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Side - 531 - 3 - とうばついらい -

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Side - 531 - 3 - とうばついらい -


チュン・・・チュン・・・

「んぅ・・・朝?」

私はふかふかのベッドから起き上がり伸びをして周りを見渡します、私の大好きなものだけが置いてある明るくて居心地のいいお部屋・・・文明社会から遠く離れた私だけの秘密のお家なのです。

「ん・・・ふぁー・・・まだ眠いや」

二度寝をしようかと思ったけど、考え直して私はゆっくりと起き上がり、ベッドの脇に置いてある眼帯を左目に、背中まである長い銀髪をリボンで無造作に一つにまとめて。

「よっと・・・」

コトン・・・コツ・・・コトン・・・コツ・・・

左足が不自由なので、寝ぼけて転ばないように杖を使ってゆっくりとお台所へ、・・・今日は何をしようかなぁ、畑のお野菜に水をあげて、食べ頃の果物も収穫しようかな、・・・あ、ゲームのイベント今日からだ、やらなきゃ・・・次第に眠っていた頭の中がはっきりしてきます。

魔法で沸かしたお湯をお気に入りのポットに注いで、茶葉がゆっくりと開くのを眺めます、いい香り、昨日作ったハムとソーセージを挟んだパンを冷蔵の魔導箱から出して齧りながら思わず口にした言葉。

「・・・いい朝なのです、とっても気持ちいい・・・」

このお家が、一人になれる贅沢な時間が、私が500年努力してやっと手に入れたもの、小さな頃から夢見ていた理想の引きこもり生活・・・。




ピピ・・・

「ん・・・通信?」

のんびりと朝のお食事をしていると隣のお部屋から着信音、私の憩いの時間が邪魔されたようで気分が悪いのです!、お茶のカップとパンが乗っていたお皿を洗浄の魔道具の中に放り込み、私は隣のお部屋へ。

机の上に置いてある照魔鏡(ゴーグル)を装着し、水晶モニタァを起動。

「私宛のメッセージ・・・緊急呼び出し、王城から?・・・ぐぬぬ・・・朝の爽やかな気分が台無しなのです!」

私は椅子から立ち上がり。

「お着替え・・・あぁもう面倒臭いからこのままでいいや!」

上下とも私の身体にピッタリとしたサラサラ生地の白いレギンス風ボディスーツ、その上から王国魔法騎士団の制服・・・ローブを羽織り、ブーツを履いてお部屋の隅に設置してある転移魔法陣に、・・・ローブの袖が捲れて私の両腕に装着された外れない腕輪が朝日を浴びてキラリと鈍く光りました。




転移先は新王都にある王城に用意された私専用のお部屋、魔法陣から出て辺りを見渡すとお部屋の中には男性の魔法騎士様が一人、見た事がない人なのです!、怖いのです!。

その騎士様から視線を逸らして俯いていると・・・。

「白銀の大魔導士様、お初にお目にかかります、私、新しく第二魔法騎士団長に就任したカインズ・チッチャイコスキーと申します、陛下がお待ちです、謁見の間へお連れしろと命じられております」

小さく頷いて魔法騎士団長の後ろに着いて謁見の間に向かいます。

「・・・」

「・・・あの!」

ひぃっ!、話しかけられたのです!、身長差があるから私の頭の上から声がします、・・・どどど、どうしよう!、人見知りを拗らせてるから知らない人と話すの本当に怖いのです!。

「えと、大魔導士様?」

お・・・お返事しないと!、何か用ですかって・・・。

「・・・何?」

「・・・い、いえ!なんでもありません!」

用がないなら声をかけるな!なのです!、もう今日は今の会話だけで疲れ果てたのです!、私は早く帰りたいのです!、帰って私が開発したオンラインゲームで遊びたいのです、・・・そう叫びたい気持ちを抑えて私と向き合っている騎士団長を見上げます。

「ひっ!」

いや、ひっ!って何だよ!、声かけられたから反応しただけなのです!、私は悪くないのです!、再び騎士団長が歩き出して謁見の間の前に着きました、重厚な扉の両脇に立つ騎士様に何か言っています、騎士様が中に入って・・・しばらくすると出てきました。

