暗殺貴族【挿絵有】

八重

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第5章 IFの物語(各キャラエンディング集)

ジュドーED【壊れた物語】

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※※こちらのENDはラリウスも火に飲み込まれて死亡しています。









俺は誓う

剣となりて

お前のいた この街を守ると







「もうこれ以上は持ってないよっ」

 人気のない路地裏で、数名の男たちに囲まれて震える少年が1人。少年の目の前でリーダー格の男が紙幣を数え終え、小さく舌打ちをした。

「あぁ? こんだけしか持ってこれなったのかよ!?」
「だ、だってこれ以上は……」

 言葉を言い終わらないうちに少年の腹部に男のけりが入った。少年はその場に倒れこみ、その衝撃に苦しそうに咳き込む。

「言い訳は聞きたくねーよ!」
「もっと盗ってこれるだろー?」
「こんな額じゃ今月分の目標に届かないよー?」

 少しの慈悲もなく少年に次々浴びせられる言葉。そして暴力。

「ぐっ……」

 倒れた少年の頭を踏みつけ男は言葉を突き刺す。

「本当にお前は役立たずだな」
「ご、ごめんなさい……次はもっと持ってくるから……!」

 少年の返答を聞いて男は満足そうに微笑むが、足を少年の頭からどけることはしなかった。いや、それどころか彼はこれからさらに少年に暴力を加える気満々だった。
 その時、取り巻きのうちの1人が、冗談交じりに笑いながらこう言ったのだ。

「おいおい。あんまりやりすぎると《悪魔狩りの悪魔》が来るぞ」

 その言葉にリーダー格の男は小さく笑った。

「おいおい。お前あんな噂信じてるのか?」
「いや、ちょっと冗談で言ってみただー」

 男が言葉を言い切らない内に、乾いた空気を切り裂く音が響いた。路地裏の壁でその音が木霊すなか、男の体がグラリと傾く。
 一瞬の出来事で男たちの体は金縛りにあったように凍り付いていた。そんな彼らに構うことなく、パァンパァンと複数の銃声が次々鳴り響く。

「なっ……」
 
 少年の頭を踏みつけてた男の視界に、頭から血飛沫をあげ次々と倒れていく仲間の姿が映る。そして銃声が止み、音の残骸がまだ残るその空間に立つのはリーダー格の男のみ。
 男が銃声をした方に顔を向けると、そこには全身黒ずくめの少年が銃をこちらに向けたままグングン近づいてきていた。その時男の頭にある単語が浮かんだ。


《悪魔狩りの悪魔》


「っ…ま、さか……」

本当に実在したとはー…

「ひぃっ……」

 男は少年の頭から急いで足を退けると、踵を返し、その場から逃げだした。

 再び鳴り響く銃声。

「うあぁぁぁっ……!」

 頭を解放された少年が顔を上げると、逃げ出した男が足を抑えて芋虫のように地面を転げまわっている姿が目に入った。まだ何が起こったのか理解できず、倒れたまま呆然とその光景を見ていた少年の横を黒いブーツが通り過ぎる。
 少年の横を通り過ぎた黒髪の少年は黒のロングコートをなびかせ、足の痛みにもがく男を見下ろす位置に行くと、その手に持つ拳銃を下に構えた。

「お、お願いだ……み、見逃してー」



「お前は人間か?」

 静かに、しかしどこか狂気を含んだ少年の声が男に向かって発せられた。

「えー…? な、に……?」
「お前は人間か? それともゴミか?」
「お、おれは……」
「それとも悪魔か?」

 その時男の目に映ったのは、どこまでも黒く、深く、虚無の感情を含んだ漆黒の瞳。

 目を離したくても離せない。逃げたくても逃げられない。

 男はその瞳に捉えられたまま、額に空洞を作りその場に倒れこんだ。黒髪の少年はしゃがむと、倒れた男の瞳をジッと見つめた。そこには虚無の黒に捉えられたまま、生気を失ったブルーの瞳。

「お前はゴミだったか」

 黒髪の少年がそう言って立ち上がると後ろの方で小さな悲鳴があがった。黒髪の少年が後ろを振り向くと、先ほどまで地面に倒れていた少年が慌てて逃げていく後姿が目に入った。

「……」

 黒髪の少年はその事を別段気にすることもなく、その場を立ち去ろうと歩みを進めた。と、その時。バタバタと複数の足音が路地裏に響いた。

「そこのお前! その銃を捨てろ!」

 黒髪の少年が声の方に顔を向けると、そこには銃をこちらに向けて距離を取る警察官の姿があった。警察官は次々とその数を増やし、黒髪の少年は挟まれるような形で、あっという間に囲まれてしまった。
 普通なら慌てるような場面だが黒髪の少年は至って冷静にその状況を見ていた。

