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Side - 15 - 47 - あべるさん いち -

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Side - 15 - 47 - あべるさん いち -


ふむ、初めて使ったがいいホテルだ、15年・・・いや9年後もここに残ってるのなら時々利用しようか・・・。

形代(かたしろ)を帰還させて・・・っと、ちゃんと私の代わりを務めてくれていたかな、・・・なになに・・・。

「そうか、あの企画が通ったか、・・・うん?、歓迎会でやばいくらい部長に飲まされた?、相変わらずだな・・・、社員食堂のおばちゃんが風邪でダウン、あのおばちゃんいつも大盛りにしてくれるのにな・・・」

さてと・・・

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」

私は新しい形代(かたしろ)に「印」を込めて九字切りをし、成人男性の姿になった「人形」を再び9年後の高知へ「転送」した。

「これでまた1週間は持つだろう、もう形代(かたしろ)の在庫が尽きそうだ、半紙買って来て人の形に切り抜くの面倒だが・・・仕方ないな、明日文具店で買ってくるか」

幻視の術を解き、黒髪の日本人女性から真っ白い髪の西洋人っぽい姿に・・・。

「やはり異性より同性に変化する方が負担が軽いか、・・・ずっと男性の姿だったがたまには女性として生きるのも良いかな」

ビジネスホテルの椅子に座ってテレビを点ける・・・。

「ほう、香川県のローカル放送面白いな、高知でもこういうのやればいいのに、・・・あ、さっき買った骨付鳥ウマー、ビールも・・・かぁー!美味い!」

「・・・この時代は新札がまだ出てなかったのは迂闊だった、おもちゃと間違われて焦ったぞ、慌てて取りに帰った500円硬貨で払えたからよかったな、向こうで旧札集めておかないと、・・・あぁ面倒くさいなぁ」

はぁ・・・最近疲れる事ばかりだ、私のスローライフどこ行ったよ、そう思ってまたビールを一口。

「恐る恐るって感じだが2023年に時空転移した後1980年にも行けたな、自由に過去未来に行ける私の改造した時空転移魔法陣は良い出来だ、悪い事も出来そうだがあの映画みたいに歴史が変わったらやばいから大人しくしておこうか、・・・全盛期の明菜ちゃんのコンサート見るくらいなら良いかな」




私の名前はアベル・セーメイン、私にとっては異世界であるこの日本で今は会社員をやっている。

私の故郷、エテルナ大陸にあるローゼリア王国・・・私が友人と一緒に作った国だが・・・、そこでは建国の大魔導士と呼ばれていた、まぁ色々あって・・・本当に色々あったのだよ、今は日本とローゼリアで優雅な二拠点生活をしている。

日本での私はしがないサラリーマン、東京や大阪などの大都市圏で満員電車に揺られて通勤するのが嫌だったから高知県にある地元企業で働いている、少し不便なところもあるが魚や酒がとても美味い。

私は昔、友人のあきちゃん・・・いや崇徳上皇と共に讃岐国、今のうどん県だね・・・に初めて渡った時からこの土地に惚れ込んだ、そしてうどん県も含めた四国を私はとても気に入っているのだ。

おや、ここまで私の話を聞いて意味が分からないと思った者も居るだろう、少し長くなるが自己紹介と、何故私が日本で暮らしているのか話をしよう。

私は遥か昔、まだローゼリア王国が国になる前に今のシェルダン領北部の貧しい村で生まれた普通の女の子だ、本当の名前はアメリア、私には唯一他人とは違う能力があった、それは一度見聞きした事項は決して忘れない・・・今風に言うと「チートな能力」だ。

だから村の中では賢くてよく働く娘として見られていた、だが私の村は貧しく両親も病弱、私を可愛がってはくれていたが、飢えには耐えらえず弟妹を食わせる為に私は裕福な農場主に売られた、同じように売られた若者達が農夫として働く農場へ。

そこからは・・・地獄だった、まだ幼いながら自分で言うのもアレだが私は可愛かった、そんな女の子が年頃の息子や精力旺盛な農夫が居る農場に売られた、・・・どんな扱いを受けたかは想像にお任せするが、今でも悪夢を見る程には酷い目に遭った。

私はある日、やってもいない罪を疑われ非道い折檻を受けた、殴られ痛めつけられて畑の隅に放置された、「腹が減ったら戻ってくるだろう、どうせ行くあてもない娘だ」そう言いながら牧場主とその息子は家に戻った。

身体中が痛くて私は小屋の隅に蹲って泣いていた、すると私の目の前にどこから紛れ込んで来たのか初老の男性が現れた、この国の人間ではないのか聞き取りにくい外国語訛りの言葉で。

