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一年生編 第一章 オルエイ入学
第二話 さよなら故郷
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「受験票は持った?」
「うん。」
「筆記用具は?」
「持った。」
「杖は?」
「大丈夫。」
「よし、じゃあ行ってこい!」
母親にそう背中を叩かれて、家を出る。
「しっかり自信を持って挑めよ、エスタ。」
父親にそう言われると、俺は大きく頷いて、その場を去った。
父は普段騎士の仕事が忙しく、あまり家には帰ってこないのだが、今日は俺を見送る為に戻ってきたようだ。
例の事件から、5ヶ月が経った。
年はとっくに越して、明後日はオルエイ高等学園の入学試験が控えている。
エイリア先生にオルエイをスカウトされてからというものの、俺は今まで以上にに努力した。
勉強も手を抜かず、実技の方も必死に磨き続けた。
今までの、半分手抜きだった状態とは打って変わって自分が成長している実感がある。
今日は、ここ田舎街のアースティンから、オルエイのある王都リンガロへと移動する日だった。
俺は、アースティンの端にある駅へと荷物を持ちながら向かう。
魔族の住む世界、通称魔界では魔力の技術が発達しており、魔車と呼ばれる乗り物が存在する。
細長い形状をしたもので、たくさんの人を乗せて街から街を走るので、王都へ向かう人は大体それを利用する。
俺も今回は魔車を使う予定だ。
切符を買い、魔車に乗り込み、指定された座席に座った。
試験は明後日だ。
今のうちに、勉強したところの確認をしようと思って参考書を開いた。
数十分読み込んでいると、ふと肩を叩かれる。
「ねぇ、君、オルエイ受ける生徒?」
隣にいたのは、俺と同い年くらいの赤髪の少年だった。
とても優しそうで怒った姿が想像できない。
別にイケメンというほど顔が整っているわけではないが、人畜無害そうな顔つきである。
「そうだけど、何か?」
「やっぱりぃ~! その参考書、オルエイ向けのだもんね。僕も年中使ってた! こんな所に同じ境遇の人に会えるなんてラッキー。」
「その言い方、君も?」
「うん、明後日オルエイを受けるんだ。あっ、僕の名前はナルキ。普通の平民だよ、よろしくね。」
「俺はエスタだ。お互い受かるといいな。」
「だね~。」
目の前の男は、とても爽やかで、明るい。
初対面にしては距離感が近い感じもするが、同じオルエイを受ける生徒に会えたのは、幸運でもあるだろう。
彼は目を丸めて俺に質問する。
「珍しい髪色だね。」
ナルキは、俺の黒い髪の毛を指摘した。
「ああ、よく言われる。なんでも俺が生まれる前に亡くなった母方の祖父が黒髪だったらしい。」
魔族の髪は、色鮮やかだ。
ナルキのように真っ赤な色もあれば、レオンのように金色の髪だって存在する。
だが俺のような黒色の髪は、自分以外見た事がない。
「まるで、初代魔王だね。」
「それもよく言われるよ。」
「あっ、もしかして貴族様だったりする?」
「いやまさか。親が一部で有名なくらいで、他はただの一般人だ。」
「良かった、なら一緒だ。貴族様だったら話し方に困っちゃうから。」
ハルキが、頭をかきながら言うと、俺は一言溢す。
「オルエイへ入学したら、貴族だらけだけどな。」
「そうなんだよね。そこが難点なんだよ。」
「ん? 貴族が苦手なのか?」
「まぁ、昔色々とあってね。」
それから数十分、俺達はお喋りを続けた。
内容はたわいも無い会話だった。
オルエイを志望した理由とか、行って何したいだとか。
意外と馬が合う奴で、少し話題を振ると、いくらでも広がっていった。
気付けば夢とか理想とか、ここ数年誰にも話していなかったような事を簡単に喋っでいた。
「そっか、魔王か。凄いね。」
「そう言われたのは初めてだ。」
リンリンリンと、鈴のなる音が響く。
出発の合図だ。
それまで静止していた魔車が、線路の上をゆっくり動き出す。
馬車に比べ、揺れが少ない事に少し感動した。
「出発か。」
「だね。」
窓の外を見ると、スピードが徐々に上がっていくのがわかる。
もし受かれば、しばらくはこの街には戻ってこない。
少し寂しい気持ちもある。
だが、それ以上にとても清々しい気分だった。
オルエイに行くんだ、という決意が、俺の心を滾らせてくれていたのだ。
「さよなら、アースティン。」
