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第二章、戦争
第五十六話:国内・学院攻防戦Ⅵ(その時の彼女たちは)
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たったったっ、と誰もいない学院内の廊下を駆けていく。
「っ、」
少しでも気配があれば、壁や魔法を使って姿を隠す。
(どこに行ったのよ……!)
赤髪ツインテールの少女、アリシアは焦っていた。
ジャスパーが列を抜けたきり戻ってこないため、同じように抜け出してきたアリシアは、彼の行きそうな場所を探し回っていた。
それに、とアリシアは自身の小型通信機に目を向ける。
(早く出て……ギルバートっ……!)
発信相手の顔を思い浮かべ、思わず小型通信機を握りしめる。
先日、依頼遂行により貯めた金銭で、ようやく小型通信機を得たと言っていた相棒は、最初の登録だけはどうしてもアリシアにしたかったのか、一緒に買ったらしいアークと番号交換どころかアドレス交換すらもせずに、ずっと彼女の帰宅を大人しく待っていたらしい。
『どうして、私が先なのよ? 先にアークを入れとけば良かったでしょ』
友人なのだから、と言えば、ギルバートは不思議そうな顔をして、
『別にいいだろ。それに、相棒を先にして何が悪いんだよ』
と返してきた。
『それに、俺と話すことが多いのはお前だし、アークだって、話すことが多いのはパートナーである彼女だろ?』
『そうかもしれないけどさ』
とにもかくにも、ギルバートが小型通信機を得たのなら、交換しておいても損はないのだろう。
もし仮に、長きに亘り帰ってこられなくなっても、連絡を取ることは可能となるのだから。
『はい。私の連絡先、二つ入れておいてあげたから』
『ん、ありがとうな』
ある意味では、あの時に交換しておいて良かったのだろう。こうして確認できるのだから。
ただし――相手が出れば、の話だが。
「ギルっ……」
外からの爆音を聞き、人の気配を感じ取りながらも何とか躱し、早くギルバートが出てくれることを願いつつ、アリシアは学院内の廊下を駆ける。
その際、呼び慣れてないのにも関わらず、思わず彼の呼称を口にしたのは、今ここに自分がいる理由を、やるべきことを成し遂げるためだ。
そのためにも、アリシアは一度ギルバートと連絡を取る必要があった。
(ダメだ。弱気になったら)
「私だって、出来るんだから」
異世界からの来訪者であるギルバートの相棒であり、迷宮管理者でありながら空間魔導師でもあるキソラと共闘したことだってあった。
(だから、きっと大丈夫だろうし、たとえ窮地に陥っても、切り抜けてみせる)
だが今は、ギルバートが出るのを待つだけだ。
☆★☆
「……」
ひゅるるる、と風が吹き抜けていく。
足元には鎧などを身に着けた者たちが倒れており、隣の友人は、何の感情も無いかのような目で彼らを見ていた。
それを視界の端に捉えつつ、着信を告げる自身の小型通信機に、誰からの着信なのかを確認すれば――
「アリシア?」
珍しいこともあるもんだ、とギルバートは首を傾げつつ、切りかかってきた相手を躱して、顔面を殴る。
「おい、アーク――」
「待たしてるんだから、早く出てやれ」
近くにいた友人に確認すれば、相手がアリシアだと分かっているからなのか、あっさりと許可が出る。
「はい」
『遅いよ、バカっ!』
とりあえず出てみれば、掛けてきたアリシアから、いきなりそう言われる。
「え、何。どうした? 何かあったのか?」
ギルバートが戸惑いながらも尋ねてみるのだが、アリシアの返答は聞こえない。
「……アリシア?」
『……今、国内にいる?』
訝りながら名前を呼べば、声を潜めて質問される。
「ああ、居るが?」
それを聞いて、そっか、とアリシアは返す。
『じゃあ、もちろんアークも一緒だよね?』
「確かに一緒にいるが……それがどうした?」
アークを一瞥し、返すギルバートに、アリシアは問う。
『様子はどう? いつも通りの彼? キソラと接してる時の彼?』
「ああ、そうだが……」
ギルバートは苦笑いしながらも肯定したが、帝国軍と戦っている時のアークは、おそらく相棒であるキソラも知らないような表情なのだろう。
それにしても、何故、アリシアはアークのことばかり尋ねてくるのだろうか、とギルバートは思う。
『なら、私がもう一度連絡するまで、学院に来ちゃダメだから。あと、何が何でも、彼を学院に近づけないで』
