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Side MA - 16(-6) - 5 - ぼっち・ざ・でっど -

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Side MA - 16(-6) - 5 - ぼっち・ざ・でっど -


こんにちは、マリアンヌ・ボッチです。

お姉様のお屋敷にお世話になって20日が経ちました、私はあの日以来歓楽街で行方不明という事になっています。

その間私とお姉さまはお茶をしたり、お姉様の受けているマナー講座やお勉強に参加させてもらったり、充実した毎日を送っています。

今日はウンディーネ家に私の双子の弟、パトリックがやって来ました。

あまり頻繁に顔を出しているとネッコォ家に気付かれる可能性があるので連絡は手紙のやり取りでしたが、今までの報告と今後の相談をする為にウンディーネ家を訪れたのです。

「・・・というわけでさ、あのクソ野郎は翌日訪ねて来て以来うちには来てない、2日後にようやく当主が謝罪に来たが同じように親父が泣きながら詰め寄ったら逃げ帰ったな」

「そうなんだ・・・」

「あぁ、親父の迫真の演技は見ものだったぜ、涙と鼻水を飛び散らせながら泣き叫んでた、横で笑いを堪えるの大変だったんだからな」

「まぁ、それは愉快ね、私も見てみたかったわ、その後何か連絡はあったのかしら?」

「いや何も、流石にうちも腹が立ったから結婚準備金の支払いを止めた、近いうちに何か言ってくるだろうよ」

「普通であればここで謝罪金を払って婚約解消になるのだろうけど・・・パトリックさんはどう出るか予測できて?」

「あの家の事だから金が支払われていない、どうなっているのか!・・・くらいは言って来そうだな」

「まぁ・・・呆れたわ、そこまであの家が堕ちていたとは・・・、前当主が亡くなってしばらく経つけど、よく今まで破綻しなかったわね」

「俺も詳しくは知らないが・・・執事がそこそこ有能なのと、クソ野郎の妹はまともなようだ」

「私もあのお家に行った時、クソ野郎・・・じゃなくてイッヌ様や奥様に酷い事をされそうになったらいつも妹のシーマ様がどこからか現れて・・・イッヌ様達の気を逸らせたり、2人きりにならないように配慮してくれてたの・・・」

「そう・・・あの犬畜生だけではなく母親も私のマリアンヌさんに「酷い事」を・・・」

ゴゴゴゴゴ・・・

お姉様の美しいお顔が怒りで歪みました・・・こ・・・怖いです。

「準備金の支払いが止まったら動きがあるでしょうね、ボッチ家を見限って他の下級貴族に矛先を向けるかも知れないから監視を強めるよう言っておくわ」

「・・・ところでマリアンヌ、アリシア様に迷惑かけてないだろうな」

「かけてないもん・・・」

「パトリックさん、マリアンヌさんは毎晩私と一緒に寝ているわ、甘えてくれるから可愛いしとても癒されるの、もちろんきちんとお勉強もしていてよ」

「そうか・・・じゃぁ俺はこれで」

「あ、待ってパトリックさん、午後からお客様がいらっしゃるの、マリアンヌさんを保護してここまで送ってくれた人達よ、この件の相談にも乗ってもらっていて・・・できれば同席して欲しいの」

「それなら俺の方からも礼を言わないとな、待たせてもらっても?」

「もちろん、一緒にお茶をしましょう!」

パトリックは私と双子という事で幼い頃からお姉さまとも親しくさせてもらっているいわゆる幼馴染、家の格が違い過ぎるから最初は敬語だったけど今は気さくにお話をする仲になっています。

「その3人っていうのは何者なんだ?、平民なんだろ、今日は何も持って来てないから後日礼をしないとな、何がいいだろうか・・・あまり高価なものを渡しても萎縮させるだけだろうし・・・」

