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第二章、戦争

第四十話:ギルド会議Ⅰ(集いし長たち)

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 ギルド会議。
 国内に点在する種族の長が集まり、様々な議論を繰り広げる。
 種族会議にも見えなくもないが、各種族の長何名かがギルド長(またはギルドマスター)をしているが、ギルド長のように『ギルド長』という役所の者もいるため、一概に種族会議とは言えない。

「皆さん、遅くなりました」

 キソラはそう告げるギルド長の後に続きながら、会議室へと入っていく。

「いや、まだ来てない連中もいるからな」
「そうです。我々が約束の時間までに、早く来すぎただけです」

 厳つい顔をした、頭の上に耳が付いた男と、その背に羽をつけた、いかにも戦いとは無縁そうな女性がそう返す。

「まあ、確かに」

 いくつかまだ席は空いている。

「それにしても、レオ殿。相変わらず凄い装備ですね」

 ギルド長に『レオ殿』と呼ばれた男は、逆にニヤリと笑みを浮かべる。

「ほう? 俺が凄い装備、か。だが、お前さんも物騒な護衛を連れてきたもんだよな?」

 キソラを見ながらそう告げるレオに対し、それを聞いて、苦笑するギルド長とキソラ。

(物騒な護衛、か)

 だが、間違ってはないのだろう。
 空間魔導師の数なんて数えられる程度しかいない上に、その実力はAランク冒険者並みに高い方だ。

「しかし、護衛というのなら、フィアーレ殿は凄い数ですよね」

 ギルド長にフィアーレ殿と呼ばれた女性はふふ、とどこか困ったように笑みを浮かべる。

「これでも減らしてきた方なんですよ? 行くと口にしたら、みなが心配して護衛を付けろ、としつこかったんですから」

 肩を竦めてそう言うフィアーレはギルド長の隣にいたキソラに目を向けると、

「そちらのように、任せても大丈夫という者がいないのが、副ギルド長の悩みなのでしょうが」

 そう付け加えた。

「おや、もう来ていたのですか。早いですね。皆さん」
「お、嬢ちゃんもやっぱりセットで来たか」

 そこで、入ってきたのは二名。
 種族はエルフ。魔導師ギルドの長。金髪碧眼で眼鏡を掛けている男性。
 種族は精霊族。同じく魔導師ギルドの長であり、どこか優しそうな男性であるが、話し方から分かる通り、見た目に反して大らかな性格をしている。

「フィアーレ嬢のとこの連中は、相変わらずの心配性だな」
「ふふ。先程、そこにいるお二人にも、似たようなことを言われました」

 精霊族のギルド長にフィアーレはそう返す。

「嬢ちゃんも久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。精霊長様」

 声を掛けられたので、キソラも頭を軽く下げ、そう返す。

「四人は元気か?」
「はい。ですが、申し訳ありません。シルフィードたちを借りっぱなしで」
「いや、こちらも君だからあの四人を付かせただけだし、何よりあの四人からの要望でもあったからな」

 キソラは精霊長と面識がある。
 というのも、シルフィードら四聖精霊を喚ぶ際、いろいろな制約や条件などを確認するために、精霊長と会ったことがあった。

「今この場にいるのは、人間、獣人、精霊、妖精、エルフですね。後来てないのは……」
「ドワーフと魔王様、ですね」

 確認を取るエルフの男性に、不在の者をギルド長が上げていく。

「それで、今回の議長は誰が行う予定なんですか?」
「あ? 今回は人間族じゃないのか?」
「そうですね。というか、彼女がいるのですから、私もてっきり人間族だと思っていたのですが」

 レオとフィアーレの言葉で、視線を向けられるギルド長とキソラ。

「そういえば、僕は知らないんですが、顔見知りみたいな言い方をしてましたよね?」

 それを聞いたレオと精霊長、フィアーレの三人は驚いたように互いの顔を見合わせる。

「え、あの、行ったのよね……?」
「一度だけですが、会ってますよ」

 自分の記憶を疑いたくはないが、思わず確認を取るフィアーレ。聞かれたキソラも頷き、エルフの男性にそう告げる。

「一体、いつ……」
「すまん、遅れた」
「こっちも遅れてごめん。いろいろ立て込んでいてね」

 いつ会ったのか尋ねようとしたエルフの男性を遮るように、再び二名が入ってくる。
 一人は背が低く、ヒゲが特徴的な者。もう一人はまだギルドを束ねることすら出来なさそうな少年である。
 種族に当てはめるとすれば、ドワーフと魔王である。