「お入りください」

騎士団長を見ると私の後ろに立っています、・・・先に入れという事でしょう、あぁ・・・気が重い、やだなぁ、入りたくないよぉ・・・。

悩んでいると扉の両脇に立っている騎士様が「早く入れよ」って言いたそうなお顔になってるのです・・・、お部屋の中に入ると朝早いのに宰相や文官、主要な貴族家の当主が周りの席に座っています、シェルダンの当主もいますね、徹夜でしょうか、みんな疲れたお顔をしているのです、・・・こんなに人が居るなんて聞いてないよ・・・本当に一体私に何の用なのでしょう・・・。

謁見の間の中央には豪華な椅子があって陛下が座っています、私が入ると周囲に座っている人達がざわつきます、私は定位置まで進んで跪き、臣下の礼をしました・・・やば、これローブの中が見えちゃう・・・。

「リゼお姉・・・いや、白銀の大魔導士殿、わざわざ来てもらって済まない、頭を上げてくれ」

「・・・はい」

私は顔を上げ、立ち上がって壇上に座っている陛下と向き合います。

「実は頼みたい事がある、討伐だ、我が国の東端にあるセレステ領にポイズンドラゴンが出た、おそらく別大陸からやって来たのだろうが毒を撒き散らして騎士が近付けない・・・どうだ、できそうかな」

私は頷きました。

「・・・陛下に対して何だあの態度は」

「あんな子供が・・・」

「本当に討伐できるのかよ」

周りの人達からヒソヒソと私に対する言葉が聞こえて来ます、何でわざわざこんな所まで来て文句を言われないといけないのでしょう?、私は来たくなかったのです!、お家でゴロゴロしたいのです!。

「黙れ!、文句があるなら私が聞こう、それともお前たちが代わりに討伐してくれるのか!」

あーあ、陛下怒っちゃった・・・、そんなに怒ると禿げるのです・・・、そして私に向かって。

「済まなかった、リゼお姉・・・じゃなくて白銀の大魔導士殿、詳しくは今ドラゴンの対応をしているセレステ家に行って聞いてくれ、万が一にも無いとは思うが・・・気をつけてな」

「はい、承りましたランドールくん・・・じゃなかった陛下・・・、あのお屋敷は知っておりますので、・・・今から行って参ります」

そして私はみんなの前でセレステ家のお屋敷に直接転移したのです。




「・・・討伐終わったのです、討伐証明の角はこちらに」

ゴトリ・・・

早々にポイズンドラゴンの首を落とし、再び王城、謁見の間に転移して戻ります。

「・・・なん・・・だと・・・」

「早すぎる!、いくらなんでも嘘だろ!」

「信じられん・・・俺が小便行って帰ってくる間にもう終わったとか・・・いや・・・失礼」

また周りでヒソヒソと声が聞こえるのです・・・。

「相変わらず仕事が早いな、瞬殺か・・・リゼお姉・・・じゃなくて白銀の大魔導士殿、セレステ家当主は無事だったか?」

「・・・いえ、屋敷の前に転移したら遠くにドラゴンが見えましたので・・・直接森に行き殺してすぐに戻りました、会っていません」

「なっ・・・ドラゴンの死体は?」

「首を落として森に放置しています・・・、死んでいるからこれ以上毒は撒き散らさないかと・・・」

「・・・一人で行かせた私のミスだ、・・・今すぐ騎士団を向かわせろ、転移魔法陣で急いで行け!、死体の回収とセレステ家当主に経緯の説明を・・・」

バタン!

「も・・・申し上げます、セレステ家当主より緊急報告!」

「何だ・・・内容は予想できるが・・・」

「今まで森で毒を撒き散らしながら暴れていたポイズンドラゴンの首が突然落ちた、ドラゴンの死亡を確認、何があったのかは不明、調査中との事です!」

「・・・分かった、騎士団がそちらに行って経緯を説明すると伝えよ、それからリゼお姉・・・白銀の大魔導士殿、すまんがもう一度騎士団とセレステ家に行き、向こうの当主に今回の経緯を報告する間、横で居てくれないか、立ってるだけでいい」

「・・・はい」
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