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第5章 IFの物語(各キャラエンディング集)
ギル&ジルED【奇跡の物語】
しおりを挟む「うわぁ。やりがいがあるなぁ」
扉を開けた私の第一声はそれだった。2人の留学先に来る際、ギル君とジル君から2人で暮らす部屋の鍵をもらったので、2人が帰ってくる前に少し片付けでもしようと思っていたのだ。
まぁ、予想通りと言うか…部屋は玄関先から見事にものが散乱していた。
「まぁ、今まで片付けなんてしてきてないからしょうがないのかな……」
私は取り敢えず玄関先に無造作に置かれた本や楽譜を集めて部屋に入った。部屋の中も予想通りの散らかりようで私は自分の荷物を置いて腕まくりをした。
「屋敷で鍛えた力を発揮する時ね」
錯乱している物の中には楽譜が詰まった本が多く、中をペラペラとめくってみると譜面上に色々な書き込みがされていた。
「2人とも頑張っているんだな……」
ギル君とジル君が音楽留学したいと言いだしたのは私が一度死んだ時から半年後のことだった。今までは暗殺貴族としての仕事があったから迷っていたらしい。正直寂しい気持ちもあったが、これからのことを話す2人の生き生きとした表情を見ていたらそんな気持ちも薄れていった。
「あ…これ……」
窓辺に飾られた写真立てが目に入り手に取る。そこには私をはさんで笑うギル君とジル君が写っていた。この時の私は泣いた直後でうっすらと目元が赤くなっていた。
「俺たちリラちゃんの事が好きなんだ。男として」
留学が決まった後、2人からそう気持ちを打ち明けられた。2人の言葉はすごく嬉しかった。でも私はすぐに言葉を返すことができなかった。それは私も同じ気持ちだったから。
ギル君とジル君。2人とも好きだった。どちらを、なんてことが考えられなくてどう返事をしていいかわからなかったのだ。
「今すぐ答えを出さなくてもいいから。じっくり考えて」
2人の優しい言葉に思わず涙がこぼれてしまった。そう。この写真はその直後に2人が暫く会えないから、と撮ったものだった。
それから1年後。ギル君とジル君から来て欲しいと旅客船のチケットが手紙と共に届いた。そして今に至る。
「もう1年か……」
会っていない間に2人の気持ちが変わってしまうんじゃないかと不安に思っていたが手紙の最後に“答えを聞かせてね"とあったからそれもなかったようだ。安心したような、そうでないような。複雑な気持ちだった。何故ならまだ自分の答えが出てないからだ。
私は小さくため息をつくと写真立てを元の場所に戻し、掃除を再開した。
******
「よし。だいたいこんな感じかな」
掃除も終わり、私は作った料理の味見をしていた。もともと料理は得意じゃなかったけど、2人で暮らすギル君とジル君のために練習をしてきた。絶品とまでは言えないけど、普通に美味しいレベルまでいけた、と自分では思う。
ちょうどその時ガチャガチャと鍵を開ける音が響いた。そしてすぐに扉が開く音と懐かしい声が聞こえてきた。
「うわっ! めっちゃ綺麗になってる!」
「おぉ…こんな綺麗な玄関久しぶりに見た」
急いで鍋の火を消して玄関へと向かう。
「お帰りなさーいっ!?」
言葉の途中で2人に抱きつかれて、その勢いのまま後ろへと倒れ込んでしまった。
「リラちゃんだっ! リラちゃんだっ!」
「久しぶり! 会いたかった~」
「ちょっ…わかりましたから、一旦離れて下さい」
さながら元気のいい犬に飛びつかれたようで私は興奮する2人をなだめる。
「だって一年ぶりだよ? 仕方ないじゃんっ」
「やっぱり柔らかくて気持ちいいねー」
「やっ…! ギル君どこ触って……!」
私がそう言って怒ると2人は一旦体を離して嬉しそうに私の顔を覗き込んだ。
「1年ぶりでもちゃんと俺らを見分けてくれるんだね」
そう言うとギル君とジル君は前髪の分け目を元に戻した。どうやらいつもとは逆にしていたらしい。
「なんか安心した」
「うん。本当に」
2人のエメラルドグリーンの瞳が嬉しそうに細められる。
「…そんなの当たり前じゃないですか」
私がそう言うと2人はそうだね。と笑い返し、私の手を引いて立ち上がらせてくれた。