俺は生まれ故郷に一言挨拶した。
☆
王都、リンガロ。
「う゛お゛ええええ」
路地裏、誰もいない所で、俺は吐いていた。
「エスタ、君、馬車とかダメなタイプなんだ。」
「馬車よりは全然マシだ。う゛お゛えええええ」
「顔色悪いし、病院行く?」
「いや、無駄な出費を増やしたくない。ゔお゛えええええ」
「・・・・・」
「う゛お゛ええええ」
ナルキが冷たい目線を向けてくるが、俺は無視する。
とりあえず、何度か吐いた事で、苦しさは和らいだ。
俺は口に残ったゲロ味の唾を吐き出し、立ち上がる。
「もういいの?」
「あぁ、幾分かマシになった。」
「ならよかった。」
「それにしても、すげぇ街だな。」
現魔王ウルの治める魔族の国、エスターシュ。その中心にあり世界でも有数の大都市リンガロ。
更にその中心に聳え立つのは、偉大なる初代魔王の残した遺産、魔王城である。
物資の流通が多く、人口が世界一なだけでなく、たくさんの観光名所が存在し、また海に隣接しているのもあって貿易も盛んだ。
数多くの店が存在し、平日の昼間だというのにまるで祭りのようだ。
「アースティンはもっと静かなのに。こんな路地裏でさえ騒がしいのが聞こえてくる。」
「そりゃ規模が違うからね。主な交通手段が魔車だって言うし。」
「リンガロ内を魔車で移動するのか?」
「そうらしいよ。」
「そりゃすげぇな。」
想像はしていたが予想以上だった。
俺は少し感動に浸ったのち、ナルキに質問した。
「そういや、ナルキはこの後どうするんだ?」
「僕? う~ん。とりあえず宿を探そうと思ってるけど、エスタは?」
「俺も同じだな、とりあえずこの大荷物をどこかに置きたい。」
「じゃあ、しばらく一緒に行動しよ?」
俺達はしばらく街を歩いて安い宿を探す。
オルエイにさえ入ってしまえば寮生活だが、今はただの受験生だ。
この時期になると、国中からたくさんの受験生が流れ込んでくるので、宿の争奪戦になる。
だから、早いうちにより良い宿を見つけたい。
「なぁ、ナルキはなんでオルエイを受けるんだ?」
「なんでって?」
「いや、理由があるだろ? 例えばいい職に就きたいからとか、俺みたいに魔王になりたいからとか。」
「あぁ、会わなくちゃいけない人がいるんだけど、時々オルエイに現れる事くらいしか情報がなかったんだ。幸い僕は魔法がものすごく得意だからね、いろんなところから必死にお金を搾り出して受けに来た。母さんにはかなり無理言っちゃったけど。」
「え? 人に会う為にオルエイを受けるのか?」
「そういうこと。他の人に比べたらくだらない理由に聞こえるけど、僕にとっては重要なことなんだ。」
俺はそういう人もいるんだと少し衝撃を受けた。
ただ人に会う為に、国の最難関と言われる高校を受験するなど、まるで理解できないが、目の前の彼を見てとりあえず納得する。
一体誰に会うのかと気になるが、それは流石にデリカシーがない気もする。少しわかりにくい言い方をしているのは、深入りされたくないからだろう。
「それより見てエスタ。あの宿受験生割引だって、値段も安いよ。」
「ほんとだ。満室になる前に入っちゃうか。」
そんな会話をして俺達は、宿に入る。
ガキをもらい、廊下を通り、自分の部屋へ。
「じゃあね、明後日の受験頑張ろ!」
「あぁ、お互い受かろうな。」
ドアを開けて、中に入った。
安価だが、あまりボロボロというわけでもない。というか、かなり綺麗だった。
ベッドもふかふかで風呂もついてる。
なんでも元値は比較的高いらしい。
「明後日…もう明後日か…」
なんだか急に緊張してきた。
試験が近いという事実が、実感として湧き上がってきたのだ。
一応エイリア先生に誘われてオルエイを受けに来たが、彼女曰く、どんな生徒でも試験を避ける事は出来ないらしい。
推薦という概念は、あるにはあるが、試験の点数を加点するというものだ。
更に俺には実力がない為、その加点すらできない。
要は自分の実力で受からなければならないのだ。
俺は机の前に座ると、即座に参考書や教科書を出して勉強を始めた。
あやふやな所を復習し、完璧に答えられるようにする。
そこからは特に語る事はないだろう。
後はずっと試験対策だ。
体を動かす場所がないので、筋トレと魔力を練る訓練だけして、ひたすらに勉強、勉強、勉強だった。
それを今日明日と2日間続ける。
人生がかかった受験だ。
親の期待を裏切る事なんて出来ないし、俺の夢への細い細い架け橋だ。
