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第2章 ジェス編
幕開け①
しおりを挟む夢を見た
それはとても優しくて暖かくて
私は楽しそうに笑っていて…
ずっとこのままでいたいと思った
だけど駄目よね
だって夢は必ず覚めるものなんだから
【幕開け】
「ん……」
リラがうっすら目を開けるとそこには暗闇が広がっていた。
寝起きで働かない頭のまま倒れていた体を起こす。
「あれ…私いつの間に……」
目をこすろうと腕を上げるとジャラと手首に冷たくて重い感触。
薄暗い部屋でもその感触でそれが手錠だと言う事はわかった。
「な、んで…」
自分がどうしてこうなったのか状況を理解できず、ゆっくり記憶を巡る。
そうして思いだしたのは自分の膝の上で嬉しそうに瞳を閉じるジェスの顔。
「ジェスさまは……どこに…」
「おはよう」
暗闇の中から突如響いた声にバッと顔をあげると、闇の中で2つの赤い光がこちらを鋭く睨んでおり、リラはびくりと体を揺らした。
「やっと起きたね」
それはリラのよく知った声。
暗闇に少しずつ慣れてきたリラの瞳にはジェスが映っていた。
「ジェス様これは一体……」
リラの言葉にジェスはニィと口元を歪める。その狂気的な笑顔にリラは鳥肌をたたせた。
「女ってさぁ、優しくするとすぐ油断するよね」
あぁ、また私はー…
ジェスはリラの顎をつかみ俯けていた顔を無理やり自分へと向けさせた。
「はははっ! いいね、その表情」
「ジェス様……」
悲しいのか恐いのか悔しいのか、リラの瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「どう? また裏切られた気分は?
悔しい? 悲しい? 僕の事嫌いになった?」
「………」
「はははっ……まぁ、別にいいよ。言葉にしなくても。
だってリラの表情見てたらわかるから」
ジェスはそう言うとリラから手を離し、立ち上がって少し離れた場所まで移動した。
「ん~…でもまだ足りないんだよね」
「足り、ない…?」
リラはジェスが何を言ってるのかわからず困惑した表情で彼の方を見上げた。
ジェスの手には微かな月光を反射しキラリと光るものが握られていた。
「つまりね…、もっと僕に恐怖して、怖がって、拒絶してって事」
ナイフと一緒に怪しく光るジェスの赤い瞳にリラはさぁと自分の体から血の気が引いてくのがわかった。
「リラちゃん。下手に動かないでね」
曲芸師みたいに片手でクルクルとナイフを器用に回しながらジェスは楽しそうに笑う。
「ジェス様や、やめてく、ください…」
か細く出たリラの言葉は震えていた。
「大丈夫だって。僕はリラちゃんを殺すなんて事しないから」
「じゃぁ、な、何を…」
言葉の途中でリラのすぐ横を何かが風を切って過ぎていった。
「え……」
一瞬の事で何が起こったか分からなかったリラだが、時間差でハラハラと切れ落ちた自分の髪の毛と後ろの方の壁に何かが突き刺さる音で理解した。
「ほら。こういう奴サーカスとかで見るだろ? ナイフ投げっての。
僕がリラちゃんのギリギリに投げるからリラちゃんは僕を信じてジッとしててね」
「そんなこと…!」
ヒュッと再びリラの横で風が切れる音がした。
「っつ…」
リラの右腕の洋服が切れてはらりと布がめくれた。
幸い布の下の肌には傷は入っておらず、白い肌が露わになっただけだった。
「動いちゃだめって言ったでしょ。ほら、まだ終わりじゃないよ」
そう言いジェスはまだ手に残っているナイフをリラの方に向けニヤリと笑った。
*******
「ふぅ……」
マディーナは水に濡れた髪の毛をタオルでワシワシ拭きながら小さくため息をついた。
ラリウスの実力を知る身としては心配がいらないのはわかっていた。
しかし、ラリウスを見送ってから何故かずっと胸騒ぎがするのだ。
(本当に1人で行かせて良かったのか…)
今から向かっても遅くないかもしれない。しかし、ジェスの手紙に書かれていた事は無視出来ない。
と言うよりもうジェスの街に向かう列車の最終便は出てしまっており、列車で向かう事は出来ない。
(車で近くまで行って侵入することも可能だが時間が掛かりすぎる…水路って手もあるがこれも時間が掛かりすぎる…)
しばらく考え込んでいたマディーナだったが、ハッと何か思いつき俯けていた顔を上げた。
「そうか…! そうだよ。これならイケる…!」
マディーナは受話器に手をかけるとロードの待機する地下室へと直接繋がる番号をプッシュした。
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