「リラちゃん部屋掃除してくれたんだね」
「助かったよ~。ありがとうっ」
ギル君とジル君にそうお礼を述べられてこちらも嬉しくなる。頑張った甲斐があったと言うものだ。。
「簡単にしかしてないですが……」
「いやいや。俺らじゃこんなにできないよ。な? ジル」
「うんうん。って言うかさっきからいい匂いがするんだけど」
ジル君がそう言って鼻をスンスンと動かしてみせる。
「えっと…お口に合うかわからないんですけど夕飯を作ってみました」
私がそう言うとジル君は目を輝かせて再び私に抱きつき、私の頬にキスをした。
「ダンケ! イッヒリーベディヒ! ありがとう! 愛してる!」
「ちょっ…ジル調子乗りすぎ!」
ギル君は私に抱きつくジル君をはがすと、ニコリと紳士の笑みを浮かべて先ほどとは反対の頬に軽くチュッとキスを落とした。
「ダンケ。リラちゃん」
「なんだよ。ギルも同じことやってんじゃんか」
「だってそうじゃないと不公平だろ」
「いちいち細かいな~」
「なんだって?」
「と、とりあえずご飯にしましょう! ね?」
「そうだね。俺お腹ペコペコ」
「俺も~」
「じゃあ今から準備しますね」
「う~。食った食った~」
ジル君はそう言いながらお腹辺りをわざとらしくさすり、ありがとうね。と飛び切りの笑顔をこちらに向けた。ギル君も口元をナフキンで拭うとニコリとした笑顔を向けてくれた。
「どれも美味しかったよ。ありがとうリラちゃん」
「どういたしまして」
私がそう返事をして空っぽになった食器を流しへと運ぼうとした時、ギル君に止められた。
「片付けは後で俺らがやるよ」
「でも…」
「掃除もしてくれたし、それくらいは俺らできるから。だからちょっと話しよ?」
ジル君の最期の言葉にキュッと私の心臓が縮こまる。私ははい。と返事をすると大人しく椅子に腰をかけた。
「……何の話がしたいかわかるよね?」
ギル君の言葉にコクンとう頷く。
「返事聞かせてくれる?」
「私は……」
2人の真剣な眼差しに射抜かれ、それ以上言葉が出てこなかった。自分の中で答えが出てないから当然といえば当然だ。
「ねぇ。もしかして俺らのどちらか決められてない?」
ごまかすこともできず、私はジル君の言葉に正直に頷く。すると2人は大きく安堵のため息をついた。
「良かった~」
「良かったー」
「え? あの…良かったって……」
「実はね昨日ジルとリラちゃんとのことについて話し合ったんだ。
……で思い出したんだ。リラちゃんが一度死んだときの事」
「ギルと俺は同じことを考えてた…。もっともっと3人で一緒にいたかった。って……。だからね」
ジル君がそこで言葉を区切ると、2人は綺麗に声をはもらせてこう言った。
「どっちかを選ぶ必要なんてないんじゃないかな」
「…………え?」
予想外の言葉にその意味を飲み込むのに時間がかかってしまった。
「それって…その……」
「そのまんまの意味だよ。俺とジル。一緒に愛してって事」
頬杖をついたギル君がそう言ってパチンとウインクをしてみせた。ギル君の言葉とその表情に一瞬にして私の顔が火照る。
「でっでもそんなこと……」
「できないの……?」
まるで捨てられた子犬のような瞳で見つめてくるジル君に思わず口篭る。
「できないというか…その…世間的にそれは二股というものになってしまうのでは……」
「世間なんてそんなのどうでもいいじゃん」
「そうそう。人の数だけ愛の形もあるんだから。ね?」
「う……」
2人の期待を込めたキラキラとした眼差しに一瞬言葉に詰まったが、私は意を決して口を開いた。
「あ…あの……。こちらこそ、よろしくお願いします」
私の答えを聞いた2人は互いに見つめあったあと、やったぁ。と大きく声を上げて立ち上がった。そしてテンションの高いままギル君が私の方に寄ってきて、その勢いのままチュッと唇にキスを落とされた。
「リラちゃんこれからよろしく!」
あまりに一瞬の出来事で私が驚いて口をパクパクさせてると、ジル君が悲鳴にも似た雄叫びを上げた。
「あーー! ちょっとギル何してんの!? なんで勝手にキスなんかっ!」
「別にいいじゃん。ジルもすれば」
「そういう問題じゃないんだよっ! 初キスは俺が貰う予定だったのにっ……!
