上 下
84 / 119
第三章・前章、夏休み~校内大会・帝国編~

第八十.五話:彼と相棒の会話

しおりを挟む
「おい、ナツキ。『空間魔導師』とは何だ」

 帰ってきて早々、『ゲーム』の相棒にして契約者であるデュールからそう尋ねられた主、ナツキ・ルーデンベルグは固まった。

「……何だ。いきなり」

 いや、聞くまでもない。おそらく、『彼女』と会ったのだろう。

「『奴』をようやく見つけたと思ったら、変な女に邪魔をされてな。お前に『空間魔導師』について聞いてみろと言われた」
「ああ……そういうことか」

 女、と聞いて、やっぱり彼女か、と思えば、今度は聞いてみろと言われて、また面倒なことを押しつけてきたな、とナツキは思ってしまった。
 だが、デュールのことである。見つけた相手を必要以上に痛めつけたのだろう。
 それが偶然にも、『彼女』の相棒パートナー兼契約者だっただけで。

(まあ、参加者だったことにも驚いたけどな)

 ただ、『空間魔導師』である彼女を、相棒に出来た『異世界からの来訪者』は運が良いと思うが。

「『空間魔導師』について、か。簡単に言えば、この世界で最強とされている魔導師だよ」
「最強?」
「現在は九人居るとされているけど、きちんと把握はされてないし、空間魔導師たちも把握しているかどうかも不明。ただ、お前が会ったのが学院の敷地内なら、間違いなく学院に在籍している『彼女』だろうがな」

 学院内なら、『彼女』で間違いないはずだ、とナツキは思う。

「……」
「あと、悪いことは言わない。関わるなとまでは言わないが、手だけは出すなよ。俺も彼女の相手はしたくない」

 ナツキの脳裏に甦るのは、初等部の時の出来事。
 運良く助かって、こうしてこの場に居るが、あの時は恐怖しか感じなかった。
 だが、話を聞いたデュールは違ったらしい。

「そうか。そんなに強いのか」
「っ、お前。俺の話、聞いてたか!? 下手したら、死ぬかもしれないんだぞ!?」

 デュールの場合、話しただけだから、呑気に言えるのだろう。
 だが、ナツキは違う。目の前でその力を発揮されたのだ。

「死ぬ、とまで来たか。だが、かもしれない・・・・・・、んだろ?」
「死んでからだと遅いんだよ。それに、お前は彼女のことを知らないだろうが」
「まあな。だが、あいつが『キソラ』と呼んでいたのは聞いている」

 それを聞いて、ナツキは叫びたくなった。
 デュールが戦闘中でありながらも、周囲のやり取りを見聞きしていたことに感心するべきか、うっかり彼女の名前を教えることになった状況を責めるべきか。

「そ・れ・で・も、だ。第一、彼女に会って何をするつもりだ」
「何を、だと? そんなの決まっている。あいつの持つ『もの』は奪い、破壊する。それだけだ」

 それはつまり、とナツキはデュールから目を逸らす。

「俺は彼女と同じ学院の生徒だ。それに今、彼女は注目を浴びているし、下手に彼女が姿を消せば、みんな不審がるぞ」

 だから、彼女に手を出すな。という意味で言ってみれば、くっくっ、とデュールは笑みを浮かべる。

「何だ。気でもあるのか?」
「無いよ。ただ、彼女を本気で消すというなら、俺はお前を止める」
「『ゲーム』にこれまで参加しなかったお前がか?」
「これでも、生徒の中では実力がある方なんでね」

 ミルキアフォーク学院二年普通科所属にして、生徒会会計。
 それが、ナツキの学院での立ち位置である。

「そして、彼女にお前を殺させるつもりもない」
「この俺に殺気を向けてきたような奴だぞ?」
「だとしてもだ。それに、彼女についてだったら、お前よりは詳しいよ」

 接触していなくとも、初等部から高等部まで一緒だったのだ。

(多分、彼女は俺もデュールも殺さない)

 『ゲーム』のルールを理解しているのなら、おそらくは。

(一回、話す必要があるかな)

 そのためには、勘が働く他の役員たちに気づかれずに、動かなくてはいけない。

(そのためには――)

 『ゲーム』を利用するしかないのだろう。いや、『ゲーム』だけではなく、デュールも利用しなくてはいけない。

「くくっ、確かにな。だが、それもまた面白い。それなら、やってみろ。世界最強の魔導師に、お前の実力を示してみるんだな」

 この際、デュールが何で偉そうなのかは、横に置いておく。

「ああ。けど、俺のやり方に文句だけは言うなよ」

 これだけは譲れない。
 求めるのは、勝利でも敗北でもない。引き分けである。
 彼女の――キソラの能力を考えると、何としても、引き分けに持ち込んだ方が互いに良いはずだ。

 ――と、作戦を練り始めた矢先、「あ、整地しとけっていう伝言、忘れてた」と今思い出したらしいデュールに、「ふざけんなぁぁぁぁっ!!」と心の中で思いっきり叫びながら、ナツキは寮の自室から慌てて飛び出して行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...