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第二章、戦争

第六十一話:国内・学院攻防戦Ⅹ(各地の様子・後編)

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「テメーら、絶対に帝国の奴らを通すんじゃねーぞ!」

 そう声を上げるのは、傭兵兼冒険者ギルド、ギルドマスターのレグルス・レオナードである。
 この国で一番の人工密集地でもある王都で、彼は所属メンバーと協力相手である精霊たちとともに、未だに避難を終えてないこの地で帝国騎士たちの相手を引き受けていた。

「精霊さんたちとドワーフの方々は、迅速な避難誘導を――っつ!」

 続いて声を上げたのは、レグルスの右腕でもある狼の獣人、ヴォルドなのだが、切りかかってきた帝国騎士を受け止めれば、そのまま対峙する。
 ちなみに、彼が言ったように、今この場所には数人のドワーフたちがいるのだが、理由は商業ギルドのギルド長、ガルシア・ブラウン作の剣をわざわざ自分たちでレグルスたちに届けにきたのだ。
 そして、渡し終え帰ろうとした彼らは、未だに避難の済んでない人混みに巻き込まれ、どうせまだ帰れそうにないから、と率先して精霊たちとともに避難誘導をすることになったのである。
 そんなドワーフたちの手を借りたからなのか、精霊たちの気持ちの方に余裕が出てきたようで、ドワーフたちに向かってくる帝国騎士たちを魔法でカバーするほどの連携プレーを見せるほどだった。

「慌てずに落ち着いて、このままお進み下さい」
「親御さんはお子さんの手を、決して離さないように注意して下さい!」

 そう声を掛ける誘導組。

「ったく、いくらあの嬢ちゃんの結界があるからって、頼りすぎだろ」
「仕方ありませんよ。皆さんがいくらその力をフル回転させても、手が足りないんですから」

 そう言いながら、レグルスとヴォルドは背中合わせになりながら、帝国騎士たちを片づけていく。
 そのまま目を向けるのは、薄い膜のような結界に覆われた神殿と王城。

「けどなぁ……」

 自分よりも年下の少女に任せっぱなしというのも、どうなのだろうか。

「だったら、いつか彼女の力になればいいでしょ。貴方には彼女以上の知識や経験というものがあるんですからっ!」

 ヴォルドが獣人の腕力そのままに、帝国騎士の顔面を殴りつけるのだが、それを見ていたレグルスがふっと笑みを浮かべる。

「ああ、そうだな」

 同意すれば、ヴォルド同様に帝国騎士を殴りつける。

「つか、お前。せっかくの手袋がぼろぼろじゃねーか」
「仕方ありませんよ。確かに気に入ってはいましたが、使っていれば駄目になるのは当たり前ですし。まあ、悲しくないと言えば嘘になりますが」

 その手にめていた黒い手袋の擦れた部分を、穏やかな表情で撫でるヴォルドに、ニヤリと笑みを浮かべてレグルスは言う。

「そうだよなぁ。たーいせつなたーいせつな手袋だもんなぁ?」

 からかうように言うレグルスに、ヴォルドが顔をやや赤くさせながらも、引きつる。

「確かにあいつ・・・は可愛いもんなぁ」
「っ、貴方って人はぁぁぁぁ!!」

 うんうん、と頷くレグルスに、バラされたという怒りと恥ずかしさでヴォルドが叫ぶのだが、その勢いで帝国騎士を斬ったり殴ったりしている。
 何というか、とばっちりである。

「くそっ、ヴォルドの奴め……」
「こんな時に惚気のろけとか、あとで偶然を装いながら刺してやろうか……」
「何でフォルナさんはあいつを選んだんだ……!」

 何やら味方側から、ふふふ、と黒い笑みを浮かべながら、それ違うという突っ込みたい言葉ものや何やら物騒な言葉ことがヴォルドの耳に届き、彼はびくりと肩を揺らすのだが、対峙していたはずの帝国騎士たちも空気は感じ取ったのか、一瞬びくりとする。
 ちなみに、フォルナというのは、ヴォルドの婚約者の狐の獣人であり、金髪の優しそうな美人である。ギルド所属の者たちだけではなく、所属していない者たちにもファンがいるほどで、彼女がヴォルドと婚約したという情報が出たとき、ファンたちが嘆いたらしい。

「はいはい、そんなことを言うから未だに結婚できないのよ。文句なら、ここで武勇伝の一つぐらい残してから言いなさい!」
「うっせーぞ、レーネ!」
「つーか、お前自身が武勇伝作ってるから、お前も俺たちもモテねーんだぞ?」

