暗殺貴族【挿絵有】

八重

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第2章 ジェス編

覚醒③

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闇を照らす太陽がもうすぐ登る


闘いに終わりが来る


その時 彼は何を願うか


その時 彼女は何を想うか


その時 彼は何を叫ぶのか


その時 私は―…





【終焉の夜明け】




「ジル様! ラリウス様とジェス様が下にっ!」

「大丈夫。あの2人ならあの程度で死なないよ」


 あの程度と言ってもリラ達のいる部屋は3階。もちろん普通の人じゃただではすまない。
 
 リラが慌てている一方、部屋にいたジェスの仲間達は何が起こったか理解できずざわついていた。


「あ、あいつ鎖引きちぎったぞー」
「あの動きは何だ」
「あのガキ共も仲間か?」
「とりあえず殺(ヤ)っちまえ」


 男達は自分たちが何をすべきか結論に達したようで、銃をそれぞれ双子に向かって構えた。


「おっと。まずこっちを片づけなきゃね」


 ギルがそう言い終わると同時にいくつもの銃声が部屋に響いた。ギルは素早い動きで弾を避けながら鍵爪で男達を切り裂いていく。

 一方ジルはリラを抱え、弾を鍵爪で弾き返しながら器用に部屋の中を動き回る。


「おい! たったガキ2人だ! さっさと殺、れ…?」


 叫んだ男は最後の言葉を言い終わらない内に血を吹き出し崩れた。その近くにいた男達も時間差でバタバタとその場に崩れ落ちる。

 気がつけば銃声も止んでいて、そのかわりに男達の苦しそうな呻き声が部屋に溢れていた。


「よし! いっちょ上がり」

「リラちゃん大丈夫?」

「は、はい…ただ脳が揺れてるだけです…」


 弾を避けるジルの早い動きにリラの平衡感覚がついていけず、リラは軽い乗り物酔いの状態になっていた。

 ジルにゆっくりと地面に座らされクラクラする頭を上げようとした時、ドンと勢い良く抱きつかれ何かに視界を塞がれた。


「……馬鹿だよ」


 その声を聞いてすぐに誰だかわかった。


「シルキー様…」



「前から思ってたけどリラって馬鹿。本当に馬鹿。お人好し馬鹿。
だからこんなに傷作っちゃって…。脳みそが溶けてるんじゃないの?」


 ギュッと回された腕に力が入る。


「…申し訳ありません」

「そうやってすぐに謝るとこも馬鹿っぽい」

「…はい」

「あれ~? シルキー涙ぐんでない?」

「五月蠅いよ馬鹿兄貴」


 ジルのからかいの言葉にシルキーは眉間にしわを寄せ言葉を返す。


「お前兄貴に向かって馬鹿ってなんだよ! この泣き虫」

「泣いてないって言ってるだろ馬鹿」

「せめて兄貴つけろよ! だいたいお前何回馬鹿って言えば気が済むんだよ!」

「20回くらい」

「そういう事言ってんじゃないんだよ!」


 頭上から聞こえてくる会話はとても聞きなれた日常のもので、混乱と恐怖で溢れたリラの心を少し落ち着かせてくれた。


「シルキー。そろそろリラさんを離してあげないと苦しそうですわよ」

「っ! ティーナ様!」


 リラがその姿を確認しようと、顔を横にずらそうとしたがシルキーにグッと抑えられた。


「そうだよ。シルキーくっつきすぎ」


 ギルは少しイラついた様子でそう言うとリラから離そうとシルキーの肩に手をかけた。


「ギル兄さん待ってよ。この部屋の状況はリラにとって刺激が強すぎるでしょ。
見せるわけにはいかないよ」


 シルキーの言葉にギルは確かに。と呟きシルキーの肩にかけた手を引っ込めた。

 部屋にはたくさんの男達が倒れており、床や壁にたくさん血が飛び散っている。気絶してるものもいれば、傷を抑え苦しそうに呻き声をあげてるものもいた。とその時ー


「くそっ…お前ら死ねぇ!」


 倒れている男が急に叫び声を上げながらシルキーの背中に向け、銃の引き金を引いた。


「な…に…?」


 がよく見れば銃は真っ二つに切られていて使いものにならい状態だった。


「あらあら、しぶとい殿方ですわね」

「でも残念。武器は全部使い物にならないよ?
 僕とティーナ姉さんが壊したから、さっ」


 ギルが言葉の最後で鍵爪を振り下ろすと男は叫び声をあげる間もなくその場に崩れ落ちた。


「ティーナ姉様、とりあえず1階に戻ってマディーナにリラの怪我を見てもらおう」


 シルキーの言葉にティーナが同意しようとした時、窓の外からドォンと何かが倒れたような派手な音がした。


「っ! ラリウス様とジェス様がっ…!」