「はい、出席簿。出欠確認、お願い」
「は?」

 少年に出欠表を渡されたキソラは思わず変な声を出す。
 ギルド長に目を向ければ、頷かれる。

「……では、失礼ながら、私が出欠を」

 仕方ないので、キソラは順番に出欠を取っていく。

 所属する主な種族は獣人。傭兵兼冒険者ギルド、ギルドマスター。レグルス・レオナード。愛称はレオ。獅子の獣人である。

 所属する主な種族は妖精。魔導師兼商業・配達ギルド、ギルド長。フィアーレ・フェスティア。若き妖精姫。

 所属する主な種族は精霊。魔導師ギルド、ギルド長。ライトニング。精霊たちを束ねる精霊長。

 所属する主な種族はエルフ。魔導師ギルド、ギルドマスター。ノーブル・カローラ。

 所属する主な種族はドワーフ。商業ギルド、ギルド長。ガルシア・ブラウン。交渉力はやや低いものの、鍛冶の腕はギルドいち

 所属する主な種族は分血の魔族。魔導師兼対魔族ギルド、ギルドマスター。魔王ことラグナ・ブラッディ。

 所属する主な種族は人間。冒険者ギルド、王都本部ギルド長。ーー・ーー。人間族冒険者の中でも最強の存在。

「……」

 最後の欄を見て、キソラは思わず固まった。

「何だ、どうした?」
「いえ、何でも」

 何もなかったかのように、そう返す。

(う、うちのギルド長の名前が空欄……)

 理由は分からないが、空欄になっていた。

(それに、説明……)

 『人間族の中でも最強の存在。』

(うん、学院長の傷跡が広がりそうだ)

 それもストレスで。
 同等とされているミルキアフォーク学院長がこの事を知れば、明らかに頭を抱える。

「あいつは俺をどうしたいんだ!!」

 そう叫ぶ学院長が簡単にイメージできる。

「そして、最後に議題と議長についてなのですが……」
「議題はあれだろ。帝国との戦争」

 レオことレグルスの言葉に、はい、とキソラは頷く。
 そして、続けて議長について口を開こうとすれば、思わぬ爆弾が落とされた。

「あと、議長はキソラさんね」
「はい?」

 ギルド長の言葉に何言ってんだ、と目で尋ねるものの、笑顔ではぐらす彼(?)に、追及しても無駄そうだと感じたキソラは諦めて、今回の議題に移る。

「では、失礼ながら私が議長をさせていただきます」
「おう」
「私は構いません」
「良いんじゃないですか?」
「まあ、良いんじゃね?」
「うむ」
「良いんじゃない?」

 それぞれの返事を聞き、キソラは内心安堵しながらも、口を開く。

「あまりこういうのは言い触らしたくはありませんが、先程言われた通り、議題はこれから起こるであろう戦争についてです」
「言い触らしたくはないっつーが、みんな戦争が起こるの、知ってんぞ?」

 この場合の『みんな』というのは、国民を示す。
 どのようにして広まったのかは知らないが、この国の騎士たちは優秀だから大丈夫だろうという意見も多く、被害が及ぶ前に、というのと念のため、と避難を始めてる者もいるくらいだ。

「もちろん、理解してます」

 キソラも知らないわけではない。

「ですから、そのための防衛策を話し合うんです」

 この広い国に点在する各種族による冒険者や魔導師たちのギルド。
 挟み撃ち狙いで国内に入られれば、数が減った騎士たちよりも人数と団結力のある彼らの力が必要になる。

「まず前提として、嬢ちゃんはどうするんだ? 嬢ちゃんなら、上からめいが来てそうだが」

 精霊長の疑問はもっともだった。
 自国にとっても相手にとっても、国の命運が懸かる戦争である。仮にも空間魔導師であるキソラに、国王から出陣要請が出てもおかしくはない。

「あちらには兄さんがいますから、問題ないと思います。それに、私まで行ってしまえば、国の防御力はがた落ちする可能性もありますし」

 結界を張るという点では、宮廷魔導師や神官たちも行っているが、国全体という規模になるとキソラのような空間魔導師でない限り、それは不可能に近い。
 それに、キソラとしても張った結界の種類が、あくまで降りかかる火の粉や流れ弾を防ぐための結界であるため、上空を通過したり、挟み撃ち狙いで内部に入られては効果を発揮しない。
 先程も言ったが、結界内に入られれば、それこそギルド所属の冒険者や魔導師たちの仕事である。

