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第三章・前章、夏休み~校内大会・帝国編~

第七十七話:謁見

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 キソラがジャスパーたちに登城命令が出ていると話した後の週末、彼女たち三人は馬車で王城に向かっていた。

「俺、王城なんて久しぶりなんだけど」

 そう言いながら、変じゃないよな、とアキトが身形みなりをキソラに確認する。

「似合ってるし、大丈夫だから、一回落ち着きなさい」
「僕は制服だが、良かったのか?」
「一応、学生だから良いの。もう少し時間があれば、見繕うことが出来たけど、今回はそんな時間無かったし、あちらさんに妥協してもらうしかないでしょ」

 同じく、どこか心配そうなジャスパーにも、キソラはそう返す。

「そりゃあ、お前は空間魔導師としての服装だから良いのかもしれんが、俺たちまで一緒にされても困るぞ」
「そうは言うけどさ。この格好じゃないと、プライド高い貴族連中に舐められるんだよ。いくら亡国の王子が一緒とはいえね」

 キソラがジャスパーに目を向けて言えば、視線を受けた彼は眉間に皺を作る。

「けど、王子は王子だろ。『亡国』になったからって、いきなりこいつを蔑むなんてことは無いだろ」
「さあ? そこまでは分からないけど……もし言われたりしたら、出来るだけ言い返してあげるから、その時までは安心してればいいよ」

 アキトの懸念に、キソラは笑みを浮かべてそう返す。

「だって私は、頭より口の方がよく回るからね」
「……あんまり、やりすぎるなよ。こっちの身がたないから」

 キソラの言葉に、自覚しているのならまだ良い方か、と思いつつ、王城に着いてすらないのに、すでに疲れ始めているアキト。

「で、お前はさっきから何をずっと見てるんだ?」
「んー、ちょっと気になることがあってね」

 アキトたちと話してはいるが、キソラの視線の先は、とある一点に向けられていた。
 というのも、キソラが見ていたのは直近の『守護者通信』であり、気になったことがあったために、そこから関連事項がありそうな過去のログも遡って見ていたのだ。
 だから、アキトたちと話しながら、重なっていた『守護者通信画面』に、時折ページや画面を変えるかのように、キソラは指を滑らしたりもしていた。

(むー……嫌なニュースがあるなぁ)

 『守護者通信しゅごしゃつうしん』は守護者たちの情報網でもあるから、正直、馬鹿に出来ない。特に、各迷宮やダンジョンがある地域の情報は。

「気分悪くなるぞ」
「んー……」

 キソラの姿勢が、『乗り物に乗りながら本を読んでいるような姿勢』だったため、アキトが声を掛けるが、彼女が目を離す様子はない。
 一方で、アキトは言っても無駄だと判断したのか、溜め息を吐いて、注意するのを諦める。

(過去ログに似たような情報が無いってことは、今後の情報頼みか)

 『守護者通信』の画面を閉じると、キソラは大人しく王城に到着するのを待つことにした。

   ☆★☆   

おもてを上げよ」

 場所は移り、王城内にある謁見室。
 その奥にある玉座に居る国王の言葉に、三人は顔を上げる。

「お久しぶりです、陛下。以前、会われた時は、戦前でしたよね」
「ああ、そうだったな。先に確認するが、本日は空間魔導師として謁見するのだな?」
「はい」

 国王の確認に、キソラは同意する。
 もし、そうでなければ、自ら話しかけるようなことはしない。
 それに対し、国王も頷いた後、口を開く。

「それでは、話を始めるとしようか」

 そこからは、まずジャスパーが名乗り、簡易的に今は亡きギーゼヴァルトについて説明したその後、続いてアキトも名乗るのだが、アキトの場合は友人代表で、学院で一番近くから見ていたという理由で、この場に来たことを告げた。
 ただ、ジャスパーに関しては、さすが元王族と言うべきか、堂々と受け答えはしていたが。

「まず、キソラ殿。空間魔導師である貴女たちを巻き込んだこと、申し訳ない」
「お気になさらずと言ったところで、気にはなさるんでしょうが、私たち空間魔導師は自分たちの行動理念で動いたようなものですし、後程知ることになるでしょうが、中には『とある目的』でこの国に来た者もおります。ですから、あまり深く気になさらないでください」

 国王の謝罪に苦笑いしながら、キソラは返す。

「うむ。そちらがそう言うのであれば、あまり深くは気にしないようにしよう」
「はい」

 次に、国王はジャスパーやアキトに目を向ける。

「二人もご苦労だった」
「いえ」
「……彼はともかく、あの時の私は何もしておりませんから、陛下からの謝辞を受け取る資格はございません」

 ジャスパーの言葉に、キソラとアキトは頭を抱えたくなり、国王は眉間に皺を作る。

「……二人には一応、確認するが、もしや、学院でもこうなのか?」
「はっきりと申し上げるのなら、戦後から、ですね。本人にも気にするなとは言ったのですが、未だにこの様子なので、こればかりは時間の問題かと」

