暗殺貴族【挿絵有】

第４章 サリエル編

始まりの話⑤

　リラのいる部屋をあとにしたサリエルはキリィの用意した部屋のソファーに座り、１人ワイングラスを傾けていた。


「……いるのだろう？　隠れてないで出てこい」


　サリエルはワイングラスから視線を外す事なく、誰かに向かいそう言った。するとサリエル以外誰もいないはずの部屋に小さく笑う２人の女の声が響いた。
　サリエルはワイングラスから視線を外し、何も、誰もいない空間を見つめた。


「あーあ。バレちまった」

「まだそういう感覚残ってるのねぇ」


　そう声が聞こえたかと思うと何もない空間からスゥと２人の女が姿を現す。その女達はトンッと床に降り立つとわざとらしくサリエルにお辞儀をした。


「クスクス……。久しぶりだな。サリエル様」

「フフフ……。私たちのこと覚えてるかしらぁ？」


　そう言うと女達はそれぞれ自己紹介を始める。


「私は憤怒のアラストル」

「私はぁ嫉妬のレヴィアタンよぅ」


　２人は背中にはコウモリのような羽を持ち、その瞳は血のように真っ赤に染まっていた。
　

「……忘れるわけないだろう。お前らを」

「ふふふ…嬉しいわぁ。こんな色男に覚えておいてもらえてぇ」

「勿論私達との<条件>も覚えているよな？」

「……ちゃんと覚えてる。約束は守る」


　サリエルがそう言うとレヴィアタンとアラストルは満足げにニィと笑い、再びその姿を消した。


「………」

　サリエルは２人が消えた場所を複雑そうな表情で見据え、ワイングラスを傾ける。そしてワインが喉元を通り過ぎるとゆっくりと瞳を閉じて過去を思い出した。

　自分の運命の転機とも言えるその時をー…



＊＊＊＊＊＊＊＊



　ピクリとも動かなくなった彼女。
　私は彼女の顔に両手を添えてひたすらその名前を呟いた。


「……リラ……リラ……リラ……」


どうしてこんな事になってしまったのだろう

どうして自分は何も出来ないのだろう

私はこの黒い感情をどう抑えればいいのだろうか


「……リラ……リラ……リラ……」


あぁ…もう全て壊したい。
　
こんな自分も。

腐った秩序も。

全て。

全て。

全て…


「クスクス……」
「フフフ……」

「……誰だ」

「いやぁん。そんなに睨まないでよぅ」
「私達はサリエル様を助けに来ただけだぜ？」

「……私を誰と思って話しかけてる、悪魔ども」

「そんなのわかってるわよぅ。七大天使の１人。サリエルどのぉ」

「……わかってての愚行か」

「ハハ…さすがだな。睨まれただけでも肌がピリピリする」

「……私に何用だ」

「私達ねぇ、サリエル様に提案があってきたのよぅ」

「提案……？」

「……サリエル様欲しいものがあるんだろう？」
「ふふふ……。私達がそのお手伝いしてあげるわぁ」

「………聞かせてみろ」