こうなったら…。リラちゃん!」
ジル君はまだぽかんとしていた私の肩をガシッと掴むと、ズイっと顔を近づけた。
「ジ、ジルくっ!?」
言葉の途中でジル君に唇を塞がれる。と同時に唇の隙間から何かが侵入してきた。先ほどのキスとは全く違う感覚に体がしびれる。
「んんっ…!」
「お前何してんだよ!」
「いだっ……!」
キスをしたままジル君はギル君に勢いよく頭を叩かれ、やっとその唇を離した。
「何すんだよ! 舌噛んじゃったじゃんか!」
「ジルお前デリカシーってものないのか!?」
「だってフレンチは取られたからせめて、さ」
「だからっていきなりそれはないだろ! ほら! リラちゃんびっくりして放心しちゃってるじゃん」
「え? リラちゃんそんなに良かった?」
ギル君の言葉にジル君は顔をにやつかせ、私の方を覗き込んだ。
「えっ…そういうわけじゃー」
「俺のキスのが気持ちよかったでしょ?」
ギル君はジル君のその言葉が聞き捨てならなかったようで、ジル君の首根っこを掴み無理やり私から引きはがした。そして代わりに自分の顔を私の方へズイっと顔を近づけた。
「ちょっ…! 何する気ですかっ!?」
「俺とも試してみてよ。俺のがいいからさ」
「え? さっきと言ってること違うじゃないですか!?」
「だってあんなこと言われたらするしかないでしょ」
「意味がわかりませんっ!」
「リラちゃん。ここは大人しくしてはっきり答えだそうよ」
「ジル君までっ…! ま、待ってくださー」
「待ちませーん」
「いやーーー!」
********
「ねぇリラちゃん今日一緒に寝ようよ~」
「嫌です」
寝る準備をしながらジル君の提案に間髪入れずにそう答えると「酷い!」と訴えられた。
「なんで? 俺達晴れて恋人同士になれたんだよ? 一緒に寝ようよ」
ギル君はそう言って髪をとかす私の顔を覗き込む。その距離感に後ずさると背中にトンと何か当たった。上を見上げるとエメラルドグリーンの瞳がこちらを覗き込む。
「そうだよ~! 何にもしないからさぁ~」
「最初にそう宣言してるあたり説得力ないです!」
現に今のジル君の密着度もかなり高い。そのことに文句を言おうと思っていると、今度はギル君がさらに距離を詰めてきた。
「……もしかしてさっきの事怒ってる?」
「お、怒らない方がどうかしてます!」
少し強めに言葉を返すと、2人の声が少し潤む。
「そんな……リラちゃんごめんってば」
「俺達嬉しすぎて……調子乗ってごめん……」
今度は怒られた子犬のように落ち込む2人に私は諦めにも似たため息をついた。
「……絶対に何もしないですか?」
「しなよ! ただ寝るだけ!」
「絶対に絶対ですね?」
ギル君にそう念を押してるとするりと後ろから腰に手を回された。
「……ちょっと触るくらいはセーフ?」
「ジル!」
ギル君に少し強めに名前を呼ばれて、ジル君は私の腰から手を離しお手上げのポーズをしてみせた。本当に油断も隙もない……。
「はい。触りません。神に誓います」
「…ならいい…です」
私の返事が信じられなかったようでギル君が目を丸くする。一方ジル君は両手を上げて無邪気に喜んだ。
「え? マジ!?」
「やったー!」
「はは……さすがに3人はちょっと狭いね」
「クイーンサイズじゃなくてキングサイズにしておけば良かったなぁ」
私を挟む形でギル君ジル君はベッドに横になりながらそう呟く。
「リラちゃん大丈夫?」
「はい。お2人は大丈夫ですか?」
ギル君の質問にそう答えれば「こうやってくっつけば大丈夫~」とジル君が答えると2人が私を横抱きするように包み込む。2人の腕の重みと温もりが、なぜかとても私を安心させた。
「3人だとあったかいね~」
嬉しそうなジル君の言葉にギル君も穏やかで優しい声で言葉を返す。
「うん。…俺こんな温もりを感じることが出来るなんて思ってなかった……」
「そうだね…。これは奇跡の温もりだね…。リラちゃんがいてくれたから…生き返ってくれたから……」
「私もお2人の体温をこんなに近くで感じることができるなんて…なんだか……。
なんだかとても幸せ…です」
ギル君の手にわずかに力がこもる。
「うん。もう幸せ以外の何者でもないよ」
ジル君の手にもわずかに力がこもる。
「本当に……すごく幸せだよ……」
その時、何故かギル君とジル君が泣いているような気がした。
いや、ここではない。どこかの2人が…。
静かに涙を流して、嬉しそうに…安心したようにこちらを見ているような…
「おやすみ。ジル。おやすみ。リラちゃん」
「おやすみなさい。ギル君」
「おやすみ。ギル。おやすみ。リラちゃん」
「おやすみなさい。ジル君」
「また明日……」
「明日も3人一緒に……」
「はい…明日も3人一緒…です……」
もう 大丈夫
目が覚めても
そこには ちゃんと
俺たちの奇跡が存在するんだ
幻想じゃない奇跡が
明日も3人一緒に……
◆END◆
※以下物語の簡単な解説になります。
【大切な人がいるからこそ目指せる夢がある】
奇跡の物語では2人は音楽留学をしに行きます。暗殺貴族は地球に似た架空の世界、国という設定ですが、だいたいのイメージとしては1900年代後半のイギリスです。そして2人が音楽留学した国はイメージで言うとドイツです。途中ダンケ!(正確にはDanke)とギル&ジルが言ってるのですがこれはドイツ語で(フレンドリーに)ありがとう、と言う意味です。
ちなみに一妻多夫制は一部の民族の間に見られるそうで、しかも兄弟間で一人の妻を共有するケースが多いとか…ある意味これから前途多難な3人なので完全なHAPPY ENDじゃないかもしれませんね。まぁ、そこはギルとジルの明るく、ポジティブな性格で乗り切っていくでしょう。
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