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Side - 15 - 49 - あべるさん さん -

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「ちょっと狭いかな・・・」

居心地の良いビジネスホテルだったがシャワーは湯船と一緒になっていて意外と狭かった、横には洗面台とトイレがある典型的なホテルのシャワールームだ。

私は小柄なのにこの窮屈さ、身体の大きな外国人は・・・私も外国人だが・・・大変だろうな。

鏡に映る自分の姿を見る、・・・真っ白な髪、オレンジ寄りの赤い瞳・・・グレープフルーツの果肉のような色と言えばいいかな、パーツの小さな口や鼻、うん、誰が見ても中学生くらいの子供だな、毛も生えてないぞ。

幼少期から成長期に入る直前の頃に酷い虐待を受けた上に食事もまともに与えられなかった、その後は転移魔法陣を起動しようと毎日魔力が切れて気絶するまで頑張ったから魔力量が増えて成長が止まってしまったのだ。

胸は揉むと大きくなると聞いたが、あの獣のような男達は泣き叫ぶ私の下半身ばかりを責めて胸は噛んだり舐めるくらいだった・・・あぁ・・・また嫌なことを思い出したな・・・そのせい・・・かどうかは分からないが私の胸はぺったんこだ。

日本に来てから出会った愛する旦那様は「この小さな胸がいいんだよ!」「ぬはぁーたまらんぜよ!」って言ってくれたが・・・あれは気を遣ってくれたのか、或いは幼女好きのロリコンだったのか、・・・とにかく私の愛しの旦那様はいい男だった・・・女装させて本当に悪かったと思っている。

もう夜も遅い、湯船に湯を張るのは面倒だからシャワーだけで済ませるつもりだ、お肌は若くてぷにぷにだがヘソの下には縦に傷がある、江戸時代にやってもらった子宮にできた腫瘍を取るための手術跡だ。

今なら綺麗に傷が残らなかっただろうが、何しろ私は麻酔を使って外科手術をした世界で4番目か5番目の患者らしい、麻酔といってもあれは痛かった、助手に手足を押さえられて痛い痛いと泣き叫んでるのにあのおっさんは「我慢しろ」と冷たく言い放った、しかも子宮や卵巣を全部取りやがった。

当時はこんなものか仕方ないと納得したが、・・・まぁ生理のような面倒な物は無くなったからいいのだが、愛しの旦那様との息子を二人産んだから2番目の旦那様・・・こいつは旅先で意気投合した悪友みたいな男だった・・・奴との子は可愛い女の子が欲しかったのだ・・・。

シャワーが終わってドライヤーで髪を乾かす、着ているものはスポーツショーツにスポーツブラ(ブラは無くてもいいだろって思っただろう、付けないとそれなりに痛いし感じるのだ!)、サイドにラインの入った黒のレギンスにTシャツだ、外出する時もこれと似た格好だがどうせ幻術を使って姿も服も変えるのだから動きやすい方がいい。

ここ数年はずっとこの格好で、冬は上にパーカーを羽織るくらいだな、実は身体中に魔力を循環させて防御結界を張ると暑さ寒さはほとんど感じないのだよ・・・フフフ・・・。

ベッドにダイブ!、あぁ、この部屋居心地いいなぁ、壁紙もシックでお洒落だ、安ホテルとは思えないな・・・。

少しずつ睡魔が押し寄せてくる、明日は会社のトイレか給湯室に直接転移するからゆっくりできる、おやすみ、2人の旦那様・・・。




そうそう、眠るまでさっきのお話の続きをしようか・・・。




私が最初に人を殺した日の翌日、街の中に敵兵は居なくなったが死体は大量に転がっていた、腐るといけないので街の人達総出で死体を回収、街の住人は手厚く弔い、敵兵は穴に放り込んで焼いた。

そして解放された街の人の中には怪我がひどい人も沢山居たし、若い女性の中には・・・身体だけではなくて心のケアが必要な人も沢山居た。

私はお婆さんの薬局を解放して怪我人や病気の人達に無料で薬を提供した、店には街の住人が大勢やって来たがお婆さんが居ない事、店に漂う死臭や赤く泣き腫らした私の目から色々と察してくれたようで何も聞かれなかった。

それから「元気出してね」「大丈夫?」って優しく声をかけてくれた人も居た、近所に住む普段私と付き合いのある人達だ、つい先程まで敵兵を惨殺している所を見ていたにも関わらず・・・だ、前から気付いていたがこの街の人は優しい。

一通り片付けが終わって、王都に侵攻していた兵士達が引き返して来てこの街を再び襲ったが私は街の外で全員を始末した。

2日ほど休んで魔力が完全に回復し、家族の死体に縋って泣き崩れる人達を沢山見たし、時間が経つと共に怒りも激しくなって来たので極大殲滅魔法を放ったら敵兵の骨と鎧しか残らなかった・・・あの時は自分でもドン引きしたな。

