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第三章・前章、夏休み~校内大会・帝国編~
第八十八話:同行報告
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次の休み、キソラは一人、登城していた。
「先日の件について、ご返事をしに参りました」
国王陛下直々とも言っても良い、とある件の返事をするためである。
「そうか。で、返事は?」
「引き受けさせてもらいます」
予想通りと言うべきか、何と言うべきか。
「分かった。同行するのは、カーマインとアイゼンの二人だから、後で報告も兼ねて顔でも出してこい。特にアイゼンの奴がひねくれかねんから、話し相手もしてくれると助かる」
「あ、あの、その前にですね。行くのはお二人なのですか?」
「そうだが?」
その返しに、キソラは少しばかり思案する。
(向かうのは帝国で、護衛対象となる王族は二人……)
ただでさえ王族一人に付く護衛は多いというのに、帝国に向かう王族が二人とは、護衛に付く騎士たちの数も馬鹿にならないのではないのだろうか。
「あの、陛下。全ては話してみてから返事次第なのですが、せめて、もう一人だけ、誰か……空間魔導師を付けては駄目でしょうか?」
「それは、こちらから頼みたいぐらいだが、引き受けてくれそうなのか?」
キソラとしても、その点が気掛かりだが、話ぐらいは聞いてくれるはずだ。
「ダメ元で話してみますが、引き受けてくれた場合、おそらく出発時に顔を合わせることになるかもしれません」
「そうか。なら、そちらのことはそちらに任せるとしよう」
「了解しました」
「それと……」
気まずそうにする国王に、キソラは内心首を傾げる。
「悪いな。せっかくの長期休みをこっちのために使わせて。友人たちとの約束もあっただろうに」
「話したら、ちゃんと分かってくれたので大丈夫ですよ」
心配はされたが。
「ならいいが、学校生活の邪魔をして、楽しめていないなら、それはそれで問題だったからな」
国王がこう言った理由は、王弟であるアイゼンが以前、
『もし、彼女が引き受けに来たら、謝っといた方が良い。他の空間魔導師たちを敵に回す前に』
と言ったこともあるのだが、彼女の先程までの話を聞く限り、キソラ本人は他の空間魔導師たちには話していないようなので、今はそんなに気にすることも、心配することも無いのだろうが。
「私はちゃんと、楽しませていただいてますよ」
だから、アキトやノエルたちと知り合えたし、アークと『ゲーム』なんてものの相棒になりはしたが、関わるはずの無かった者たちとも関われたりと、キソラにとって、楽しいことには変わりない。
「ですから、陛下。帝国行きに関しては、私からの一つの恩返しだとでも思っておいてくださいな」
そして、国王の執務室から出たキソラは、最初に誰に連絡すればいいのかを考える。
(兄さんは……駄目だよなぁ)
ノークだけでなく、イアンやレオンが居ないこともキソラは知っているのだが、表向き仕事で城を離れている以上、護衛の件など頼めるはずもない。
「っ、!?」
ふと感じた気配に、キソラは思わず周囲を見回してしまう。
(まさか、『ゲーム』関係者が居る?)
学院外には居るとは思っていたが、王族も住む、警備も厳しい城に居るとは思っていなかった。
(契約者は……王族の可能性もあるよなぁ)
背中から羽を出さない限り、一般人と然程変わらないから、何も知らなければ貴族か王族の友人とでも勘違いするのではないのだろうか。
(まぁ、害にならなきゃ良いか)
デュールのようなタイプなら、警戒する必要はあるだろうが、接触してくるような気配も無いため、キソラはとりあえず放置することに決めた。
それよりも、だ。
「……」
キソラは今、非常に逃げ出したくて堪らなかった。
「遠慮せずに入ってくれば良いだろ」
「……仮にも王族が、自分で扉を開けるとは何事ですか。カーマイン殿下」
「お前が俺に開けさせたって、分かってるか?」
「貴方には補佐官が居るでしょう?」
大抵は手際良く熟すカーマインだが、彼にもちゃんとした補佐官は居る。
「あいつは別件で不在だ」
「それなら、なおさら気を付けてくださいよ。襲われたらどうするんですか」
「お前が治してくれるんだろ?」
否定するつもりはないが、どこからそんな自信が出てくるのか、疑問である。
「それに、何か話があったんだろ? さっさと入って話せ」
「部屋の前で話すのを長引かせた原因は、あんたにもあるんだが」と思いつつ、キソラは部屋に入る。
「相変わらずの無防備っぷりだな」
「もし、殿下が私に手を出したりしたら、お嫌いな面倒事しか待っていませんよ。まあ、そんなことはどうでもいいので、本題に入らさせて頂きますが、今回は帝国行きの件で参りました」
「……お前、俺が好きなのか嫌いなのか、よく分からん時があるんだが」
それを聞いて、ふむ、とキソラは思う。
「殿下のことは好きですよ」
「っ、」