「それは会ってからのお楽しみ、愉快な人達なのは間違い無いわね・・・ふふっ」








そしてお昼過ぎになり、私とお姉様、そしてパトリックはもうお馴染みになった3人組をお迎えして客室に集まりお菓子を摘んでいます。

「なぁ・・・アリシア様・・・」

「何かしらパトリックさん」

「この3人組、俺の知っている人物にとてもよく似ているのだが・・・気のせいか?」

「気のせいよ、世の中には似た人が3人居ると言われているわ」

「・・・」

「俺達が呼ばれたって事は何か進展があったのかな?」

「行方不明になって2日後にボッチ家にネッコォ家の当主が謝罪に来たけど、マリアンヌさんのお父様が泣きながら詰め寄ったら逃げ帰ったらしいわ、その後、ネッコォ家に入れていた結婚準備金の支払いを止めたから近いうちに何か動きがあると思うの」

「で、これからどうするの?、前に面白い事を思い付いたって言ってたけど」

「今日は我が家の誇る造形師を呼んでいるわ、お抱えの画家なのだけど副業でお芝居の舞台俳優や人形のメイクをしている人なの、先生ー」

ガチャ・・・

「お嬢様、先生などと・・・大袈裟でございます」

「ふふっ、冗談はさておき、この人はトゥーム・サビニーさん、40歳独身よ」

「ご紹介いただきましたウンディーネ家の専属画家、トゥームと申します」

「トゥームさん、早速見せてもらえる?」

「かしこまりました」

ぱかっ・・・

トゥームさんが持って来た箱の蓋を開けました、皆が覗き込むと・・・。

「わひゃぁぁ!」

「うぉぉぉぉ!」

「ひぃっ!」

「ぎゃぁぁ!」

箱の中には血まみれの人間の生首が・・・しかも生々しい傷があちこちに付いていて、そこに何かの幼虫が湧いています、気持ち悪いの・・・。

「なっ・・・何だよこれ!」

ノルドさんが叫びました、凶悪なお顔をしているのにこういうの苦手なんだぁ・・・。

「ふふふ、安心して、これは作り物よ、トゥームさんの趣味なの」

「嫌な趣味だなおい!」

「はっはっは・・・お恥ずかしい、私は傷や腐乱死体に興味がありまして、身近な材料でいかに本物に近付けられるかを目標にして創作活動を行なっているのです!」

「・・・」

「見てくださいこの美しい傷跡、そこから溢れる血の塊や膿、傷に湧くであろう虫の幼虫・・・どこかで処刑があれば休暇をいただいて実物を観察に行っているのですよ、なのでほぼ本物と見分けがつかないものが製作できるようになりました、どうです?、触ってみますか?」

「いや・・・遠慮しておこう・・・」

「これは凄いわぁ・・・本当に肉が抉れてるみたい」

「俺は見ないぞ・・・蓋を閉じたら言ってくれ!」

つんつん・・・

「あ、硬い、これは蝋か何かで固めてるの?」

「マリアンヌお嬢様、よく分かりましたね、いかにも蝋燭に色を付けてそれを溶かして使っています」

「マリアンヌ様よく触れるな」

「うん、作り物だと分かれば怖くないよ」

「それで、このトゥームさんを呼んで何をするんだい?、何となく予想はできるが・・・」

「よくお聞きなさいな、私が徹夜で考えた筋書きはこうよ!、歓楽街で行方不明になっていたマリアンヌさんが変わり果てた姿で発見されるの、生きてはいるけど全身醜い傷だらけ、目玉なんて片方飛び出してるわ、そんなマリアンヌさんを見たイッヌ・ネッコォはどう思うかしら、こんなのと結婚するのは嫌だって思うのではなくて?、そうしてるうちに何と!、この国に留学しているラングレー王国の王女様と知り合うの・・・そして王女様はこう囁くわ「あらいい男、それに家の格も高いのね、でも残念、あなた婚約者がいるのでしょう」、さてあの馬鹿息子はどうするでしょう・・・」

「婚約破棄か・・・だがマリアンヌ様を諦めたとして今度はパトリック様に婚約を持ち掛ける可能性があるんじゃないのか?、向こうには妹が居ただろ」

「心配ないです・・・じゃなかった、心配ないよ、俺はボッチ家の後継だしすでに婚約者が居る、隣国にある結構大きな商会の娘だ、いくらネッコォ家が力を持っていても外国の商会に圧力を掛けるのは無理だろう、話が大きくなれば国王陛下の耳にも入りかねないから・・・」

