〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜

柚亜紫翼

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Side - 16 - 35 - かりーん・ちっぱいさんのだいぼうけん ろく -

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ぐるるるる・・・がおー

「ひっ・・・」

恐怖でお漏らしをした私は憤怒の形相で近付いて来る地龍からどうやって逃げようかと頭を働かせていた、でも考えがまとまらない・・・。

「そ・・・そうだ、羽根があるんだから飛べるかも」

普段なら考えもしないような馬鹿な事を思い付いたのは怖くてまともに思考が出来なくなっていたのだろう。

ばさっ!・・・ばさっ!・・・

「ふんっ!・・・」

ばさっ!ばさっ!ばさっ!・・・

「・・・わーん、飛べないよぉ!」

僅かに身体が浮いただけで飛べなかった・・・そりゃそうだよね。

ぐるるるる・・・

「腕が治ったのなら戦って・・・あぅ・・・剣が無い」

そんな事をやっている間に地龍はもう目の前に迫ってる、私に向かって口を大きく開けて・・・。

がぶっ・・・

「ひぎぃ!、痛い!、いたぁぁい!」

顔を庇おうとした私の左手に噛みついた地龍はそのまま腕を・・・肩から先を引きちぎって食べようとしてる、噛まれた所からは血が・・・。

「あれ?」

痛みはある、ものすごく痛い、血も出た、でも地龍に噛みちぎられた筈の私の腕は砂になって牙の横からサラサラと流れ落ち、そして・・・。

「うわぁぁぁ!、う・・・腕が生えたぁ!」

地龍の口から流れ落ちた砂が光って、私の左手があった所に集まったかと思うと・・・何事も無かったように私の左手が・・・生えた。

「なにこれちょっと待って、噛まれたら凄く痛いけど・・・怪我がすぐに治っちゃう?」

地龍が目の前にいるのに私は思わず自分の腕をつついた。

つんつん・・・

ぷにぷに

さわさわ・・・

ちゃんと皮膚の感触があるし間違いなく私の腕だ、何で?、さっきまで砂みたいになってたよね・・・それに肩から下を食べられた時に僅かに残った服を持って行かれたから私は今全裸になっている、どうしよう、もしここに誰か来たら恥ずかしくて死ねる・・・。

めきっ!

ぎゃぁぁぁぁす!

地龍が突然凄い声で叫んだから顔を上げると捻じ切れた下顎が口から垂れ下がって大量の血が垂れ落ちてる・・・あ、目が合っちゃった・・・ワタシナニモシテナイヨ・・・。

ぎゃぁぁぁおぉぉぉ!

ものすごく痛そうだ、でもお前がやっただろって言いたそうな目をして私を睨むのやめて欲しいな。








ざしゅっ!・・・

ばしゅ!・・・

「くそ!・・・やけに魔物が多いな」

俺の名前はチャールズ・マンダム、マキシマの街を拠点にハンターをやって暮らしている、今俺と姉御はハンターギルドからの依頼を受けて大森林手前で起きた異常の調査に向かっている。

「はぁ・・・はぁ・・・坊や、ちょっと待ちな!」

「何だよ姉御!、もう息が上がったってんじゃねぇだろうな、この前まで2つ目の吊り橋まで休み無しで行けてたじゃねぇか」

「うるさいね!、確かに疲れ易くはなったが・・・、おかしいと思わないかい・・・この辺に出て来ちゃいけない魔物どもが居る・・・」

「あぁ、俺も言おうと思ってた、この魔猿だって大森林の奥に住んでる奴だよな!」

「懐かしいね・・・この感じ・・・覚えてるかい?」

「あぁ畜生!・・・忘れる訳ゃねぇぜ、20年前にローゼリアのサウスウッドで起きた・・・」

「魔物の大暴走・・・これは引退した年寄りと全盛期を過ぎた中年男・・・2人じゃ荷が重いね・・・」

「姉御・・・戻るか?」

「まだ暴走は起きてないが・・・早くて明日以降だろうね、坊やは先に戻ってギルド長に状況を報告しな!、おそらく今頃は魔女様も異変に気付いてギルドに弟子を向かわせてるだろう」

