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第一章、始まり
小話:お守り
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「視覚遮断のペンダント?」
アークがキソラから渡されたペンダントを、目の前で観察するかのように掲げながらも尋ねる。
「そ。そもそもアークたちみたいなタイプ、冒険者して居たとしても、見たことないでしょ」
「そう言われりゃ、確かにそうだが、俺がこの辺ぐらいしか知らないだけで、もしかしたらっていう可能性も……」
アークとて、今まで見てきた光景全てが世界の全てだと思っているわけではないが、彼自身が見ていないだけで、もしかしたら存在しているのかもしれない。
「だから、前にも一回言ったとは思うけど、この近辺どころか世界レベルで言えば、亜人でもないのに翼がある人間なんて、アークたちのような異世界人ぐらいしかいないわけ。もし、亜人であるというのなら、一応ハーピィがいるけど、一般的に知られている特徴のくちばしとかがあったり、足が鳥っぽいなんて事はないでしょ?」
「まあなぁ……」
思わず自分の足を確認するほどに、そんなに違うものなのか、とアークは思う。
「だから、うっかり飛んでも大丈夫なように保険だよ。保険」
「そういうことな」
だが、気になることが無いわけではない。
「それにしても、よく用意できたな。石、高かっただろ。それも二つも」
ペンダントの中央に嵌め込まれた紺のような黒のような、光によって色が変化する石を見ながら、アークが懸念事項を口にするが、キソラは「別に」と返す。
「アークが気にするまでもないから。以前、鉱山からのとある依頼を解決した際の依頼料が余っていたから、それを利用しただけだし」
「おい……」
勝手に使っていいのか、またそれを身に付ける自分は大丈夫なのか、と一気に不安になってくるアーク。
「そんなに心配しなくても、ギルドとかには申告済みだし、もう一年以上前のことだから」
申告済みなら問題無いか、というわけでもないが、使わないよりは使った方がいいでしょと言われてしまっては、反論もしにくい。
「感謝しなさい。空間魔導師が貴方たちのために作った特注品なんだから」
「作った……?」
彼女の珍しい上から目線なの言葉に、思わずペンダントを見てしまう。
宝飾品関係の店でなら、間違いなく売っているであろう宝石とその台座。
削り方とかの知識は無いため、何とも言えないし、「そもそも、宝石加工技術とかあったのか?」とか「そんなことする時間あったのか?」とか聞きたいことは山ほどあるが、にっこりと笑みを浮かべている彼女が、聞いて素直に教えてくれるとは思えない。
(でも一つだけ、はっきりしていることがある)
今目の前にあるものは、どんなに強く込められた想いや願いを含めたとしても、間違いなく――どんな宝石よりも美しく、高いものであることだ。
☆★☆
「ほら」
最近、冒険者ギルドに連れ出したことを切っ掛けに、依頼遂行がいい暇潰しになっているのか、同行する率が増えたギルバートに、アークはキソラから渡されていた彼の分のペンダントを差し出す。
「うちの相棒からだ。何か面倒なことになる前に持っとけだと」
本当はそんな説明をされたわけではないが、今の自分たちの立場を思えば、キソラが渡してきたことにも納得ができる。
そして何より――アークのことを知るギルバートにとって、渡された『ペンダント』をたったそれだけの説明で終えた彼の心情が何となく察せられた。
「ふーん」
渡してきたのはアークではあるが、せっかくのキソラからの贈り物である。使わない手も利用しない手もない。
「それにしても、こんなに大きな石が残っていたのに、何で今まで使わなかったんだろうな」
「俺が知るか」
キソラが今まで使わずに残しておいた理由など、彼女にしか分からない。
まあ、ぶっちゃけ忘れていたという側面が大きく、彼らにお守り的なものを渡そうとして、何かないかと保管場所を見ていたときに見つけたがために今に至るのだが、アークたちがそのことを知る由もない。
「碧か」
「こっちは青だか紺だかの色だがな」
