〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜

柚亜紫翼

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Side - -06 - 12 - みちっ・・・ -(挿絵あり)

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Side - -06 - 12 - みちっ・・・ -


「・・・」

みしっ・・・

すー、はー

「・・・」

「・・・」

すー、はー

「・・・」

「・・・」

みしっ・・・みちっ・・・

「あ・・・あの・・・」

「・・・何だ」

「いえ・・・何でもないです・・・」

こんにちは、マリアンヌ・ボッチです。

今私はお姉様のお家・・・ウンディーネ家の客間にあるベッドに寝かされています、お隣の椅子には何故かノルドさんことアーノルド・シェルダン様、彼の荒い息遣いと時々軋む筋肉の音が静かなお部屋に響きます、窓の外はとてもいいお天気・・・雲ひとつ無い青空が広がっています、でも・・・。

とても・・・とても気まずいです!。

イッヌ様の雇った男達に誘拐され、全裸に剥かれてお腹に焼き印を押された直後にウンディーネ家の騎士様が駆けつけて私は助け出されました、残念ながらイッヌ様とその仲間は逃亡してまだ捕まっていません。

お医者様によると私のお腹に刻まれた焼印は消えないそうです、容姿に自信のある令嬢なら悲観に暮れるところですが私は自分の容姿があまり好きではありません、顔は怖いしお胸もぺったんこ、色素も薄くて可愛くない、だから自分でも驚くほど悲しくありません。

お姉様や私の家族はとても心配して気を遣ってくれます、でも赤ちゃんも出来てないようだし・・・あ、お母様からは「忘れてた・・・いや忙しくて教えてあげてなかった、落ち着いたら少しお勉強をしましょうね」と言われました、何を教えてくれるのかな・・・。

みちっ・・・

「ひっ・・・」

またノルドさんの筋肉が軋みました、薄いシャツを着ているからお胸の筋肉がピクピクしているのもよく見えます、それに・・・じっと私を見つめるお顔が怖いです!、事件からほぼ毎日、昼頃に訪れて夕方まで居ます・・・無言で・・・。

今日は暖かくて天気がいいから眠くなってきました、ノルドさんには悪いけど一眠りしましょうか・・・。

・・・

みしっ・・・

・・・

スヤァ・・・






ひそひそ・・・

「おい、押すなよ・・・」

「だってぇ・・・」

「メイドに聞いたのだが今日もまともに会話をしなかったらしい・・・あいつ何やってんだ」

「ふふっ・・・これはノルドちゃんの問題だから私たち親友は口を出さないで見守ってあげましょう」

「だが、あいつの性格だと1年経っても何も進展しない気がするぞ」

「あら、誰かと思えばエルさんとインフィーちゃん、女性が寝ているお部屋を隠れて覗くなんてあまり褒められた趣味では無いわね」

「あれ、アリシアちゃん居たの?」

「もちろん居るわよ、私のお家なので」

「アリシア嬢・・・」

「エルさんの姿の時はアリシアでよろしくてよ」

「・・・アリシア、俺達はそんなに頻繁には来れない、悪いのだがノルドの奴がおかしな真似をしないか時々見ていてくれないか」

「天井裏には我が家の斥候が潜んでいるのだけれど・・・一応私も気をつけておくわ、でもあの気まずい雰囲気は何なのかしら、マリアンヌさんはよく平気で寝ていられるわね」

「アリシアだって覗いてるじゃねぇか」

「あ?」

「・・・いや何でもない」

「・・・」

「それに・・・あんなヘタレな男は私のマリアンヌさんに相応しくないと思うの」

「ほぅ・・・アリシアとしては可愛い妹を取られるのは悔しいと?」

「それ以上言うと蹴るわ」

「先に蹴ってから言うのやめてくれよ、お前の蹴りは地味に痛いぞ、一応俺・・・次期国王なんだがなぁ・・・」

「ふふっ・・・貴方達も結構仲がいいわよね」

「な・・・仲良くなんてないわ、目が腐っているのではなくて?」

「誰がこんな恐ろしい女・・・」

「人を魔物みたいに言わないでくれるかしら」

「うふふ、私にはとっても仲がいいように見えるけどなぁ・・・」

「まぁいいわ・・・こんなところで騒いでいたらマリアンヌさんが眠れないでしょう、お茶でもいかが?、美味しいお菓子もあるわよ、今日のケーキはシェフの自信作らしくて・・・」