「おいおい!、冗談じゃねぇぜ!、姉御はどうすんだよ、まさか途中ですれ違った奴らが言ってた娘を助けるってんじゃないだろうな!」

「私はそんなに馬鹿じゃない、奴らは紫髪の女の子が地龍に食われたのを見たってんだろ、それが本当ならもう助かりゃしないよ・・・疲れ切った年寄りと一緒だと街に戻るのが遅くなる・・・ただそれだけさ」

「・・・」

「そんな顔するんじゃないよ・・・私を誰だと思ってるんだい、坊やの師匠で鎖鎌(くさりがま)のペトラ様だ、そう簡単にくたばらないさ・・・一休みしたら質の良い魔石を拾いながらのんびり街に戻るよ」

「・・・分かった・・・だが死んだら許さねぇからな」

「・・・早くお行き」

俺は姉御を置いて来た道を引き返した、ふと気になって振り返り姉御を見ると・・・いい笑顔で親指立てるんじゃねぇよ・・・。

ダッ・・・




「ふぅ・・・私も耄碌しちまったね・・・腰も痛いし長時間戦ってると身体が思うように動かなくなる・・・だがこんなババァでも地龍くらいなら簡単に首を落とせるだろう・・・さて、可愛いカリンちゃんを喰ってくれたお礼をしてあげないとねぇ・・・」









「・・・」

私の名前はカリーン・チッパイ、17歳。

私は小雨の降る森の中、目の前で血まみれになって倒れた地龍を眺めてる。

今起こった事をありのまま話そう。

顎を砕かれ怒り狂った地龍が再び私を襲ってきて逃げようとして転んだ私の下半身を前足で踏み潰した。

激しい痛みに絶叫する私、でもまた謎の現象が起きて潰れたお腹や外に出た内臓が元通りに・・・、その代わりに地龍の体が一回転半して潰れてしまったのだ。

ちなみに地龍は息絶える間際まで私を恨めしそうに睨んでいた、ワタシナニモシテナイノニ・・・。





まだお腹を踏み潰された時の痛みが残ってる、すごく痛かった、いっぱい血が出たから寒いしお腹もすいた・・・何故か地龍の死体がとても美味しそうに見えるのは気のせいかな・・・。

じゅるり・・・

私は地龍の肉片に噛み付いた・・・普通なら生で魔物の肉なんて絶対に食べたりしないのにこの時の私は少しおかしくなっていたのだと思う。

「あれ、おいしい・・・」

地龍のお肉はとても美味しかった。

私は夢中で血の滴る肉を貪った、お腹がいっぱいになって周りを見渡すと空が明るくなりかけていた、雨は相変わらず降ってるけど夜が明けるのかも・・・。

「カリンちゃん?・・・」

誰かが私の名前を呼んだ。

振り向くとそこにはハンターのような格好をしたペトラさんが立っていた、手には鎖のついた凶悪そうな武器を持って・・・。

「ペトラさん・・・わぁぁん、助けて・・・私、地龍に襲われて・・・」

ザシュッ!

泣きながらペトラさんに駆け寄ろうとした私の足元に鎌のような武器が突き刺さった。

「かわいそうに・・・アンデッド・・・いや不死族に身体を乗っ取られたのか・・・だが安心しな、すぐ楽にしてやるからね」

ヒュン・・・ヒュン・・・

ペトラさんの頭上で鎌が旋回を始めて、ジリ・・・ジリ・・・と近付いてくる・・・何か誤解されてるみたい・・・。

「やめてペトラさん、私カリンだよ、よくわかんないけど羽根と牙が生えちゃったの・・・あぅ!」

私の顔のすぐ前を鎌が通り過ぎた、危なかったぁ!・・・あと少し踏み込んでたら首から上が無くなってたかも・・・。

「生きてた頃のカリンちゃんを真似るんじゃないよこの化け物!、大人しくカリンちゃんの身体を返しな!」

ヒュッ・・・

ザシュッ!

