七人の魔王と救済の勇者。そして、無白の魔王

夕闇 夜桜

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始まり

プロローグ

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 この世界には、七人の魔王が居る。

 魔法国家の王、人族魔王。
 魔族を統べる、魔人族の魔王。
 獣人の中でも一際能力の高い、獣人魔王。
 魔法に特化した種族にして、植物の声を聞くとされている、エルフの魔王。
 妖精を統べる妖精女王ティターニアと対にして同一視されている、妖精魔王。
 幾多の属性を司る、精霊魔王。
 神々から選ばれ、天界からの干渉を許されした、神族魔王。

 以上が、非常時の際にその能力ちからの行使を許された『七人の魔王』である。
 あるのだが――その一席は現在、空席となっていた。

「クソっ、何ということだ!」

 獣人魔王が勢いで立ちあがり、どこか悔しそうに叫んだ後、机にその拳を叩きつける。

「落ち着いてくださいな。声を上げただけで状況が変わるわけでもないのですから、まずは座ってください。獣人魔王」

 妖精魔王がそう宥めるが、獣人魔王が着席した後も、その悔しそうな表情が変わることはなく。

「まさか、『精霊魔王』が失踪するとはな」

 溜め息混じりなのは、エルフの魔王。

「貴方がたが揃いも揃って、彼女の婚姻に反対したからでしょう」

 何を言ってるんだ、と言いたげなのは、神族魔王。
 その事について、彼は特に賛成も反対もしていなかったのだが、基本的に彼が意見を出すのは世界の命運が関わってる場合のみ。

「仲間の幸せを素直に祝えばいいものの、自分が選ばれなかった上に、どこの馬の骨かも分からない奴に彼女を奪われ文句を言うなど、それこそ馬鹿馬鹿しいではないですか」
「……ぐっ」
「それは……」
「仕方ないではないですか!」
「仕方なくはないでしょ。誰よりもどんな人たちよりも一緒に居る時間は長かったはずなのに、チャンスをものに出来なかった三人が悪い」

 神族魔王の言葉に、人族魔王、獣人魔王、エルフの魔王が唸るが、魔人族の魔王が文句を言いたげな三人の口を塞ぐ。
 事実、彼らに精霊魔王の相手を責める資格は無いのだ。あるとすれば、彼女へ積極的に行動アタックした者のみではあるが、結果として三人とも行動しなかったのだから、やはり文句など言えるわけがない。

「まあ、そんなことはさておき、問題は彼女の居場所です」
「ですね。一度でも連絡があれば良いのですが、場所を知られるのを恐れているのか、一度も連絡はありませんし」

 魔人族の魔王も妖精魔王も連絡が無い理由が思い付かないわけではないが、もしそれを口にすれば神族魔王以外の男性陣にダメージを与えかねないので、口に出すようなことはしない。

「とりあえず頑張って、地道に探していきましょうかね」

 結局、こうした方が早く見つかるのだ。
 この世界がどれだけ広く、どれだけの街や町、村があり、人々や種族が存在していようと、彼女は――精霊魔王はこの世界のどこかに居るのは確実なのだから、絶対に見つけられるはず。

 少なからず、彼らは、彼女たちは、このときまではそう思っていたのだ。

   ☆★☆   

「な、んで……」

 ぱちぱちと木が燃え、家も燃え。時折、爆発を起こす。

 ――一体、何が起こってるんだ?

 分からない。分からないが、ここから逃げないといけないことだけは、何となく分かった。

「フ、レイ、ヤ……」
「っ、母さん!」
「あんたは早く逃げなさい!」

 ハッとして声がした方に目を向ければ、そこにいたのは俺を守って、背中に大きな火傷を負った母さんが倒れていた。

「でも!」
「でも、じゃない。それにもう、この怪我じゃ、どうせ私はまともに歩けないからね。だったら早く、無事なあんただけでも逃げなさい」

 俺が母さんを見捨てることなど出来ないと分かっているはずなのに、母さんは俺を生かすためだけにそう言っていることが、いやでも分かる。

「っ、ごめん……ごめん、母さん」
「気にしないで良いんだよ。ちゃんと、母さんの分まで生きなさい――フレイヤ」

 そう言った母さんの姿は、それが最後だった。
 だから、燃え行く村の中を歩いて、とりあえずは隣町を目指すことにしたのだが。

「――」

 どこからか声が聞こえてきていたので、そちらに歩いていってみれば、そこに居たのはずっと一緒に遊んできていたルーナリア。

「ごめんね。この先、貴女に辛い思いをさせることになるかもしれないけど」
「ううん、心配しないで。でも、ちゃんと話してくれてありがとう。話が聞けて良かったよ」
「そう? なら、良かったわ」

 そこで小母おばさんが、俺が立っていたのに気づいたらしい。

「フレイヤ君も無事だったみたいね」
「あ……」

 小母さんの言葉に、声が洩れる。

「フレイヤ君と行きなさい、ルーナリア」

 小母さんは告げる。

「たとえ、この先に何があろうと、どんなことが起ころうと、きっと――」

 きっと、いろんな人が支えてくれるはずだから――そんな小母さんの声は、火の付いた木々の落下により、遮られる。

「ルーナリア……」
「行こう、フレイヤ」

 片膝付いていたルーナリアは立ち上がると、そう促してくる。

「お前……」
「早く行こう。泣くのはそれからでも出来る」

 そうは言うけど、どうしても強がっているようにしか見えなくて。
 しかも、ルーナリアの表情はこの火事の件だけが原因じゃないようにも思えて。
 だから、だから――……

 ――俺が、守らなきゃ。

 この時も、そして村を出たところで本格的に涙腺が決壊したかのように、泣き出した彼女を見たときも、俺はそう思ったのだ。

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