「は? ……いやいやいや! 意味分かんねーよ」
確かに、国内のほとんどは戦闘中だが、危険だというのなら、どこも同じではないのだろうか。
『お願い、ギルバート。貴方じゃないと、駄目だと思うから』
でも、本音はその後だったのだろう。
『私は、というより、私だけじゃなく、キソラも思っていることは同じだと思うから』
「え?」
『異世界人である貴方たちを、私たちの世界の争いに巻き込むことは望まない。――いや、もうすでに巻き込んでるか』
アリシアとギルバートは知らないことだが、それは以前、キソラがアークに言ったこととほとんど変わらなかった。
「とにもかくにも、学院以外で帝国軍を倒すのはいいけど、今の学院には来ないで」
小型通信機で話しながら、アリシアは学院の窓から空を見上げる。
今では帝国軍と空中戦を繰り広げているキソラだが、きっと彼女のことだから、『ゲーム』で魔法を使っていたとはいえ、空間魔導師であることをアークには言っていないのだろう。
(キソラは、バレるときが来るまでは、彼に話さないつもりだろうけど……何か、彼なら察していそうなんだよね)
自分たちもそれなりに互いを見ているのだが、あの二人の場合は、こちら以上にお互いのことを見ており、理解しているような気がするのだ。
『――おい、アリシア』
ギルバートに呼び掛けられ、そういえば通話中だった、とアリシアは我に返る。
「お前が考え無しにそういうことを言う奴じゃないのは、分かってる」
溜め息を吐き、ギルバートはそう言うのだが、けどな、と続ける。
「こっちは相棒なんだから、来るなとか、そんな冷たいことを言うな。逆に聞くが、来られたらマズいことでもあるのか?」
『それは……無い、けど……』
「なら、俺やアークを信じろ」
そう言うギルバートに、そんなの当たり前、と返そうとしたアリシアだが、彼女の表情は冴えず、狙ってなかったとはいえ、キソラには逆に余計なことをしたのかもしれないと思ってしまう。
「何かかっこいいこと言ってるけどさ。信じるも何も、もし少しも信じてなかったら、相棒になんてなってないし、とっくにおさらばしてますよ!」
自分で言っておきながら、素直じゃないなぁ、とアリシアは思う。
それと同時に、少しばかり大声を出したために気づかれたのか、人の気配がいくつか近づいてくるのをアリシアは察知する。
「ったく、よく知る場所のはずな上に、敵じゃないってのも知ってるのに、やりづらいったらありゃしない」
慌てて近くの教室に入り、何とかやり過ごせば、どうやら撒けたのか、いくつかの気配は少しずつ遠ざかっていく。
そのことに、そっと安堵の息を吐けば、ギルバートが何か話していたらしいのだが、アリシアが聞き取れたのは最後の部分のみ。
『それじゃ、アリシア。あの子と一緒に、俺たちが行くまで、絶対に――』
目の前にいる帝国軍を睨みつけながら、ギルバートは言う。
「――生きてろよ?」
そこで、通話は途切れた。
そして――
「ぼろぼろだな。お前ら」
キソラやアキトたちの姿を見たアルヴィスが言う。
「っ、」
確かに彼の言う通り、キソラの着ている空間魔導師であることを示す藤色のローブやアキトの制服の一部は裂けたりしているし、天空騎士団も未だに飛行しているとはいえ、欠けたりしている装備から判断すれば、彼らもギリギリなのだろう。
「もうこれ以上戦わなくてもいいように、止めを刺してやる」
「うっわー、私も嘗められたものだわ」
剣を掲げ、魔法を付与させるアルヴィスに、キソラは悪あがきをするかのように苦笑いして言うのだが、限界が近いのもまた事実だし、いい加減に冗談抜きで地に足を着けて休みたい。
(ま、死んで休むのだけは嫌だし、道連れ狙いで一矢報いてやりますか)
軽く息を吐き、魔法陣を展開させる。
「これで終わりだ、空間魔導師」
「さあ、それはどうでしょうね」
アルヴィスが剣を振り下ろそうとするタイミングを狙い、キソラは魔法を発動しようとするのだが――
「上下左右、後方からの攻撃には気をつけることだね。空間魔導師のお嬢さん」
突然聞こえてきたその声にキソラは反応するが、彼女が気づいた時にはもう遅かった。
「しまっ――」
自身の上下左右、後方を取り囲む魔法陣を見たキソラは、瞬時にその陣が何を示すのかを理解した。
そして、アルヴィスの剣がキソラに届くよりも前に、中心にいた彼女に向けて、魔法陣から黒い雷を伴った魔法が放たれた。
「っ、」
少しでも気配があれば、壁や魔法を使って姿を隠す。
(どこに行ったのよ……!)
