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第三章・前章、夏休み~校内大会・帝国編~
第九十七話:目覚め
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「……」
目が覚めて、白い天井をぼんやりと見つめる。
天井から軽く目を動かせば、椅子に座り、ベッドに凭れながら眠るキソラと、彼女と同じように椅子に座りながらも室内にある棚に凭れていたり、ソファーで眠る友人たちが居ることにノークは気付く。
キソラに掛けられた毛布は、イアンかレオンのどちらかが掛けてやったのだろう。
「……」
それにしても、静かな室内である。
「……俺相手に、寝てる振りはしなくていいぞ」
ノークが主に友人たちに向かって声を掛ければ、棚に凭れていた方――イアンがそっと目を開く。
「おはよう、騎士様。やっと、お目覚めか」
にやりとしながら、イアンが言う。
「茶化すな。それより――」
目線で、キソラが居る理由を問うノークに、イアンは答えるために口を開く。
「学院の方に連絡が行ったんだよ。お前の能力の影響で、他の怪我人たちに治癒魔法が使えなかったから、対処できるキソラちゃんが来たんだよ。それに、他の奴らの様子も見ながら、お前の怪我を治したり、様子を見に来たりしていたんだから、責めてはやるなよ。――かなり、心配していたんだから」
誰が、という主語を抜いたり、多少、嘘も交えながら答えるイアンだが、ほとんど言っていることは間違ってはないし、キソラが自分のせいだと気にしていたことは話してないので、後でそのことについて責められても許されるはずだ。
そんなイアンのキソラに向けられている視線から何かを察しつつ、「そうか」と返して、ノークが彼女の頭を撫でれば、ぴくりと反応する。
「ん……あれ? 兄さん、起きたんだ……」
射し込んだ日差しのせいか、二人の話し声が聞こえたのか。キソラが目を擦りながら、ノークに声を掛ける。
「おかげさまでな」
寝ているときの体勢が体勢だったためか、欠伸をした後に肩を回したりするキソラに苦笑いしながら礼を言うノーク。
「それにしても、お前ら。何日か経つまでに目覚めたら伝えるな、って言っただろうが……」
「けどなぁ……」
確かに、イアンたちはノークが何日か経っても目覚めなかったら、キソラを呼ぶという約束はしたし、実際、約一日しか経過していない。
ノークの言いたいことは分からないわけでもないが、何て返したものか。
「あのさ、イアンさんたちは悪くないでしょ。悪いのは、無茶して怪我した兄さんなんだし」
「いちいち大袈裟なんだよ。大体、俺は怪我したって、すぐ治ることくらい知ってるだろうが」
「ちょっと。心配して来たのに、何でそう言われなくちゃいけないの? 空間魔法の影響で治療できなかった兄さんの治療をしたのは、どこの誰だと思ってるのさ」
『破壊と再生』を言いくるめて影響を無くし、基礎治癒力の底上げとかをしながら、治っていなかった場所を治したというのに――
「……」
そっと目を逸らすノークを、じーっとキソラは見つめる。
「つ、つーか、学院の方はどうした。そろそろ向かわないと間に合わないだろ」
「……話を逸らさない。けどまあ、ご心配なく。余裕で間に合いますから」
今から学院に向かったとしても、時間にはまだ余裕がある。
「なら、良いが……迷惑も心配も掛けて悪かった。奴らが学院方面に来てたのなら、お前にも一言言っておくべきだったんだよな」
「まあ、そうなんだけどさ。兄さんたちも、何か考えがあったから話さなかったんでしょ?」
それが分からないほど、短い付き合いではない。
「それに、私が本当に、何も知らなかったとでも?」
人差し指で上を示しながら、キソラは言う。
「……お前には、全て筒抜けだったってわけか」
「事件の原因や全貌は知らないよ? 知ってるのは、あの大猿公が十年前の件を忘れていたことと、兄さんを怪我させたことだけ」
歌は聞こえていたはずだから、キソラが関わっていたことは知っているはずだ。
中級精霊である大猿公ライフが、キソラを排除しようとして、逆に反撃されて大怪我を負ったのをシルフィードが見ていたし、彼女が『あの場』にまで運んできたのをノークは知っている。
