暗殺貴族【挿絵有】

八重

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第4章 サリエル編

コボレ落チタ欠片

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「……兄様お話しが」
「あぁ、聞いてるよ」


私はうまく笑えてるだろうか。


「あのクラウディア家に嫁ぐなんて凄いじゃないか」


大切な人の門出だからこそ笑顔で祝福しなくてはいけない。

だから私は感情を殺して君に祝いの言葉を述べよう。


「本当に、結婚おめでとう」
「……ありがとうございます」


私の言葉に笑顔で返事をする君。

…笑顔は心から出たものではないとすぐ気がついた。


「どうした?」
「いえ……」


戸惑って無言になったが、少し間があってから彼女は再び口を開いた。


「……兄様は私がお嫁に行って寂しくはないですか?」
「……っ!」


確信をつかれ心臓が止まるかと思った。


「行って欲しくない」


その一言をぐっと堪えた。


「……それは家族が1人減るんだから少しは寂しいかもね」


誤魔化したような言い方だが嘘は言っていない。


「…家族……そうですよね…」


彼女はそう言って微笑んだが、どこか悲しそうに眉根を下げた。


「……どうした? もしかしてマリッジブルーかい?」
「私…不安で……」


あぁ、なる程。そういう事か。


「良く知らない相手との結婚だから不安なのは仕方ないさ。
 でも相手はあのクラウディア家だ。今の生活よりもだいぶ良くなるし、お前なら可愛がってもらえるさ」
「……私は別に今の生活に不満はないです」
「ん……だけどやはり位の高い貴族の方が良いとおもっ―…!?」


急に彼女が私の胸に飛び込んできた。

驚きと動揺で一瞬パニックになったが、心を落ち着けて話しかけた。


「……急にどうしたんだ?」
「……いや、です」
「……え?」


僕の服を掴む彼女の手にキュッと力が入る。


「私……結婚なんてしたくないです」
「そんな…何でー」
「嫌です。兄様と離れるなんて…いや」
「嬉しい言葉だけど、もうお前も兄離れしなくちゃいけない年だろう?」
「違うんです! 私…」
「…ん?」
「ずっとずっと…。…兄様をお慕いしてたんです」
「っ……!」


動揺で瞳が揺れる。


「私…兄様の事が―」
「駄目だよ」


それ以上言わせてはいけない。

聞いてしまったら戻れなくなりそうで怖い。

いや、確実に戻れなくなる。


「それから先は言っちゃいけない」


私がもっと体が丈夫に産まれて甲斐性さえあれば…

そしたら君を今すぐさらってしまうのに。

君と2人だけで生きていけるのに。


「……お前は私の大切な妹だよ」


自分に言い聞かせるように呟いた。


「……兄様」
「お前はただ年上への憧れを恋愛感情と勘違いしてるんだよ」


彼女の肩が微かに震えている。

私は力一杯彼女を抱きしめたい衝動を必死に抑えた。


「……そう、ですね」


そう言って彼女はスッと私から離れた。

その表情は今にも泣き出しそうなのを必死に堪えてるものだった。

私の胸が裂かれたように苦しくなる。


「…急に変な事言って申し訳ありませんでした。私、急な結婚で動揺して……」
「いや…いいんだ」
「では、また。失礼致します」


小さくお辞儀をして彼女は部屋を去っていった。


「行くな。私と逃げよう」


その後ろ姿に向かってそう言って今すぐ抱きしめたい。

私は彼女が部屋を出るまで、唇を噛み締めグッと堪えた。


「これで…、これで良かったんだ…」


******


それから5ヶ月後―…

久しぶりに会った彼女は以前の彼女ではなくなっていた。


「……少し痩せたんじゃないか?」


私がそう言うと彼女は力なく笑った。


「そうですか? そんなに痩せてはないですよ」
「そうか。……向こうでの生活にはもう慣れたのか?」


そう聞くと彼女の顔が一瞬だけ歪んだ気がした。


「……あ。…だいぶ慣れました」


この時の彼女の表情はまるで私にSOSを出してるように感じた。


「……大丈夫なのか?」
「え……」


それは暗闇の中で一筋の光を見つけたような表情だった。が、それは一瞬のことで、すぐに先ほどの表情に戻ってしまった。


「……大丈夫ですよ。そんな事聞くなんて変なお兄様」


そう言ってクスクス笑う君。

それが私が見た彼女の最後の姿になるなんて…

その時は思ってもなかった。



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