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第三章・前章、夏休み~校内大会・帝国編~
第八十.五話:彼と相棒の会話
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「おい、ナツキ。『空間魔導師』とは何だ」
帰ってきて早々、『ゲーム』の相棒にして契約者であるデュールからそう尋ねられた主、ナツキ・ルーデンベルグは固まった。
「……何だ。いきなり」
いや、聞くまでもない。おそらく、『彼女』と会ったのだろう。
「『奴』をようやく見つけたと思ったら、変な女に邪魔をされてな。お前に『空間魔導師』について聞いてみろと言われた」
「ああ……そういうことか」
女、と聞いて、やっぱり彼女か、と思えば、今度は聞いてみろと言われて、また面倒なことを押しつけてきたな、とナツキは思ってしまった。
だが、デュールのことである。見つけた相手を必要以上に痛めつけたのだろう。
それが偶然にも、『彼女』の相棒兼契約者だっただけで。
(まあ、参加者だったことにも驚いたけどな)
ただ、『空間魔導師』である彼女を、相棒に出来た『異世界からの来訪者』は運が良いと思うが。
「『空間魔導師』について、か。簡単に言えば、この世界で最強とされている魔導師だよ」
「最強?」
「現在は九人居るとされているけど、きちんと把握はされてないし、空間魔導師たちも把握しているかどうかも不明。ただ、お前が会ったのが学院の敷地内なら、間違いなく学院に在籍している『彼女』だろうがな」
学院内なら、『彼女』で間違いないはずだ、とナツキは思う。
「……」
「あと、悪いことは言わない。関わるなとまでは言わないが、手だけは出すなよ。俺も彼女の相手はしたくない」
ナツキの脳裏に甦るのは、初等部の時の出来事。
運良く助かって、こうしてこの場に居るが、あの時は恐怖しか感じなかった。
だが、話を聞いたデュールは違ったらしい。
「そうか。そんなに強いのか」
「っ、お前。俺の話、聞いてたか!? 下手したら、死ぬかもしれないんだぞ!?」
デュールの場合、話しただけだから、呑気に言えるのだろう。
だが、ナツキは違う。目の前でその力を発揮されたのだ。
「死ぬ、とまで来たか。だが、かもしれない、んだろ?」
「死んでからだと遅いんだよ。それに、お前は彼女のことを知らないだろうが」
「まあな。だが、あいつが『キソラ』と呼んでいたのは聞いている」
それを聞いて、ナツキは叫びたくなった。
デュールが戦闘中でありながらも、周囲のやり取りを見聞きしていたことに感心するべきか、うっかり彼女の名前を教えることになった状況を責めるべきか。
「そ・れ・で・も、だ。第一、彼女に会って何をするつもりだ」
「何を、だと? そんなの決まっている。あいつの持つ『もの』は奪い、破壊する。それだけだ」
それはつまり、とナツキはデュールから目を逸らす。
「俺は彼女と同じ学院の生徒だ。それに今、彼女は注目を浴びているし、下手に彼女が姿を消せば、みんな不審がるぞ」
だから、彼女に手を出すな。という意味で言ってみれば、くっくっ、とデュールは笑みを浮かべる。
「何だ。気でもあるのか?」
「無いよ。ただ、彼女を本気で消すというなら、俺はお前を止める」
「『ゲーム』にこれまで参加しなかったお前がか?」
「これでも、生徒の中では実力がある方なんでね」
ミルキアフォーク学院二年普通科所属にして、生徒会会計。
それが、ナツキの学院での立ち位置である。
「そして、彼女にお前を殺させるつもりもない」
「この俺に殺気を向けてきたような奴だぞ?」
「だとしてもだ。それに、彼女についてだったら、お前よりは詳しいよ」
接触していなくとも、初等部から高等部まで一緒だったのだ。
(多分、彼女は俺もデュールも殺さない)
『ゲーム』のルールを理解しているのなら、おそらくは。
(一回、話す必要があるかな)
そのためには、勘が働く他の役員たちに気づかれずに、動かなくてはいけない。
(そのためには――)
『ゲーム』を利用するしかないのだろう。いや、『ゲーム』だけではなく、デュールも利用しなくてはいけない。
「くくっ、確かにな。だが、それもまた面白い。それなら、やってみろ。世界最強の魔導師に、お前の実力を示してみるんだな」
この際、デュールが何で偉そうなのかは、横に置いておく。
「ああ。けど、俺のやり方に文句だけは言うなよ」
これだけは譲れない。
求めるのは、勝利でも敗北でもない。引き分けである。
彼女の――キソラの能力を考えると、何としても、引き分けに持ち込んだ方が互いに良いはずだ。
