことだ。」
「えー? だってエスタ弱そうじゃん。」
いや、否定はできないけど。
実際、受かった中では最下位だし、なんで受かったのかは俺にもわからないくらいだし。
「それ言ったらお前も変わらんだろ。」
「それなー」
彼は半笑いで返した。
いや、否定してこんのかい。
俺はナルキに対して何だかしゃべりずらさを感じ始めていた。
なんといえばいいのか難しいのだが、彼は独特なペースを持っている。
合わせるのが非常に苦労する。
ナルキは思い出したように話題を変えた。
「そういや同郷といえば、彼女もいたよね。氷の白姫、アーシャ。」
それを聞いた瞬間、俺は何も飲み物など含んでいないのに、吹き出しそうになった。
「ちょっと待て、あいつ氷の白姫なんて呼ばれてんのか???」
「え? なに? 知り合いなの?」
「知り合いどころか幼馴染だ。最近はあんま話してないけどな。」
「へえ、それ滅茶苦茶すごいことだよ。なんたって将来の魔王って言われるくらいの天才らしいからね。」
普通にびっくりした。
彼女が天才で、数多くの大人に目をつけられていたのは知っていたが、まさかそこまでの大物になっているなんて。
「ていうか、幼馴染なのに二つ名も知らないの? アースティンどころか国中で呼ばれてるあだ名だよ?」
「へ、へえ。まあ、そういうこともあるだろ、、、」
とりあえず、適当に返した。
だが改めて考えてみると、なんで知らなかったんだろう。
中学校に進学してからはあまり話さなくなったとはいえ、仮にも幼馴染で家も近い。
それなのに、思い返すと彼女の事、全然知らない。
それはなぜか。
きっと俺は心のどこかで彼女を遠ざけていたのだろう。
才能が開花し順調に道を進む彼女と、方や立ち止まり、かつての親友の夢さえ忘れようとしていた愚かな俺。
まっすぐ自分の道を行く彼女が眩しく、同時に嫉妬していたんだ。
だから、なるべく自分から遠ざけて、目に入らないようにしていた。
キラキラしている彼女を見たくなかったのだ。
我ながら屑にもほどがあるな。
そりゃ呆れられて嫌われるわ。
大昔、レオンの誘拐事件が起こってから、俺たちの人生は大きく変わった。
俺はあの日からレオンの事を忘れたことはない。
彼の無邪気な笑顔、後ろ姿。
彼女だってきっとそのはずだ。
壊れてしまった友情、俺たちの関係。
俺は今まで逃げていたのだと改めて実感する。
「決めた、入学したら、アーシャに声をかけよう。」
俺はそう宣言する。
隣にいたナルキは意味が分からなさそうな表情をする。
「急にどうしたのさ。」
「いや、こっちの話だ。」
逃げていた。
逃げ続けていた。
でも、いい加減向き合わなければ。
それはガールと一戦を交え、オルエイ高等学校の入学試験を乗り越えた、俺の成長だった。
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