「いただくわ!」

「インフィ・・・」









「ふぅ・・・なんとか撒きましたね、しつこい奴等でした・・・イッヌ様、計画変更です、これから当初の予定通り国境を越えて貴方を契約の場所までお連れします」

「おい、待てよ!、まだマリアンヌやアリシアに復讐していない!」

「あまり悠長にしていると我々の身も危ないので諦めて下さい、王城や大貴族の屋敷にも手を出して怒らせましたから王国も本気で捜索しています・・・街の検問も厳しくなりましたし騎士団も相当動員されていますね、これで我々に逃げられたら王国の面目丸潰れでしょう」

「逃げられるのかよ・・・」

「はい、ご安心下さい、我々の組織は大きいのでローゼリアの他にも拠点を置いています、もっと言えば本拠地はメールセデェェス共和国なのですよ、シーマ様に莫大な報酬を頂いたのでこの機会にローゼリア支部を縮小して他国での商売に力を入れようかと・・・」

「妹は・・・シーマはそんなに払ったのか・・・」

「えぇ、それはもう・・・ローゼリア支部が全て潰されても赤字になはりませんよ」

「・・・」

俺の名前はイッヌ・ネッコォ、ローゼリア王国上級貴族、ネッコォ家の長男だったが今は国から追われている犯罪者だ。

今俺はロドリゲスと名乗った裏組織のリーダーが駆る馬の後ろに乗って振り落とされないよう必死でしがみついている、林や獣道を走っているから木の枝が顔や腕に当たって痛ぇぞ畜生!。

ロドリゲスが言うには俺は家の犯罪に直接関わっていなかったから罪には問われない、復讐なんて馬鹿なことを考えなければ手配されずに余裕で国境を抜けられたのだそうだ、だが・・・あの時の俺はあいつらに復讐をしないと気が収まらなかった。

予定通り国境に向かった方が良かったか・・・お前達にも危ない橋を渡らせたな・・・そう呟く俺にロドリゲスは覆面から出た目を細めて言った。

「我々にとっては些細な事です、この面倒事も契約の一部ですのでお気になさらず」

マリアンヌを誘拐して腹に焼き印を押した、あいつの泣き叫ぶ顔を見て少しは気が晴れた、そして事が終わる前に騎士団の連中に見つかり俺達は馬車を捨てて逃げた・・・まぁ馬車といってもうちの保守作業用ボロ馬車だ。

「あいつを攫って焼印を押しただけで俺は国から追われる犯罪者か・・・」

ロドリゲスは気にするなと言うが本当に馬鹿な事をしたと後悔した、考えが足りないとよく妹にも言われた・・・本当だな・・・これからずっと追われる身、素性を隠し騎士に怯えて生きなければならない。






「明日にはメールセデェェス共和国を抜けてラングレー王国に入ります」

逃亡生活もこれで15日目だ、馬を何度も替え人の住まない僻地を進み山越えもした、ロドリゲスの裏組織の持ってる拠点の数には驚いた、でかい街には大抵協力者が居る。

俺たちは旅行者が使う通常のルートを使わずローゼリアの王都を東に進み辺境のセレステ領を経由してメールセデェェス共和国に入った、これは魔導列車を使わず馬で進むには道が荒れていて普通なら選ばない、それに魔導列車なんて使うと国境で間違いなく捕まるだろう。

だが検問を警戒しなければならない俺達はこのルートを選んだ、ローゼリアの国境を抜けるまでは道が険しく魔物にも襲われ散々な目に遭ったが、ロドリゲスや同行している彼の部下が難なく倒した、流石に強い・・・。






