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Side - -06 - 3 - ありしあ -

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Side - -06 - 3 - ありしあ -


「えっぐ・・・うっく・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」

なでなで・・・

「私(わたくし)も言い過ぎました、お家の指示で誰にも言えなかったのは分かっているのよ、ただ・・・私に嘘を吐いていたのが少し悲しかっただけ」

「あぅ・・・ごべんなざい・・・」

「ほら、鼻水が出ていてよ・・・拭いてあげるからお顔を出しなさい」

「あい・・・」

ふきふき・・・

「お二人とも仲良しですねー、本当の姉妹のように見えますよ」

「でんか・・・いえ、エルさん、そうなの、マリアンヌさんって外見は冷たそうなのだけど、性格はとても可愛いの、少し自己評価が低いのが欠点ね・・・」

なでなで・・・

「お姉様ぁ・・・ぐすっ」

「もう泣かないで、今日はうちに泊まって行く?」

「いえ、急に街に連れて来られて・・・家族が心配してると思うので帰ります」

「そう、先にあなたのお家に使いを出してうちで保護している事を伝えておきましょう」

なでなで・・・

「・・・ありがとうございましゅ」

「では、僕達は帰ります、「ただの平民」が上級貴族様に意見するのは畏れ多いのですが・・・あの男は馬鹿な上に行動力がある、放っておけばまたマリアンヌ様が危険な目に遭うと思いますよ」

「うりゅ・・・ぐすっ・・・怖かったの、もうあんな事は嫌なの・・・イッヌ様大嫌い、怖い・・・」

なでなでなでなで・・・

「うちとしても他家の婚約事情に口を出すのは難しいのだけど・・・確かにあの男がまたマリアンヌさんを連れ出したら危ないわ、今日から暫くうちのお屋敷で過ごしなさい」

「え・・・」

「聞こえなかったの?、このお屋敷に泊まりなさいと言ったの」

「でも・・・」

なでなでなでなで・・・

「私と一緒に寝るのは嫌?」

「いえ・・・」

「決まりね、ご家族にはこの事を伝えておくわ、あの男には・・・少し罰が必要でしょう、マリアンヌさんは連れ出された歓楽街に放置されて・・・行方不明という事にすれば少しは慌てるのではなくて?」

「待て!、そんな事をしたらマリアンヌ様が傷物にされたという噂が立つだろう」

「あらあら、マリアンヌさんの価値が落ちた方が都合がいいのではなくて?、傷物と結婚するのが嫌で向こうから婚約を破棄してもらえれば都合が良いわ・・・、泥だらけで歩いているところを偶然見かけてウンディーネ家で責任を持って保護していた・・・という事にすれば噂もすぐに消えるでしょう」

「そりゃいいな、面白そうだ、俺達も話を合わせよう、2人を助けた後で偶然通りかかったウンディーネ家の馬車に引き渡した事にするぞ」

なでなでなでなで・・・・

「うふふ・・・でもこの程度で私のマリアンヌさんを泣かせた罪は消えないわ、さてどうやって痛い目に遭わせてあげましょうか・・・」





なでなで・・・

「・・・アリシア様、そんなに撫でるとマリアンヌ様の頭、・・・禿げるぞ」

「何かおっしゃって?」

「いえ何でもありません」





「さて、あの3人組も帰ったようね、マリアンヌさん、お部屋は私と一緒だけどいいわよね」

「はい!、お姉様!」

「今日は一緒に寝ましょうね」

「はい、お姉様!、お姉様と一緒に寝るの久しぶりだぁ・・・嬉しいな」

「ふふっ、可愛いこと言ってくれちゃって」





初めまして、私の名前はアリシア・ウンディーネ。

殿下達3人が帰った後、私はお父様の帰宅を待ってマリアンヌさんの事を全て話したわ。

お父様とお母様は大層お怒りで、マリアンヌさんと専属メイドのカーラさんを快く我が家に受け入れてくれたの、マリアンヌさんは何度も私のお家に遊びに来ていたから両親とも顔馴染みで、お父様は「なぜ相談してくれなかったのだ・・・」と嘆いていたわ。

それから家族と一緒にお夕食を食べて、お風呂も一緒に入ったわ、「お姉様」と懐いてくれるマリアンヌさんは本当に可愛い!、私の大切な親友なの。

さて、ここで私とマリアンヌさんについて少しお話ししておくわね。

私はローゼリア王国の上級貴族であるウンディーネ家に生まれたの、家族は両親と兄、そして弟が一人、祖父母は引退して領地で元気に暮らしているわ。

ウンディーネ家はローゼリア王国上級貴族の中でも特に財力、権力を持っているとされる4大貴族のうちの一つ、その娘として生まれた私は他の貴族家から大きな注目を集め、そして期待されていたの。