「そうか・・・、だが油断できない、あの家なら婚約を破棄してうちの娘と婚約し直せなんて言い出すかも知れない」

「あり得るわぁ・・・」

「・・・」

「だがあの馬鹿ならほぼ間違いなく王女様の言葉を真に受けるだろう、しかも下級貴族のボッチ家とラングレー王家・・・比べるのも馬鹿らしい選択だ・・・いやボッチ家を馬鹿にしてるんじゃないぞ」

「あの・・・お姉様、でもラングレー王国の王女様にどうやって頼むの?、そんな人が目の前に居たら恐れ多くてたぶん私死ぬの・・・」

「(居るわよ)」

「(ここに居る・・・)」

「(うん、君のすぐ隣に居るぞ)」

「安心なさいマリアンヌさん、実は私、王女様と知り合いだから頼んであげるわ、可愛いマリアンヌさんの為ですもの、お姉様の私に任せておきなさい!」

「な・・・何だってー(棒)」

「やばいなそれ(棒)」

「アリシア様すごーい(棒)」

「お・・・お姉様ぁ・・・私のために・・・うぅ・・・ありがとうございましゅ・・・ぐすっ・・・わぁぁぁん!」

「(いい話っぽく持って行ったな・・・、親父が動き出したからもうすぐネッコォ家に王家の監査が入るのだが・・・バカ息子が助かりそうだからこの話に乗っておくか)」

「(酷い茶番だ)」

「(うふふ面白くなって来たわぁ)」








バタン!・・・

「くそっ・・・また有り金全部溶かしちまったぜ!」

「また賭博場ですか兄さん、それにこんなに遅くまで・・・」

「シーマか・・・遅くなってすまん、心配かけたな」

「いえ・・・」

「ところでシーマ!、可愛い妹よ!、頼みがあるのだ!」

「なんですか?」

「金を少し貸してくれないか」

「・・・っ!、・・・少しは今のお家の状況を!・・・まぁいいです・・・かっこいい兄さんの頼みは断れませんね、用意しておきますので明日私のお部屋に取りに来て下さい」

「ありがとう我が妹よ!、愛してるぞ!」

ぎゅぅ・・・

「はいはい、分かりましたから離してください、私はまだお仕事が残っているのです」

「では明日部屋に行くからな!」



「はぁ・・・」





「おぉ!、ここに居たのかシーマ!」

「・・・はい、お父様」

「ボッチ家からの結婚支度金が払われていない!、どうなっているのだ?」

「あのような事があったので怒って止められたのではないかと・・・」

「何ぃ!・・・いかん、いかんぞ!、ジョーイに言って向こうに払わせる、奴はどこだ?」

「・・・分かりました、私の方からジョーイさんに伝えておきますね」

「そうか・・・頼んだぞ!、ミーケに新しいドレスを買ってやらねばならんからな、それにお前もしばらくドレスを買っていないだろう、一緒に作ってもらいなさい、お父様もお前の綺麗な姿が見たいのだ」

「・・・いえ、私はもう沢山持っていますので、お父様の好意だけありがたく受け取っておきますね、・・・大好きなお父様」

「うむ、私も愛してるよシーマ」

ぎゅぅ・・・

「・・・はいはい、これから執務室に行って参ります、お父様はもうお休みになって下さいな」

「あぁ、おやすみ、可愛いシーマ」



「はぁ・・・」





バタン・・・

「・・・あぅ・・・お腹痛い・・・」

「お嬢様・・・」

「・・・遅くなってごめんねジョーイさん、今日お父様は何か余計な事しなかった?」

「私の存じ上げない高額支払いが2件、それから東地区のオージー宝石商に圧力をかけろと命じられました」

「ぐっ!・・・痛っ・・・」

「お・・・お嬢様!」

「大丈夫・・・支払いの書類は私が見るわ、オージー宝石商にはまだ何もしてないわよね、もししていたら詫び状を・・・」

「旦那様が直接連絡を取られておられる可能性はありますが、私が把握している限りではまだ何も・・・」

「そう・・・サインが必要な書類を持ってきて、すぐに確認するから」

「かしこまりました・・・」

バタン・・・

ぽろ・・・ぽろっ・・・

「うぅ・・・お祖父様ぁ・・・私・・・もう無理だよぉ・・・ぐすっ・・・」
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