服の中から自分の分を取り出して、アークがギルバートに見せるのだが、ふとあることに気づいたギルバートが言う。
「つか、それ。何かお前の眼の色みたいだな」
ギルバートとしては何気なく言ったつもりだったのだが、そのことに今気づいたアークは、その場で硬直する。
「は……?」
「何だ。もしかして、気づかなかったのか? まあ、その石ほどじゃないが、お前の眼も光の加減で色が変わっているように見えてるんだけどな」
元の世界でも何だかんだで一緒には居たが、アークのそういう特徴が変わっていないことを知るのは、現在ではギルバートのみだ。
「……」
「けど、もしそのつもりで渡したんだとすると、とんだ策士だな。あの子も」
そんな友人が、相棒となった年下の少女に良いようにからかわれている。
それが分かっているが故に、一体何が面白いのか、と問われるレベルでギルバートはニヤニヤとした表情をアークに向けるが、当の彼は気づかない。
(あれ? 何か無かったか? 瞳と同じ色の宝石を贈る意味とかって……)
悶々とそんな考えが浮かぶが――
「おーい、おーい、アークぅ?」
どうやら横で彼を呼び、目の前で手を振る友人の声は届いていないほどに考え込んでいるのか、硬直してしまったらしい。
「ったく」
そんなアークを見て、ギルバートは肩を竦める。
たとえ、そこにどんな意図があるにせよ、キソラがアークを心配して、作って渡してきたことは事実であり。
(ま、あの子が悲しまないように、ちゃんと俺が帰してやらんと駄目だよな)
図らずも『ゲーム』などというもので友人と再会し、彼女たちと出会ったのだ。
これが最初から定められていたのかは不明だが、たとえそうでなかったのだとしても、自分たちのために『お守り』を渡してくれた彼女には、何か出来る限りのお礼がしたいものである。
「ほら、アーク。さっさと行って、さっさと帰ってくるぞ」
「お、おう……」
ギルバートから与えられた衝撃に我に返ったらしいアークは戸惑いながらも、彼に返事をする。
「早く帰れるといいなぁ」
「そうだな」
そう話しながら、二人は目的地に向かって歩いていく。
そんな長時間拘束されるような依頼を受けたわけではないが、それでも――今日ぐらいは早く帰っても許されるはずだ。
アークがキソラから渡されたペンダントを、目の前で観察するかのように掲げながらも尋ねる。
「そ。そもそもアークたちみたいなタイプ、冒険者して居たとしても、見たことないでしょ」
「そう言われりゃ、確かにそうだが、俺がこの辺ぐらいしか知らないだけで、もしかしたらっていう可能性も……」
アークとて、今まで見てきた光景全てが世界の全てだと思っているわけではないが、彼自身が見ていないだけで、もしかしたら存在しているのかもしれない。
「だから、前にも一回言ったとは思うけど、この近辺どころか世界レベルで言えば、亜人でもないのに翼がある人間なんて、アークたちのような異世界人ぐらいしかいないわけ。もし、亜人であるというのなら、一応ハーピィがいるけど、一般的に知られている特徴のくちばしとかがあったり、足が鳥っぽいなんて事はないでしょ?」
「まあなぁ……」
思わず自分の足を確認するほどに、そんなに違うものなのか、とアークは思う。
「だから、うっかり飛んでも大丈夫なように保険だよ。保険」
「そういうことな」
だが、気になることが無いわけではない。
「それにしても、よく用意できたな。石、高かっただろ。それも二つも」
ペンダントの中央に嵌め込まれた紺のような黒のような、光によって色が変化する石を見ながら、アークが懸念事項を口にするが、キソラは「別に」と返す。
「アークが気にするまでもないから。以前、鉱山からのとある依頼を解決した際の依頼料が余っていたから、それを利用しただけだし」
「おい……」
勝手に使っていいのか、またそれを身に付ける自分は大丈夫なのか、と一気に不安になってくるアーク。
「そんなに心配しなくても、ギルドとかには申告済みだし、もう一年以上前のことだから」
申告済みなら問題無いか、というわけでもないが、使わないよりは使った方がいいでしょと言われてしまっては、反論もしにくい。
「感謝しなさい。空間魔導師が貴方たちのために作った特注品なんだから」
「作った……?」
