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第4章 サリエル編
愛欲②
しおりを挟む「はぁっ…はぁっ…」
電話のある部屋へと廊下を走り抜ける。ちらりと後ろを振り返ったがサリエルという人物は追いかけてはきてないようだった。
相変わらず屋敷は物音がせず、まるで人がいないように静かで、それがさらにリラの恐怖心を増させた。
「えっと…番号は…」
電話の前に着くとリラは震える手でボタンを1つずつ押していた。
とその時、横からいきなり現れた手がボタンを押すリラの手首をガシッと強く掴んだ。
「ひっ……!」
声にならない声をあげリラがバッと横を向くと、そこには見慣れた顔があり、リラは小さく胸をなでおろした。
「な、なんだ…テオか。びっくりしたじゃない」
「……客間に戻らないと駄目ッスよ」
無表情でそう告げるテオが先ほどリラを呼びに来たキリィと重なる。
「い、今はそれどころじゃないの…! メイザース家の方達が危ないかもしれないの! だから手を離して!」
そう言ってリラは手を振りほどこうとするがビクともしない。
「ねぇっテオっ!」
「……サリエル様が待ってるッス。客間に戻らないといけないッス」
淡々と告げるテオに恐怖を感じる。テオだけどテオじゃない。
「………なんで…サリエル様…なんて呼んでるの…?」
「………客間に戻るッス」
リラの質問には答えずテオはグイグイと手を引っ張り歩きだした。
「いやっ! 離してっ…テオっ! テオっ!」
何度も何度も名前を呼びかけるがテオは振り向きもしない。抵抗も虚しくリラの体はズンズンと客間へと引っ張られていく。
「テオっ! 聞こえてるでしょ!?
あの人はもしかしたら危険な人かもしれないの! だから待って!」
「……サリエル様が待ってるッス」
リラが何を言ってもテオから返ってくる言葉は同じものだった。
「テオっ……どうしちゃったの…」
結局リラは客間の前まで連れてこられ、サリエルのいる部屋に無理やり押し込まれた。客間に入るとソファーに座るサリエルの周りに見たことのある顔ぶれが並んでいた。
「な、んで…」
それは屋敷の使用人達で、ある者は紅茶を淹れる準備をし、ある者はサリエルの前に洋服や装飾品を広げて見せ、ある者はサリエルの髪の毛をまとめあげる作業をしていた。
それは客人と言うよりも、まるでこの屋敷の主人というような扱い。
「リラ。どれがいいと思う?」
サリエルはまるでリラが逃げた事などなかったように、そう問いかけた。
「このような衣服を着た事がないからどれが自分に合うかわからないのだ」
「な、何をしているんですか…!
ベテナさん! それはラリウス様の洋服じゃないんですかっ!?」
リラはサリエルの言葉を無視し、洋服をあてがっている使用人の名前を呼ぶが、当の本人は見向きもしない。
「ベテナさんっ…!」
「こちらのお召し物なんていかがでしょうか?」
「ベテナさん聞いてっ…!」
「…リラ。もうわかってるだろう。彼らに話しかけても無駄だ」
「…みんなに何をしたんですか」
「…ただ私の言う事だけを聞くように暗示をかけただけだ」
「そんな…!」
「別に彼らに危害を加えるつもりはない。……リラが抵抗しなければ」
最後付け加えられた言葉にリラは息を呑む。
「………私は何をしたらいいんですか?」
「聞き分けがいいな。ではリラも着替えてこい」
サリエルはそう言うと髪の毛をまとめ終わった使用人にリラを着替えさせるよう命令した。
「先程のような事をしたら使用人達が傷つく事を忘れずにな」
リラが使用人に連れられ客間を出ていく時サリエルはそう言って釘を刺した。
********
「どうぞこちらへ」
ドレスへと着替えさせられたリラは、使用人の案内で食事をする部屋へと連れてこられていた。中に入るとテーブルセッティングされた細長いテーブルの端に着飾ったサリエルが座っていた。
髪の毛を高い位置にひとまとめにし、白い衣装を黒い色彩の衣装に変えたサリエルは先ほど見た印象とはまるで違い、リラは一瞬止まってしまった。
「さ、座れ」
リラは慌ててサリエルから視線を外すと、返事をすることなく使用人が椅子を引いてくれている席へと座った。テーブルの端と端で向かいあうように座るサリエルはリラを見ると小さく微笑んだ。
「リラ。綺麗だ」
「……まず1つ聞かせて下さい。メイザース家の方達は無事なんですか?」
問いかけるリラとサリエルの前に食前酒が出される。
「…またそれか。メイザース家の奴達に怪我は全然ないし命に別状もない」
サリエルは興味なさげにそう答えると食前酒を喉に通す。
「ん……。悪くはない」
メイザース家の安否を聞いてひとまず胸をなで下ろすリラ。
「…じゃあ、あなたは何の為にここに来たんですか?」
「最初に言っただろう。お前に会う為だ」
「なんで私なんかに会いに―…」
「まぁ、待て。今は食事と言うものを楽しみたいのだ」
「食事どころじゃ―」
「私にとっては初めての食事なのだ。人間にとって食とは重要なものなのだろう? 話は後で聞く」
「え…?」
サリエルの合図で2人の前に前菜が運ばれる。
リラは色々聞きたかったがサリエルは既に食事を開始し、そちらに集中していたので仕方なくリラも一口二口無理やり口に運ぶのだった。
食事も終わり、最後のデザートの食器も下げられた。
「あまり食べてなかったな。口に合わなかったのか?」
「…食欲がないだけです」
「そうか。体調が悪いのか?」
サリエルの気遣いの言葉にリラは多少なりとも動揺した。
「…いえ。大丈夫です」
「そうか…。何か不調があればすぐ教えてくれ。…まだ人の体について良くわからないからな」
「え…あ、はい」
「聞きたい事が沢山あるだろう。部屋に行って話そう」
そう言ってサリエルは席を立ち、リラもそれに続き席を立つ。
部屋を出る時にサリエルと自分に仰々しく頭を下げる使用人達にリラは複雑な気持ちになった。
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