「あぅ・・・痛い!」

私の脇腹を鎌が切り裂いた・・・と思ったら傷口が光に包まれて・・・。

「ぐっ!」

「ペトラさん!」

ペトラさんのお腹から血が吹き出した、ダメだ!、私を傷つけたら地龍みたいにペトラさんが・・・。

そんな事を考えているとペトラさんは自分のお腹に手を当てて、付いた血を舐めて一言・・・。

「・・・やるじゃない(ニコ・・)」

「いやちょっと待って、やめてよペトラさん」

「死にさらせぇぇぇ!」

可愛いぬいぐるみに囲まれて優しく私の頭を撫でてくれたペトラさんとは別人のような形相で再び私に襲い掛かってきた、やだ、怖いよぉ。

ヒュッ・・・

ザシュッ!

シャッ!

私の全力でも避けるのが精一杯だ、まるで舞い踊るような軽やかな足取りで攻撃して来る、ペトラさんめっちゃ強い!、でも私が攻撃に当たったらまたペトラさんが・・・。

「待って・・・お願いだから話を聞いて!」

「やかましいわぁ!」

しゅっ

どす!

「痛っ」

鎖の付いた方に気を取られていたら腰に付けていた別の鎌が投げられて私の右肩を貫いた。

でもまた謎の光に包まれて・・・。

「ごふっ!」

「ペトラさぁぁん!」

首筋が切れて血が吹き出し、ペトラさんが膝から崩れ落ちた。

私はペトラさんに駆け寄って抱き起こそうとすると・・・。

どすっ!

「あぅ・・・い・・・痛い・・・」

「ふふっ・・・油断したねぇ・・・鎖鎌(くさりがま)のペトラ様はタダじゃ死なない、お前も道連れだよ・・・一緒に地獄に行こうじゃないか(ニタァ)」

ペトラさんが腰に付けていた短剣で私の心臓を貫いていた、そして私の傷口は謎の光に包まれて・・・。

「ぐふっ!・・・畜生・・・ごふっ!・・・げふっ・・・・・・マルコー・・・」

がくっ・・・

「ペトラさん・・・嫌ぁぁ!」






「ひっく・・・ぐすっ・・・誰か・・・誰か助けて!、ペトラさんが死んじゃう!、嫌だよペトラさん!」

急速に体温が失われて冷たくなっていくペトラさんを抱えて私は小さな子供みたいに泣いた。

なんとかしなきゃ・・・ペトラさん、まだ息子さんに会えてないのに死んじゃダメだよ!。

ペトラさんの命が失われていくのをただ見ているだけしか出来ない自分が情けなくなった、本当に何も出来ないの?、何か私に出来る事は・・・。

そういえば・・・お父様から昔、聞いた事がある。

「お前が魔物として覚醒しても利用価値はある、お前の血は薬になるからな・・・」

そうだ、私の血・・・魔物として覚醒した私の血は薬だって・・・もしかしたら助けられるかも。

ざしゅっ!

私は自分の腕を切り付け流れる血をペトラさんの口に・・・ダメだ、意識がなくて飲んでくれない!、それにしばらく経つと血も光って消えちゃうの。

ざしゅっ!、ちゅぅ・・・。

血を口に含んで・・・キスするみたいになっちゃうけど・・・いいよね。

口移しでペトラさんに私の血を飲ませた。





ここはどこだ・・・。

確か私は森でカリンちゃんの姿をした魔物と戦って・・・あぁ、そうか、私は死んでしまったのか・・・。

身体が酷くだるいし目も開けられない・・・。

あいつは生意気にも強かった、不死族・・・いや、あれは伝説級の魔物・・・吸血族かもしれないね、あんな奴が街を襲えばいくら魔女様でもやばいだろう・・・街の皆もだがチャールズ坊やが心配だ・・・。