「大猿公をクソザルと言うのは、お前ぐらいだぞ」
「でしょうね」
呆れたように言うノークに、キソラは否定するつもりはない。
「さて、と。時間は早いけど朝食に行ってくるよ。そのまま、学院に向かうから」
「分かった」
「イアンさん、レオンさん。大変かと思いますが、後のこと、よろしくお願いします」
「うん、任せて」
「……やっぱり、バレてたか。ああ、任せろ」
キソラの言葉に、イアンが了承し、レオンが体を起こしながら返す。
「それじゃあ、兄さん。仮にも怪我人なんだから、無茶しないこと。いいね?」
部屋を出て行こうと立ち上がりながら、最後に釘を刺すことも忘れない。
「それでは」
キソラは短くそう告げ、ぱたん、と音を立てて、ドアが閉まる。
「良いよなぁ……あんな娘が妹で。俺も妹が欲しかったよ」
「やらんぞ」
キソラが出ていった扉を見ながら呟いたイアンに、ノークが即答する。
その時のノークの目が地味に怖かったのだが、彼の方を見ていないイアンは気づかないし、そのことを知らない。
「けど、そうなると敵やライバルは多そうだな」
「レオン!?」
笑いながら言うレオンに、二人がぎょっとする。
「つか、ノークよ。俺さ、聞いてみたかったんだけど」
「ん?」
「もし、キソラちゃんがさ。彼氏連れてきたりしたら、どうするわけ?」
そんなイアンの問いに、レオンが軽く肩を叩き、首を横に振る。
「相手次第だな」
それでも、にこにこと答えるノークを見て、質問を間違えた、と目を逸らしたくなるイアン。
「だが、無視できることでもないだろ。お前はどうするつもりなんだ?」
「ん?」
「あの娘もそうだが、お前にも時間があるようで無いようなものだろ。――俺の言いたいこと、分からないわけじゃないだろ?」
「ああ。けど俺は、普通の騎士じゃない。空間魔導師でもある以上、下手に相手は選べない」
もし、ノークが特定の誰かを相手に選べば、その相手は一時的に注目されるだろうし、無数の目にも晒されることだろう。
それがたとえ、キソラが兄の相手として認めた女性であっても、『彼女』への注目や噂は、どんなに凄い魔導師でもそう簡単に払拭できないはずだ。
「その点は否定しないが、一人ぐらい気になる奴はいないのか? 相手に余っ程のことが無ければ、キソラちゃんは反対しないだろ」
「いない。つーか、今の職場で出会いがあると思うか? まだ学院の時の方があったわ」
「まぁなぁ。騎士団に居る女性陣って、料理は美味いのにモンスター相手にも怯まないしさ。俺らが肩身狭い思いすることもあるしさ……」
「自分で言っておいて、悲しそうな顔をするな。こっちまで空しくなる」
出会い云々について話し始めてみれば、イアンが自分の言葉でどんどん落ち込んでいく。
そんな彼に、レオンがそう返し、ノークが溜め息を吐く。
「もうすぐ、夏本番か」
☆★☆
さて一方で、ノークが休んでいた部屋を、一足先に出たキソラは、といえば――
「御馳走様でした」
食堂での朝食を終えていた。
「あれ? まだ居たんだ」
「あ、アクアさん。……と、キャラベルさん?」
珍しい組み合わせに、キソラが不思議そうにする。
「はーい☆ キャラベルちゃんでーす☆」
「まだ早朝に入る時間なのに元気ですね……」
「早朝って……今は六時だけど、普通に朝に入るでしょ」
時間を見てみれば、確かに六時である。
「あと、兄さんなら目が覚めましたから、時間が空いている時で良いので、話し相手になりに行ってあげてください」
「りょーかい☆ キソラちゃんは? どうするの?」
「距離とか準備とかがあるので、そろそろ学院に向かわないと、遅刻しちゃいますから」
「そっか。気をつけてね」
「はい」
二人と話し終えれば、キソラは食堂を出て、廊下を歩いていく。
ちょっとした怒りはあれど、レオナとライフ、ノークを刺した奴に会うつもりはない。
捕まったまま、暇を持て余している空間魔導師たちを相手に、どうにか出来るとも思えないし、自分が行ったところで得られる情報など限られているからだ。
ふわり、と黒混じりの紺色の髪が舞う。
目的地である学院までは、まだ距離があるが、今から出れば余裕で間に合う距離でもある。