遅れて敵国からやって来た更に多くの兵士達も惨たらしく切り刻んでやった、前の時は敵が一瞬で片付いて「良いところを見逃した」って街の人達が残念がっていたからだ。

今回は一番偉そうな奴を・・・後で聞いたら敵国の王太子だった!・・・生きたまま捕まえて広場の真ん中に縛って放置していたらいつの間にか死んでいた、街の人達に石を投げられていたようだからそれなりに苦しんで死んだと思う。

この時点で私の国からは救援の兵士も、援助物資も何も来なかった・・・。

20日が過ぎ、ようやく街にも以前のような普通の生活が戻りつつあった、私はお婆さんを弔った後、いつものように薬を作り店を開け、孤児院の子供の世話をした、・・・私たちの母親のような人だったシスターは亡くなって、子供も2人減っていたが・・・近いうちに別の教会から代わりのシスターが派遣されるそうだ。

通っていた図書館は全焼だった、・・・これは私のせいだね、街の人達は敵兵の仕業だと思ってくれている。

なぜ魔導書を焼いたかというと後で面倒な事になりそうだと思ったからだ、お婆さんからは私の能力「一度見聞きしたものは絶対に忘れない」を他人に知られるなと言われた。

私が「どうして?」と聞くと「お前の能力は金になる、金になるという事は多くのクズ共がお前を利用しようと群がってくる、擦り寄って来る金持ちや貴族に気を付けろ」と言われた、それでも不思議そうな顔をしていたら「今に分かる、人生経験豊富なババァを信じろ」と言って頭を撫でてくれた。

これだけの騒ぎになったし、街の人達は私が魔法で敵兵を殺しているのを見ている、いずれ私がどうやってその力を手に入れたか聞かれるだろう。

私は誰にも教える気はないし「兵士に襲われて突然使えるようになった」と答えるつもりだ、貴族や金持ちに関わっても良い事は何もない、それに私は奴らが大嫌いだ、軍や偉い人達には私がどんな魔法を使えるのか知られない方が好ましい、だから頭の中に入れた後で魔導書を全部燃やしたのだ。

私は敵軍を倒している時から男装していた、周りの親しい人達以外私が女性だとは知られていない、だから近所の人や友人に頼んで私は男という事にしてもらった。

お婆さんの言うように女性、しかも身寄りのない女の子だと舐められたり力で従わせようとしたり、・・・嫁になれと言われたりするようだ、名前はアベルと名乗った。

街の人達も貧しい孤児の子供の名前や性別など気にしていないから簡単に性別を偽装できた、そして私は孤児の男の子、街を救った英雄アベルとして有名人になった。

そして40日が過ぎ、ようやく王都から兵士や騎士がこの街にやってきた。

街の代表に同席してくれと頼まれたから私も一緒に彼らが駐留している広場に行った、最初は兵士のリーダーっぽい人に状況を聞かれたから代表が答えた、私は横で頷いているだけだ。

そしてその上官、そのまた上官・・・人が替わる度に服が豪華になるから今私の目の前に居るのは貴族なのだろう、代表の顔色が悪い、私はまた同じ事を聞くのかとイライラしながら代表の横で頷いていた。

「信じられん!」

「嘘をつくな!」

お偉いさんに何度もそんな事を言われて私は遂にキレた。

「説明しろって言うから店を閉めて来たのに、嘘だと思うなら勝手にそう思ってろ、もう私からは何も言う事は無い、帰る!」

そう言って店に戻った。

この国の街の中には国から来ている諜報員が常駐しているらしい、この街は大きいから2人居て2人とも生き残っていた、旅人っぽい30歳くらいの男と料理店の女将さんに偽装した40歳くらいの女だ。

その2人は私が合計3回、敵兵を惨殺しているところを見ていた、彼らの話を聞いた軍の上層部は再び私を呼び出した。

「どうやってその力を手に入れた」

「敵兵に襲われたから必死に抵抗して、気が付いたら使えるようになっていた」

「まだ敵の残党が残っている、討伐したいから協力しろ」

「私は一般人で兵士でもなんでもない、しかも孤児でこの国の国籍も街の市民権も持っていない、前に市民権が欲しいと役所で言ったが断られた、どうして協力しなければいけないのか」

「お前にもこの街に住んでいる大切な人が居るだろう、そいつらを守りたいとは思わないのか」

「大切な人だったお婆さんは死んだし母親がわりのシスターも死んだ、後は鬱陶しく私の周りに付き纏っている自称友人らしき奴や会えば挨拶くらいはする顔見知りだけだ、そいつらが殺されても私は別に悲しくないし、命懸けで戦う理由にはならない、それに今回敵兵を倒した報酬はいくらもらえるのかな、私は一人で兵士数千人以上の働きをしたと思うんだ、一生遊んで暮らせる金をもらっても文句は言われないと思うけど」

