暗殺貴族【挿絵有】

八重

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第4章 サリエル編

始まりの話④

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 リラの言葉を背に浴びながら部屋を出たサリエルは小さくため息をついた。


「いや……これでいいんだ…」


 サリエルは誰に言うでもなくそう小さく呟くと、先ほどキリィに用意するよう言っておいた部屋へと向かった。一方部屋に取り残されたリラはベッドに横たわりながら、先ほどサリエルに聞かされた話を頭の中で整理していた。


(信じられない話だけど…嘘は言ってない、と思う……。けど……)


 どうにも違和感があるのだ。

 サリエルはアイリスと言う少女の話をしている時はとても穏やかな表情をしていた。アイリスを殺したと言う男の話をしだすとその表情は怒りに変わった。
 が、その表情にはリラが見る限り狂気的なものは感じなかった。

 しかし最後に「お前が欲しい」と言った時は狂気が見えた気がしたのだ。


(…アイリスに対してはそんな感情じゃない感じだったし……)


 じゃあ、何がきっかけでアイリス、つまり私が欲しいと言う心情に変化したのだろうか?

 つまり何がきっかけであんなに強い…狂気の混じったような恋愛感情を持ったのか?


(……やっぱりアイリスの話の時点では…まだそんな感じには見えない……。
 ……彼はまだ何か話してない事があるの…?)


 リラはモヤモヤした気持ちのままベッドにうずくまりそっとその瞳を閉じた。


********


「マディーナさん。少し休憩して下さいませ」

「俺は大丈夫。ありがとうティーナ嬢」


 マディーナはラリウスが眠るベッドの横に座り、安心させるようにティーナに笑顔を向けた。


「そうですか…。それでは休憩したくなったらお部屋を用意してますので、そちらで休んで下さいね」

「あぁ、ありがとな」

「いえ…」

「ティーナ嬢達もそろそろ休んでおいで。ここは俺がついてるから」


 マディーナはそう言うとソファーに座るギル達に声をかけた。


「……いや、俺らは大丈夫。な、ジル」

「……うん」

「僕も」

「アンもここにいる」

「わたくしも大丈夫ですわ」

「そうか…。無理はするなよ」


 マディーナはそう笑いかけると、また体勢をラリウスへと戻した。
 いつもみんな集まると静かになる瞬間なんてないぐらい、賑やかで騒がしい。しかし今は誰も話そうとせずシーンと静まり返っている。
 マディーナは深刻な顔つきでベッドに横たわるラリウスを見つめ、下唇を噛みしめた。


(……一体ラリウスに、俺達に何が起こったって言うんだ)


 あの日食の瞬間、ラリウスだけでなくマディーナ達も自分の体に異変を感じていたのだ。マディーナは自分の手をジッと見つめ、その時の事を思い返す。
 太陽がちょうど全部隠れた瞬間それは訪れた。



******


「お~、もうすぐだ、っ…!?」


 窓辺に立って日食を眺めていたマディーナは急にふらつき、ガクンとその場に膝をついた。
 それは貧血の時になる目眩のように、一瞬平行感覚がなくなるものに似ていた。


「なっ……」


 そして次にマディーナの体を重力が襲った。


「なんだこれ…、体が重、い…」


 こんなにも地球には重力があったのだろうか…
 これじゃまるで月から地球に降り立った気分だー…

 倒れたまま何回か深呼吸すると幾分か体の重みは軽減された。
 マディーナは呼吸を整えるとゆっくり立ち上がり、困惑した表情で自分の両手を見つめた。

 それはきっと普通の人にはわからない感覚。


「……力が…弱ってる…?」


 そこでマディーナはすぐにラリウスに何かあったのだと気づいた。
 マディーナや兄弟達はサリエルと直接契約はしていない。直接契約しているのはラリウスだけで、マディーナ達はラリウスを介して"力"を貰っている。

 つまりその"力"が弱まっていると言う事は、ラリウスはー…


「……クソッ」


 マディーナは小さく舌打ちをすると急いで屋敷へと電話をかけた。


「…あぁ…。うん、…そうか……すぐラリウスの安否の確認を。俺もすぐに向かう」


 どうやら、ティーナ達にも同じ現象が起こったそうで、マディーナは電話をきると急いでメイザース家の屋敷へと向かっていった。



********



「参ったな……俺はまだお前のこんな姿見たくなかったよ」


 マディーナはベッドに横たわるラリウスから視線を落とすと、他の人には聞こえないような小さな声でそう呟いた。
 ラリウスは言葉を返す事はせず、ただその代わりに呼吸器をつけたその口から浅い呼吸音を出すだけだった。


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