 思わず立ち上がろうとするリラをシルキーはギュッと抱きしめた。


「行ったら駄目だよ! ジェスはラリウス兄様がやっつけるから大丈夫」

「でもっジェス様はー」


 リラから出た“ジェス”の言葉にシルキーは一段と声を荒げた。


「さっきからジェス、ジェスって! なんでっ…! こんなに傷つけられてっ!
 なんでまだジェスを庇うの!?」

「シルキー様…」


 シルキーの悲痛な叫びにリラは思わずぎゅっと服の裾を握りしめた。


「そうだよ! それにあいつ悪魔に取り憑かれてるんだって! 普通じゃないんだよ!」


 ジルもリラの言動が理解できずシルキー同様、声を荒げて抗議した。


「……わかってます…。
 でもだからこそまだジェス様はもとに戻せるかもしれないと思うんです」

「そんなの無理だよ! リラちゃんは知らないかもしれないけどそんな簡単に契約は解除されないんだよ!」

「……それでも、そうだとしても…。お願いです。行かせて下さい」

「嫌だ! 離さない!」


 シルキーの叫びから少し沈黙を挟んでギルが口を開いた。


「……シルキー。リラちゃんを連れていこう」

「ギル!? 何でっ!」

「そうだよ! ギル兄さん!」


 ギルの言葉に2人が噛みつく。


「誰かががそばにいれば大丈夫でしょう」

「ティーナ姉様まで! 姉様だって工場であいつの本性見たでしょ?」

「えぇ…。でも今行かないとリラさんは一生後悔し続けるんじゃないかしら」

「それはっ…」

「それに、死んだら2度と会えない。2度と言葉を伝えることは出来ない。
俺たちはそれをよく知ってるだろ?」


 ティーナとギルの言葉に2人共黙ってしまった。
 それは特にギルの言葉の意味を2人とも痛いほどよく理解していたからかもしれない。


「リラさん。万が一ラリウスお兄様が苦戦していたらいけませんから様子を見てきてください」


 ね?とティーナは安心させるよう優しくリラに声をかけた。すると観念したかのようにシルキーは小さく息を吐いた。


「…わかった。連れて行くよ」

「あっありがとうございます! シルキー様」

「ただし僕から離れちゃ駄目だよ」

「はい。わかりました。
 あと…もう目隠しはしなくて大丈夫…です」

「でもリラにはちょっと刺激が強いと思うよ」

「大丈夫です。私だけ嫌なものに目を背けるわけにはいきませんから。
 それに以前にも似たような場面は見たことはあるので…」


 そう言いリラはそっとシルキーの腕を離した。リラの目に血を流して重なる男達が映る。浅い傷のものもいれば深く肉を裂かれてるものもいた。

 かつてシルキーとティーナに助けられた時に似た光景を見たはずなのに身の毛がよだった。


「そうだ。手錠…。とりあえず動きやすいようにしなきゃね。ギル兄さん」


 シルキーに視線を送られ、ギルは頷くとリラに両手を前に出すよう言った。


「リラちゃん動かないでね。たぶん怖いと思うから目を閉じてた方がいいかも」

「は、はい」


 リラはギルに言われた通り腕を前につきだしギュッと目をつぶった。

 キィンキィンと2回金属音がなり、リラの腕に振動が伝わる。すると手首にかかっていた金属の重みがなくなり、ガシャンと床に物がぶつかる音がした。
 リラがゆっくり目を開けると床に壊れた手錠が落ちていた。


「あ、ありがとうございます」

「腕に当たってない? 大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

「良かった。じゃあ行こうか」


 リラは「はい」と返事をして歩き出したが、数歩も歩かないうちにギルに腕を掴まれてしまった。


「待って。そっちから行くよりもこっちが速いよ」


 ギルが指差すのはさっきラリウス達が落ちていった窓。ギルはリラが一瞬固まったのを気にすることなくサッとリラを抱きかかえた。


「えっ、まっ待って下さ…」

「リラちゃんしっかり掴まって、口は閉じてね。じゃないと舌噛んじゃうから」


 リラは慌ててギルの首に手を回しキュッと口を閉じる。それを確認したギルは窓枠を蹴り、空中へと飛び出していった。
シルキーもそれに続く。そしてジルも降りようと窓枠に足をかけた所で首根っこを掴まれた。


「ジルはわたくしとこっちに残って後始末の手伝いをしますわよ」

「えぇっ! 嫌だよ片付けなんてー」

「何か文句でも?」


 ラリウスのような有無を言わせないティーナの圧力にジルは黙って頷くしかなかった。


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