そしてメールセデェェス共和国で最後の野宿を終え、船を使い川を渡ってラングレー王国に密入国した。

「さて、ラングレー王国辺境の街スターレットに着きました、我々の仕事はここまでです」

「シーマが用意してある家はどこだよ?」

「知りません、聞かされていませんので」

「何だって?」

「シーマ様は我々に家のある場所を知られるのがお嫌だったのかもしれません、我々は裏の組織、これから平穏に暮らそうとしている家族には必要ありませんし、組織も契約を終えた依頼人には興味がありませんので」

「俺はどうすりゃいいんだよ」

「この街に・・・確か大通りをまっすぐ西に進んだところに「エリィの食堂」という店があります、そこに行ってこの木札を見せて下さい、目的地まで送り届けてくれる筈です」

俺はロドリゲスから木札を受け取った、今俺達は商人の姿に変装している、奴は最初の野宿の時に覆面を外して顔を見せてくれた、素顔のロドリゲスはえらく胡散臭い男だった・・・だが・・・。

「裏組織ってのもちゃんと仕事をするんだな、どこかの森で殺されるのかと思ってたぜ」

「ふふっ・・・我々のような裏組織は信用が第一ですからね、それからこれを差し上げます」

「・・・金か?」

「これは契約の未達成分と思ってもらえれば、・・・本当ならご家族全員ここに送り届ける予定でしたので」

「金を全然持ってなかったから助かる、ありがとよ」

「イッヌ様がこの国で成功されて・・・我々を再び雇う余裕ができましたらまたのご用命お待ちしております、ネッコォ家は先代の頃からのお得意様でしたので」

「はは・・・その時はよろしく頼むぜ、ってかどこに言えばいいんだよ」

「私の名前はロドリゲス・オコスナー、裏組織ダヴァダァ、ローゼリア支部の幹部でございます」

「お前がボスじゃなかったのかよ」

「えぇ、私は単なる一支部の幹部に過ぎません、いずれまたイッヌ様が裏世界と関わる事があれば組織の名前を聞く事もあるでしょう」

「そうか・・・世話になったな」

「では、私どもはこれで・・・あ、そうそう、貴方のお父様からの伝言を伝え忘れておりました」

「親父は王城の地下牢で廃人みてぇになってるんじゃなかったのかよ」

「我々の誘いを断った後、最後に何かあるかと聞いた構成員に伝言をと頼まれました」

「何だよ」

「我が愛する息子よ、私は無能で愚かな父親だ、自分の犯した罪を死んで償おうと思う、だがお前は生きて幸せになってくれ」

「・・・っ」






しばらく呆然としてロドリゲス達を見送った俺は街の中を歩いた。

何も無い寂れた田舎町だ、食品や雑貨を売ってる店が1軒、それも営業してるのかしてねぇのか店の中には人の気配が全然無い、民家が間隔を開けて数件あるな、主な産業は農業と林業ってとこか・・・。

それにしても奴の言ってた大通りはどこだ・・・まさかこの雑草の生えたしょぼい道ってんじゃねぇだろうな・・・おっ、あそこに野菜を収穫してる爺さんが居るじゃねぇか。

「すまねぇが道を聞きたい、エリィの店というのはどこだろうか」

「・・・ついて来な」

何だ愛想のねぇジジィだな・・・俺は爺さんの後ろについて道を歩いた・・・やはりこのしょぼい道が大通りだった!。

カラン・・・

「いやっしゃい、あれ、お爺ちゃんどうしたの?」

こいつ農民かと思ったらこの店の人間だったのかよ!、俺は店番をしている幼女に木札を見せた。

「悪い、俺はイッヌ・・・じゃなくてこの木札を出せば分かると言われてここに来た」

「あ・・・お父ちゃーん、例の人来たよ!」

のそり・・・

店の奥からでかい男が顔を出した、筋肉モリモリの大男だ。

「・・・一人ですか?」

「あぁ、俺だけだ」

「こちらに・・・」

俺は店の奥・・・居住スペースに案内された、本当に大丈夫なのかよ・・・。






カラカラ・・・

俺は馬車に揺られて天気の良い高原を進んでいる、スターレットの街を出て半日、変わり映えのない景色が続く・・・この辺はラングレー王国の中でも特に田舎かもしれない、家のある街もこんなところじゃねぇだろうな!。