そして、「行ってきます」という挨拶は無いが、キソラは先程まで居た建物に目を向けることだけで止め、小さく笑みを浮かべると、再度学院に向かって、歩き出すのだった。
目が覚めて、白い天井をぼんやりと見つめる。
天井から軽く目を動かせば、椅子に座り、ベッドに凭れながら眠るキソラと、彼女と同じように椅子に座りながらも室内にある棚に凭れていたり、ソファーで眠る友人たちが居ることにノークは気付く。
キソラに掛けられた毛布は、イアンかレオンのどちらかが掛けてやったのだろう。
「……」
それにしても、静かな室内である。
「……俺相手に、寝てる振りはしなくていいぞ」
ノークが主に友人たちに向かって声を掛ければ、棚に凭れていた方――イアンがそっと目を開く。
「おはよう、騎士様。やっと、お目覚めか」
にやりとしながら、イアンが言う。
「茶化すな。それより――」
目線で、キソラが居る理由を問うノークに、イアンは答えるために口を開く。
「学院の方に連絡が行ったんだよ。お前の能力の影響で、他の怪我人たちに治癒魔法が使えなかったから、対処できるキソラちゃんが来たんだよ。それに、他の奴らの様子も見ながら、お前の怪我を治したり、様子を見に来たりしていたんだから、責めてはやるなよ。――かなり、心配していたんだから」
誰が、という主語を抜いたり、多少、嘘も交えながら答えるイアンだが、ほとんど言っていることは間違ってはないし、キソラが自分のせいだと気にしていたことは話してないので、後でそのことについて責められても許されるはずだ。
そんなイアンのキソラに向けられている視線から何かを察しつつ、「そうか」と返して、ノークが彼女の頭を撫でれば、ぴくりと反応する。
「ん……あれ? 兄さん、起きたんだ……」
射し込んだ日差しのせいか、二人の話し声が聞こえたのか。キソラが目を擦りながら、ノークに声を掛ける。
「おかげさまでな」
寝ているときの体勢が体勢だったためか、欠伸をした後に肩を回したりするキソラに苦笑いしながら礼を言うノーク。
「それにしても、お前ら。何日か経つまでに目覚めたら伝えるな、って言っただろうが……」
「けどなぁ……」
確かに、イアンたちはノークが何日か経っても目覚めなかったら、キソラを呼ぶという約束はしたし、実際、約一日しか経過していない。
ノークの言いたいことは分からないわけでもないが、何て返したものか。
「あのさ、イアンさんたちは悪くないでしょ。悪いのは、無茶して怪我した兄さんなんだし」
「いちいち大袈裟なんだよ。大体、俺は怪我したって、すぐ治ることくらい知ってるだろうが」
「ちょっと。心配して来たのに、何でそう言われなくちゃいけないの? 空間魔法の影響で治療できなかった兄さんの治療をしたのは、どこの誰だと思ってるのさ」
『破壊と再生』を言いくるめて影響を無くし、基礎治癒力の底上げとかをしながら、治っていなかった場所を治したというのに――
「……」
そっと目を逸らすノークを、じーっとキソラは見つめる。
「つ、つーか、学院の方はどうした。そろそろ向かわないと間に合わないだろ」
「……話を逸らさない。けどまあ、ご心配なく。余裕で間に合いますから」
今から学院に向かったとしても、時間にはまだ余裕がある。
「なら、良いが……迷惑も心配も掛けて悪かった。奴らが学院方面に来てたのなら、お前にも一言言っておくべきだったんだよな」
「まあ、そうなんだけどさ。兄さんたちも、何か考えがあったから話さなかったんでしょ?」
それが分からないほど、短い付き合いではない。
「それに、私が本当に、何も知らなかったとでも?」
人差し指で上を示しながら、キソラは言う。
「……お前には、全て筒抜けだったってわけか」
「事件の原因や全貌は知らないよ? 知ってるのは、あの大猿公が十年前の件を忘れていたことと、兄さんを怪我させたことだけ」
歌は聞こえていたはずだから、キソラが関わっていたことは知っているはずだ。
中級精霊である大猿公ライフが、キソラを排除しようとして、逆に反撃されて大怪我を負ったのをシルフィードが見ていたし、彼女が『あの場』にまで運んできたのをノークは知っている。
「大猿公をクソザルと言うのは、お前ぐらいだぞ」
「でしょうね」
呆れたように言うノークに、キソラは否定するつもりはない。
「さて、と。時間は早いけど朝食に行ってくるよ。そのまま、学院に向かうから」
