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第5章 IFの物語(各キャラエンディング集)
マディーナED【壊れた物語】
しおりを挟む※直接的な表現はありませんが、多少アダルティーな壊れ方をしています。苦手な方はご注意ください。
「……悪いけど断るよ」
俺の返事を聞いて、目の前の女性は悲しそうに目を伏せた。少しの沈黙のあと彼女が口を開く。
「……なんで駄目なの」
「それは……」
言葉を続けようとしたが彼女の強い言葉がそれを阻んだ。
「わたしっ…ちゃんと待ったじゃない……! マディーナが2年待ってくれって言うから……!」
「そう、だったな……」
彼女の“2年”と言う言葉が俺の中に重く沈む。もうあれから2年も経っていたんだな……。
あの時のことはつい先日の事のように感じるのに…
彼女を失った喪失感は全くと言っていいほど薄れてないのに……
「悪い……。そう言えば心変わりして諦めてくれるんじゃないかと思ってた」
それに…俺自身も少しは立ち直れるんじゃないかと思ってた。
「そんなことあるわけないじゃないっ……!」
俺の言葉に彼女はより一層言葉を荒げる。
「だって…だってこんなにも好きなんだもの!」
感情が高ぶり彼女の瞳からポロポロと涙がこぼれる。
「……お前なら俺以外にもいい男は現われるよ」
「わかってない! マディーナはわかってない…! 私はあなたじゃなきゃ嫌なのよ! マディーナ以外なんて考えられないっ……!」
彼女の心からの叫びを聞いて、俺の心が…想いが涙を流した。俺も彼女みたいに心の内を全部ぶちまければ良かった。
2年前の…まだリラが笑っていた頃にそうすれば良かった。年齢や周囲を気にして、色んな理由をつけて遠慮していたのが馬鹿だった。
「マディーナはわからないかもしれないけど…私ここまで誰かを好きになったの初めてなのよ……」
「……それは違う。違うよ……。痛いほど…その気持ちはわかるんだ」
俺の言葉を聞いて彼女は察したようだった。
「あなたも……ずっと誰かを想っているの?」
俺の沈黙を肯定ととった彼女は言葉を続ける。
「……でもマディーナはずっと恋人作ってないのよね。それって…あなたもフラれたの? それともまだ気持ちを伝えてないの?」
「はは…そうだな……。どっちも、かな」
俺の声が下に落ち込む。
「そっか……」
少しの沈黙のあと、彼女が意を決したように顔を上げた。と思ったら次の瞬間には彼女は俺の胸に飛び込んできた。
「うぉっ……!」
予想外の衝撃に抱き着かれたまま、後ろのソファに倒れこんだ。近い距離で彼女の瞳と視線がぶつかる。
「私が忘れさせてあげるからっ。だからっ…遊びでもいいから……」
普通こんなに女の子に密着されれば、胸の鼓動は早くなるのだろう。だけど俺の心臓はだんだん冷める様に、ゆっくりと脈を打っている。そして考えてしまう。
これが彼女…リラだったらどんなに良かっただろうか。このぬくもりが奇跡のぬくもりになる事はないのだろうか、と。
「お願いよ…遊びでもいいから側にいさせて……」
ゆっくりと瞳を閉じながら女が俺との距離を縮める。俺は冷たさを含んだ眼で彼女を見つめたままそれを受け入れた。
驚くほど何も感動も喜びもない。ただ唇と唇が触れただけの現象。唇を離して瞳を開いた女は、俺の冷え切った表情を見て一瞬怯えたような表情を浮かべた。
「あ…ご、ごめんなさい…わたし……」
慌てて体を離そうとした女の腕を掴んで、再び俺のもとに引き寄せた。
「俺は…お前の名前を呼ぶことはない。どんなに抱こうが決して名前を呼ばない。
どんなに体を交えても決して共に眠りにつくことはない。
どんなにお前に欲を吐き出そうと共に朝日を迎えることはない。
どんなに一緒にいようとお前に気持ちを寄せることもない。
俺はお前を多くいる女のうちのただ1人としか思わない。
一生お前は俺の唯一になることはない」
そこまで一気に言うと俺は一段と低く、強めの言葉を彼女に浴びせた。
「誰も俺の唯一にはなれない」
先ほどの勢いが嘘のように女の瞳は恐怖で揺らいでいた。
「……これが最後の俺の優しさだ」
俺は掴んでいた女の腕をパッと離すと、その体押して床に立たせた。
「ただの欲吐き人形になりたくないのなら、二度とここには来るな」
もう、顔を上げて彼女の顔を見ることはしなかった。バタバタと足音が扉の向こう側に消えると、俺は深いため息をつきゴロンとソファに横になった。
「リラ……」
冷たいものが一筋、頬を滑り落ちていた。
あぁ……
あったかいな……
「マディーナ様」
リラ……
リラなのか……?