ちなみに4大貴族家というのはウンディーネ、シェルダン、ネッコォ、サウスウッドね。

私も幼い頃から上級貴族としての自覚を持つよう両親から教育を受けて・・・元々は気弱で人見知りな性格なのだけど、侮られないよう気の強い令嬢を演じていたわ。

私のお家は頻繁にパーティを開いていて、ウンディーネ家の傘下にある派閥や我が家の利益になりそうな人達を沢山招くのだけど、その目的は主に派閥内で不穏な動きが無いか監視したり、新しい人脈作りね。

私がパーティに参加し始めると私のお友達を選ぶというのも目的に加わったわ。

私のお友達・・・そう、私は人見知りな上に侮られないよう幼い頃から身につけた強い口調が災いしてお友達が一人も居なかったわ、我が家の権力やお金狙いの欲に塗れたご令嬢は沢山群がって来たのだけれど、態度や視線でそんなのすぐに見抜けるの。

我が家には権力とお金がある、たとえお友達が出来なくても生きて行けるの、私の目の前で甘ったるい言葉と他人の悪口を垂れ流している醜悪な令嬢とお付き合いするくらいならお友達なんていらないわ。

そう思っていても私がパーティに出席すると沢山の令嬢が光に集まる虫のように群がって来るわ、そんな毎日にうんざりしていたある日、私は彼女に出会ったの。

私は鬱陶しく群がって来る令嬢を華麗に躱しながらパーティで用意されていた美味しいお菓子を楽しんでいたわ、そんな時・・・私に鋭い視線を向ける令嬢が居たの。

このパーティに招かれている人間は全てウンディーネ家と友好的な関係・・・、我が家の派閥か、これから派閥に入って欲しい、付き合いたいと思える家だけ、あのような憎しみに近い視線を向けられる筋合いなんて私には無い。

ここで私が侮られるわけには行かないわ。

私は彼女を睨み返したの。

・・・恥をかいたわ。

彼女は私だけではなく会場に居る全ての人を睨んでいた・・・、まるで親の仇のように・・・いえ、親は彼女の隣で美味しそうに料理を食べているから生きているのだけど・・・。

なんて事!、私が自意識過剰みたいじゃない!。

彼女は他の令嬢と雰囲気がまるで違っていて、・・・興味を持ったわ。

私は彼女に真っ直ぐ近付き・・・そして言ったの。

「そこの貴方、ちょっといいかしら」

私の声に気付いた彼女はこちらに視線を向けたわ。

なんて目をしているのかしら!、とても冷たい目・・・顔立ちも幼いながら鋭いわ、まっすぐに伸びた銀髪、灰色に近い青い瞳、冷酷そうな薄い唇・・・下から睨み上げるようにして私を見たの。

・・・怖いわ、声なんてかけるんじゃなかった・・・お父様助けて・・・。

いえ、腐っても私は大貴族ウンディーネの娘、こんな事で負ける訳にはいかない。

気を取り直した私は彼女に向かってこう言ったの。

「タイが曲がっていてよ、身だしなみはきちんとしなさい」

小心者の私がよく使う手よ、何か話しかけて相手の反応を見るの。

以前ある女の子に同じ方法で話しかけたのだけど、その子はタイをしていなかったわ、大恥をかいてその夜私はお布団の中で泣いた・・・とても苦い思い出ね、でも私はウンディーネ家の娘、同じ過ちは二度と繰り返さない。

事前に彼女がタイをしているのを確認しているわ。

彼女の身なりはきちんとしているし、高そうなお洋服に可愛い靴がよく似合ってるわね、貴方はどう反応する?、反論するかしら、それとも怒り出す?、さぁ私に見せてごらんなさい!。

「うりゅ・・・ふぇぇ・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」

彼女の鋭い目から涙がポロポロ溢れて・・・こんなの予想外だわ!、どどど・・・どうしましょう!。

俯いて身体を震わせながら泣いてるわ、待って!、私が意地悪して泣かせてるみたいじゃない!。

「こ・・・こっちに来て!」

私は泣いている令嬢の手を引いて会場を抜け出し、自分のお部屋に連れ込んだの。

「あぅ・・・うっく・・・ごべんなざい・・・だらしなくてごめんなざい・・・ぐすっ・・・げふっ!、えふっ!」

鼻水を啜って気管に入ったようね、激しくむせているわ、どうしましょう背中をさすった方がよくて?。

「あ・・・あの・・・泣かないでくださる!」

思わずきつい言い方になってしまったわ!。

「あぁぁぁ・・・わぁぁ・・・うわぁぁん!」

号泣しているわ!。

「泣かないで、悪気は無かったの、私、小心者で・・・だから初めてお話しする人って緊張してしまって・・・きつい言い方になってしまうの、本当にごめんなさい!」

私は上級貴族の尊厳を捨てて床に頭を擦り付けて謝罪したわ。

「わ・・・私もぉ・・・ひっく・・・お顔が怖いからぁ・・・誤解されて・・・みんな怖がって・・・うりゅ・・・お友達一人も居なくて・・・寂しくて・・・ひっく・・・」

気が合うわね、それに・・・不思議な娘・・・私に群がって来る令嬢のような嫌らしさが全然無いの・・・いつも強がって絶対他人に見せなかった私の弱さ、私の本来の姿、彼女の前では素直に出せそうな気がする。