――と、作戦を練り始めた矢先、「あ、整地しとけっていう伝言、忘れてた」と今思い出したらしいデュールに、「ふざけんなぁぁぁぁっ!!」と心の中で思いっきり叫びながら、ナツキは寮の自室から慌てて飛び出して行った。
帰ってきて早々、『ゲーム』の相棒にして契約者であるデュールからそう尋ねられた主、ナツキ・ルーデンベルグは固まった。
「……何だ。いきなり」
いや、聞くまでもない。おそらく、『彼女』と会ったのだろう。
「『奴』をようやく見つけたと思ったら、変な女に邪魔をされてな。お前に『空間魔導師』について聞いてみろと言われた」
「ああ……そういうことか」
女、と聞いて、やっぱり彼女か、と思えば、今度は聞いてみろと言われて、また面倒なことを押しつけてきたな、とナツキは思ってしまった。
だが、デュールのことである。見つけた相手を必要以上に痛めつけたのだろう。
それが偶然にも、『彼女』の相棒兼契約者だっただけで。
(まあ、参加者だったことにも驚いたけどな)
ただ、『空間魔導師』である彼女を、相棒に出来た『異世界からの来訪者』は運が良いと思うが。
「『空間魔導師』について、か。簡単に言えば、この世界で最強とされている魔導師だよ」
「最強?」
「現在は九人居るとされているけど、きちんと把握はされてないし、空間魔導師たちも把握しているかどうかも不明。ただ、お前が会ったのが学院の敷地内なら、間違いなく学院に在籍している『彼女』だろうがな」
学院内なら、『彼女』で間違いないはずだ、とナツキは思う。
「……」
「あと、悪いことは言わない。関わるなとまでは言わないが、手だけは出すなよ。俺も彼女の相手はしたくない」
ナツキの脳裏に甦るのは、初等部の時の出来事。
運良く助かって、こうしてこの場に居るが、あの時は恐怖しか感じなかった。
だが、話を聞いたデュールは違ったらしい。
「そうか。そんなに強いのか」
「っ、お前。俺の話、聞いてたか!? 下手したら、死ぬかもしれないんだぞ!?」
デュールの場合、話しただけだから、呑気に言えるのだろう。
だが、ナツキは違う。目の前でその力を発揮されたのだ。
「死ぬ、とまで来たか。だが、かもしれない、んだろ?」
「死んでからだと遅いんだよ。それに、お前は彼女のことを知らないだろうが」
「まあな。だが、あいつが『キソラ』と呼んでいたのは聞いている」
それを聞いて、ナツキは叫びたくなった。
デュールが戦闘中でありながらも、周囲のやり取りを見聞きしていたことに感心するべきか、うっかり彼女の名前を教えることになった状況を責めるべきか。
「そ・れ・で・も、だ。第一、彼女に会って何をするつもりだ」
「何を、だと? そんなの決まっている。あいつの持つ『もの』は奪い、破壊する。それだけだ」
それはつまり、とナツキはデュールから目を逸らす。
「俺は彼女と同じ学院の生徒だ。それに今、彼女は注目を浴びているし、下手に彼女が姿を消せば、みんな不審がるぞ」
だから、彼女に手を出すな。という意味で言ってみれば、くっくっ、とデュールは笑みを浮かべる。
「何だ。気でもあるのか?」
「無いよ。ただ、彼女を本気で消すというなら、俺はお前を止める」
「『ゲーム』にこれまで参加しなかったお前がか?」
「これでも、生徒の中では実力がある方なんでね」
ミルキアフォーク学院二年普通科所属にして、生徒会会計。
それが、ナツキの学院での立ち位置である。
「そして、彼女にお前を殺させるつもりもない」
「この俺に殺気を向けてきたような奴だぞ?」
「だとしてもだ。それに、彼女についてだったら、お前よりは詳しいよ」
接触していなくとも、初等部から高等部まで一緒だったのだ。
(多分、彼女は俺もデュールも殺さない)
『ゲーム』のルールを理解しているのなら、おそらくは。
(一回、話す必要があるかな)
そのためには、勘が働く他の役員たちに気づかれずに、動かなくてはいけない。
(そのためには――)
『ゲーム』を利用するしかないのだろう。いや、『ゲーム』だけではなく、デュールも利用しなくてはいけない。
「くくっ、確かにな。だが、それもまた面白い。それなら、やってみろ。世界最強の魔導師に、お前の実力を示してみるんだな」
この際、デュールが何で偉そうなのかは、横に置いておく。
「ああ。けど、俺のやり方に文句だけは言うなよ」
これだけは譲れない。
求めるのは、勝利でも敗北でもない。引き分けである。
彼女の――キソラの能力を考えると、何としても、引き分けに持ち込んだ方が互いに良いはずだ。
――と、作戦を練り始めた矢先、「あ、整地しとけっていう伝言、忘れてた」と今思い出したらしいデュールに、「ふざけんなぁぁぁぁっ!!」と心の中で思いっきり叫びながら、ナツキは寮の自室から慌てて飛び出して行った。
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