絶対に受かりたいという思いが、俺を突き動かしていた。
そして、気付けば試験当日になっていた。
「うん。」
「筆記用具は?」
「持った。」
「杖は?」
「大丈夫。」
「よし、じゃあ行ってこい!」
母親にそう背中を叩かれて、家を出る。
「しっかり自信を持って挑めよ、エスタ。」
父親にそう言われると、俺は大きく頷いて、その場を去った。
父は普段騎士の仕事が忙しく、あまり家には帰ってこないのだが、今日は俺を見送る為に戻ってきたようだ。
例の事件から、5ヶ月が経った。
年はとっくに越して、明後日はオルエイ高等学園の入学試験が控えている。
エイリア先生にオルエイをスカウトされてからというものの、俺は今まで以上にに努力した。
勉強も手を抜かず、実技の方も必死に磨き続けた。
今までの、半分手抜きだった状態とは打って変わって自分が成長している実感がある。
今日は、ここ田舎街のアースティンから、オルエイのある王都リンガロへと移動する日だった。
俺は、アースティンの端にある駅へと荷物を持ちながら向かう。
魔族の住む世界、通称魔界では魔力の技術が発達しており、魔車と呼ばれる乗り物が存在する。
細長い形状をしたもので、たくさんの人を乗せて街から街を走るので、王都へ向かう人は大体それを利用する。
俺も今回は魔車を使う予定だ。
切符を買い、魔車に乗り込み、指定された座席に座った。
試験は明後日だ。
今のうちに、勉強したところの確認をしようと思って参考書を開いた。
数十分読み込んでいると、ふと肩を叩かれる。
「ねぇ、君、オルエイ受ける生徒?」
隣にいたのは、俺と同い年くらいの赤髪の少年だった。
とても優しそうで怒った姿が想像できない。
別にイケメンというほど顔が整っているわけではないが、人畜無害そうな顔つきである。
「そうだけど、何か?」
「やっぱりぃ~! その参考書、オルエイ向けのだもんね。僕も年中使ってた! こんな所に同じ境遇の人に会えるなんてラッキー。」
「その言い方、君も?」
「うん、明後日オルエイを受けるんだ。あっ、僕の名前はナルキ。普通の平民だよ、よろしくね。」
「俺はエスタだ。お互い受かるといいな。」
「だね~。」
目の前の男は、とても爽やかで、明るい。
初対面にしては距離感が近い感じもするが、同じオルエイを受ける生徒に会えたのは、幸運でもあるだろう。
彼は目を丸めて俺に質問する。
「珍しい髪色だね。」
ナルキは、俺の黒い髪の毛を指摘した。
「ああ、よく言われる。なんでも俺が生まれる前に亡くなった母方の祖父が黒髪だったらしい。」
魔族の髪は、色鮮やかだ。
ナルキのように真っ赤な色もあれば、レオンのように金色の髪だって存在する。
だが俺のような黒色の髪は、自分以外見た事がない。
「まるで、初代魔王だね。」
「それもよく言われるよ。」
「あっ、もしかして貴族様だったりする?」
「いやまさか。親が一部で有名なくらいで、他はただの一般人だ。」
「良かった、なら一緒だ。貴族様だったら話し方に困っちゃうから。」
ハルキが、頭をかきながら言うと、俺は一言溢す。
「オルエイへ入学したら、貴族だらけだけどな。」
「そうなんだよね。そこが難点なんだよ。」
「ん? 貴族が苦手なのか?」
「まぁ、昔色々とあってね。」
それから数十分、俺達はお喋りを続けた。
内容はたわいも無い会話だった。
オルエイを志望した理由とか、行って何したいだとか。
意外と馬が合う奴で、少し話題を振ると、いくらでも広がっていった。
気付けば夢とか理想とか、ここ数年誰にも話していなかったような事を簡単に喋っでいた。
「そっか、魔王か。凄いね。」
「そう言われたのは初めてだ。」
リンリンリンと、鈴のなる音が響く。
出発の合図だ。
それまで静止していた魔車が、線路の上をゆっくり動き出す。
馬車に比べ、揺れが少ない事に少し感動した。
「出発か。」
「だね。」
窓の外を見ると、スピードが徐々に上がっていくのがわかる。
もし受かれば、しばらくはこの街には戻ってこない。
少し寂しい気持ちもある。
だが、それ以上にとても清々しい気分だった。
オルエイに行くんだ、という決意が、俺の心を滾らせてくれていたのだ。
「さよなら、アースティン。」
俺は生まれ故郷に一言挨拶した。
☆
王都、リンガロ。
「う゛お゛ええええ」
路地裏、誰もいない所で、俺は吐いていた。
「エスタ、君、馬車とかダメなタイプなんだ。」
「馬車よりは全然マシだ。う゛お゛えええええ」