「生意気なガキだ。痛い目に遭いたくなければ言うことを聞け!」

「私に痛い事をすれば貴方達も敵と見做す、やられたらやり返すから覚悟して攻撃しろ、もう何万人も殺したからあと100人殺しても誤差の範囲だ」

「・・・」

「用が無いのならこれで帰る」

このようなやり取りを何回したかな、数え切れないくらいやった、軍への勧誘もあったが断った。




そしてさらに10日後、私は王都行きの馬車に揺られている。

今回の働きで報酬をもらえるようだ、街に持って来いと言ったが王様が直接渡すから王都まで来いと言われた、だから私は気が進まなかったが王都行きを了承した。

えらく物々しい警備だと思ったら迎えの馬車にはこの国の第2王女様が乗っていた、外の景色を眺めている私にやかましく話しかけてくる、一緒に乗っているメイドが「無礼者」と呟き殺気を放っているが無視した。

途中の宿でも王女様に付き纏われた、何なのだこいつは・・・と思ったが相手は王女様だ、波風を立てたくないので徹底的に無視した。

15日ほどかけて私は生まれて初めてこの国の王都に入った、私が住んでいる街とはまるで別の世界だった。

煌びやかな建物、活気のある商店、私があの時敵の兵士達を殺していなければこの王都も瓦礫の山になっていただろうな、これだけ裕福なのに破壊された私の街に救援物資の一つも届けられないのか・・・。




王城に入り客間に通された、キラキラで目が痛いぞ・・・、客間にはメイドが2人、タオルを持って風呂に入れと言う、確かに長旅だったが私には魔導書で習得した浄化魔法がある、ホコリっぽくはないし臭くも無い筈だ、一応入っておくか・・・と浴室に入ろうとするとメイドが一緒に入って来ようとしたから追い出した。

浴室内を防御結界で覆い風呂に入った、まさか媚薬とか入ってないよな、・・・そんなことを考えながら恐る恐る入浴を終えると追い出したはずのメイドが客間に居て着替えろと言う、2人とも私を着替えさせる気満々だ。

「着替えくらい自分でできる、離れてくれ」

そう言って私の周囲に黒い防御結界を張り中で着替えた、結界を解除して視界が晴れるとその先でメイドが腰を抜かしていた、お前ら何がしたいんだよ・・・。

その夜は部屋に豪華な食事が運ばれて来た、メイドが4人に増え、さぁ食べろと見ている。

「なぁ、毒を疑うわけじゃないが君達先に一口ずつ食べてみてくれないか」

・・・メイドが4人とも固まった、目が泳いでいる・・・何が入ってるんだこれ!。

「君たちが食べられない物を食べるわけにはいかないな、下げてくれる?、誰か?に怒られるのなら「腹の調子がおかしいから食べると大変な事になる、今日と明日の食事はいらないと言っていた」とでも報告しなよ」

そして誰も居なくなった・・・飯食って寝るかな。

ベッドに横になり周りに黒い防御結界を張った・・・そして。

「転移・・・」

城に入る前に目を付けていた王都の中央通り近くの屋台、そこに転移して腹一杯食べた。

そう、私だって馬鹿じゃない、無防備な状態で王都に行く筈がない、街に来た貴族達の態度で私が気に入らないのが分かる、王都に来た時に危害を加えられるか、捕まって監禁されるか・・・それくらいは予想できた。

だから私は王都に行くまでの間、転移魔法陣を使いこなせるように練習をした。

最初は一度の転移で魔力切れ・・・だけどコツが掴めたら・・・できるだけ少ない魔力で転移できるコツがあったのだ・・・短距離なら1日に4回くらいは転移できるようになった。

そしてさらに練習を重ね、最終的には1日に10回ほど転移できるように仕上がった。

王都に来るまで外の景色を眺めていたのにも訳がある、王都で揉めたら誰も街に送り返してくれない、だから景色を覚え転移を繰り返して戻れるようにしておいた、途中でやかましい王女が邪魔をして本当にイラついたよ・・・。

それから次の日も、また次の日も怪しい食事が出た、・・・これでもう8日目だ、部屋の外に出ようとすると騎士に止められるし勘弁してほしい、この国に出回っている毒はお婆さんから教わって匂いや色を全部把握しているし、毒消しも持って来ている。

だがこれは毒では無さそうだ、ソースを舌に少し乗せた感じだと・・・普通の人間には分からないだろうが・・・痺れ薬か・・・無力化して、奴隷契約でもさせる気かな?。

「いつまで待たせるの?、報酬くれないのなら帰るよ」

もう顔馴染みになった4人のメイドさんに尋ねた。

「お腹は空きませんか?」

答えになってないぞコラ!、どうしてもあの怪しい痺れ飯を食わせたいようだ。

「減ってないな、毎日屋台の飯を食ってるから」

「え?」

4人とも仲良く動揺した。

「君たちも食べるかい?」

私は昨日屋台で買っておいた肉串の袋をテーブルに乗せた。

「さすが王都だね、屋台の飯も美味い、街の中も一通り歩き回って観光したから飽きてきた・・・あ、そうそう、王都のハンターギルドに登録したよ、見習いハンター!、一昨日から城壁の外で薬草採集してるのだ!」

満面の笑顔でそう言うと、メイドさん4人が仲良く部屋の外に走り去った。
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