「大丈夫か、嬢ちゃん、酷い怪我だ」

「・・・」

「すまん、道に迷った、この辺にコンテッサという名の街はないか?」

「・・・ここの外の事は何も知らないの」

役立たずが!と言われまた殴られるかもと震えていた私の顔に水に濡れたハンカチが触れた。

男は何も言わず私の顔を拭き、傷の手当てをしてくれて、食べ物まで恵んでくれた、久しぶりに触れた人の優しさ、だからなのだろうか、私は目の前の男に縋って助けを求めた。

「・・・おじさん、・・・助けて、私、ここに売られて毎日酷い目に遭ってるの、お願いだから・・・私をどこかに連れて行って」

男は一瞬困ったような顔をしたが。

「嬢ちゃん、このまま俺がお前をどこかに連れて行ってもいいのか、家に何か持って行きたい・・・大事なものはないか」

「何もない・・・」

「・・・そうか、じゃぁ雨風の凌げる程度だが嬢ちゃんが普通に生活できる場所に連れて行ってやろう」

そう言うと私と男の足元に光る模様が現れた、この時の私には何が起きているのか分からなかったが、・・・転移魔法陣だ。

気が付くと私は男に手を引かれ、見たこともない街の入り口に立っていた。

「・・・ふぇぇ・・・怖いよぅ・・・今の何?」

男は何も答えず、私を教会に連れて行き、私の方をチラチラ見ながら教会の扉を開けて出てきたシスターに何かの袋を渡して話をしていた。

「・・・じゃぁな、嬢ちゃん、元気でな」

そう言うと男は私を置いてどこかに歩いて行こうとした。

「・・・待って!」

そう叫んで後を追いかけようとする私を、シスターは優しく抱きしめてこう言った。

「もう大丈夫、ここは孤児院、今まで辛かったね、今日から貴方はここでみんなと一緒に暮らすんだよ」

これが私と、私の命の恩人であるドック・フューチャとの出会いだった。




孤児院で過ごす間、私は文字の読み書きや裁縫、その他生きる為に役立ちそうな事を色々教わった、孤児院を兼ねる教会には増減はあったが私を含めて5人の子供が居て私達はすぐに仲良くなった。

ここで過ごした日々は私の人生の中で最も幸せだった記憶として残っている。

普通の勉強の他に私は魔法について興味を持ち、お手伝いの時間以外のほとんどを教会の近くに住んでいる魔法使い?と街の人達から呼ばれているお婆さんの所で本を読んで過ごした。

魔法に興味を持った原因はあの男、この時はまだ名前も知らない私の恩人ドック・フューチャの魔法を見たからだ、この時点で私は小さな・・・魔力量が少なかったから本当に小さな魔法をなんとか使えるようになっていた、私のチートな能力「一度見たものは忘れない」、この能力を使ってお婆さんの所有する魔導書を全て頭に詰め込んだ。

思ったより私が優秀だったからなのか、街の人達を相手に薬や殺虫剤を売っているお婆さんは私に秘伝の調薬技術まで教えてくれた、それから間もなく両親の居ない私と子供のいないお婆さん、2人はとても仲良くなり・・・いつも口喧嘩してたけど・・・、私を養子として引き取ってくれた。

お婆さんの苗字を名乗りアメリア・セーメインとなった16歳の私は店に置く薬の製作、身体を悪くしたお婆さんのお世話、孤児院に新しく入って来る幼い子供達の面倒・・・という感じで忙しくも充実した毎日を過ごしていた。

仕事の傍で私は更に高度な魔法を学び始めた、大きな街だから図書館があって、そこには沢山の魔導書・・・タダで閲覧できるものは火を点ける、水を出す、などの初級魔導書だけだったが・・・それらを全て頭の中に詰め込んだ、他国の言葉で書かれたものは辞書を片手に読んだりもしたから語学も堪能になった。

あの時代はまだ魔法が重要視されておらず、国同士の戦争は騎士や兵士が前線で戦っていた、だから魔法に関する本を熱心に読んでいるのは街で私だけだった。

私の目標はあの男の使った魔法陣を起動させる事、今も私の頭の中に鮮明に残っている美しくも複雑な大魔法陣、あれはおそらく転移魔法陣、あの魔法が使えたら私はどこにでも行ける!、そう考えた私は毎日、孤児院の子達と一緒にあの魔法陣を展開し、起動させようとして・・・そして魔力切れで倒れる日々を過ごした。

友人達は「またアメリアがバカな事やってるぞ」「お姉ちゃん、死んじゃやだ!」「気絶した、ベッドに運べ!」って笑いながらも微笑ましく見ていたな・・・。

私が17歳になり、お婆さんはほとんど起き上がれなくなっていた、私は手を尽くしたがおそらく高齢による老衰、私は残りの日々をお婆さんに寄り添って過ごしていた、そんなある日、この土地は戦火に包まれた。

前から噂になっていた隣国からの侵攻、国境に近いこの街が標的になった、見た事もないような大勢の敵兵士に囲まれ、街は襲撃に遭い、建物は壊された、そして年寄りは殺され、男は捕まり、若い女はどこかに連れて行かれた。