「わ・・・私も・・・言葉が強くて誤解されて・・・でもお金や権力を狙って愚かな令嬢ばかり集まって・・・辛くて・・・」

言えた・・・

「・・・うりゅ・・・かわいそう・・・」

憐れまれたわ!。

「ねぇ・・・私と、お・・・お友達になって下さらない?」

「・・・うん」

こうして私とマリアンヌさんは出会ったの、お友達のお願いは咄嗟に口から出てしまったのだけれど、彼女は涙と鼻水で汚れたお顔で微笑んで頷いてくれたわ。

「あの・・・私の名前はマリアンヌ・ボッチと言います、・・・貴方のお名前・・・教えてくだしゃい」

「貴方!・・・わ・・・私の名前を知らないのぉ!」

「ひぅっ・・・ご・・・ごめんなさぁぁい!」

それから何度もお茶会をしたり、お互いのお家に遊びに行ったり・・・親友と呼べる仲になるまでそんなに時間はかからなかったわ。

ただ・・・私が大貴族、ウンディーネ家の娘と知ってからは「お姉様」と呼ばれるようになったわね、いくら私が名前で呼んでと言ってもこれだけは譲ってもらえなかったの・・・お姉様・・・か、マリアンヌさんにそう呼ばれるのは悪い気はしないわ。




「むにゃぁ・・・お姉様ぁ・・・大好き・・・」

「ふふっ、可愛い寝顔ね、おやすみ、マリアンヌさん」












「畜生!、持ってた小遣い全部取られちまったぜ、何てこった!」

「坊っちゃん、旦那様に叱られますので賭博は程々にしておいた方が・・・」

ガン!

「うるせぇ!黙れ、使用人の分際で俺に意見するな!」

「失礼しました・・・」

「で、マリアンヌはあの後どうなった?」

「暫く路上で蹲っておられましたが・・・馬車を停車場に動かしている間に居なくなっておりました、歩いて帰られたのでは?」

「助けなかったのか?」

「えぇ、坊ちゃんが「馬車が汚れる、絶対に乗せるな、放っておけ」と仰いましたので・・・」

「ははは、あいつ泥だらけの姿で歩いて帰ったのか・・・、あいついつも俺を反抗的な目で睨みやがって気に入らねぇ、少し痛い目を見れば従順になるだろうよ」





カタン・・・

「坊ちゃん、お屋敷に到着いたしました」

「さて、思ったより遅くなった、腹が減ったな」

バタン・・・

「おい!、イッヌ!、どこに行ってた」

「親父、どうしたんだよそんなに慌てて、どこでもいいだろ」

「あの女は・・・マリアンヌはどうした?、お前が街に連れて行ったのだろう?」

「あ?、馬車から降りる時に転んで泥だらけになったから街に置いて来た」

ガン!

「痛ってぇ!、何すんだよ親父!」

「先ほどボッチ家の当主から連絡があった、お前に無理やり連れて行かれて夜になってもマリアンヌが帰って来ない、どこに居るのだとな!」

「歩いて屋敷まで帰ってるんじゃねぇのか」

「お前は隣町まであの女を連れて行ったのか?、王都の中だろう!」

「あんな奴心配してるのかよ」

「私だってあのような薄気味の悪い女の心配などしておらんわ、だがあれと結婚してボッチ家から金を毟り取らねばならんのに肝心の女が居なくてどうするのだ!」

「なぁ親父、あの女は反抗的で気に入らねぇ、もっと胸がデカくて従順な女にしてくれよ」

「あの家が下級貴族で一番資産を持っているのだ、それにお前と年齢が釣り合う女が居て金持ちの家はあそこだけだ、あと一つ候補はあったがお前だって5歳の幼女と婚約するのは嫌だろう」

「・・・」

「それで、街に放置したと言ったがどこで別れた?」

「親父もよく行ってる賭博場の前だ、ほらあの半裸の女の絵が書いてある・・・」

ガン!

ガン!、ガン!

「痛ぇ!、やめろ親父、馬鹿になるじゃねぇか!」
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