 レーネと呼ばれた女性の言葉に、そう返す獣人たち。
 だが、それにレーネが顔を引きつらせれば、次の瞬間には叫んでいた。

「自分がモテない理由と責任を、私に押しつけんじゃないわよ!」

 それは八つ当たりなのか、近くにいた帝国騎士をレーネが蹴り飛ばす。

「うわ、八つ当たり……」
「うっさい!」

 ぽつりと言われたはずの呟きを聞き取ったレーネが、再度声を上げる。

「大変ですね、妹さんも」
「ま、ああ言われながらも、何だかんだで慕われているんだから、さすが俺の妹だよ」

 様子を見ていたヴォルドが苦笑すれば、レグルスは微笑ましいものを見るかのようにそう返す。
 今、ヴォルドの言った通り、レーネはレグルスの妹であり、同じ獅子の獣人である。
 ギルドの所属メンバーたちもそれを分かっていながらレーネをからかったりするし、レーネ自身も彼らがわざとやっていると分かっていながら同じように返したりしているため、それを知るレグルスが特に何か言ったりしないのだ。レーネ本人が何か言ってこない限りは。

「お前もいることだし、俺がいつギルマス辞めても大丈夫だろう」
「……はい?」

 何気なく言われたその言葉に、ヴォルドは固まり、耳を疑った。

「いや、だから、俺がいつギルマス辞めても大丈――」
「ふざけんな、この野郎」

 同じことをもう一度言おうとしたレグルスに最後まで言わせず、ヴォルドはそう告げる。

「……この野郎?」
「だって、そうだろうが。お前が元気なうちはこき使うって言っただろうが。あの時言ったこと、忘れたとは言わせないぞ」

 引きつらせながらもヴォルドを睨むレグルスだが、ヴォルドは怯むことなく言い返す。
 ただ、本人は口調が変わっていることに気づいていない。

「冗談なのに、真に受けるなよ」
たちの悪い冗談だな」
「それに、まだ辞める気もない」

 少なくとも、任せても大丈夫いいと思える奴が出てくるまでは。

ヴォルドこいつは何か違う気がするしな)

 ずっと一緒にいるからこそ、分かることもある。

「とりあえず、今は目の前のことに集中するぞ」
「そうですね」

 口調の戻ったヴォルドへニヤリと笑みを浮かべれば、魔法を付与した拳を帝国騎士たちへと放っていく。
 それを見たレーネたちや精霊たちも気合いを入れ直したのか、次々と帝国軍を撃破し、残っていた人々の避難誘導も進んでいく。
 そして、レグルスは帝国騎士たちへ告げる。

「何が何でも、王都ここだけは落とさせねぇよ?」

   ☆★☆   

「遅いっすねぇ、配達チーム」
「おそらく、巻き込まれたんだろ。仕方あるまい」

 心配そうな仲間に、ガルシアはそう返す。
 何せ向かわせたのは、未だに避難誘導が続けられているであろう王都なのだ。

『王都が心配だから、少し行ってくる。何かあったら、王都へ連絡しろ』

 そう言ったレグルスは王都に行ってしまったのだが、今思えば、彼の中にある野生の勘のようなものだったのだろう。
 帝国騎士は、といえば、すでに縄で縛って、その場に座らせている。
 いくらドワーフで鍛冶師をしているとはいえ、弱いわけではない。というか、逆に強い。

『自分の身は自分で守れるようになっておけ』

 最初はそのような感じだったのに、どこでどう変わったのか、

『鍛冶師だからと、冒険者たちからナメられねぇように鍛えとけ!』

 と、今では脳筋なのか、と言われても仕方ないくらい、そんな目的である意味凄腕な、武力も身内で揃えられる商業ギルドとなったのである。

「……」

 援軍が来る気配もないからと、帝国騎士たちの見張りと時折交代しながら、数人は自身の仕事に戻っており、ガルシアもその一人だった。
 油断しているのではないのか、とも思えるのだが、いくら師団長クラスの実力者がいなかったとはいえ、かなり大人数だったのに、「お前らがタイミング悪く来たせいで、せっかく上手く行きそうだったのに、失敗したじゃねーかよ!」と、責任転嫁しかねない勢いを持った奴の半八つ当たりにより、この場に来た帝国騎士は数を減らしたのである。
 ガルシアは赤と紺のグラデーションのような空を見上げる。
 もうすぐ、夜である。赤く燃える大地と赤く染まる空が遠くに見える。
 あの場所にいる者たちは、少しも休むことは出来ないのだろう。

「……」

 ガルシアは自身の鍛冶場へと戻っていく。
 彼が願うのはただ一つ。
 仲間たちの無事のみだ。
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