暗殺貴族【挿絵有】

八重

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第3章 テルビス編

旅立ち①

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 リラがテルビスに向けて出発する日の朝、リラはティーナたちに別れの挨拶をしていた。


「皆様行ってまいります。またいつか戻ってきますので、その時はよろしくお願いいたします」

「リラちゃんも行ってらっしゃい」

「週末遊びに行くからね~」

「はい。ギル様ジル様。お待ちしております」

「アンもっアンもっ」

「はい。アン様もお待ちしております」

「…新しい薬作ってリラに試しに行くよ」

「っ! ふ、普通に過ごしにいらして下さい!」

「ふふ…それじゃ、つまらないでしょ」

「つ、つまらなくないです!」

「リラさん。あの別荘にはよく乗馬をしに行きますの。その時はよろしくお願いしますわ」

「はい!」




【旅立ち】




 リラは挨拶を済ませた後、まだ少しまとめきれてない荷物を片付けに自室へと戻った。
 メイザース家に戻る予定があると言う事で、リラの部屋はそのままにしておいてくれる事になった。なので持って行く荷物は最低限にとトランク2つで収まった。
 荷物を纏め、物が少なくなった部屋を改めて眺める。暫く主がいないままこの部屋は寂しく時を過ごすのだと思うと、リラは少し悲しい気持ちになった。


「さて…と。もう行かなきゃ」


 リラは2つのトランクを両手に持ち、自分の部屋へと別れを告げその扉を閉じた。
 屋敷から駅へと出発するのに、先輩の使用人が何人か忙しい合間を縫ってリラを見送った。その中でもハンナと言う使用人は、リラにメイザース家での仕事を教え込んだ人物で、今回の移動についてとても残念がっていた。


「あんた向こうでも、私が教えたようにちゃんと丁寧に掃除しなさいね」

「はい!」

「向こうの先輩に失礼のないようにね」

「はい!」

「あっちは夜冷えやすいから風邪ひかないようにしなさいね」

「はい! 気を付けます」

「それと…」

「ハンナ。リラが何時まで経っても出発できないじゃない」

「あぁ、そうね」


 他の使用人にそう言われハンナは恥ずかしそうに口を閉じた。


「ハンナさん。色々お仕事教えといただきありがとうございます。皆さんも色々ご指導ありがとうございました。
 いつになるかわかりませんが、戻ってきますので、その時はまたご指導お願い致します!」


 リラは先輩達に別れを告げると、使用人達が使う裏門へと歩みを進めた。リラが裏門に着いて外に出ると、そこには友達のルビーが立っていた。


「ルビー! 来てくれたの!?」


 嬉しそうにリラがルビーに駆け寄る。


「うん。駅まで一緒に行こうと思って」

「わざわざありがとう」

「何お礼言ってるのよ。友達なんだから当たり前じゃない」


 にこりと笑ってみせるルビーにリラは照れるように笑い返した。


「トランク1つ持つよ」

「あ、大丈夫だよ」

「遠慮しないの」


 ルビーはそう言いリラの手からトランクを取り上げた。


「ありがとう。ルビー」

「どういたしまして」


 そうして2人が駅に向かって歩き出すと、その脇をダークブラウンの高級車がゆっくりと追い越した。そして少し先でゆっくりと止まったかと思えば、その窓が開き運転していた人が顔を出した。


「そこ行くお嬢さん達。俺とドライブでもいかが?」

「え? マディーナ様!?」

「よ、リラ」



 窓から顔を出したマディーナはそう言い、かけていたサングラスをズラしてニッと笑いかけた。


「ちょっとリラこの人誰!? 知り合いなの!?」


 ルビーが興奮した様子でリラに小さな声で問いかける。


「あ、うん。えっと―」
「はじめまして。リラの恋人のマディーナです」


 とびきりのスマイルで嘘を言うマディーナにリラは慌てて否定の声を上げる。


「違いますっ! 適当な事言わないで下さい!
 ルビー。さっきのは嘘だからね。冗談だからね」


 まるで有名人のゴシップ話を聞いた時のように瞳をキラキラさせてたルビーはリラの言葉にえー。と残念そうに口を尖らせた。


「マディーナ様はメイザース家の親戚でラリウス様の友人なの。そんな方と私なんかが恋人なわけないでしょ」

「えっ! メイザース家の親戚の方!? し、失礼いたしました!」

「そんなかしこまらなくていいよ。まぁ、親戚って言ってもかなり遠いしな」


 慌てて畏まるルビーにマディーナは安心させるように優しく笑いかける。その対応にルビーは照れからか頬をほんのり染めた。


「あの、今日はラリウス様にご用事ですか?」

「さっきの言葉聞いてたか? 駅まで送ってやるって言ってんの」

「えっ?」

「ラリウスもロードも忙しいんだろ? だから見送りついでに送ってやろうかな、と思って」

「そ、そんな申し訳ないです!」


 リラの遠慮の言葉を無視してマディーナは車を降りると「遠慮なんかいらねぇよ」と言い、ひょいとルビーとリラの手からトランクを取り上げた。


「あの…本当に宜しいんですか?」


 申し訳なさそうに聞いてくるリラにマディーナは荷物をトランクを詰めながら呆れたように少し笑った。


「俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」

「あ、ありがとうございます」


 マディーナはバタンとトランクを閉じると後ろの席の扉を開けてルビーに笑顔を向けた。


「さぁ、お嬢さん。どうぞ」


 再び頬を赤く染めたルビーが車に乗り込むとマディーナは出来るだけ優しく扉を閉め、そしてリラに視線を向けると素っ気ない表情でリラにも車に乗るように催促した。


「ほら。リラも早く乗れよ」

「…ちょっと扱いに差があるような気がするんですが」

「何? 嫉妬してんの?」


 腰を少し屈めてニヤリと顔を覗き込むマディーナにリラは「違います」とすぐさま否定の言葉を返し、バタンと車の後部座席へと乗り込んだ。


「少しはしてくれてもいいんだけどなぁ…」


 マディーナは小さくそう呟くと自分も運転席へと乗り込んだ。


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