キソラの思わぬ告白に、カーマインにしては珍しく硬直して、ティーカップを落としてしまう。
「ああもう……大丈夫ですか? 怪我してませんよね?」
近くにメイドたちが居ないため、キソラが割れたティーカップを、手際良く片付けていく。
「さっきの、だが……」
「『好き』だって言った、アレですか? あれは、『好き』か『嫌い』かの二択で言えば、どちらかと言えば『好き』な方であり、友人としての『好き』なので、恋愛的な意味は一切ありませんから」
それはもう、ばっさりと切り捨てた。
この場での唯一の救いは、カーマインがキソラに恋愛的感情を抱いてないことであるのだが、それでも彼には少なからずダメージを与えることとなった。
「本当、容赦ないよな。お前」
「仮に嘘でも、恋愛的意味で『好き』って、言ってほしかったですか?」
「もし、本当に恋愛的意味で『好き』だって言ったなら……」
二人の視線が重なる。
「せっかくだし、貰ってやろうかと思ってたのにな」
そんなカーマインの言葉に、キソラは笑みを浮かべる。
「でも、面倒事はお嫌いでしょ? カーマイン殿下」
幼い頃からの知り合いなのだ。途中で、その『想い』が変わったとしても、キソラにとってカーマインという人物に対する『想い』は、恋愛より親愛の方が大きい。
「ですが、帝国行きには同行させてもらいます。貴方を一人、死地には行かせませんから」
「……そうかよ」
行き先が行き先だけに、キソラが警戒するのも無理はなかった。
「……あと、お互いにフリーで行き遅れになったら、約束はちゃんと守ってくださいよ」
目を逸らしながら、そう告げる。
ノークのことだから、キソラが最低でも恋人が出来るまでは結婚しないとか言い出しそうなので(ただ、反論するときは、ノークの相手に関しては触れないようにする)、そうならないための布石でもあるのだが。
「言ったな? 忘れるなよ。その言葉」
「お互いに、ですからね?」
もし本当にそうなれば、面倒しか無いのだろうが、大丈夫な気がするのは何故だろうか。
「……もしかしたら、兄さんを説得する必要があるかもしれないので、覚悟しておいてください」
「あいつを、か。結局、お前を貰う奴はあいつに会わんと行けないんだろうな」
「あれでも、父親代わりもしてくれてましたから。それに、ギルド長たちよりはマシだと思ってくれないと」
あの三人を相手にするとなると、キソラの相手となる者が一気に可哀想になってくる。
「ってことは何か。俺は叔父上に許可貰わんといかんのか?」
「殿下がもし挨拶するとなると、相手はアイゼン殿下より、兄さんやギルド長じゃないと駄目だと思いますよ」
何故だろう。すでにラスボスの姿らしきものが見えているのは気のせいか。
「……お前の、実際の相手は苦労しそうだな」
「その前に、私を惚れさせないと意味ないですけどね」
「それは、その通りだと思うが、何でお前が自信満々なんだ。特に鈍感とかいうわけでもないだろ」
カーマインも言う通り、キソラならそれっぽいことを言っても好意には気づくだろうが、基本的に相手にはしないだろう。
「それ、本人に直接聞いちゃいます? 鈍感な人って、自分が鈍感だって分からないみたいですから、私も本当は鈍感かもしれませんよ?」
「そう言ってる時点で、鈍感じゃ無いと思うんだが……もうこの話は止めよう。終わりが見えんくなってきた」
カーマインは溜め息混じりに話を終わらせる。
本当なら、この妹分にも用事があったかもしれないし、ずっと拘束しておくわけにも行かない。
「そうですね。この後、アイゼン殿下の所に行かないといけないんで。……カーム兄様、一緒に行きません?」
「行かん。お前がそういう呼び方をするときは、大抵碌なことが起きた試しがない」
「酷いなぁ」
だが、キソラも理解しているので、無理には誘わない。
「では、そろそろ行きますが、帝国行きの件、もう一人増えるかもしれないので」
「は?」
カーマインが問い返す前に、キソラは部屋を後にした。
☆★☆
「……それで、あいつらは知ってるのか」
「話してませんもん。知るわけないじゃないですか」
帝国行きについて、キソラから報告を受けていたアイゼンは、頭を抱えていた。
何故、言っておいた方が良い二人に言ってないのか。特に学院に居る以上、学院長には言えるチャンスなど、山ほどあっただろうに。
「帝国に行く前に、死ぬかもしれないなぁ」
「大丈夫ですよ。怪我しても、私が治しますから」
「うん、時としてそれは拷問になりかねないから、気を付けなさい」
アイゼンはそう言うが、時折、純粋な目を向けてくるから、やりにくい。
本当、あの二人に似てほしくないところまで似てしまった娘である。
(どうしたものか)
母親譲りの迷宮管理者と空間魔導師としての才、父親譲りの戦闘能力と切り替えの早さ。
そして、あの二人は優しく、仲間思いでもあり。それはもう、ぽっきりと折れたら、ダメージが大きくなるのが予想できるぐらい真っ直ぐで。
非情な現実にも前を向ける強さもあって。
(俺たち、間違えてないよな?)