私の家にも兵士が乱入した、そこにはベッドに横たわるお婆さん、カサカサの皮膚に浮き出た骨、誰が見ても老衰でもう長くない・・・。

「騒がしいね、女性の寝室に無断で入るとは失礼な奴じゃな、だが頼みがある、この婆ぁ最後の願いは一人で静かに死にたいんじゃ、金はわずかだが店の金庫に入っている、鍵はここにある、見逃してくれる礼にお前さんにやるからとっとと出て行ってくれないか」

糞尿の匂いが立ち込める部屋に長く居たくなかったのか兵士はすぐに出て行った、店の金庫を持って・・・。

「もう行ったじゃろう、出ておいで」

お婆さんのベッドの下に隠れていた私が出てくると、お婆さんは私の顔を両手で挟み、初めて会った時に私を大声で怒鳴った人とは別人のように優しく弱々しい声で・・・。

「私の衣装箪笥の中に男物の服とお金が入っている、男装して夜の闇に紛れてお逃げ、絶対に捕まるんじゃないよ」

「おばあちゃん・・・嫌だ、一緒に逃げよう」

「私は放っておいてもあと数日でくたばるさ、お前はまだ若い、これから楽しい事をいっぱいするんだ、元気で暮らすんだよアメリア、私の可愛い娘・・・」

そう言って私の頬にキス・・・お婆さんのカサカサの唇が触れた時私は涙が止まらなくなった、そのあと私は言われた通り着替えて・・・それでもお婆さんを置いて行くことが出来なくて、夜になって顔を見ようと部屋に入ったら、月明かりが照らすベッドの上で口から血を流して冷たくなっていた。

自分が生きていると私が逃げない事を知っていたのか、毒を飲んで・・・そして手には紙が握られてこんな事が書かれていた。

(お前の考えてる事など全部このババァがお見通しさ、だから数日早いが先に逝く事にした、お前は賢いからどこででも生きていけるよ、せいぜい長生きしな、死んだらタダじゃおかないからね)




私は泣きながら家を抜け出し街から逃げようとした、だが警備が厳しくて街から出られず捕まってしまった、私を男だと思っていた兵士はフード付きのローブを脱がされた私の顔を見ていやらしく笑った。

これから兵士たちが私に何をするのかバカでも分かる、お婆さんからも男装で逃げろと言われていたし、農場で男達にされた酷い事がフラッシュバックして私は暴れ、足元に何度も何度も起動させようとして失敗した魔法陣が輝いた、遂に成功したのだ。

魔力切れで気絶した私が目を覚ましたのはよく行っていた街の図書館、魔導書の部屋。

建物は半壊、天井が落ちて壁も崩れていた、そして普段は厳重に鍵がかかっていた魔導書の部屋、禁書庫の扉も壊れていた。

敵の兵士達は街から金貨や宝石・・・金になりそうなものを略奪して行ったが愚かにも魔導書の価値に気付く奴は居なかったのか・・・燃やされていなかったのが幸いして荒れてはいたが部屋の中の本は無事だった。

・・・今の時代のように兵士の中に魔導士が居たら全部持って行かれていたであろうそれらの本を月明かりを頼りに・・・そして夜が明けまた日が暮れて・・・腹が減るのも気付かず夢中で全てを頭の中に入れ、・・・そして覚えたばかりの爆炎魔法で魔導書を全部燃やして灰にした。

火の手が上がるのが見えたのか街を警備していた敵の兵士が図書館に押し寄せてきた。

私はそこで・・・生まれて初めて人を殺した。

あの転移魔法陣を一度起動させるだけで魔力切れになっていたのに、頭に入っている攻撃魔法全てを使ってもまだ魔力に余裕があった、どれだけあの転移魔法陣は魔力を食ってたんだって呆れたな。

「あははははは!」

客観的に見てあの時の私は悪魔に見えただろう、襲いかかる兵士を全てあらゆる種類の攻撃魔法で殺した、敵わないと見て逃げ出す兵士の胴体を真っ二つにし、命乞いをする奴の首を落とした。

街の人達が捕まっている広場に悠々と歩いて入り、立ち塞がるすべての兵士を惨殺した、街の人達を全員解放する頃には数千居た敵の兵士は全て死体になっていた。

そしてこの街を足がかりにして王都に兵を進めていた敵軍に「街に駐留している兵がほぼ全滅、化け物が居る!」という知らせが伝わり、慌ててこの街を再び攻める為に戻ってきたが数十万居たとされるその連中も容赦なく皆殺しにした。

敵国から遅れてこの街にやって来た王太子率いる後続の兵も一人残らず殺してやった、後で皆殺しはやり過ぎだと貴族達から批判されたが私は一般人で兵士じゃない、敵を殺すなとも捕まえろとも命令されてないし、襲われたから返り討ちにしただけだ。

この日を境に私は国の英雄になり、敵国にとっては悪魔になった。
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