彼女の珍しい上から目線なの言葉に、思わずペンダントを見てしまう。
宝飾品関係の店でなら、間違いなく売っているであろう宝石とその台座。
削り方とかの知識は無いため、何とも言えないし、「そもそも、宝石加工技術とかあったのか?」とか「そんなことする時間あったのか?」とか聞きたいことは山ほどあるが、にっこりと笑みを浮かべている彼女が、聞いて素直に教えてくれるとは思えない。
(でも一つだけ、はっきりしていることがある)
今目の前にあるものは、どんなに強く込められた想いや願いを含めたとしても、間違いなく――どんな宝石よりも美しく、高いものであることだ。
☆★☆
「ほら」
最近、冒険者ギルドに連れ出したことを切っ掛けに、依頼遂行がいい暇潰しになっているのか、同行する率が増えたギルバートに、アークはキソラから渡されていた彼の分のペンダントを差し出す。
「うちの相棒からだ。何か面倒なことになる前に持っとけだと」
本当はそんな説明をされたわけではないが、今の自分たちの立場を思えば、キソラが渡してきたことにも納得ができる。
そして何より――アークのことを知るギルバートにとって、渡された『ペンダント』をたったそれだけの説明で終えた彼の心情が何となく察せられた。
「ふーん」
渡してきたのはアークではあるが、せっかくのキソラからの贈り物である。使わない手も利用しない手もない。
「それにしても、こんなに大きな石が残っていたのに、何で今まで使わなかったんだろうな」
「俺が知るか」
キソラが今まで使わずに残しておいた理由など、彼女にしか分からない。
まあ、ぶっちゃけ忘れていたという側面が大きく、彼らにお守り的なものを渡そうとして、何かないかと保管場所を見ていたときに見つけたがために今に至るのだが、アークたちがそのことを知る由もない。
「碧か」
「こっちは青だか紺だかの色だがな」
服の中から自分の分を取り出して、アークがギルバートに見せるのだが、ふとあることに気づいたギルバートが言う。
「つか、それ。何かお前の眼の色みたいだな」
ギルバートとしては何気なく言ったつもりだったのだが、そのことに今気づいたアークは、その場で硬直する。
「は……?」
「何だ。もしかして、気づかなかったのか? まあ、その石ほどじゃないが、お前の眼も光の加減で色が変わっているように見えてるんだけどな」
元の世界でも何だかんだで一緒には居たが、アークのそういう特徴が変わっていないことを知るのは、現在ではギルバートのみだ。
「……」
「けど、もしそのつもりで渡したんだとすると、とんだ策士だな。あの子も」
そんな友人が、相棒となった年下の少女に良いようにからかわれている。
それが分かっているが故に、一体何が面白いのか、と問われるレベルでギルバートはニヤニヤとした表情をアークに向けるが、当の彼は気づかない。
(あれ? 何か無かったか? 瞳と同じ色の宝石を贈る意味とかって……)
悶々とそんな考えが浮かぶが――
「おーい、おーい、アークぅ?」
どうやら横で彼を呼び、目の前で手を振る友人の声は届いていないほどに考え込んでいるのか、硬直してしまったらしい。
「ったく」
そんなアークを見て、ギルバートは肩を竦める。
たとえ、そこにどんな意図があるにせよ、キソラがアークを心配して、作って渡してきたことは事実であり。
(ま、あの子が悲しまないように、ちゃんと俺が帰してやらんと駄目だよな)
図らずも『ゲーム』などというもので友人と再会し、彼女たちと出会ったのだ。
これが最初から定められていたのかは不明だが、たとえそうでなかったのだとしても、自分たちのために『お守り』を渡してくれた彼女には、何か出来る限りのお礼がしたいものである。
「ほら、アーク。さっさと行って、さっさと帰ってくるぞ」
「お、おう……」
ギルバートから与えられた衝撃に我に返ったらしいアークは戸惑いながらも、彼に返事をする。
「早く帰れるといいなぁ」
「そうだな」
そう話しながら、二人は目的地に向かって歩いていく。
そんな長時間拘束されるような依頼を受けたわけではないが、それでも――今日ぐらいは早く帰っても許されるはずだ。
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