〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜

柚亜紫翼

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Side - 16 - 21 - まなさまー -

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Side - 16 - 21 - まなさまー -


「やぁ、ごきげんようリゼちゃん、久しぶりだね、元気だったかい」

「・・・はい、殿下」

「大陸横断巡業・・・いや、外交の旅をしているリィンたんに付き合ってくれてありがとう、時々気分転換に連れ出してくれているようだね、リィンたんの事だから退屈だもう嫌だとわがままを言って困らせているのではないかな?」

「・・・はい・・・いつも退屈だと文句を言っていますが大丈夫です・・・」

「ふふっ・・・あの子も今回の旅でローゼリアの王族としての自覚を持ってくれるといいのだけど」

「・・・あの・・・殿下、顔が近いです」

「レディはこうすると皆喜んでくれるのだがリゼちゃんにはまだ早かったかな?、それに今日はやけに改まってどうしたんだい?、いつものようにマナお兄様と呼んで欲しいのだけど」

「今は他の人の目があるので・・・それに公の場で王太子殿下を馴れ馴れしく呼ぶわけには・・・」

うるうる・・・

「悲しそうな目をして見つめてもダメなのです!」

「・・・では王太子命令だ、僕の事は公の場であってもマナお兄様と呼ぶように」

「・・・」

こんにちは、リーゼロッテ・シェルダン16歳です。

今私はデボネア帝国の拠点となるお城に人員と物資を転移させる為にローゼリアの王城に来ています。

目の前で私の顎を掴んで上を向かせているこの人物はマナサマー・マリース・ローゼリア・・・この国の王太子殿下でリィンちゃんのお兄様です。

ツインテールにした艶やかな長い黒髪、黒い口紅、目の周りは真っ黒で着ているお洋服は黒のゴシックドレス・・・常軌を逸した美形だからまるでビジュアル系のバンドにいる人のよう・・・。

「あの・・・マナお兄様、その姿で向こうに転移されるのでしょうか?」

「そうだよ、僕がデボネア帝国の帝都に行くのは初めてだからね、少し街に出て庶民たちの暮らしぶりを見て来ようと思っているのさ」

何でこの人、喋る度にくるくる回ったり格好よくポーズを決めるのかな・・・いや、いつもの事だし凄く絵になってるから別にいいんだけど・・・。

実はマナお兄様は・・・私が触れられたり抱きつかれたりしても大丈夫な数少ない成人男性の一人なのです。

リィンちゃんのお兄様だからお城に遊びに行くと居たし、私が幼い頃は一緒に遊んでくれたり・・・幼馴染のお兄様的な位置に居るのに加えてこの風貌・・・リィンちゃんは本人の趣味だと言っているのですがプライベートの時はいつもゴシック風の女装をしています。

ゴシック建築なローゼリアの王城にこの姿で佇んでいるとそれはそれは絵になるのです!。

バタン!

「マナ様!」

「やぁ、ベル、見送りに来てくれたのかい」

お部屋に入って来た男装の麗人っぽい人はジサベルお姉様・・・いえ、マナサマー殿下の婚約者でジザベル・グァクト様、この人も宝塚かビジュアル系バンドで歌ってそうな見た目・・・現役の騎士団員で若くして魔法騎士副団長にまで昇り詰めた凄い人なのです。

ぱっと見、男性に見えるジザベルお姉様と女装が似合い過ぎているマナお兄様、初見の人にどちらが王太子殿下かと聞けば10人中10人が間違えて答えるだろうと言われています。

「リゼちゃん、マナ様をよろしくお願いね、今回は忙しくて一緒に行けないけど危ない所に行きそうになったら止めるか転移させてね」

「あの・・・ジザベルお姉様・・・私は転移させるだけで向こうでお兄様とずっと一緒に居るわけでは無いです」

「そうなの?」

「そうなのです!」

「待って!、じゃぁ誰が私のマナ様を守るの?」

「さぁ?」

「・・・」

「・・・」

「リゼちゃん、私も行くわ!」

「いや待ってお姉様、向こうには近衛騎士団長さんも居るから大丈夫だと思うのです」

「ベルは仕事が沢山あるんじゃないのかい?、それに近衛騎士団長が向こうに行ってる間は王城の守りを任されてるよね」

「仕事よりマナ様の安全が大事でしょう!」

「また団長に怒られるよ」

「わあぁぁぁぁん、だってぇぇ!」

「ほらほら、いい子だから我儘を言わないで・・・」

なでなで・・・

「マナ様、ぎゅってして・・・」

「ふふっ・・・愛してるよ、ベル」

ぎゅぅぅ・・・

2人のイチャイチャから目を逸らすと転移する為に整列して待っているメイドさんや騎士様達と目が合いました、皆チベットスナギツネみたいな表情をしています、口には出さないけど「早く終わらないかな」って思ってる筈なのです!。

「さて、ベル成分も補給したし、リゼちゃんお願いできるかな?」

「はい・・・転移!」







ぺかぁ!

