4 / 5
第一章
第三話 旅の再開はドラゴンスタート(二)
しおりを挟む「あの、ルナさん? 一体、どうするおつもりですか?」
ずっとこっちに向かって、笑顔なのが気になるんですが。
「まずは、フレイヤに囮になって、普通に攻撃してもらいます」
「おい」
「で、その間に、私はちょっと試したい魔法があるので、その準備に入ります」
「……」
聞いちゃいねぇや、こいつ。
「そもそも、せっかく寝てたのに起こされて怒るのは分かるけど、こっちの言い分をまともに聞かずに、一方的に追いかけられるってのも腹立つし」
だからって、攻撃していい理由にはならないと思う。
「つか、攻撃したら、余計に怒らせねぇか?」
「そこはほら、会話が無理なら、もう肉体言語で話すしかないじゃん」
「ルナさん、それどちらかっていうと脳筋的な考え方ですからね?」
おかしいなぁ。ルナって、魔導師のはずなんだけど。
「はいはい、そんなことより、さっさとあのドラゴンを止めるよ」
そんなことより、って、言われた本人が言っちゃ駄目な気がする。
けどまあ、ルナがやると言うからには、やらなければならないのだろう。もしここで、彼女を一人で置いていったりなんかすれば、ルナ本人だけではなく、冒険者仲間からも何を言われるか分かったものではない。
「それで、俺がやるべき事は囮になりつつ、ドラゴンの気を引き付けておけばいいんだな?」
「うん。さっきも言ったけど、その間にこっちは準備を済ませるから」
ルナが頷いて、タクトを取り出しながらそう告げる。
「それ、信じてもいいんだな?」
「もちろん」
自信満々に返してきたということは、それだけドラゴンを止める方法に自信があるのか、それともその逆であるがためか。
どちらにしろ、もうこうなればドラゴンを止めるのは決定事項だ。
「失敗するなよ」
「そっちこそ」
そう交わして、俺が走り出せば、ルナも詠唱を始める。
今の俺がするべきことは、何が何でもドラゴンをルナに近付けさせないことだ。
「……やっぱ、近づくとデカいな。ドラゴンって」
ズドンズドンと地響きとともに、ドラゴンの歩く音が伝わってくる。
小さいときは物語などで憧れたりもしたが、実際にこうして遭遇したり、見てみたりすると、とてもそれどころではないし、ドラゴンと戦った勇者たちが物凄い存在に思えてくる。
けれどまあ、今この状況の俺だって似たようなものである。このドラゴンさえどうにかできれば、物語の登場人物たちみたいになれるはずなのだ。最終的にルナがどうにかするつもりみたいだし、完全に彼女頼みになってしまっていることは否めないが。
「っと、弱気になるな、フレイヤ! やらずに砕けることよりも、当たって砕けろ、だ」
軽く両頬を叩けば、ルナの詠唱も終盤に入ったらしい。
タイミング的に、第一陣といったところか。
だったら、今の俺がやるべきことは、ドラゴンの意識を、ルナが放とうとする魔法に向けるのではなく、俺自身に向けさせることだ。
「大体――少しは人の話を聴こうとしろやぁぁぁぁっ!!」
当然、ダメージを与えられたとは思っていない。
でも、その隙にルナの魔法が被弾する。
「っ、やっぱり駄目か……」
魔法が効かないと分かっていたはずなのに、何故ルナは普通の魔法を放ったのだろうか。
『グルルル……』
「ドラゴンのくせに話せないとか、こいつ実はまだ子供か?」
いつの間に隣に来たのだろう、ルナがドラゴンを見つつ、唸りながらそう言うが、これでもし幼竜とかだったら、成竜はどれぐらいの大きさになるのか。
「それより、魔法は?」
「大丈夫。発動待機状態にしたから」
発動待機状態、ですか。
「確認し忘れたけど、試したい魔法の威力って、どのくらいなんですかね?」
「こっちや周辺には何の影響も無いから大丈夫。それに――」
にやりとして、ルナは告げる。
「精神操作は私の十八番だからね」
ルナがタクトを振れば、待機状態だった魔法が発動されたのだろう。闇がドラゴンを覆っていく。
うん、でもね。正直、今のルナは悪役にしか見えない。
「……何?」
「何でもない……」
悪役みたいだ、なんて言えば、怒られるのは目に見えるので、そっと目を逸らしたことは許してほしい。
俺たちがこうして話している間も、闇に包まれたドラゴンがギャーギャー言いながら、その場で暴れている。
何か……追いかけられていた時より、周辺の被害が増えているように見えるのは、気のせいか?
「……あれ、大丈夫か?」
「基本は沈静化する魔法だからね。多少暴れても、落ち着いてもらわないと困る」
俺、魔法のことについては、あまり詳しくないけどさ。ドラゴンの身体を包む闇以外に魔法があるように見えるのは気のせいなのかなぁ?
「ん、そろそろか」
ドラゴンの方も疲れてきたのか、先程よりも大人しくなってきたし、それに比例するかのように闇も少しずつだが減っている。
そして、ドラゴンの周囲にあった闇が完全に消えれば、ドラゴンの目はこちらに向けられる。
『……』
「……」
「……」
少しの間、互いに睨み合う。
先程暴れていた時と同様に、無駄に迫力があるが、それよりも威圧感みたいなものがあるのは、落ち着いたからなのか、正気に戻ったからなのか。
『その眼――』
眼? 眼がどうかしたのか?