「……お前が《悪魔狩りの悪魔》だな!」

 警察官のうちの1人のその言葉に黒髪の少年は首を傾げる。

「……俺が悪魔? 違う。悪魔はそんなものじゃない。奴らは薄汚くて、意地汚くて、慈悲のかけらもない奴だ。
 赤いあかいアカイ瞳をしているんだ。……お前らそんなことも知らないのか?」

 この状況で冷静に言葉を返してくるあたりもそうだが、その少年が語る内容が常識とはかけ離れている非現実的な妄想のようで、警察官たちの間に緊張が走る。
 状況から見て自分たちが有利なのは確かなのに、少年にはそれをも脅かす狂気があるように感じたのだ。

「だから、こいつらは悪魔じゃなかったみたいだ……」

 そう言って少し残念そうに黒髪の少年は側に倒れている男の瞳を見つめた。そして視線を目の前の警察官に向けると、無表情のまま少年は口を開いた。

「こいつらただのゴミだった」

 その淡々とした言葉に警察官たちも息をのむ。

「……悪いがそこを開けてくれ。俺にはやらなくちゃいけないことがある」
「そんな事できるわけないだろう!」
「さっさとその銃を捨てろ!」

 警察官の言葉に少年は少し眉間に皺を寄せた。

「何故邪魔をする。俺はこの街を守ってるんだ。
 ……守らなくちゃいけないんだ。悪魔からゴミどもから……。
 リラが好きだったこの街を……。あの方がそうしてきたみたいにー…」
「お前がやってるのはただの殺人だっ!」

 その言葉に少年は目を見開く。

「黙れ……。お前らに何がわかる……」
「いいから銃を置け! でないとー…」
「お前らにはわからない! だから俺がしなくちゃいけないんだ!!」

 少年は大きくそう叫ぶと手に持つ拳銃を前に構えた。

 路地裏に複数の銃声が木霊す。

「ぅぐ……」

 少年はいくつもの銃弾を受け、その体を後ろに傾けた。しかし倒れるまではいかず、少年はふらつきながらもその場に留まった。
 苦痛に耐える荒い息づかいが少年の口から洩れる。態勢を立て直そうと動かす体からは赤い液体がしたたり落ちる。

「もういい加減観念しろ!」
「……俺が。……俺が仇をうたなきゃいけないんだっ!」

 少年は再び拳銃を前に構えるが、それよりも早く彼の胸に銃弾が撃ち込まれた。少年の瞳には自分の胸を貫いた警察官の姿が映る。

 何故か少年にはその警察官と自分の姿が重なって見えた。

「おまえ、は……」

 少年はついにその拳銃を離し、天を仰ぐような形でその場に倒れた。その瞳に空がうつる。

「あぁ……」


空を見たのはいつぶりだろうかー…

あいかわらず 俺には灰色の空にしか見えない

あの日から空は 景色は ずっと灰色だ

仇を取ればこの灰色の空も少しは晴れるだろうと

そう思っていたのに

結局大切な2人の仇を取れなかった


申し訳ありません。ラリウス様

すまない。リラ

すまない……


リラの好きだった街を

俺達の思い出が残るこの街を

守れなかった

俺では守れなかった


「リラ……」


こんな弱い俺でもお前は許してくれるのだろうか…

迎えてくれるのだろうかー…


「すまな…い……」





 息絶えた少年の周りに警察官たちが集まる。

 赤い液体に沈む黒ずくめの殺人鬼と、その結末を疲弊と安堵の表情で見下ろす警察官たち。

 それはまるで英雄達が悪魔討伐を終えその亡骸を見つめているようにも見えたー…




◆END◆

※以下は物語の補足など

 冒頭に書きましたが、ジュドーのBADENDはラリウスも死亡しています。ジュドーの場合リラと同じくらいラリウスの存在が大きいためです。なので彼が壊れる時はそのどちらともを失った時なのです。


【悪魔狩りの悪魔について】

 最初は暗殺貴族の人々が行ってきたような、救いようもない悪人をターゲットに殺しを行っていたジュドーでしたが、そのうち小さな悪事に手を染めた者も殺し始めました。そして彼は殺す前にこう問いかけるのです。
 「お前は悪魔か?」と。
 何人か逃げ延びた者たちがそのことをうわさし始め、ジュドーは《悪魔狩りの悪魔》と呼ばれるようになりました。


 警察が来ても逃げず、取り囲まれても冷静だったのは、ジュドーの心が壊れているのもありましたが、実は心の片隅で早く自分の事を止めて欲しいと願っていたからです。それはジュドーに残っていた僅かながらの良心。
 自分にとどめを刺した警官が自分と重なって見えたのは、ジュドーに残っていた良心がジュドーを殺したようなものだからです。


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