暗殺貴族【挿絵有】

八重

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第5章 IFの物語(各キャラエンディング集)

シルキーED【希望の物語】

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「すみません。お昼になったので抜けさせてもらいます」
「あ、あぁ。わかった」

 綺麗な金髪の青年は教授であろう人物に一言伝えると、着ていた白衣を椅子にかけ足早に部屋を出て行った。

「……シルキー君がこんなに早く昼休憩に行くなんて珍しいな。いつも昼食をとり忘れるくらいなのに」

 教授がそう言うと周りにいた学生のうちの一人が知らないんですか。と小さく笑ってみせた。

「彼があんなに急ぐなんて恋人絡みのことしかないですよ」
「えっ……! シルキー彼女いんのかよ!?」
「そうだよ。あんたも知らなかったの?」
「うわぁ…色々とショックだ……」
「成績でもプライベートでも外見でも年下君に負けるとなるとね~」
「うっせ! わざわざ口に出して言うなよ。って外見は余計だろ」
「そうだよ。外見やプライベートはまだしも、成績は君がもっと勉学に励めばいいだけだろう」
「教授…今おれが欲しいのは正論じゃなくてフォローの言葉です……」
「それにしてもシルキー君がねぇ…。ただの研究馬鹿だと思ってたけど違うんだね」
「教授。さりげなく俺の言葉流さないでください……」







「置いて、いかないで」

 その言葉にリラは思わず歩みを止めて後ろを振り返った。そこには「待ってよ~」と言いながら、幼い少年が母親らしき人物の元へと、慌てて走っていく姿があった。

「あれ……?」

 先ほど聞こえてきた声が妙に懐かしく感じたのだが、どうやら気のせいだったらしい。リラは前へと向き直ると、待ち合わせ場所へと向かうべく、黄色の絨毯の上を進んでいった。




(髪型良し、洋服良し、リップ良し)

 待ち合わせ場所に早めについたリラは手鏡で自分の姿をひとつひとつ確認していた。そして全て確認するとパチンと手鏡を閉じて鞄に仕舞い込む。
 と、ちょうどその時、遠目にシルキーの姿を発見し、リラは小走りで彼の方に向かって行った。

「シルキー! 研究お疲れ様」
「ありがと。……待った?」
「ううん。丁度さっき来たよ。だからそんな走ってこなくても良かったのに」
「……別に走ってなんかないよ」

 シルキーがそう言うとリラは小さく笑って彼の髪の毛に視線を持っていった。

「うそ。だって髪の毛が乱れてるもん」
「……そこは気づいてもスルーしてよ」

 少しむくれてそう言いながら、髪の毛を結びなおすシルキーにリラは再び小さく笑う。そんな様子にシルキーは眉間に皺を寄せた。

「……何?」
「あ、いや可愛いなって思って」

 リラの言葉を聞いてシルキーは小さくため息をつく。

「あのさ、毎回言ってるけど男に“可愛い"は失礼なんだからね」
「はい。ごめんなさい」
「……その顔は反省してないでしょ」
「してるって。それよりお昼どこで食べよっか?
 あ! そう言えばここの近くに美味しいって評判のレストランがあってねー…」

 シルキーの言葉を軽くあしらい、ルンルンと上機嫌に歩き出すリラ。シルキーは小さくため息をつくと優しい眼差しで彼女の後ろ姿を見つめた。

「どっちが年上なんだか…」
「ん? 何か言った?」
「何でもないよ。で、評判のレストランってどこ?」
「えっと、確かこの道をまっすぐ行って右に曲がった所にあるって言ってた」
「へー、そんな近くにあったんだ。じゃあそこに行ってみようか」
「うん」


 レストランまでの道を手をつなぎ歩くシルキーとリラ。そこにヒラヒラと舞い落ちるイチョウの葉。

「なんだか時間ってあっという間に過ぎるよね」
「なに。いきなり」
「あ、いや……。イチョウを見ていたらなんだかそんな気分になっちゃって…。
 あれからもう2年経つんだなーって……。本当に色んな事があったね……」
「そうだね……」
「あの時…、一度死んだとき…。暗闇の中シルキーの声が私を呼んでくれたんだよね」

 懐かしむようにそう言うとリラは体を少しシルキーの方へと傾けた。

「あの事がなかったら私はシルキーへの気持ちに気づいてなかったかもしれない。今シルキーとこうして手を繋いでなかったかもしれない……。そう思ったらちょっと怖いな」
「確かにそうだけど……僕はあんな思い二度とごめんだよ」