 国王の問いに、アキトが答える。

「陛下、発言してもよろしいでしょうか」
「許そう」

 貴族の一人が挙手して尋ねれば、国王は頷く。

此度こたびの戦争、彼が原因だと私は思ったのですが、亡国の王子である彼が我が国にいる理由、説明していただけますか?」

 それを聞き、ジャスパーがぴくりと反応し、キソラは目を細める。

「それは――」
「申し訳ありません、陛下。発言を遮ったこと、お許しください」
「あ、ああ……」

 陛下の言葉に、キソラは発言した貴族へと目を向ける。

「彼がこの国へ来た理由はともかく、戦争の原因は彼ではありませんよ。師団長クラスの者たちが、彼がこの国に居たことを初めて知ったみたいな反応をしていましたから」
「貴女は、師団長と戦ったのですか」
「師団長クラスの者と直接戦った空間魔導師は、私だけではありませんがね。戦ったのは事実ですよ」

 師団長たちと戦った空間魔導師は半数以上の五人(キソラ、ノーク、オーキンス、リリゼール、リックス)である。

「知らない振りをしていたということは?」
「それは無いと思いますよ。だって、空間魔導師である私に、正面切って勝負を挑んでくるぐらいですから」

 キソラがそう言った瞬間、初めてこの場がざわついた。

「なーのーでー、彼が私たちの前に姿を見せた後は、領土等の問題から彼の扱いに代わりましたよ」

 なので、の部分を大声で言い、ざわつきが収まり始めたのと同時に、キソラも声音を戻していく。

「まあ、彼以外の乱入者さえ居なければ、一番良かったんですがね」

 そう告げるキソラの脳裏には、帝国の“戦乙女ヴァルキュリア”ミレーヌ・ローゼンハイムと両親と因縁のある召喚師サモナーの姿があった。
 前者はともかく、後者についてはどうにかしないといけない。

「そうか。もし、そのまま戦っていたら……勝てたか?」
「どうなんでしょう? こうしている間にも、使う魔法や魔力に制限がありますからね」
「それはつまり、制限さえなければ勝てた、と」
「仮に制限が無かったとしても、空間魔導師の本気を国の存亡と天秤に掛けますか?」

 そもそも、その二つを天秤に掛けることの方がおかしい。
 空間魔導師が少しでも本気を出せば、一国を滅ぼすことは容易く、中でも破壊系の空間魔法を得意とするキソラやノークにとっては朝飯前に等しい。
 そのことが伝わったのだろう。場が静まり返る。

「まあ、そういうことは、私よりも・・・・大人である皆さんにお任せするとして。もし、このまま帝国彼らと再び戦うことになったとして、私は陛下が『必ず勝て』と一言ひとこと命じてくれれば、制限が有ろうが無かろうが出来る限りの範囲で勝ちに行くつもりなので、どうぞお忘れなく」
「それ、は、つまり……」
「ですが、それは私が学生の間だけだと、覚えておいてください。でなければ、兄の時以上に、この国が他国から集中砲火されかねませんから」

 キソラの発言に、国王たちだけではなく、アキトたちも呆然としていた。
 確かに、ノークだけではなく、キソラまで擁することになれば、この国――アースフィードはノークが騎士になった時以上に、非難が殺到することだろう。
 だから、キソラは『学生の間』という期間を設け、卒業後の進路についての幅もそのままに、告げたのだ。

「ちなみに、兄はこの事を知りませんし、仮に話すとしても、完全に事後報告ですからね」
「良いのか。それで」
「大丈夫ですよ。兄は私のことをよく分かっているので」

 おそらく、怒りはするが、結局は溜め息混じりに頭を抱えるノークが簡単に想像できる。

「それで、彼が此度の戦争の原因でないことは、理解してもらえました?」

 話の流れを軌道修正するキソラに、「あ、ああ……」と返す貴族。

「ところで、陛下」
「何だ」
「学院はこれから夏期休暇に入るのですが、寮以外に彼が過ごす場所。どこかございますでしょうか?」

 問われ、ふむ、と国王は思案する。

「確かに夏期休暇中、ずっと寮に居るわけにもいかんしな。だったら、客間を使うが良い」
「よろしいのですか……?」

 あっさりと許可が出たことに対し、ジャスパーは思わず尋ね返してしまう。

「まあ、君が心配するほど、部屋数が少ないわけでもないからな。さすがに、友人たちと会えない日が続くと退屈もするだろうし、そこの空間魔導師ならほとんど来てくれる事だろうから、大丈夫だろう」
「……私が来る前提で話すの、止めてくれません?」
「来ないのか?」
「誰も来ないとは言ってないじゃないですか……」

 ニヤリと笑みを浮かべながら尋ねる国王に、キソラはがっくりと肩を落とす。

「まあ、何だ。そんなに気を落とすな。お前が来れば、アイゼンたちも喜ぶからな。何だったら、城に住んでもらっても構わん」
「あ、それは却下します。それに、他国が怖いですから」

 国王の言葉に、キソラはすぐさまそう返す。
 先程いくら期間限定で引き受けると言ったとはいえ、王城に住むとなると、また話は別である。
 ちなみに、アイゼンというのは、王弟殿下であり、ギルド長や学院長とともにエターナル兄妹の親代わりをしてきた一人である。

「だが、いちいち転移するのは大変だろう?」
「陛下、空間魔導師の保有魔力量を馬鹿にしてません?」

 質問に質問で返す。

「いや、大丈夫なら良いんだ。だが、今のお前さんは通常時より、魔力が減っておるのだろう?」
「否定はしませんよ。でも、日常生活に支障が出ない程度には回復していますから、そんなに問題はありません」

 ならいい、と国王は頷くのだが――

「ああ、あとな。これもある意味、本題なんだが」
「何です?」

 不思議そうなキソラたちへと特大の爆弾を投下する。

「――帝国に、行ってみないか?」
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