「お待ちしておりました、殿下」

転移した先には相変わらずラオウに似ている近衛騎士団長さんが数人の騎士様と一緒に立っていました。

今日から王太子殿下が最高司令官としてこのお城に滞在し、帝都の復興に着手する事になっているのです。

「玉座の間に皆が集まっておりますので殿下のお言葉を賜りたく・・・こちらです」

「分かった、リゼちゃんも一緒について来てくれたまえ、僕の隣で立っているだけでいい」

「え・・・なんで私?」

転移して次のお仕事に向かおうとした私を殿下が呼び止め、とてつもなく恐ろしい要求をしてきました・・・そんなの聞いてないのです!。

「リゼちゃんは旧デボネア帝国復興事業の最重要人物だからね、こういった場には居てもらわないと困る」

「・・・」






「・・・私からの言葉は以上である!、皆この国の復興の為に力を貸してくれたまえ!」

「わー!」

「ローゼリア万歳!」

ざわざわ・・・

ざわざわ・・・

玉座の間に集まった騎士様やメイドさんを前に、王太子殿下の短い挨拶が終わりました。

旧デボネア帝国の騎士様達は殿下の姿に驚きを隠せないようで、帝国語で何か話しています、そうだよね、王太子殿下が女装して登場するなんて思わないよね・・・。

玉座の間での挨拶の後、殿下と私、それから近衛騎士団長さんは執務室へ・・・元は皇帝陛下の執務室だった場所だからとても重厚で立派な書斎・・・。

「さて、リゼちゃんはこの後どうするのかな?」

「ボッチ商会のデボネア支店に行ってお祖父様の手伝いをするのです」

「あぁ・・・そういえば旧帝都の住民に無料で衣服や日用品を配っているようだね」

「はい」

「王家としても住民への物資配給はとてもありがたいし感謝している、お祖父様にもよろしく言っておいてくれるかな」

「はい・・・では私はこれで・・・次回の転移は明後日、今日と同じ時間になります・・・それから・・・これをどうぞ」

「これは?」

「リィンちゃんや陛下の指輪と同じ物です、もう指輪の在庫が無いからブレスレットになるのですが・・・」

ちらっ・・・

「あぁ、大丈夫だよ、父上やリィンたんの指輪の事は近衛騎士団長には伝えてあるから」

「そうなのです?」

「うん、でも他の騎士達には伝えていないよ、これは国の重要機密になってるからね、知ってるのはリィンたんの専属護衛の2人くらいかな・・・そうか、僕も遂に貰えるのか!、リィンたんが自慢するから実は欲しかったんだよ、嬉しいな!」

「魔石のところに唾液を付けてもらうとこのブレスレットはマナお兄様にしか使えなくなります、外す時には魔力を通して外れろと念じれば外れます、それと・・・あの・・・この帝国の件が落ち着いたら返して貰えるとありがたいのですが・・・」

「えぇ・・・返さないといけないのかい(ニコッ)」

「いえ・・・いいです・・・では私はボッチ商会のお仕事があるので失礼します・・・」

「お疲れ様、帝都はまだ治安が悪いらしいから気をつけてね」








ぱあっ!

「うわ眩しっ・・・おぉ、リゼたんか」

「お祖父様、、ボッチ商会の本店に置いてあった荷物持ってきたよ」

「ふむ・・・食料20箱に衣類50箱・・・パトリックに伝えておいたものに間違いないね、お疲れ様リゼたん、向こうにお菓子を用意してあるからお祖父様と一緒にお茶をしようか」

「うん、あとね・・・パトリック叔父様から金貨を預かってきたよ、それから私の作った小荷物転送の魔法陣、本店とボッチ家のお屋敷に置いてきたから次から小さな荷物なら私が居なくても自由に転送できると思う」

「おぉ、それは助かる、どれくらいの大きさまで転送できるのかな?」

「今は人が抱えられる鞄一つくらいかなぁ・・・もっと大きなものが送れるように改良はしてるんだけど・・・」

「次は明後日だったか?、今回と同じくらいの量があるんだけど大丈夫かな?」

「大丈夫だよお祖父様、騎士様をユーキ邸に送って王太子殿下をお城に転移させるお仕事の後になるけどね、ついでだから全然手間じゃないし」









「ボッチ商会による聖女様の配給の時間でーす!、今日はお洋服一人3着まで無料でーす!、ボッチ商会の前にお並びくださーい!、身体が大きな人はこちら、小柄な人はこっちでーす、子供服や女性の服、下着もありますよー」