「分かった」
「イアンさん、レオンさん。大変かと思いますが、後のこと、よろしくお願いします」
「うん、任せて」
「……やっぱり、バレてたか。ああ、任せろ」
キソラの言葉に、イアンが了承し、レオンが体を起こしながら返す。
「それじゃあ、兄さん。仮にも怪我人なんだから、無茶しないこと。いいね?」
部屋を出て行こうと立ち上がりながら、最後に釘を刺すことも忘れない。
「それでは」
キソラは短くそう告げ、ぱたん、と音を立てて、ドアが閉まる。
「良いよなぁ……あんな娘が妹で。俺も妹が欲しかったよ」
「やらんぞ」
キソラが出ていった扉を見ながら呟いたイアンに、ノークが即答する。
その時のノークの目が地味に怖かったのだが、彼の方を見ていないイアンは気づかないし、そのことを知らない。
「けど、そうなると敵やライバルは多そうだな」
「レオン!?」
笑いながら言うレオンに、二人がぎょっとする。
「つか、ノークよ。俺さ、聞いてみたかったんだけど」
「ん?」
「もし、キソラちゃんがさ。彼氏連れてきたりしたら、どうするわけ?」
そんなイアンの問いに、レオンが軽く肩を叩き、首を横に振る。
「相手次第だな」
それでも、にこにこと答えるノークを見て、質問を間違えた、と目を逸らしたくなるイアン。
「だが、無視できることでもないだろ。お前はどうするつもりなんだ?」
「ん?」
「あの娘もそうだが、お前にも時間があるようで無いようなものだろ。――俺の言いたいこと、分からないわけじゃないだろ?」
「ああ。けど俺は、普通の騎士じゃない。空間魔導師でもある以上、下手に相手は選べない」
もし、ノークが特定の誰かを相手に選べば、その相手は一時的に注目されるだろうし、無数の目にも晒されることだろう。
それがたとえ、キソラが兄の相手として認めた女性であっても、『彼女』への注目や噂は、どんなに凄い魔導師でもそう簡単に払拭できないはずだ。
「その点は否定しないが、一人ぐらい気になる奴はいないのか? 相手に余っ程のことが無ければ、キソラちゃんは反対しないだろ」
「いない。つーか、今の職場で出会いがあると思うか? まだ学院の時の方があったわ」
「まぁなぁ。騎士団に居る女性陣って、料理は美味いのにモンスター相手にも怯まないしさ。俺らが肩身狭い思いすることもあるしさ……」
「自分で言っておいて、悲しそうな顔をするな。こっちまで空しくなる」
出会い云々について話し始めてみれば、イアンが自分の言葉でどんどん落ち込んでいく。
そんな彼に、レオンがそう返し、ノークが溜め息を吐く。
「もうすぐ、夏本番か」
☆★☆
さて一方で、ノークが休んでいた部屋を、一足先に出たキソラは、といえば――
「御馳走様でした」
食堂での朝食を終えていた。
「あれ? まだ居たんだ」
「あ、アクアさん。……と、キャラベルさん?」
珍しい組み合わせに、キソラが不思議そうにする。
「はーい☆ キャラベルちゃんでーす☆」
「まだ早朝に入る時間なのに元気ですね……」
「早朝って……今は六時だけど、普通に朝に入るでしょ」
時間を見てみれば、確かに六時である。
「あと、兄さんなら目が覚めましたから、時間が空いている時で良いので、話し相手になりに行ってあげてください」
「りょーかい☆ キソラちゃんは? どうするの?」
「距離とか準備とかがあるので、そろそろ学院に向かわないと、遅刻しちゃいますから」
「そっか。気をつけてね」
「はい」
二人と話し終えれば、キソラは食堂を出て、廊下を歩いていく。
ちょっとした怒りはあれど、レオナとライフ、ノークを刺した奴に会うつもりはない。
捕まったまま、暇を持て余している空間魔導師たちを相手に、どうにか出来るとも思えないし、自分が行ったところで得られる情報など限られているからだ。
ふわり、と黒混じりの紺色の髪が舞う。
目的地である学院までは、まだ距離があるが、今から出れば余裕で間に合う距離でもある。
そして、「行ってきます」という挨拶は無いが、キソラは先程まで居た建物に目を向けることだけで止め、小さく笑みを浮かべると、再度学院に向かって、歩き出すのだった。
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