俺はお前の事が……
「リラ……」
視界が開けるとそこには俺の顔を覗き込む先ほどの女がいた。良い夢が一気に台無しにされて俺の眉間に皺が寄る。
「……なんでいるんだ」
俺の言葉を無視して女は小さく微笑んだ。
「リラって言うんだね」
「……」
「いいわよ。私の名前なんか呼ばなくて」
「何言ってるのか、わかってるのか」
「なんなら抱きながらそう呼ばれてもいい。リラって子の代用品でもいい」
「……」
「行き場のない感情全て私に吐き出してもいい」
「はっ…お前、壊れてるな」
「壊れるくらいマディーナが好きなの。あなたも自分が壊れるくらいリラって子が好きなんでしょ?」
その言葉に一瞬目を見開いた。そして自嘲気味に小さく笑った。
「あぁ……そうだな。お互い壊れてるな」
「私をあなたの欲吐き人形にして」
「……心が死ぬぞ」
「いい。それでもいい」
「……飽きたら人形は捨てられるんだぞ」
「いいわ。ぼろきれの雑巾みたいに捨てられても構わない。私をリラだと思って抱いて、飽きたら捨てればいいの」
「そうか……」
俺はゆっくりと瞳を閉じて愛しい彼女の顔を思い浮かべた。そして瞳を閉じたまま、仮初めの彼女に口づけた。
どんな感情かはわからない。だけど俺の瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。それを誤魔化すように何度も女に口づけた。
「リラ…リラ……」
合間合間に彼女の名前を呼びながら何度も何度も……
「リラ…愛してる……」
『私もマディーナさんの事が好きです』
あぁ やっとお前に会えた
軋むソファの音に紛れ、俺の日常が壊れていく音がした。
*******
あれから何度あの女を抱いただろう。何度リラの名前を呼んだのだろう。
もう わからない
あの女は俺のもとから去って行った。
「これ以上あなたが壊れていくのを見たくない」
最後にそう言って去って行った。別に悲しくも辛くもなかった。淡々とその事実を受け入れた。
ただ俺は自分で考えていた以上にあの女に依存していたようだった。いや、女にじゃない。
リラの幻を見ながら女を抱く行為に依存していたのだ。
「あ、あのっ……!」
「ん? どうした?」
「わ、わたし…先生の事……マディーナの事が好きなのっ」
「……ありがとう。気持ちはありがたく受け取っておくよ。でも今、恋人は募集してないんだ」
「……もしかしてお付き合いしている人がいるんですか?」
「いや、いないよ。でも今は作る気は全くないんだ」
「そ、そんな……」
涙ぐむ女にハンカチを渡すとマディーナは彼女の耳元に唇を寄せた。
「……遊ばれてもいいなら今夜うちにおいで」
耳元を真っ赤にさせて女がマディーナの顔を見れば、彼は妖艶な笑みを零してみせた。女は本能的にそれが危険な笑みだと感じたが、それと同時にとても甘美な果実のようにも思えてしまった。
甘美で艶美な…危険な果実。
「……はい」
女の返事を聞くとマディーナは小さく口元を歪ませた。
これでまたリラ…お前に会える
俺は決して途絶えさせない
あの ぬくもりを
◆END◆
※以下は物語の補足です
物語の中でマディーナは先生と呼ばれてますが、彼は街で催眠療法を行っています。壊れるまでは、マディーナは患者さんに言い寄られても絶対に手は出しませんでした。オンとオフはきっちりしていたのですが、壊れてしまった彼は女の肌のぬくもりを求めて患者にも手を出すようになりました。
マディーナにとって女はあくまでもリラの代用品で、体のみの関係なのですが、何故かそのことを受け入れてくれる女性ばかり彼の周りに集まってくるようになります。まるで吸い寄せられるように。もう彼の崩壊は誰にも止められないのです。
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