俺はスターレットの街にあるエリィの食堂で店主から話を聞いた。

店主はネッコォ家の庭師だった男らしい、そう言えば見た事があるかもしれないし無いかもしれない、俺は庭師の顔をいちいち覚えてねぇ!。

結婚して嫁の実家・・・ラングレー王国の店を継ぐ事を決め屋敷を辞めた、幼い頃のシーマとはよく話をしていたようで最近になっても手紙のやり取りをしていた・・・その縁で今回の件を頼まれたらしい。

シーマが死んだ事を伝えるとでかい身体を震わせて声を上げて泣いていた。

「お嬢様はこのラングレー王国で家族と一緒に暮らすのを楽しみにしておられました」

そう俺に伝えた男の名はゴリサン・ホエール、食堂をしながら裏の畑で野菜を作って生活している、俺が住む事になる新しい家の庭はこのゴリサンが整地から全て手掛けたらしい。

俺のポケットには妹が用意してくれた新しい戸籍と名前が書かれた身分証が入ってる、どうやって作ったのかは知らねぇがこれもゴリサンから渡された、それから・・・無駄になった他の3人の身分証も俺が持っておく事にした。

俺の新しい名前はディアズ・オーケー、生まれも育ちもラングレー王国、平民の夫婦の間に生まれた長男だ、家族は両親と妹、もう俺以外誰も居ないが・・・。



カラカラ・・・キィ・・・

「・・・着きましたよ坊ちゃん」

「坊ちゃんはやめてくれ、もう俺はただの平民だ、しかも無職の・・・」

「いえ、私にとっては可愛らしい坊ちゃんですよ、お嬢様と一緒にお庭を走り回っていらした頃が昨日のように・・・」

「あぁ・・・すまねぇ、その頃の事はあまり覚えてねぇんだ」

荷台に寝転がっていた俺は身体を起こして辺りを見回した。

「・・・」

そこにはまるで絵画のような光景が広がっていた・・・。

光を浴びて輝く湖のほとりに建てられた白い2階建ての木造の家、広い庭にはテーブルが置かれお茶をするのに良さそうだ、よく手入れされた庭と湖の奥に広がる森、いかにも妹が・・・シーマが好きそうな、まるで絵本に出て来るような可愛らしい家・・・。

「庭に少し草が生えてるな」

ゴゴゴゴゴ・・・

庭を見ていたゴリサンの表情が険しくなった、殺気まで出てるぞ!、いや、俺には完璧に整備された庭にしか見えないが!。

「ここの管理は隣に住む老夫婦に任せていました、シーマ様より一生分の報酬を前払いして頂いておきながら草を残すなど・・・後で厳しく指導せねば!」

「いやいい、これで十分だ、平民の家としては完璧過ぎるだろ」

俺は慌ててゴリサンを止めた、まだ顔も知らねぇ老夫婦の身の危険を感じたからだ。

「それに隣ってどこだよ、この家の周りには何も無いぞ」

「目に見える範囲にはありません」

「遠いのか?」

「えぇ、それなりには」

「なら毎日手入れに来るのは大変だろう、俺が良いって言ってるんだ、老夫婦にはたまにでいいから頼むと言っておいてくれ」

「そうですか・・・坊ちゃんがそうおっしゃるのなら・・・」

これで老夫婦の安全は確保したな、柄にもなく良いことをしちまったぜ。

「こちらがこの家の鍵になります、予備は4本ありますのでお受け取りください」

「あぁ、ありがとう」

ガチャリ・・・

俺は入口の鍵を開けて妹が家族のために用意してくれた家に足を踏み入れた。

「一人で住むのには広過ぎる家だな・・・」


大陸地図
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