俺の眼がどうにかなったのか、俺の少し後ろにいるルナの眼がどうにかなっているのかは分からないが、それを問うことはなかった。何故なら――
『フハハハ、そういうことか。そういうことなのか』
いきなり笑い出したドラゴンに、俺は顔を顰める。
いや、いきなり話し出したことにも驚きはあったけど、口に出しながら、自己完結されても困るわけで。
『だがな、それとこれとは話が違うんだよ。――何故、我を目覚めさせた。事と次第によっては、手を下さざるを得んぞ』
「それは、別の人に聞いてほしい所ですね」
ある意味、本題というべき、ドラゴンからの問い掛けに、ルナがそう答える。
『何……?』
「貴方を目覚めさせたのは、私たちではなく、私たちの前にあの場に居た人物。そして、私たちはその場に居合わせただけだし、あの場に居た人はもう去っていった」
ドラゴンの威圧に少しばかり逃げ出したくはなるが、ルナは気にせず、俺たちにとっての事実を告げる。
『では、それが正しいということも証明できないということだな』
ドラゴンから見下ろされるような視線に、ルナの舌打ちが耳に届く。
確かに、証明できる証拠などないのだから、俺たちの言い分を信じてもらうことは難しいのだろう。
「でも、何を言われたとしても、今ルナが言ったのが事実だ。俺たちには、別の目的でこの森に来て、あの場に居合わせただけのこと。別に信じろとは言わないが、その可能性すら視野に入れてもらえないのは、納得できない」
この状況を、どうにか打開したかった。
一方的に決めつけるのではなく、俺たちが言ったことを『一つの可能性』として、視野に入れておいてもらえるのなら――少なくとも、マイナス値同然だったこのドラゴンへの好感度も、少しは上がることだろう。
「……」
『……』
じっ、とルナからもドラゴンからも視線を向けられる。居心地悪い。
『それもそうか。だが、どうする? 我はお前たちを逃がすつもりは無いぞ?』
「どうしても?」
『どうしても、だ』
きっとルナのことだから、「あ、このドラゴン。頭堅いわ」とか思ってるんだろうな。
「――どうしても、駄目?」
『しつこいぞ。駄目だと言っているだろうが!』
きっと、最終確認なのだろう、ルナの問いに、ごぉっ、とドラゴンから威圧のようなものが放たれる。
「……そう」
その呟きで、今から彼女がしようとしていることが、容易に想像できる。
……ルナさん、強行突破する気ですね?
「私たちには別件があるって、言ったよね? そこを通してもらわないと、困るんだけど」
『我は何も困らんぞ?』
「鱗、剥いでやろうか。クソドラゴン」
この際、ルナの猫が取れ掛かってるどころか、取れてるレベルになってるとか、どうでもいい。
そして、分かっていながら言っているドラゴンもドラゴンである。どうして、そこまでして俺たちを足止めしたいのか。
「――フレイヤ」
「はいはい」
分かってますよ。
今までの付き合いで、全てを言わずとも、何を言いたいのかは分かっているから。
「……」
俺が背後の確認をすることなく駆け出せば、ルナが先ほど使った、ドラゴンの視界を覆うための闇が展開される。
『――ッ、貴様らァッ!!』
ドラゴンの怒りが伝わってくるが、無視である。
「……何とか無事に、この森を出れますように、と」
隣に並んだルナを見て、今はただ、そう願っておくことしか出来なかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
魔王補佐官が紡ぐ、愛しくも悲しい物語
夕闇 夜桜
ファンタジー
魔王補佐官であるリーンハルトは、いつも通り仕事をしていた。
けれど、新たな魔王となる少女、不知火真南(しらぬい まな)がやってきたことにより、勇者召喚が行われたことを知る。
『勇者が召喚されれば、魔王も引き寄せられるかのように、同時に召喚される』
しかも、勇者と魔王の関係は、夫婦や恋人、兄弟姉妹だったりするから、余計に質(たち)が悪い。
そして発覚する、今代の魔王と勇者となった二人の関係とは――
【前後編(本編)+登場人物、真南視点(おまけ)、北都視点の全六話です】
【※『小説家になろう』、『カクヨム』、『pixiv』、『マグネット!』、『エブリスタ』、『ノベルアップ+』さんにて同時掲載中】
異世界転移したくない者たちvs異世界転移させたい世界
夕闇 夜桜
ファンタジー
魔法陣の出現が当たり前となった現実世界で、主人公たちが召喚回避していくだけの、タイトル通りの物語です。
思いついた設定をそのまま書いてみました(特にこれと言ったオチ無し)。
迷宮管理者と次元の魔女
夕闇 夜桜
ファンタジー
「孤独な迷宮に、冒険と言う名の光を」
剣と魔法が存在する世界。
冒険者たちから、特例でその存在を認められている者、『迷宮管理者』。
その若き管理者・キソラは、冒険者たちの要望に応え、危険な迷宮を日々開放している。
そんなある日、迷宮に何者かが忍び込んだらしく、迷宮守護者(番人やボスともいう)からそれを聞いたキソラは、確認のために、連絡のあった迷宮内部へと、足を踏み入れーー……
黒き青年との出会いに、『ゲーム』という名の戦いの始まり。
自身の運命と繰り返される転生。
全てを知ったとき、キソラの下した判断とは……?
【不定期・月曜更新(偶数月の一回または奇数月の月曜更新予定)です】
【※おそらく、皆さんの思う“迷宮管理者”とは少し違うと思われます】
【※前半、転生関係云々はほとんどありません】
【タグ補完:“17” “18”】
【『小説家になろう』、『カクヨム』、『pixiv』、『MAGNET MACROLINK(元・マグネット!)』『エブリスタ』『ノベルアップ+』にて同時掲載中】
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる