63 / 107
第4章 サリエル編
始まりの話④
しおりを挟むリラの言葉を背に浴びながら部屋を出たサリエルは小さくため息をついた。
「いや……これでいいんだ…」
サリエルは誰に言うでもなくそう小さく呟くと、先ほどキリィに用意するよう言っておいた部屋へと向かった。一方部屋に取り残されたリラはベッドに横たわりながら、先ほどサリエルに聞かされた話を頭の中で整理していた。
(信じられない話だけど…嘘は言ってない、と思う……。けど……)
どうにも違和感があるのだ。
サリエルはアイリスと言う少女の話をしている時はとても穏やかな表情をしていた。アイリスを殺したと言う男の話をしだすとその表情は怒りに変わった。
が、その表情にはリラが見る限り狂気的なものは感じなかった。
しかし最後に「お前が欲しい」と言った時は狂気が見えた気がしたのだ。
(…アイリスに対してはそんな感情じゃない感じだったし……)
じゃあ、何がきっかけでアイリス、つまり私が欲しいと言う心情に変化したのだろうか?
つまり何がきっかけであんなに強い…狂気の混じったような恋愛感情を持ったのか?
(……やっぱりアイリスの話の時点では…まだそんな感じには見えない……。
……彼はまだ何か話してない事があるの…?)
リラはモヤモヤした気持ちのままベッドにうずくまりそっとその瞳を閉じた。
********
「マディーナさん。少し休憩して下さいませ」
「俺は大丈夫。ありがとうティーナ嬢」
マディーナはラリウスが眠るベッドの横に座り、安心させるようにティーナに笑顔を向けた。
「そうですか…。それでは休憩したくなったらお部屋を用意してますので、そちらで休んで下さいね」
「あぁ、ありがとな」
「いえ…」
「ティーナ嬢達もそろそろ休んでおいで。ここは俺がついてるから」
マディーナはそう言うとソファーに座るギル達に声をかけた。
「……いや、俺らは大丈夫。な、ジル」
「……うん」
「僕も」
「アンもここにいる」
「わたくしも大丈夫ですわ」
「そうか…。無理はするなよ」
マディーナはそう笑いかけると、また体勢をラリウスへと戻した。
いつもみんな集まると静かになる瞬間なんてないぐらい、賑やかで騒がしい。しかし今は誰も話そうとせずシーンと静まり返っている。
マディーナは深刻な顔つきでベッドに横たわるラリウスを見つめ、下唇を噛みしめた。
(……一体ラリウスに、俺達に何が起こったって言うんだ)
あの日食の瞬間、ラリウスだけでなくマディーナ達も自分の体に異変を感じていたのだ。マディーナは自分の手をジッと見つめ、その時の事を思い返す。
太陽がちょうど全部隠れた瞬間それは訪れた。
******
「お~、もうすぐだ、っ…!?」
窓辺に立って日食を眺めていたマディーナは急にふらつき、ガクンとその場に膝をついた。
それは貧血の時になる目眩のように、一瞬平行感覚がなくなるものに似ていた。
「なっ……」
そして次にマディーナの体を重力が襲った。
「なんだこれ…、体が重、い…」
こんなにも地球には重力があったのだろうか…
これじゃまるで月から地球に降り立った気分だー…
倒れたまま何回か深呼吸すると幾分か体の重みは軽減された。
マディーナは呼吸を整えるとゆっくり立ち上がり、困惑した表情で自分の両手を見つめた。
それはきっと普通の人にはわからない感覚。
「……力が…弱ってる…?」
そこでマディーナはすぐにラリウスに何かあったのだと気づいた。
マディーナや兄弟達はサリエルと直接契約はしていない。直接契約しているのはラリウスだけで、マディーナ達はラリウスを介して"力"を貰っている。
つまりその"力"が弱まっていると言う事は、ラリウスはー…
「……クソッ」
マディーナは小さく舌打ちをすると急いで屋敷へと電話をかけた。
「…あぁ…。うん、…そうか……すぐラリウスの安否の確認を。俺もすぐに向かう」
どうやら、ティーナ達にも同じ現象が起こったそうで、マディーナは電話をきると急いでメイザース家の屋敷へと向かっていった。
********
「参ったな……俺はまだお前のこんな姿見たくなかったよ」
マディーナはベッドに横たわるラリウスから視線を落とすと、他の人には聞こえないような小さな声でそう呟いた。
ラリウスは言葉を返す事はせず、ただその代わりに呼吸器をつけたその口から浅い呼吸音を出すだけだった。
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した
Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる