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Side - -04 - 1 - まりあんぬさまがみてる -
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Side - -04 - 1 - まりあんぬさまがみてる -
こんにちは、マリアンヌ・ボッチです。
今私とアーノルド様は太陽神教会の神殿で結婚式?を挙げています。
太陽神教というのはこのエテルナ大陸で広く信仰されている宗教で、太陽の神「アァァマティラアァァス・スウォォプ様」を主神としてその両翼を守護する月の女神様「イースカンダァァル様」と「グァーミラァァス様」が祀られています。
私の目の前には2つの荘厳な月の女神像を背にした司祭様、後ろには私の両親と弟、それからアーノルド様のご両親と弟の・・・確かシルベスター様?、他には誰も居ません。
どうしてこんな事に・・・もしかしてこれは夢?・・・華やかな雰囲気も花束も花嫁衣装もありません、およそ貴族の結婚式とは思えない急造りで質素な式・・・。
司祭様が何か聞いて来たので適当に「はい」と言い、また私は考えます、何故こんな事に・・・。
・・・朝起きて、カーラさんに身支度を整えてもらいました、今日は用意されたお洋服気合いが入ってるな、それにお化粧も念入りだ、どこかにお出かけする予定あったっけ?・・・そんな事を思いながら朝食を食べる為に食堂へ。
いつも忙しくしていて朝一緒に食事をする事など無い両親と弟が何故か食堂に揃っています。
「急な話で悪かったね、カーラさん」
「・・・いえ、ですがお嬢様には何も話さなくてもよろしいのですか?」
「先方が昨夜遅くとにかく急いでくれと言って来た、マリたんに話せば緊張して倒れるかもしれないからね」
何か不穏な事をお父様が言っていますが私は気にせず食卓に並べられた美味しそうな玉子やソーセージをもきゅもきゅ食べていました、今日は何をしようかな・・・読みかけの本を読んで、お裁縫の続きもしなくちゃ、今作ってるドレスは私の最高傑作になるかも・・・。
どたどた・・・
バタン!
「お迎えがいらっしゃいました!」
メイドのリリーさんが食堂に駆け込んで来ました、どうしたのかな?。
「ひぃっ・・・アーノルド様?」
リリーさんに続いて食堂に入って来たのは礼服姿のアーノルド様、今日も筋肉が躍動しています。
「無理を言って申し訳ありません、先に行っています」
「あぁ、我々も後で行きますのでどうぞ娘を宜しく頼みます」
などと訳の分からない会話の後・・・。
がしっ!
担ぎっ!
「あぅ・・・いやぁぁぁ!、まだ私の玉子やパンが・・・お・・・お父様助けて!」
アーノルド様の肩に担がれ私は馬車で連れ去られたのです・・・。
「・・・では誓いの口付けを」
「・・・」
「・・・」
「おほん!、口付けを」
がしっ!
横向きっ!
顎をくいっ!
「あむっ」
ちゅうぅぅ・・・
ひぃぃぃ!、アーノルド様がいきなり私のお口に・・・キ・・・キスを?、頭の両側をいかつい手で押さえられているので逃げられません、ちょっと待って首が痛い!、両足が浮いてるの!。
お母様に教えてもらってキスをするだけじゃ赤ちゃんは出来ないと分かったけど・・・息が・・・でき・・・な・・・。
「んぅー!・・・うー!・・・」
じたばた・・・。
「ノルドちゃん!」
「おいノルド、もういいやめろ!、マリアンヌ嬢の顔が紫色になってる!」
「ぷはぁ!」
きゅぅ・・・
「あ、気絶した」
「あぁぁぁぁ!、マリアンヌぅ!」
「うっく・・・ぐすっ・・・ひっく」
「あ・・・お目覚めになりましたか、お嬢様」
「ぐすっ・・・げふっ!えふっ!」
「怖かったですねお嬢様ー、もう大丈夫ですよ、お顔を拭きましょうね」
「あい・・・」
ふきふき・・・
「はい、綺麗になりましたぁ」
「ありがとう・・・カーラさん」
気絶して白目を剥き、アーノルド様の肩に担がれて神殿を後にした私は馬車でシェルダン家に運ばれたようです、目を覚ましたのは夕方・・・カーラさんがずっとベッドの側に居てくれたみたい・・・。
目が覚めて通された客間には神殿に居た皆が勢揃いしていました。
「目が覚めたかな」
アーノルド様のお父様、ヒューイ・シェルダン様がにっこり笑って私に話しかけます。
「はい・・・」
「あんな質素な結婚式じゃ可哀想だわ、やはりドレスを作って盛大に式を挙げ直しましょう!」
などと意味の分からない事を言っているのはアーノルド様のお母様、メアリー・シェルダン様。
「黙っていて悪かったねマリたん、私たちも昨日の夜に突然話があってね・・・今から全部説明するから座りなさい」
お父様が生暖かい目で私を見て言いました。
「アーノルド様と神殿で結婚式?みたいなのを挙げたのは分かったの・・・でも何で急に?、私聞いてない・・・」
「実はね・・・」
「嘘・・・」
お父様の話を聞き終わった私は倒れそうになるのを必死で耐えていました。
ラングレーの王女様・・・インフィーさんとの結婚を回避するために急遽決まった結婚・・・私が気を失ったまま神前で全ての手続きが終わり、今日から私とアーノルド様は正式に夫婦になったそうです。
「しばらくこのシェルダンのお家で暮らして、でもどうしても嫌なら離婚してもいいそうだよ」
「私・・・大貴族の奥様なんて絶対無理・・・ぐすっ・・・ふぇぇ・・・」
「泣かないで・・・マリアンヌちゃんは人見知りだから無理に社交はしなくてもいいわ、大きな式典や夜会には出てもらうと思うけど妻としてノルドの横で立っててもらうだけでいいから、ね?、それから私の事はお義母様って呼んでね」
メアリー様・・・お義母様が優しく私に言いました・・・でも立ってるだけでいいって・・・。
「あー、それからノルドは次期当主で後継だから子供は産んでもらいたいの、うちは息子が2人だったから私としては女の子が欲しいわね、とりあえず女の子一人と、その次は男の子かな」
「ひぅ・・・こ・・・子供ぉ!・・・」
「あらあら真っ赤になっちゃって可愛いわ」
お義母様がとんでもない事を言いながら私を撫で回しています・・・子供・・・アーノルド様と私の・・・子供・・・何をすれば出来るかお母様に教わったの・・・あんな恥ずかしい事をアーノルド様と・・・裸で・・・。
「きゅぅ・・・」
「あ、倒れた」
私の名前はマリアンヌ・シェルダン、18歳、ローゼリア王国の大貴族、シェルダン家の若奥様になってしまいましたぁ!。
「なん・・・だと」
俺は当主である父親に呼び出され、聞かされた衝撃的な言葉に固まっていた。
「もう一度言うぞ、今朝ラングレー王国の使者から通達があったのだ、お前はインフィニ王女殿下と結婚して殿下は女王として即位する、お前の立場は王配だな」
「俺は王配などという柄じゃない」
「分かってる、お前は鍛錬にしか興味がない筋肉馬鹿だ、だがシェルダン家の次期当主として教育を受け成績は優秀だ、魔法に関する知識も豊富だから一般的に言われている馬鹿ではない」
「断ってくれ」
「何故だ?、ラングレー王国はこの大陸の中でも力のある大国だ、その王配になれるのだぞ、野心ある貴族なら喉から手が出るほど欲しい地位だ」
「シェルダンの後継はどうするんだよ?」
「シルベスターが居るだろう」
「あいつも筋肉馬鹿だぞ、それに頭に血が昇ると何をするか分からん戦争狂だ」
「分かってる、騎士団を退役して・・・食事をしようと訪れた街で衛兵と揉めた事を言ってるのだろう、元上官が現地で説得してくれたおかげで街を壊滅させる寸前で投降したが・・・あれは危なかった、だがそれも2年前の事だ、今はあの事件で懲りたのか大人しく謹慎しいてる」
「謹慎というか・・・引きこもってるんだが・・・」
「インフィニ殿下と結婚するのが嫌な理由があるのか?・・・例えばマリアンヌ・ボッチ嬢・・・」
「インフィーは大事な友人だが・・・俺はマリアンヌ嬢が好きだ、愛している、結婚したい」
「お前の気持ちは知っている、メアリーも彼女を気に入っているし・・・私もこの話が無ければいずれは結婚させるつもりだった、だがラングレー王国からの正式な政略結婚の申し出だ、いくらうちが大貴族だからといっても下手に断れば国際問題になるだろう」
「俺がすでに結婚していればいいのだな」
「待て、何を考えている?」
「父さん、頼みがある、明日神殿に予約を入れてくれ、それから婚姻の手続きだ、ボッチ家にも正式に結婚の申し込みをしてくれ、マリアンヌ嬢を連れて来て結婚式を挙げる」
「・・・マリアンヌ嬢の気持ちは?、彼女はお前を愛しているのか?、彼女が初めてうちに遊びに来て1年になるがあれから進展はあったのか?」
「母さんとはとても仲良くやっているし俺も大事にするつもりだ、それでも・・・彼女が俺を嫌いだったとしても・・・貴族の政略結婚とはそんなものだろう」
「・・・まぁいいだろう、そんなに彼女と結婚したいのなら手配しよう、実はボッチ家とはお前達の事で頻繁に連絡を取り合っていた、結婚の手続きやラングレー王国への謝罪も私の方で全部やっておいてやる、明日結婚式が終わればマリアンヌ嬢はお前の妻になる」
「ありがとう、父さん」
「だが一つだけ言っておく、明日結婚の手続きはするがマリアンヌ嬢が本気で嫌がれば私の判断で離婚させる、ボッチ家当主の許可を得てあの家に潜り込ませた斥候の話だとお前彼女に怖がられてるんじゃないのか」
「・・・頑張る」
「頑張れ・・・確かに性格もいいし可愛い子だ、私も彼女の事は好ましく思っている、いい嫁になるといいな」
「好ましく・・・父さん・・・まさか幼女趣味でもあるのか?、母さんも小柄で胸は小さいが・・・いくら父さんでも彼女に手を出したら殺すからな!」
「ご・・・誤解するな!、義父としての「好ましい」だ!、それにお前に私の性癖をとやかく言われたくないわぁ!」
「・・・」
「何よ、急に呼び出して」
「・・・謀(はか)ったな、インフィー」
「さぁ、何の事かしらぁ」
「エルに聞いたらラングレーからシェルダンに政略結婚の申し込みなど来ていないと言っていた」
「使者が偽物だったとか?、新手の詐欺かしら、気をつけないとねぇ」
「鼻くそほじるな美女が台無しだぞ!、大丈夫かよこの王女様・・・」
「私だって他人が見てるところではしないわよ」
「・・・親父を問い詰めたら吐いたぞ、ある日インフィーが訪ねて来て作戦を持ち掛けられたってな」
「あらバレちゃったかぁ、でも貴方達って放っておいたら全然進展しないでしょ、だから私が背中を押してあげたのよ、これでも1年間は手を出さずに見守ってあげてたんだから感謝して欲しいわぁ」
「いい性格してるな」
「私ももうすぐ国に帰らないといけないからね、こんな状態の貴方達を放って帰れないじゃない、それなら早くくっつけちゃえって思ったの」
「・・・だが・・・感謝してる、お前が背中を押してくれたおかげでマリアンヌは俺の妻になった・・・まだ書類上の話だがな」
「それで、彼女とは上手くやってるの?」
「・・・」
「いや何か言いなさいよ!」
「まだ彼女とは上手く話せないが・・・」
「うん」
「俺が鍛錬している時や、執務室で仕事をしているとマリアンヌが・・・」
「うんうん、マリアンヌちゃんが?」
「扉を少し開けて俺をじっと見てる・・・無表情で」
「え・・・」
「俺と目が合うと慌てて扉を閉める、で・・・暫くするとまた扉が少し開いて俺の事を見てる、今まで空気扱いだったが・・・少しは俺に興味を持ってくれたのだろう」
「いや怖っ!、それは怖いわ!」
「それに・・・この前俺に手作りの下着をくれた」
「そう・・・2人とも青春してるって感じで初々しいわぁ、今度お屋敷に遊びに行ってもいい?」
「もちろんだ」
「それにしても私と結婚するのそんなに嫌だったとはね、ちょっと傷付いちゃったなぁ・・・」
「嫌じゃない・・・確かにマリアンヌに惚れたというのは本当だが・・・心の奥底でラングレー王国の王配になるのは荷が重すぎると感じていたのかもしれない、俺にはその覚悟ができなかった・・・だから・・・というのはマリアンヌに失礼だが・・・その重荷から逃げる為にマリアンヌとの結婚を選んだ・・・のかもしれないな」
「荷が重いと感じたもの同士、上手くやれると思うわ」
「え?」
「マリアンヌちゃんも大貴族の妻になるのは荷が重いと感じてた筈よ、だからノルドちゃんの気持ちに気付いていてもあえて無視し続けた、その気持ちは今のノルドちゃんと同じね、だからマリアンヌちゃんにはシェルダン家の妻という重荷を背負わせないでね、無理をさせ続けると彼女潰れちゃうかもしれないわ」
「・・・」
「それから・・・まだ貴方達には早いかもしれないけど、これをあげる」
「何だよそれ・・・ネックレスか?」
「この前私がラングレーに一時帰国してたでしょ、その途中・・・フローリアン王国のシルヴィアっていう街で魔導列車が故障してね、修理が終わるまで時間があったから街を散策したの」
「一人でか?、護衛は?」
「一応連れて行った」
「駅で街の人と話をしていたら怖いくらいよく効くお守りを売ってるお店があるって聞いたから行ってみたの、ペトラの雑貨屋ってお店でオーナーのペトラさんが森に居る魔物を狩って、その素材でお守りやアクセサリーを作ってるんだって」
「狼型の魔物の牙を綺麗に磨いたように見えるんだが・・・しかもかなりでかい、それにしても素晴らしい細工だな」
「その街では結構有名なハンターらしいわ、小柄な女性なのに凄く強いらしいよ、で・・・これは子宝に恵まれるお守りだって、他に恋愛成就や家内安全、色々売ってたわね、オーナーのペトラさんとも仲良くなっちゃった」
「子宝・・・」
「ふふっ・・・まだ先だろうけど頑張ってね」
「・・・で、一連のノルドとマリアンヌ嬢の騒動はインフィーが裏で仕組んでた・・・か」
「そうね、上手くいったわ、これで心残りも無くなったから国に帰れるわね」
「ノルドから政略結婚の事を聞かれて驚いたぞ、遂にお前が実力行使に出た・・・って思ってな」
「実力行使?」
「お前・・・ノルドの事好きなんだろ?」
「・・・っ」
「・・・」
「そ・・・そんな事あるわけないじゃない、ノルドちゃんは親友だけど・・・」
「うそをつくな」
「・・・ふふっ・・・エルちゃんは察しがいいなぁ・・・」
「お前の態度や表情見てたら分かるよ、何年親友やってると思ってるんだよ」
ぽろぽろ・・・
「うっく・・・ぐすっ・・・実は・・・ノルドちゃんが私の初恋・・・素敵な人だなって一目惚れ・・・」
「お前の地位ならノルドの奴を好きに出来ただろう」
「うぐぅ・・・でもぉ・・・ノルドちゃん・・・マリアンヌちゃんの事本気で好きになっちゃったから・・・それを引き離すのはダメだって・・・ひっく・・・もっと・・・早く求婚しておけばよかった・・・あの時・・・馬車に轢かれそうになったマリアンヌちゃん・・・助けに行こうなんて言わなきゃ・・・よかった・・・ぐすっ・・・」
「あー、あの時かぁ・・・そういえば俺とノルドは躊躇してたが声をかけようって言ったのインフィーちゃんだったな、あの事が無ければノルドはラングレー王国の王配になってただろう、人生何が起きるか分からないってやつだな」
「エルちゃん・・・慰めて・・・ぐすっ・・・」
なでなで・・・
「よしよし・・・気が済むまで遠慮なく泣けばいいさ、ここには俺と天井裏に影が2人と、隠し扉の裏に近衛騎士が一人、アリーが扉のところから覗いてるだけだからな」
「ふぇぇん・・・いっぱい見てる・・・」
「でもお前、手ぶらで帰るのか?、親父からも頼まれてるんだが・・・この国の上位貴族で誰か適当な奴紹介してやろうか?」
「適当は嫌ぁ・・・ぐすっ・・・いいもん、国に帰って・・・かっこよくて優しくて頭が良くて逞しい男見つけて幸せになってやるんだから!」
「そんな都合の良い奴居ないと思うが・・・」
「わーん!」
こんにちは、マリアンヌ・シェルダンです。
あの慌ただしい結婚式から50日が過ぎました、私はシェルダン家での生活にも慣れ・・・というか5日おきくらいに実家には帰ってるし・・・。
お義母様が張り切って私の実家のお部屋をそのままシェルダン家に再現してくれたり・・・とても居心地良く暮らせています。
「どうかな?、このお部屋はマリアンヌちゃんがリラックスできるようにボッチ家のあなたのお部屋と内装や家具も含めて全部同じにしてあるの、このお部屋は自由に使っていいからね、ちなみにお隣はノルドのお部屋よ」
「え・・・これは・・・実家にある私のお部屋?、嘘・・・ベッドやシーツまで同じ・・・」
「どう?、私頑張っちゃった」
なでなで・・・
「あ・・・ありがとうございましゅ・・・」
「それから・・・お裁縫室に新しい布地や糸を沢山置いてあるから好きに使ってね」
「わぁ・・・」
私はシェルダン家でとても過保護に可愛がられています、一緒について来てくれたカーラさんをはじめ、シェルダンのお屋敷で働くメイドさん達も優しくて・・・このままだとダメ人間になりそう・・・。
それはさておき、今日はインフィーちゃんことインフィニ王女殿下がラングレー王国に帰国されるので国王陛下主催の晩餐会に来ています。
知らない誰かに話しかけられたら怖いな・・・そう思って震えていたのですが隣にアーノルド様・・・ノルド様がいてくれるので誰も私達家族に近寄って来ません。
「国王陛下より挨拶があります、静粛に!」
「皆集まってくれてありがとう、今日の宴は私の親友、ラングレー王国インフィニ王女殿下が我が国での長期魔法留学を終えて帰国される為、両国の友好と更なる発展を祈り開催されるものである、皆存分に楽しんでくれ」
わー
パチパチ
「おい、見ろよ・・・」
「シェルダンの当主夫妻と・・・子息夫妻か・・・公の場にはほとんど姿を見せないのに・・・」
「御子息は今の陛下とは親友だからそりゃ参加するだろう」
「それにしても・・・恐ろしいな」
「あぁ、現当主も前国王の側近として恐れられていたが次期当主もやばいな・・・」
「あの筋肉は凄い・・・何をしたらあんなになるんだ?、しかも騎士じゃなくて優秀な文官と聞いてるが・・・」
「魔法の才能は凄いらしいぞ、ドック・フューチャに長く師事していたらしい」
「あの狂人にか?、やべぇ・・・」
「それに・・・最近結婚したと聞いたが子息の隣に居る妻・・・確かボッチ商会の娘だよな」
「あぁ・・・初めて見たが恐ろしいな、氷のような冷たい瞳に冷酷そうな薄い唇・・・」
「陛下の婚約者、アリシア・ウンディーネ様の親友らしいな」
「一時は超優良物件として結婚の申し込みが絶えなかったらしいがシェルダンが出てきて皆諦めたらしい」
「あの家を怒らせるのは流石にまずいだろ、下手をしたら暗殺されるぞ」
「ボッチ家やウンディーネ家と共謀してネッコォ家を完全に潰したって聞いて俺は震えたね」
ざわざわ・・・
「あの・・・ノルド様・・・」
「何だ?」
「みんな私達を見てます、怖い・・・」
「相手にしなければ誰も近寄って来ない」
「あの・・・ノルド様・・・喉が渇きました・・・あそこの飲み物おいしそう・・・」
「待っていろ、取って来る」
すたすた・・・
ささっ・・・
「飲め」
「ありがとうございます・・・こくこく・・・あ、美味しい(ニッコリ)」
ざわっ・・・
ざわざわ・・・
「笑ったぞ、怖ぇ・・・」
「あれは腹の中で何か企んでる顔だな・・・俺は詳しいんだ」
「こっち見たぞ、逃げろ!」
「ノルド様・・・あのお肉美味しそう」
「待ってろ」
すたすた・・・
ささっ・・・
「食え」
「ありがとうございます・・・もきゅもきゅ・・・あ、美味しい」
美味しい食べ物を食べて思わず顔が緩みます。
「ひっ・・・」
お隣に居た給仕さんと目が合ったのですが震えています、どうしたのでしょう・・・。
「マリアンヌちゃん!」
なでなでなでなで・・・
「うぁぁ・・・インフィニ王女殿下・・・あの、幸運のネックレスありがとうございます」
「あぁ、この抱き心地本当にいいわぁ・・・お持ち帰りしようかしら、ねぇラングレー王国に来る気ない?、一生養ってあげるわよ」
「ダメだ」
「何よ、ノルドちゃん・・・」
「これは俺のだ」
「んふふ・・・お二人ともお幸せにね、ちょくちょく様子を観に来るわ、ノルドちゃんに泣かされたらすぐに言いなさい、私が攫ってあげるから」
「あぅ・・・2人とも引っ張らないでください・・・」
私の名前はマリアンヌ・シェルダン、18歳、お顔が怖い令息に気に入られて・・・今はとても幸せです。
こんにちは、マリアンヌ・ボッチです。
今私とアーノルド様は太陽神教会の神殿で結婚式?を挙げています。
太陽神教というのはこのエテルナ大陸で広く信仰されている宗教で、太陽の神「アァァマティラアァァス・スウォォプ様」を主神としてその両翼を守護する月の女神様「イースカンダァァル様」と「グァーミラァァス様」が祀られています。
私の目の前には2つの荘厳な月の女神像を背にした司祭様、後ろには私の両親と弟、それからアーノルド様のご両親と弟の・・・確かシルベスター様?、他には誰も居ません。
どうしてこんな事に・・・もしかしてこれは夢?・・・華やかな雰囲気も花束も花嫁衣装もありません、およそ貴族の結婚式とは思えない急造りで質素な式・・・。
司祭様が何か聞いて来たので適当に「はい」と言い、また私は考えます、何故こんな事に・・・。
・・・朝起きて、カーラさんに身支度を整えてもらいました、今日は用意されたお洋服気合いが入ってるな、それにお化粧も念入りだ、どこかにお出かけする予定あったっけ?・・・そんな事を思いながら朝食を食べる為に食堂へ。
いつも忙しくしていて朝一緒に食事をする事など無い両親と弟が何故か食堂に揃っています。
「急な話で悪かったね、カーラさん」
「・・・いえ、ですがお嬢様には何も話さなくてもよろしいのですか?」
「先方が昨夜遅くとにかく急いでくれと言って来た、マリたんに話せば緊張して倒れるかもしれないからね」
何か不穏な事をお父様が言っていますが私は気にせず食卓に並べられた美味しそうな玉子やソーセージをもきゅもきゅ食べていました、今日は何をしようかな・・・読みかけの本を読んで、お裁縫の続きもしなくちゃ、今作ってるドレスは私の最高傑作になるかも・・・。
どたどた・・・
バタン!
「お迎えがいらっしゃいました!」
メイドのリリーさんが食堂に駆け込んで来ました、どうしたのかな?。
「ひぃっ・・・アーノルド様?」
リリーさんに続いて食堂に入って来たのは礼服姿のアーノルド様、今日も筋肉が躍動しています。
「無理を言って申し訳ありません、先に行っています」
「あぁ、我々も後で行きますのでどうぞ娘を宜しく頼みます」
などと訳の分からない会話の後・・・。
がしっ!
担ぎっ!
「あぅ・・・いやぁぁぁ!、まだ私の玉子やパンが・・・お・・・お父様助けて!」
アーノルド様の肩に担がれ私は馬車で連れ去られたのです・・・。
「・・・では誓いの口付けを」
「・・・」
「・・・」
「おほん!、口付けを」
がしっ!
横向きっ!
顎をくいっ!
「あむっ」
ちゅうぅぅ・・・
ひぃぃぃ!、アーノルド様がいきなり私のお口に・・・キ・・・キスを?、頭の両側をいかつい手で押さえられているので逃げられません、ちょっと待って首が痛い!、両足が浮いてるの!。
お母様に教えてもらってキスをするだけじゃ赤ちゃんは出来ないと分かったけど・・・息が・・・でき・・・な・・・。
「んぅー!・・・うー!・・・」
じたばた・・・。
「ノルドちゃん!」
「おいノルド、もういいやめろ!、マリアンヌ嬢の顔が紫色になってる!」
「ぷはぁ!」
きゅぅ・・・
「あ、気絶した」
「あぁぁぁぁ!、マリアンヌぅ!」
「うっく・・・ぐすっ・・・ひっく」
「あ・・・お目覚めになりましたか、お嬢様」
「ぐすっ・・・げふっ!えふっ!」
「怖かったですねお嬢様ー、もう大丈夫ですよ、お顔を拭きましょうね」
「あい・・・」
ふきふき・・・
「はい、綺麗になりましたぁ」
「ありがとう・・・カーラさん」
気絶して白目を剥き、アーノルド様の肩に担がれて神殿を後にした私は馬車でシェルダン家に運ばれたようです、目を覚ましたのは夕方・・・カーラさんがずっとベッドの側に居てくれたみたい・・・。
目が覚めて通された客間には神殿に居た皆が勢揃いしていました。
「目が覚めたかな」
アーノルド様のお父様、ヒューイ・シェルダン様がにっこり笑って私に話しかけます。
「はい・・・」
「あんな質素な結婚式じゃ可哀想だわ、やはりドレスを作って盛大に式を挙げ直しましょう!」
などと意味の分からない事を言っているのはアーノルド様のお母様、メアリー・シェルダン様。
「黙っていて悪かったねマリたん、私たちも昨日の夜に突然話があってね・・・今から全部説明するから座りなさい」
お父様が生暖かい目で私を見て言いました。
「アーノルド様と神殿で結婚式?みたいなのを挙げたのは分かったの・・・でも何で急に?、私聞いてない・・・」
「実はね・・・」
「嘘・・・」
お父様の話を聞き終わった私は倒れそうになるのを必死で耐えていました。
ラングレーの王女様・・・インフィーさんとの結婚を回避するために急遽決まった結婚・・・私が気を失ったまま神前で全ての手続きが終わり、今日から私とアーノルド様は正式に夫婦になったそうです。
「しばらくこのシェルダンのお家で暮らして、でもどうしても嫌なら離婚してもいいそうだよ」
「私・・・大貴族の奥様なんて絶対無理・・・ぐすっ・・・ふぇぇ・・・」
「泣かないで・・・マリアンヌちゃんは人見知りだから無理に社交はしなくてもいいわ、大きな式典や夜会には出てもらうと思うけど妻としてノルドの横で立っててもらうだけでいいから、ね?、それから私の事はお義母様って呼んでね」
メアリー様・・・お義母様が優しく私に言いました・・・でも立ってるだけでいいって・・・。
「あー、それからノルドは次期当主で後継だから子供は産んでもらいたいの、うちは息子が2人だったから私としては女の子が欲しいわね、とりあえず女の子一人と、その次は男の子かな」
「ひぅ・・・こ・・・子供ぉ!・・・」
「あらあら真っ赤になっちゃって可愛いわ」
お義母様がとんでもない事を言いながら私を撫で回しています・・・子供・・・アーノルド様と私の・・・子供・・・何をすれば出来るかお母様に教わったの・・・あんな恥ずかしい事をアーノルド様と・・・裸で・・・。
「きゅぅ・・・」
「あ、倒れた」
私の名前はマリアンヌ・シェルダン、18歳、ローゼリア王国の大貴族、シェルダン家の若奥様になってしまいましたぁ!。
「なん・・・だと」
俺は当主である父親に呼び出され、聞かされた衝撃的な言葉に固まっていた。
「もう一度言うぞ、今朝ラングレー王国の使者から通達があったのだ、お前はインフィニ王女殿下と結婚して殿下は女王として即位する、お前の立場は王配だな」
「俺は王配などという柄じゃない」
「分かってる、お前は鍛錬にしか興味がない筋肉馬鹿だ、だがシェルダン家の次期当主として教育を受け成績は優秀だ、魔法に関する知識も豊富だから一般的に言われている馬鹿ではない」
「断ってくれ」
「何故だ?、ラングレー王国はこの大陸の中でも力のある大国だ、その王配になれるのだぞ、野心ある貴族なら喉から手が出るほど欲しい地位だ」
「シェルダンの後継はどうするんだよ?」
「シルベスターが居るだろう」
「あいつも筋肉馬鹿だぞ、それに頭に血が昇ると何をするか分からん戦争狂だ」
「分かってる、騎士団を退役して・・・食事をしようと訪れた街で衛兵と揉めた事を言ってるのだろう、元上官が現地で説得してくれたおかげで街を壊滅させる寸前で投降したが・・・あれは危なかった、だがそれも2年前の事だ、今はあの事件で懲りたのか大人しく謹慎しいてる」
「謹慎というか・・・引きこもってるんだが・・・」
「インフィニ殿下と結婚するのが嫌な理由があるのか?・・・例えばマリアンヌ・ボッチ嬢・・・」
「インフィーは大事な友人だが・・・俺はマリアンヌ嬢が好きだ、愛している、結婚したい」
「お前の気持ちは知っている、メアリーも彼女を気に入っているし・・・私もこの話が無ければいずれは結婚させるつもりだった、だがラングレー王国からの正式な政略結婚の申し出だ、いくらうちが大貴族だからといっても下手に断れば国際問題になるだろう」
「俺がすでに結婚していればいいのだな」
「待て、何を考えている?」
「父さん、頼みがある、明日神殿に予約を入れてくれ、それから婚姻の手続きだ、ボッチ家にも正式に結婚の申し込みをしてくれ、マリアンヌ嬢を連れて来て結婚式を挙げる」
「・・・マリアンヌ嬢の気持ちは?、彼女はお前を愛しているのか?、彼女が初めてうちに遊びに来て1年になるがあれから進展はあったのか?」
「母さんとはとても仲良くやっているし俺も大事にするつもりだ、それでも・・・彼女が俺を嫌いだったとしても・・・貴族の政略結婚とはそんなものだろう」
「・・・まぁいいだろう、そんなに彼女と結婚したいのなら手配しよう、実はボッチ家とはお前達の事で頻繁に連絡を取り合っていた、結婚の手続きやラングレー王国への謝罪も私の方で全部やっておいてやる、明日結婚式が終わればマリアンヌ嬢はお前の妻になる」
「ありがとう、父さん」
「だが一つだけ言っておく、明日結婚の手続きはするがマリアンヌ嬢が本気で嫌がれば私の判断で離婚させる、ボッチ家当主の許可を得てあの家に潜り込ませた斥候の話だとお前彼女に怖がられてるんじゃないのか」
「・・・頑張る」
「頑張れ・・・確かに性格もいいし可愛い子だ、私も彼女の事は好ましく思っている、いい嫁になるといいな」
「好ましく・・・父さん・・・まさか幼女趣味でもあるのか?、母さんも小柄で胸は小さいが・・・いくら父さんでも彼女に手を出したら殺すからな!」
「ご・・・誤解するな!、義父としての「好ましい」だ!、それにお前に私の性癖をとやかく言われたくないわぁ!」
「・・・」
「何よ、急に呼び出して」
「・・・謀(はか)ったな、インフィー」
「さぁ、何の事かしらぁ」
「エルに聞いたらラングレーからシェルダンに政略結婚の申し込みなど来ていないと言っていた」
「使者が偽物だったとか?、新手の詐欺かしら、気をつけないとねぇ」
「鼻くそほじるな美女が台無しだぞ!、大丈夫かよこの王女様・・・」
「私だって他人が見てるところではしないわよ」
「・・・親父を問い詰めたら吐いたぞ、ある日インフィーが訪ねて来て作戦を持ち掛けられたってな」
「あらバレちゃったかぁ、でも貴方達って放っておいたら全然進展しないでしょ、だから私が背中を押してあげたのよ、これでも1年間は手を出さずに見守ってあげてたんだから感謝して欲しいわぁ」
「いい性格してるな」
「私ももうすぐ国に帰らないといけないからね、こんな状態の貴方達を放って帰れないじゃない、それなら早くくっつけちゃえって思ったの」
「・・・だが・・・感謝してる、お前が背中を押してくれたおかげでマリアンヌは俺の妻になった・・・まだ書類上の話だがな」
「それで、彼女とは上手くやってるの?」
「・・・」
「いや何か言いなさいよ!」
「まだ彼女とは上手く話せないが・・・」
「うん」
「俺が鍛錬している時や、執務室で仕事をしているとマリアンヌが・・・」
「うんうん、マリアンヌちゃんが?」
「扉を少し開けて俺をじっと見てる・・・無表情で」
「え・・・」
「俺と目が合うと慌てて扉を閉める、で・・・暫くするとまた扉が少し開いて俺の事を見てる、今まで空気扱いだったが・・・少しは俺に興味を持ってくれたのだろう」
「いや怖っ!、それは怖いわ!」
「それに・・・この前俺に手作りの下着をくれた」
「そう・・・2人とも青春してるって感じで初々しいわぁ、今度お屋敷に遊びに行ってもいい?」
「もちろんだ」
「それにしても私と結婚するのそんなに嫌だったとはね、ちょっと傷付いちゃったなぁ・・・」
「嫌じゃない・・・確かにマリアンヌに惚れたというのは本当だが・・・心の奥底でラングレー王国の王配になるのは荷が重すぎると感じていたのかもしれない、俺にはその覚悟ができなかった・・・だから・・・というのはマリアンヌに失礼だが・・・その重荷から逃げる為にマリアンヌとの結婚を選んだ・・・のかもしれないな」
「荷が重いと感じたもの同士、上手くやれると思うわ」
「え?」
「マリアンヌちゃんも大貴族の妻になるのは荷が重いと感じてた筈よ、だからノルドちゃんの気持ちに気付いていてもあえて無視し続けた、その気持ちは今のノルドちゃんと同じね、だからマリアンヌちゃんにはシェルダン家の妻という重荷を背負わせないでね、無理をさせ続けると彼女潰れちゃうかもしれないわ」
「・・・」
「それから・・・まだ貴方達には早いかもしれないけど、これをあげる」
「何だよそれ・・・ネックレスか?」
「この前私がラングレーに一時帰国してたでしょ、その途中・・・フローリアン王国のシルヴィアっていう街で魔導列車が故障してね、修理が終わるまで時間があったから街を散策したの」
「一人でか?、護衛は?」
「一応連れて行った」
「駅で街の人と話をしていたら怖いくらいよく効くお守りを売ってるお店があるって聞いたから行ってみたの、ペトラの雑貨屋ってお店でオーナーのペトラさんが森に居る魔物を狩って、その素材でお守りやアクセサリーを作ってるんだって」
「狼型の魔物の牙を綺麗に磨いたように見えるんだが・・・しかもかなりでかい、それにしても素晴らしい細工だな」
「その街では結構有名なハンターらしいわ、小柄な女性なのに凄く強いらしいよ、で・・・これは子宝に恵まれるお守りだって、他に恋愛成就や家内安全、色々売ってたわね、オーナーのペトラさんとも仲良くなっちゃった」
「子宝・・・」
「ふふっ・・・まだ先だろうけど頑張ってね」
「・・・で、一連のノルドとマリアンヌ嬢の騒動はインフィーが裏で仕組んでた・・・か」
「そうね、上手くいったわ、これで心残りも無くなったから国に帰れるわね」
「ノルドから政略結婚の事を聞かれて驚いたぞ、遂にお前が実力行使に出た・・・って思ってな」
「実力行使?」
「お前・・・ノルドの事好きなんだろ?」
「・・・っ」
「・・・」
「そ・・・そんな事あるわけないじゃない、ノルドちゃんは親友だけど・・・」
「うそをつくな」
「・・・ふふっ・・・エルちゃんは察しがいいなぁ・・・」
「お前の態度や表情見てたら分かるよ、何年親友やってると思ってるんだよ」
ぽろぽろ・・・
「うっく・・・ぐすっ・・・実は・・・ノルドちゃんが私の初恋・・・素敵な人だなって一目惚れ・・・」
「お前の地位ならノルドの奴を好きに出来ただろう」
「うぐぅ・・・でもぉ・・・ノルドちゃん・・・マリアンヌちゃんの事本気で好きになっちゃったから・・・それを引き離すのはダメだって・・・ひっく・・・もっと・・・早く求婚しておけばよかった・・・あの時・・・馬車に轢かれそうになったマリアンヌちゃん・・・助けに行こうなんて言わなきゃ・・・よかった・・・ぐすっ・・・」
「あー、あの時かぁ・・・そういえば俺とノルドは躊躇してたが声をかけようって言ったのインフィーちゃんだったな、あの事が無ければノルドはラングレー王国の王配になってただろう、人生何が起きるか分からないってやつだな」
「エルちゃん・・・慰めて・・・ぐすっ・・・」
なでなで・・・
「よしよし・・・気が済むまで遠慮なく泣けばいいさ、ここには俺と天井裏に影が2人と、隠し扉の裏に近衛騎士が一人、アリーが扉のところから覗いてるだけだからな」
「ふぇぇん・・・いっぱい見てる・・・」