「だが、そうなることを仮定して、各地の警備はどうするつもりだ?」

 相手だって、こっちを落とすつもりで仕掛けてくるはずだ。そのためには、対応できる布陣が必要である。

「そうですね……」

 それぞれ思案する。

「そもそも、この国広いんだよねー。全部は無理だよ?」
「それでも、やらなければならないのです」

 ラグナの言葉に、フィアーレがそう返す。

「各本拠地を中心に、両サイドの町や村まで手を伸ばしたとしても……」
「手が、足りませんよね」

 はぁ、と溜め息を吐くキソラとギルド長。

「しかも、うちみたいな魔導師ギルドの人たちは、近接系の技を使われたらおしまいだろうしなぁ」
「そんなこと言われたら、魔導師ギルドの大半である私たちは危ないじゃないですか!」

 ライトニングの言葉に、フィアーレが声を上げる。

「魔導師ギルドではないの、レオ殿とガルシア殿の所とうちぐらいだしね」

 ギルド長の言葉に、どうするべきかと思案するキソラ。
 レグルスの所かギルド長の所から人員を割ければいいが、下手に割くわけにもいかない(ガルシアの所はそもそも戦闘系ではない)。

(本当に、どうしたものか)

 そう内心で溜め息を吐けば、ライトニングが尋ねてくる。

「嬢ちゃん。確認するがお前さんは当日、どうするんだ?」
「私ですか? 起こる日時にもよりますが、平日なら学院でしょうね。休日ならギルドに行ってから、皆さんの所を順に回るつもりではありますが。でも、私は主に学院方面を守ります」
「学院? 城じゃないのか?」

 キソラの言葉に城は守らないのか? と思う面々。

「というか、何故城よりも学院なのですか?」

 ノーブルは分からなさそうに首を傾げる。

「キソラさんの通う学院は、防御には強いですからね。近隣住民の人たちも避難場所にしているぐらいですし」

 ギルド長の言葉に顔を引きつらせるキソラ。
 間違ってはいない。間違ってはいないのだが、戦争に耐えられるだけの防御力を持つかはキソラは知らない。

「まあ、あそこの防御力なら、下手な要塞よりはマシでしょうが」
「当日の避難民を想像すると、確かにそちらを優先しますよね」

 民を優先するのは当たり前、とフィアーレが納得したように頷く。

「いやいや、みんなそうとは限りませんからね?」
「我が身可愛さで我先に、と逃げ出す奴らもいるからな」

 たとえ、守ってくれる人がいるとしても、だ。自身に災いが降りかかれば、騎士や兵士、民を守る存在といえど、逃げ出す者もいるだろう。
 フィアーレとて、それを知らないわけではない。

「だからこそ、僕たちがしっかりしないと」

 ラグナの言葉に頷く面々。

「もう一つ、確認だ」
「何ですか?」
「おま――」
「空間魔導師が、何故、戦争に参加するのですか?」

 ライトニングが問おうとするがノーブルが遮り、そう尋ねる。
 そこに触れるか、という視線を感じつつ、キソラはふむ、と納得しながらも、どう説明するべきかと思案する。

「空間魔導師は、一国に所属できないのでしょう?」
「まあ、そうですね」

 空間魔導師は一国に住むことは出来ても、所属できない。
 では何故か。
 その強大な力を持つが故に、一国には縛り付けることはできないからだ。

 もし、戦争の兵器として出陣されれば――
 もし、機嫌を損ねたりすれば――

 それは国の内外で大きな利益と損害を出すことになる。
 キソラやノークの場合はまだ良い方である。
 二人は国の上層部とも上手くやりくりしているのだから。

「確かに、空間魔導師は一国に所属することはできません。ですが、所属するのと住むことは違いますから」

 ノーブルは確かに、と頷く。

「まあ、私はこの国に住んではいますが、住んでいる=所属していると勘違いしている人がいるのも事実ですがね」
「……」
「それに、私は空間魔導師の中では一番若いので、空間魔導師としての判断は上の人たちに任せてる状況ですが」

 キソラの言う通り、彼女は空間魔導師の中では一番若く、末っ子のような位置におり、面々から妹扱いされている(実際に妹ではあるのだが)。
 それでも、キソラには経験というものが少ないため、判断に困った場合は、オーキンスたちにその時その時の判断やアイディアなどを出してもらったりはしている。

「あと、一つ前の質問ですが、私は自分の生活が侵害されるなら、容赦なく相手を叩き潰すつもりでいますから」

 家族も友人も仲間も、傷つけたら容赦しない。
 それが、迷宮管理者としての知り合いでも、空間魔導師としての知り合いでも、キソラのやるべきことは変わらないのだから。
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