「顔色悪いし、病院行く?」
「いや、無駄な出費を増やしたくない。ゔお゛えええええ」
「・・・・・」
「う゛お゛ええええ」
ナルキが冷たい目線を向けてくるが、俺は無視する。
とりあえず、何度か吐いた事で、苦しさは和らいだ。
俺は口に残ったゲロ味の唾を吐き出し、立ち上がる。
「もういいの?」
「あぁ、幾分かマシになった。」
「ならよかった。」
「それにしても、すげぇ街だな。」
現魔王ウルの治める魔族の国、エスターシュ。その中心にあり世界でも有数の大都市リンガロ。
更にその中心に聳え立つのは、偉大なる初代魔王の残した遺産、魔王城である。
物資の流通が多く、人口が世界一なだけでなく、たくさんの観光名所が存在し、また海に隣接しているのもあって貿易も盛んだ。
数多くの店が存在し、平日の昼間だというのにまるで祭りのようだ。
「アースティンはもっと静かなのに。こんな路地裏でさえ騒がしいのが聞こえてくる。」
「そりゃ規模が違うからね。主な交通手段が魔車だって言うし。」
「リンガロ内を魔車で移動するのか?」
「そうらしいよ。」
「そりゃすげぇな。」
想像はしていたが予想以上だった。
俺は少し感動に浸ったのち、ナルキに質問した。
「そういや、ナルキはこの後どうするんだ?」
「僕? う~ん。とりあえず宿を探そうと思ってるけど、エスタは?」
「俺も同じだな、とりあえずこの大荷物をどこかに置きたい。」
「じゃあ、しばらく一緒に行動しよ?」
俺達はしばらく街を歩いて安い宿を探す。
オルエイにさえ入ってしまえば寮生活だが、今はただの受験生だ。
この時期になると、国中からたくさんの受験生が流れ込んでくるので、宿の争奪戦になる。
だから、早いうちにより良い宿を見つけたい。
「なぁ、ナルキはなんでオルエイを受けるんだ?」
「なんでって?」
「いや、理由があるだろ? 例えばいい職に就きたいからとか、俺みたいに魔王になりたいからとか。」
「あぁ、会わなくちゃいけない人がいるんだけど、時々オルエイに現れる事くらいしか情報がなかったんだ。幸い僕は魔法がものすごく得意だからね、いろんなところから必死にお金を搾り出して受けに来た。母さんにはかなり無理言っちゃったけど。」
「え? 人に会う為にオルエイを受けるのか?」
「そういうこと。他の人に比べたらくだらない理由に聞こえるけど、僕にとっては重要なことなんだ。」
俺はそういう人もいるんだと少し衝撃を受けた。
ただ人に会う為に、国の最難関と言われる高校を受験するなど、まるで理解できないが、目の前の彼を見てとりあえず納得する。
一体誰に会うのかと気になるが、それは流石にデリカシーがない気もする。少しわかりにくい言い方をしているのは、深入りされたくないからだろう。
「それより見てエスタ。あの宿受験生割引だって、値段も安いよ。」
「ほんとだ。満室になる前に入っちゃうか。」
そんな会話をして俺達は、宿に入る。
ガキをもらい、廊下を通り、自分の部屋へ。
「じゃあね、明後日の受験頑張ろ!」
「あぁ、お互い受かろうな。」
ドアを開けて、中に入った。
安価だが、あまりボロボロというわけでもない。というか、かなり綺麗だった。
ベッドもふかふかで風呂もついてる。
なんでも元値は比較的高いらしい。
「明後日…もう明後日か…」
なんだか急に緊張してきた。
試験が近いという事実が、実感として湧き上がってきたのだ。
一応エイリア先生に誘われてオルエイを受けに来たが、彼女曰く、どんな生徒でも試験を避ける事は出来ないらしい。
推薦という概念は、あるにはあるが、試験の点数を加点するというものだ。
更に俺には実力がない為、その加点すらできない。
要は自分の実力で受からなければならないのだ。
俺は机の前に座ると、即座に参考書や教科書を出して勉強を始めた。
あやふやな所を復習し、完璧に答えられるようにする。
そこからは特に語る事はないだろう。
後はずっと試験対策だ。
体を動かす場所がないので、筋トレと魔力を練る訓練だけして、ひたすらに勉強、勉強、勉強だった。
それを今日明日と2日間続ける。
人生がかかった受験だ。
親の期待を裏切る事なんて出来ないし、俺の夢への細い細い架け橋だ。
絶対に受かりたいという思いが、俺を突き動かしていた。
そして、気付けば試験当日になっていた。
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