 少し声のトーンが低くなったシルキーに気づきリラは不安げに彼の顔を覗き込んだ。

「……何か怒ってる?」
「別に怒ってなんかないよ。ただ…あの時みたいな気分はもう味わいたくないって……。すごく怖かったから……」
「そっか……」

 リラはひと呼吸置くと、繋いだ手にギュッと力を入れた。

「大丈夫。私はちゃんとここに居るから」
「……うん。わかってるよ」

 シルキーはそう言うとリラの手をギュッと握り返した。

「でもその後にも色々あったよね」

 少し怒りの籠ったリラの声にシルキーがビクリと肩を揺らす。

「……え?」
「いきなりシルキーが飛び級して大学行っちゃたりね!」
「まだ根に持ってるの?」
「だってもっと前から相談してくれてもいいじゃない…! なのに決定してから報告なんて……!」
「ごめんって。色々あった後だったからリラに負担掛けたくなかったんだよ」
「言い訳にしか聞こえないでーす」
「今度からちゃんと相談するから」
「ふふ…なら許す!」

 悪戯っぽく笑うリラにつられてシルキーも笑う。そして、こんな風にリラと冗談を言い合えるような仲になったことに幸せを感じた。

「それにしても本当にあっという間だったなー」
「今度は何?」
「シルキーに身長抜かされるの。昔はこのくらい小さくて可愛かったのに」

 そう言ってリラは空いている方の手を自分の顎あたりまで持ち上げてみせた。

「そこまで小さくないでしょ。今のリラより少し低かったくらいだよ」
「そうだっけ」
「そうだよ。リラは身長そんなに伸びてないでしょ」
「そうなんだよね~。シルキーばっかズルい」

 リラがむくれてシルキーの方を見る。シルキーはそんな彼女の様子を見て小さくため息をついた。

「ズルいって…僕もそれなりに努力したんだからね」
「そうなの?」
「そうだよ。だって…早く兄さん達みたいになって…。リラの隣に立っても…おかしくないように、さ……。
 ま、まだまだ目標には届いてないけど」

 シルキーの言葉にリラは意外そうに目を丸めた。

「なに。その間抜け面」
「あ、いや…そんな風に思ってくれてたなんて……」
「街のショーウィンドウを見る度に思ってたよ。それと……」

 そこまで言ってシルキーはピタリと歩みを止めた。その事にリラはハテナを頭に浮かべ、彼の顔を見る。

「え?」

 気がつけばリラの目の前にはシルキーの顔があり、軽いキスを唇に落とされていた。その状態のまま固まったリラの顔を見てシルキーはクスリと笑ってみせた。



「こうやって背伸びせずにキスしたかったし…ね」
「っ~!」

 慌ててシルキーの顔を押しのけるリラ。

「ふふ…今更キスなんかで照れないでよ」
「照れてなんかないっ」
「ふーん。……ところで今日なんで化粧してるの?」
「え……?」
「いつもは軽くリップ塗るくらいだったでしょ。色なしの」
「え…っと」
「それに今日はやけに髪型も凝ってるし…。その洋服も初めて見たよ。
 もしかして僕とのデートのために気合入れてくれたの?」

 意地悪そうに微笑みながらそう聞いてくるシルキー。確かにそうなのだが、面と向かってそう言われると照れるものがある。

「……そうだよ。デートとか久しぶりだし。悪い?」

 少し不機嫌そうな声で返事をするものの、リラの頬は恥ずかしさで紅潮している。そのちぐはぐな姿にシルキーはふふ、と小さく笑ってみせた。

「なんだよ…可愛いのはリラの方じゃん」
「なっ…なにそれ!」
「照れない照れない」
「照れてなんかないっ」
「はいはい」

 黄色の絨毯の上を2人で歩きながらたわいもない会話をするこの時間。それがどんなに貴重で奇跡なのか僕は知っている。

 あの日、あの時、ひと時でも彼女のいない絶望感を味わった僕は知っている。大切なものは何かを。何だったかを。

「ねぇ…今度は1日ゆっくりとデートしようよ」
「え…でも今研究で忙しいんじゃないの?」
「そんなのどうとでもなるよ。だからまた一緒に出かけよう…ね?」
「うん。一緒に、ね」





◆END◆

※以下は物語の補足などです

 一応シルキーはメイザース家から大学に通ってますが、離れた場所にあり行き帰りに時間がかかってます。なので余計にゆっくりとリラとデートできない模様。

 本当は大学の近くに部屋を借りようとも考えましたが、余計にリラとの時間がなくなってしまうので辞めました。また自分がいない間に、兄たちがリラに手を出しそうで不安なのも、理由の1つです。

 壊れた物語と専攻している学科は同じでBioscienceですが、目的は違い、研究を人類の生存や病気の解明などに役立てたいと考えています。また学生同士の関係も良好なようです。

 作中ではリラを弄んでますが、付き合いたての頃はいじらしくて、可愛げがあったらしいです。ただ本人曰く「それはお互い様でしょ」とのこと。




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