あの二人が一緒だったら、何を言い、どうしていただろうか。
「キソラ」
「はい」
「ちゃんと、一緒に帰ってこような。ノークのためにも」
「もちろんですよ」
何を言ってるんだと言いたげな彼女には悪いが、ちゃんとキソラを連れて帰ってこないと、ノークよりもあの二人に呪われそうで怖いのだ。
(まあ、恨まれても仕方ないことを、これからやるんだがな)
敵国へ向かうなんて真似、何で兄であり男であるノークではなく、妹であり女であるキソラが選ばれたのかは、単に二人の居る位置の問題ではあるのだが、それでも、彼女が一生消えないような怪我を負ったら、目も当てられない。
(それならせめて、お前らが守るぐらいしてみろってんだ)
任せっぱなしではなく、手が届くのなら、自分たちの子供たちを守ってみろ。
じゃないと、自分たちの手が離れたとき、どうすることもできない。
「それなら、自分の身も含めて、しっかりと頼むよ。空間魔導師殿」
今のアイゼンには、キソラに向けて、それぐらいしか言えないから。
「任せてください……?」
そう返せば、アイゼンから頭を撫でられるのだが、理由が分からず、キソラは一人、疑問符を浮かべるしかなく。
だが、今の彼女にはそれで良いと、アイゼンは笑みを浮かべて誤魔化すのだった。
「先日の件について、ご返事をしに参りました」
国王陛下直々とも言っても良い、とある件の返事をするためである。
「そうか。で、返事は?」
「引き受けさせてもらいます」
予想通りと言うべきか、何と言うべきか。
「分かった。同行するのは、カーマインとアイゼンの二人だから、後で報告も兼ねて顔でも出してこい。特にアイゼンの奴がひねくれかねんから、話し相手もしてくれると助かる」
「あ、あの、その前にですね。行くのはお二人なのですか?」
「そうだが?」
その返しに、キソラは少しばかり思案する。
(向かうのは帝国で、護衛対象となる王族は二人……)
ただでさえ王族一人に付く護衛は多いというのに、帝国に向かう王族が二人とは、護衛に付く騎士たちの数も馬鹿にならないのではないのだろうか。
「あの、陛下。全ては話してみてから返事次第なのですが、せめて、もう一人だけ、誰か……空間魔導師を付けては駄目でしょうか?」
「それは、こちらから頼みたいぐらいだが、引き受けてくれそうなのか?」
キソラとしても、その点が気掛かりだが、話ぐらいは聞いてくれるはずだ。
「ダメ元で話してみますが、引き受けてくれた場合、おそらく出発時に顔を合わせることになるかもしれません」
「そうか。なら、そちらのことはそちらに任せるとしよう」
「了解しました」
「それと……」
気まずそうにする国王に、キソラは内心首を傾げる。
「悪いな。せっかくの長期休みをこっちのために使わせて。友人たちとの約束もあっただろうに」
「話したら、ちゃんと分かってくれたので大丈夫ですよ」
心配はされたが。
「ならいいが、学校生活の邪魔をして、楽しめていないなら、それはそれで問題だったからな」
国王がこう言った理由は、王弟であるアイゼンが以前、
『もし、彼女が引き受けに来たら、謝っといた方が良い。他の空間魔導師たちを敵に回す前に』
と言ったこともあるのだが、彼女の先程までの話を聞く限り、キソラ本人は他の空間魔導師たちには話していないようなので、今はそんなに気にすることも、心配することも無いのだろうが。
「私はちゃんと、楽しませていただいてますよ」
だから、アキトやノエルたちと知り合えたし、アークと『ゲーム』なんてものの相棒になりはしたが、関わるはずの無かった者たちとも関われたりと、キソラにとって、楽しいことには変わりない。
「ですから、陛下。帝国行きに関しては、私からの一つの恩返しだとでも思っておいてくださいな」
そして、国王の執務室から出たキソラは、最初に誰に連絡すればいいのかを考える。
(兄さんは……駄目だよなぁ)
ノークだけでなく、イアンやレオンが居ないこともキソラは知っているのだが、表向き仕事で城を離れている以上、護衛の件など頼めるはずもない。
「っ、!?」
ふと感じた気配に、キソラは思わず周囲を見回してしまう。
(まさか、『ゲーム』関係者が居る?)