赤髪ツインテールの少女、アリシアは焦っていた。
ジャスパーが列を抜けたきり戻ってこないため、同じように抜け出してきたアリシアは、彼の行きそうな場所を探し回っていた。
それに、とアリシアは自身の小型通信機に目を向ける。
(早く出て……ギルバートっ……!)
発信相手の顔を思い浮かべ、思わず小型通信機を握りしめる。
先日、依頼遂行により貯めた金銭で、ようやく小型通信機を得たと言っていた相棒は、最初の登録だけはどうしてもアリシアにしたかったのか、一緒に買ったらしいアークと番号交換どころかアドレス交換すらもせずに、ずっと彼女の帰宅を大人しく待っていたらしい。
『どうして、私が先なのよ? 先にアークを入れとけば良かったでしょ』
友人なのだから、と言えば、ギルバートは不思議そうな顔をして、
『別にいいだろ。それに、相棒を先にして何が悪いんだよ』
と返してきた。
『それに、俺と話すことが多いのはお前だし、アークだって、話すことが多いのはパートナーである彼女だろ?』
『そうかもしれないけどさ』
とにもかくにも、ギルバートが小型通信機を得たのなら、交換しておいても損はないのだろう。
もし仮に、長きに亘り帰ってこられなくなっても、連絡を取ることは可能となるのだから。
『はい。私の連絡先、二つ入れておいてあげたから』
『ん、ありがとうな』
ある意味では、あの時に交換しておいて良かったのだろう。こうして確認できるのだから。
ただし――相手が出れば、の話だが。
「ギルっ……」
外からの爆音を聞き、人の気配を感じ取りながらも何とか躱し、早くギルバートが出てくれることを願いつつ、アリシアは学院内の廊下を駆ける。
その際、呼び慣れてないのにも関わらず、思わず彼の呼称を口にしたのは、今ここに自分がいる理由を、やるべきことを成し遂げるためだ。
そのためにも、アリシアは一度ギルバートと連絡を取る必要があった。
(ダメだ。弱気になったら)
「私だって、出来るんだから」
異世界からの来訪者であるギルバートの相棒であり、迷宮管理者でありながら空間魔導師でもあるキソラと共闘したことだってあった。
(だから、きっと大丈夫だろうし、たとえ窮地に陥っても、切り抜けてみせる)
だが今は、ギルバートが出るのを待つだけだ。
☆★☆
「……」
ひゅるるる、と風が吹き抜けていく。
足元には鎧などを身に着けた者たちが倒れており、隣の友人は、何の感情も無いかのような目で彼らを見ていた。
それを視界の端に捉えつつ、着信を告げる自身の小型通信機に、誰からの着信なのかを確認すれば――
「アリシア?」
珍しいこともあるもんだ、とギルバートは首を傾げつつ、切りかかってきた相手を躱して、顔面を殴る。
「おい、アーク――」
「待たしてるんだから、早く出てやれ」
近くにいた友人に確認すれば、相手がアリシアだと分かっているからなのか、あっさりと許可が出る。
「はい」
『遅いよ、バカっ!』
とりあえず出てみれば、掛けてきたアリシアから、いきなりそう言われる。
「え、何。どうした? 何かあったのか?」
ギルバートが戸惑いながらも尋ねてみるのだが、アリシアの返答は聞こえない。
「……アリシア?」
『……今、国内にいる?』
訝りながら名前を呼べば、声を潜めて質問される。
「ああ、居るが?」
それを聞いて、そっか、とアリシアは返す。
『じゃあ、もちろんアークも一緒だよね?』
「確かに一緒にいるが……それがどうした?」
アークを一瞥し、返すギルバートに、アリシアは問う。
『様子はどう? いつも通りの彼? キソラと接してる時の彼?』
「ああ、そうだが……」
ギルバートは苦笑いしながらも肯定したが、帝国軍と戦っている時のアークは、おそらく相棒であるキソラも知らないような表情なのだろう。
それにしても、何故、アリシアはアークのことばかり尋ねてくるのだろうか、とギルバートは思う。
『なら、私がもう一度連絡するまで、学院に来ちゃダメだから。あと、何が何でも、彼を学院に近づけないで』
「は? ……いやいやいや! 意味分かんねーよ」
確かに、国内のほとんどは戦闘中だが、危険だというのなら、どこも同じではないのだろうか。
『お願い、ギルバート。貴方じゃないと、駄目だと思うから』
でも、本音はその後だったのだろう。