私の名前はペトラ・ヨウジョスキー。

デボネア帝国で食堂の娘として生まれ、メイドを経てお貴族様の愛人、銀級のハンター・・・そして今は雑貨屋の店長だ。

思えば波乱に満ちた人生だった、あの貴族に目を付けられなかったら平民の娘として誰かと結婚し、平凡な人生を終えていただろう。

半ば誘拐される形で貴族の屋敷に連れて行かれ、当主の子を産みメイドとして働いた。

息子を連れてこのエテルナ大陸に逃げて・・・生きる為に必死で働いた。

そして息子が居なくなり、全てに絶望した私は息子を追って大陸中を旅した・・・最初は戦い方すら知らずアクセサリーを売り歩くただの女だったが運良く年老いたハンターの男に拾われた・・・いや、食い物を盗もうとして捕まったのだ。

数年間一緒に旅をしたその男は私にハンターとしての生き方、戦い方を教えてくれた。

才能があったのだろう、師である男も驚くほど私は強くなった、ハンターとして評価されランクも上がり、やがて生活の為だったアクセサリー制作は趣味になった。

私は息子を探して大陸中を旅したが・・・それ以上に旅をするのが楽しかった、旅の途中で拾ったガキは私を姉御(あねご)と呼んで懐いてくれた。

ハンターを引退して、雨ばかりが降る陰鬱な街に店を開いた、チャールズ坊やはこんな所に住むのかと驚いていたが私はマキシマの街の空気が好きになった。

一つ・・・ただ一つだけ思い残した事がある、息子に・・・マルコーに一目でいいから会いたかった・・・。





「・・・さん」

「ペトラさん!」

「何だい・・・うるさいね」

「わぁぁん!、ペトラさん、よかったぁ・・・」

身体が重い、まだ思ったように動けないようだね・・・。

目を開けるとカリンちゃん・・・の身体を乗っ取った魔物が私を抱いて泣いていた・・・何の冗談だい!。

「ペトラさんお願い聞いて!、私は魔物じゃない・・・事はないけど・・・とにかくカリンなの!」

「魔物だけど・・・カリンちゃん?」

「うん、今から説明する・・・私の一族は昔・・・」






「・・・というわけなの!、魔物にならないように封印してた枷を地龍に食べられちゃって・・・気がついたら羽根と牙が生えてたの・・・ぐすっ・・・」

「驚いたね・・・本当にカリンちゃんなのかい?」

「うん、記憶も全部あるし、人を襲いたくもならない」

「・・・分かった、信じるよ・・・普通の魔物なら私を助けようとはしないだろうからね」

「ありがとうペトラさん・・・それから・・・言いにくいのだけど、一つ謝らないといけない事があります」

「何だい?、命を助ける代わりに私も魔物になったって言うのかい」

「いえ・・・魔物にはなってない・・・よ」

「じゃぁ問題ないじゃないか」

「いえ・・・問題があります」

「何で急に敬語になってるんだい・・・気味が悪いね」

「先に謝ります・・・本当に申し訳ありませんでしたぁ!」

私は手を動かしてみた、握ったり開いたり・・・ちゃんと動くじゃないか。

「立ち上がろうと思うんだが肩を貸してもらえるかい」

「はい、かしこまりましたぁ!」

「だから何で敬語なんだい!・・・よっ・・・と」

やけに目線が低いね・・・それに手にシワが無いし気のせいか小さいような・・・。

ずるっ・・・

「何だ、服が大きい?、ずり落ちて来た」

「落ち着いて聞いてくださいペトラさん」

「何だい、はっきり言いな!」

「あなたは若返っています」

「あ?」

私は自分の身体を見た・・・。

「なっ・・・何で幼女になってるんだい!」

「わーん、ごめんなさぁぁい!」
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