わいわい・・・

がやがや・・・

ざわざわ・・・

「聖女様・・・ありがてぇ・・・今年は寒い時期が続いたから服を燃やして暖をとっておったのじゃ」

「子供の服がボロボロだったの、助かるわぁ」

がやがや・・・

わいわい・・・

「昨日は日用品で今日は服・・・しかも無料・・・気前が良すぎて気味が悪いな」

「お前なんて事言うんだよ!、だったら貰わなきゃいいだろ!」

「いらないなんて言ってねぇ!、だがタダほど高い物はねぇって言うだろ、何かあるんじゃないかって思っただけだ」

「それにしても聖女様は凄いな、あれだけ貴族や聖職者を恨んでた街の人間の心をほとんど掴んじまうなんてな」

「おい、見ろよ、あれ聖女様じゃね?」

「おぉ!、本当だ!、聖女様が服を並べてるぜ!」

「女性用の服の列か!、畜生、俺並び直して来る!」

「おい待て、お前女の服もらってどうすんだよ、着るのか?」

「だが聖女様があっちに・・・」

わいわい・・・

がやがや・・・

「可愛い下着をもらっちゃった、それに・・・これは半額割引券?、今度旧帝都に開店する古着のお店、オゥフ・ハウスでお買い物の際にお使い頂けます?」

「オゥフ・ハウスは聖女様の実家がエテルナ大陸でやってるお店だって言ってたよ」

「この配給は店の宣伝かぁ」

わいわい・・・

「聖女様は商売もうまいな、これはみんな行くだろ」

「金は無ぇがな」

「ははは・・・だが古着や家具、美術品なんかも高く買い取ってくれるらしいぜ」

「そうなのか?、うちは確か死んだ婆さんの使ってた家具があったから持って来ようか・・・」

「綺麗なだけで腹の足しにもならない物を買い取ってくれるのは確かに助かるな」







「疲れたのです・・・」

今はもう夕方・・・あれから私はお祖父様と一緒にボッチ商会の前でお洋服の配布を手伝いました、帰りたかったのですがお祖父様やお店の人達が凄く忙しそうにしてたから思わず手伝ってしまったのです。

「悪かったねリゼたん、足が不自由なのに品出しを手伝ってもらって」

「大丈夫だよお祖父様、荷物くらい持てるし」

「街の皆も喜んでいたな」

「そうだねー、でもみんな何で私にだけ挨拶するのかな?」

そうなのです、集まった街の人達が私に向かって大声で挨拶をするのです!。

「挨拶?」

「近衛騎士団長さんが言ってたの、この国の言葉で「セイジョ・サマァー」は「こんにちは」って意味だって」

「・・・」

「どうしたのお祖父様」

「・・・いや、何でもないよリゼたん・・・ははは・・・」

「それに無料配布だったからかなぁ、凄い人だったのです、50箱もお洋服持ってきたのに全部無くなっちゃった」

「それはそうと、リゼたんはこの街でお店を出す気はないかな」

「お店?、もうリーゼの支店があるけど」

「いや、実はこのボッチ商会の隣の建物を買ったんだ、だが少し狭くてね、もっと大きな所を区画ごと全部買う事にした、だからそのお店をリゼたんに使ってもらえないかと思って・・・、ちょうどこの国では薬が不足してるようだから「リゼルの薬草店」の2号店を出すというのはどうだろう、お店の3階は住居になってるから住む事もできる」

「えぇ・・・でも私忙しいし・・・デボネア帝国怖い・・・住みたくない」

「少し前は治安がとても悪かったらしいが、今ではローゼリアの騎士達が昼夜問わず巡回してるから街も落ち着きを取り戻してる、それにボッチ商会から医師と薬を扱える人員を用意して常駐させよう、リゼたんは診断書に書いてある薬を転移魔法陣で届けてくれるだけでいい」

「それくらいなら・・・でも向こうでは1日おき午前中だけの営業だよ、いいの?」

「こちらもしばらくは営業時間を合わせるから大丈夫だよ、店の名前も貸して貰えるかな、向こうは「リゼルの薬草店」だから・・・ここは「リゼの薬草店」にしよう」

「・・・うん、それでいいのです」

デボネア帝国関連のお仕事がどんどん増えてきてる気がするのですが・・・気のせいかな?。
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