『私は、というより、私だけじゃなく、キソラも思っていることは同じだと思うから』
「え?」
『異世界人である貴方たちを、私たちの世界の争いに巻き込むことは望まない。――いや、もうすでに巻き込んでるか』
アリシアとギルバートは知らないことだが、それは以前、キソラがアークに言ったこととほとんど変わらなかった。
「とにもかくにも、学院以外で帝国軍を倒すのはいいけど、今の学院には来ないで」
小型通信機で話しながら、アリシアは学院の窓から空を見上げる。
今では帝国軍と空中戦を繰り広げているキソラだが、きっと彼女のことだから、『ゲーム』で魔法を使っていたとはいえ、空間魔導師であることをアークには言っていないのだろう。
(キソラは、バレるときが来るまでは、彼に話さないつもりだろうけど……何か、彼なら察していそうなんだよね)
自分たちもそれなりに互いを見ているのだが、あの二人の場合は、こちら以上にお互いのことを見ており、理解しているような気がするのだ。
『――おい、アリシア』
ギルバートに呼び掛けられ、そういえば通話中だった、とアリシアは我に返る。
「お前が考え無しにそういうことを言う奴じゃないのは、分かってる」
溜め息を吐き、ギルバートはそう言うのだが、けどな、と続ける。
「こっちは相棒なんだから、来るなとか、そんな冷たいことを言うな。逆に聞くが、来られたらマズいことでもあるのか?」
『それは……無い、けど……』
「なら、俺やアークを信じろ」
そう言うギルバートに、そんなの当たり前、と返そうとしたアリシアだが、彼女の表情は冴えず、狙ってなかったとはいえ、キソラには逆に余計なことをしたのかもしれないと思ってしまう。
「何かかっこいいこと言ってるけどさ。信じるも何も、もし少しも信じてなかったら、相棒になんてなってないし、とっくにおさらばしてますよ!」
自分で言っておきながら、素直じゃないなぁ、とアリシアは思う。
それと同時に、少しばかり大声を出したために気づかれたのか、人の気配がいくつか近づいてくるのをアリシアは察知する。
「ったく、よく知る場所のはずな上に、敵じゃないってのも知ってるのに、やりづらいったらありゃしない」
慌てて近くの教室に入り、何とかやり過ごせば、どうやら撒けたのか、いくつかの気配は少しずつ遠ざかっていく。
そのことに、そっと安堵の息を吐けば、ギルバートが何か話していたらしいのだが、アリシアが聞き取れたのは最後の部分のみ。
『それじゃ、アリシア。あの子と一緒に、俺たちが行くまで、絶対に――』
目の前にいる帝国軍を睨みつけながら、ギルバートは言う。
「――生きてろよ?」
そこで、通話は途切れた。
そして――
「ぼろぼろだな。お前ら」
キソラやアキトたちの姿を見たアルヴィスが言う。
「っ、」
確かに彼の言う通り、キソラの着ている空間魔導師であることを示す藤色のローブやアキトの制服の一部は裂けたりしているし、天空騎士団も未だに飛行しているとはいえ、欠けたりしている装備から判断すれば、彼らもギリギリなのだろう。
「もうこれ以上戦わなくてもいいように、止めを刺してやる」
「うっわー、私も嘗められたものだわ」
剣を掲げ、魔法を付与させるアルヴィスに、キソラは悪あがきをするかのように苦笑いして言うのだが、限界が近いのもまた事実だし、いい加減に冗談抜きで地に足を着けて休みたい。
(ま、死んで休むのだけは嫌だし、道連れ狙いで一矢報いてやりますか)
軽く息を吐き、魔法陣を展開させる。
「これで終わりだ、空間魔導師」
「さあ、それはどうでしょうね」
アルヴィスが剣を振り下ろそうとするタイミングを狙い、キソラは魔法を発動しようとするのだが――
「上下左右、後方からの攻撃には気をつけることだね。空間魔導師のお嬢さん」
突然聞こえてきたその声にキソラは反応するが、彼女が気づいた時にはもう遅かった。
「しまっ――」
自身の上下左右、後方を取り囲む魔法陣を見たキソラは、瞬時にその陣が何を示すのかを理解した。
そして、アルヴィスの剣がキソラに届くよりも前に、中心にいた彼女に向けて、魔法陣から黒い雷を伴った魔法が放たれた。
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