学院外には居るとは思っていたが、王族も住む、警備も厳しい城に居るとは思っていなかった。
(契約者は……王族の可能性もあるよなぁ)
背中から羽を出さない限り、一般人と然程変わらないから、何も知らなければ貴族か王族の友人とでも勘違いするのではないのだろうか。
(まぁ、害にならなきゃ良いか)
デュールのようなタイプなら、警戒する必要はあるだろうが、接触してくるような気配も無いため、キソラはとりあえず放置することに決めた。
それよりも、だ。
「……」
キソラは今、非常に逃げ出したくて堪らなかった。
「遠慮せずに入ってくれば良いだろ」
「……仮にも王族が、自分で扉を開けるとは何事ですか。カーマイン殿下」
「お前が俺に開けさせたって、分かってるか?」
「貴方には補佐官が居るでしょう?」
大抵は手際良く熟すカーマインだが、彼にもちゃんとした補佐官は居る。
「あいつは別件で不在だ」
「それなら、なおさら気を付けてくださいよ。襲われたらどうするんですか」
「お前が治してくれるんだろ?」
否定するつもりはないが、どこからそんな自信が出てくるのか、疑問である。
「それに、何か話があったんだろ? さっさと入って話せ」
「部屋の前で話すのを長引かせた原因は、あんたにもあるんだが」と思いつつ、キソラは部屋に入る。
「相変わらずの無防備っぷりだな」
「もし、殿下が私に手を出したりしたら、お嫌いな面倒事しか待っていませんよ。まあ、そんなことはどうでもいいので、本題に入らさせて頂きますが、今回は帝国行きの件で参りました」
「……お前、俺が好きなのか嫌いなのか、よく分からん時があるんだが」
それを聞いて、ふむ、とキソラは思う。
「殿下のことは好きですよ」
「っ、」
キソラの思わぬ告白に、カーマインにしては珍しく硬直して、ティーカップを落としてしまう。
「ああもう……大丈夫ですか? 怪我してませんよね?」
近くにメイドたちが居ないため、キソラが割れたティーカップを、手際良く片付けていく。
「さっきの、だが……」
「『好き』だって言った、アレですか? あれは、『好き』か『嫌い』かの二択で言えば、どちらかと言えば『好き』な方であり、友人としての『好き』なので、恋愛的な意味は一切ありませんから」
それはもう、ばっさりと切り捨てた。
この場での唯一の救いは、カーマインがキソラに恋愛的感情を抱いてないことであるのだが、それでも彼には少なからずダメージを与えることとなった。
「本当、容赦ないよな。お前」
「仮に嘘でも、恋愛的意味で『好き』って、言ってほしかったですか?」
「もし、本当に恋愛的意味で『好き』だって言ったなら……」
二人の視線が重なる。
「せっかくだし、貰ってやろうかと思ってたのにな」
そんなカーマインの言葉に、キソラは笑みを浮かべる。
「でも、面倒事はお嫌いでしょ? カーマイン殿下」
幼い頃からの知り合いなのだ。途中で、その『想い』が変わったとしても、キソラにとってカーマインという人物に対する『想い』は、恋愛より親愛の方が大きい。
「ですが、帝国行きには同行させてもらいます。貴方を一人、死地には行かせませんから」
「……そうかよ」
行き先が行き先だけに、キソラが警戒するのも無理はなかった。
「……あと、お互いにフリーで行き遅れになったら、約束はちゃんと守ってくださいよ」
目を逸らしながら、そう告げる。
ノークのことだから、キソラが最低でも恋人が出来るまでは結婚しないとか言い出しそうなので(ただ、反論するときは、ノークの相手に関しては触れないようにする)、そうならないための布石でもあるのだが。
「言ったな? 忘れるなよ。その言葉」
「お互いに、ですからね?」
もし本当にそうなれば、面倒しか無いのだろうが、大丈夫な気がするのは何故だろうか。
「……もしかしたら、兄さんを説得する必要があるかもしれないので、覚悟しておいてください」
「あいつを、か。結局、お前を貰う奴はあいつに会わんと行けないんだろうな」
「あれでも、父親代わりもしてくれてましたから。それに、ギルド長たちよりはマシだと思ってくれないと」
あの三人を相手にするとなると、キソラの相手となる者が一気に可哀想になってくる。