「でもお前、手ぶらで帰るのか?、親父からも頼まれてるんだが・・・この国の上位貴族で誰か適当な奴紹介してやろうか?」
「適当は嫌ぁ・・・ぐすっ・・・いいもん、国に帰って・・・かっこよくて優しくて頭が良くて逞しい男見つけて幸せになってやるんだから!」
「そんな都合の良い奴居ないと思うが・・・」
「わーん!」
こんにちは、マリアンヌ・シェルダンです。
あの慌ただしい結婚式から50日が過ぎました、私はシェルダン家での生活にも慣れ・・・というか5日おきくらいに実家には帰ってるし・・・。
お義母様が張り切って私の実家のお部屋をそのままシェルダン家に再現してくれたり・・・とても居心地良く暮らせています。
「どうかな?、このお部屋はマリアンヌちゃんがリラックスできるようにボッチ家のあなたのお部屋と内装や家具も含めて全部同じにしてあるの、このお部屋は自由に使っていいからね、ちなみにお隣はノルドのお部屋よ」
「え・・・これは・・・実家にある私のお部屋?、嘘・・・ベッドやシーツまで同じ・・・」
「どう?、私頑張っちゃった」
なでなで・・・
「あ・・・ありがとうございましゅ・・・」
「それから・・・お裁縫室に新しい布地や糸を沢山置いてあるから好きに使ってね」
「わぁ・・・」
私はシェルダン家でとても過保護に可愛がられています、一緒について来てくれたカーラさんをはじめ、シェルダンのお屋敷で働くメイドさん達も優しくて・・・このままだとダメ人間になりそう・・・。
それはさておき、今日はインフィーちゃんことインフィニ王女殿下がラングレー王国に帰国されるので国王陛下主催の晩餐会に来ています。
知らない誰かに話しかけられたら怖いな・・・そう思って震えていたのですが隣にアーノルド様・・・ノルド様がいてくれるので誰も私達家族に近寄って来ません。
「国王陛下より挨拶があります、静粛に!」
「皆集まってくれてありがとう、今日の宴は私の親友、ラングレー王国インフィニ王女殿下が我が国での長期魔法留学を終えて帰国される為、両国の友好と更なる発展を祈り開催されるものである、皆存分に楽しんでくれ」
わー
パチパチ
「おい、見ろよ・・・」
「シェルダンの当主夫妻と・・・子息夫妻か・・・公の場にはほとんど姿を見せないのに・・・」
「御子息は今の陛下とは親友だからそりゃ参加するだろう」
「それにしても・・・恐ろしいな」
「あぁ、現当主も前国王の側近として恐れられていたが次期当主もやばいな・・・」
「あの筋肉は凄い・・・何をしたらあんなになるんだ?、しかも騎士じゃなくて優秀な文官と聞いてるが・・・」
「魔法の才能は凄いらしいぞ、ドック・フューチャに長く師事していたらしい」
「あの狂人にか?、やべぇ・・・」
「それに・・・最近結婚したと聞いたが子息の隣に居る妻・・・確かボッチ商会の娘だよな」
「あぁ・・・初めて見たが恐ろしいな、氷のような冷たい瞳に冷酷そうな薄い唇・・・」
「陛下の婚約者、アリシア・ウンディーネ様の親友らしいな」
「一時は超優良物件として結婚の申し込みが絶えなかったらしいがシェルダンが出てきて皆諦めたらしい」
「あの家を怒らせるのは流石にまずいだろ、下手をしたら暗殺されるぞ」
「ボッチ家やウンディーネ家と共謀してネッコォ家を完全に潰したって聞いて俺は震えたね」
ざわざわ・・・
「あの・・・ノルド様・・・」
「何だ?」
「みんな私達を見てます、怖い・・・」
「相手にしなければ誰も近寄って来ない」
「あの・・・ノルド様・・・喉が渇きました・・・あそこの飲み物おいしそう・・・」
「待っていろ、取って来る」
すたすた・・・
ささっ・・・
「飲め」
「ありがとうございます・・・こくこく・・・あ、美味しい(ニッコリ)」
ざわっ・・・
ざわざわ・・・
「笑ったぞ、怖ぇ・・・」
「あれは腹の中で何か企んでる顔だな・・・俺は詳しいんだ」
「こっち見たぞ、逃げろ!」
「ノルド様・・・あのお肉美味しそう」
「待ってろ」
すたすた・・・
ささっ・・・
「食え」
「ありがとうございます・・・もきゅもきゅ・・・あ、美味しい」
美味しい食べ物を食べて思わず顔が緩みます。
「ひっ・・・」
お隣に居た給仕さんと目が合ったのですが震えています、どうしたのでしょう・・・。
「マリアンヌちゃん!」
なでなでなでなで・・・
「うぁぁ・・・インフィニ王女殿下・・・あの、幸運のネックレスありがとうございます」
「あぁ、この抱き心地本当にいいわぁ・・・お持ち帰りしようかしら、ねぇラングレー王国に来る気ない?、一生養ってあげるわよ」
「ダメだ」
「何よ、ノルドちゃん・・・」
「これは俺のだ」
「んふふ・・・お二人ともお幸せにね、ちょくちょく様子を観に来るわ、ノルドちゃんに泣かされたらすぐに言いなさい、私が攫ってあげるから」
「あぅ・・・2人とも引っ張らないでください・・・」
私の名前はマリアンヌ・シェルダン、18歳、お顔が怖い令息に気に入られて・・・今はとても幸せです。
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