「ってことは何か。俺は叔父上に許可貰わんといかんのか?」
「殿下がもし挨拶するとなると、相手はアイゼン殿下より、兄さんやギルド長じゃないと駄目だと思いますよ」
何故だろう。すでにラスボスの姿らしきものが見えているのは気のせいか。
「……お前の、実際の相手は苦労しそうだな」
「その前に、私を惚れさせないと意味ないですけどね」
「それは、その通りだと思うが、何でお前が自信満々なんだ。特に鈍感とかいうわけでもないだろ」
カーマインも言う通り、キソラならそれっぽいことを言っても好意には気づくだろうが、基本的に相手にはしないだろう。
「それ、本人に直接聞いちゃいます? 鈍感な人って、自分が鈍感だって分からないみたいですから、私も本当は鈍感かもしれませんよ?」
「そう言ってる時点で、鈍感じゃ無いと思うんだが……もうこの話は止めよう。終わりが見えんくなってきた」
カーマインは溜め息混じりに話を終わらせる。
本当なら、この妹分にも用事があったかもしれないし、ずっと拘束しておくわけにも行かない。
「そうですね。この後、アイゼン殿下の所に行かないといけないんで。……カーム兄様、一緒に行きません?」
「行かん。お前がそういう呼び方をするときは、大抵碌なことが起きた試しがない」
「酷いなぁ」
だが、キソラも理解しているので、無理には誘わない。
「では、そろそろ行きますが、帝国行きの件、もう一人増えるかもしれないので」
「は?」
カーマインが問い返す前に、キソラは部屋を後にした。
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「……それで、あいつらは知ってるのか」
「話してませんもん。知るわけないじゃないですか」
帝国行きについて、キソラから報告を受けていたアイゼンは、頭を抱えていた。
何故、言っておいた方が良い二人に言ってないのか。特に学院に居る以上、学院長には言えるチャンスなど、山ほどあっただろうに。
「帝国に行く前に、死ぬかもしれないなぁ」
「大丈夫ですよ。怪我しても、私が治しますから」
「うん、時としてそれは拷問になりかねないから、気を付けなさい」
アイゼンはそう言うが、時折、純粋な目を向けてくるから、やりにくい。
本当、あの二人に似てほしくないところまで似てしまった娘である。
(どうしたものか)
母親譲りの迷宮管理者と空間魔導師としての才、父親譲りの戦闘能力と切り替えの早さ。
そして、あの二人は優しく、仲間思いでもあり。それはもう、ぽっきりと折れたら、ダメージが大きくなるのが予想できるぐらい真っ直ぐで。
非情な現実にも前を向ける強さもあって。
(俺たち、間違えてないよな?)
あの二人が一緒だったら、何を言い、どうしていただろうか。
「キソラ」
「はい」
「ちゃんと、一緒に帰ってこような。ノークのためにも」
「もちろんですよ」
何を言ってるんだと言いたげな彼女には悪いが、ちゃんとキソラを連れて帰ってこないと、ノークよりもあの二人に呪われそうで怖いのだ。
(まあ、恨まれても仕方ないことを、これからやるんだがな)
敵国へ向かうなんて真似、何で兄であり男であるノークではなく、妹であり女であるキソラが選ばれたのかは、単に二人の居る位置の問題ではあるのだが、それでも、彼女が一生消えないような怪我を負ったら、目も当てられない。
(それならせめて、お前らが守るぐらいしてみろってんだ)
任せっぱなしではなく、手が届くのなら、自分たちの子供たちを守ってみろ。
じゃないと、自分たちの手が離れたとき、どうすることもできない。
「それなら、自分の身も含めて、しっかりと頼むよ。空間魔導師殿」
今のアイゼンには、キソラに向けて、それぐらいしか言えないから。
「任せてください……?」
そう返せば、アイゼンから頭を撫でられるのだが、理由が分からず、キソラは一人、疑問符を浮かべるしかなく。
だが、今の彼女にはそれで良いと、アイゼンは笑みを浮かべて誤魔化すのだった。
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