〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜

柚亜紫翼

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Side - 302 - 5 - みりあ -

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Side - 302 - 5 - みりあ -


「お父様!、後ろ!」

森に出た魔獣の討伐に来ていた私は大物を仕留めて油断していた、人間の背丈と同じ大きさだが鋭い爪と牙を持った凶暴極まりない二足歩行の狼魔獣、もう一匹後ろにいたのに気付かなかったのだ、この南の辺境を守る精鋭の騎士達からは距離がある、やばい!。

振り向き大剣を構えようとした私の前にミリアが立ち塞がった、魔獣の爪はもう目の前だ、彼女が居なかったら私の身体は引き裂かれていただろう、両腕で顔を庇い魔獣の爪を受け止めるミリア、・・・私の可愛い娘だ。

魔獣の力の方が強かったか・・・、ミリアの右腕が千切れた、それを口に咥えて喰らい始める魔獣、右腕を失っても怯む様子の無い我が娘が獣のように姿勢を低くして魔獣に飛びかかった、速い!、赤く光る目、爪で腹を貫かれても・・・まるで痛みを感じていないかのように、魔獣に馬乗りになり顔面を鷲掴みにして・・・。

「っく・・・・うわぁぁぁ!」

叫ぶ声と同時にミリアの左手に掴まれた魔獣の顔が鈍い音と共にグシャリ・・・と潰れた、同時に最後の抵抗か、魔獣がミリアの腕を強く掴んだ、それが気に障ったのか狂ったように魔獣の死体に攻撃を始めて・・・拳が血に染まり、潰れた内臓が飛び散る、まずいな、集まって来た騎士達がドン引きだ。

「もういいやめろミリア!、・・・凄まじいな・・・おいミリア、大丈夫・・・では無いか・・・」

私は現場を騎士達に任せようと副団長に声をかけた。

「これで大体片付いたか、後の始末は頼んでいいかな」

「はっ!、お任せください、団長」

副団長と少し言葉を交わし、そして先程殺した魔獣に跨ったまま目を閉じて眠っているように見える娘・・・ミリアの右腕の一部と、・・・娘が大切にしていた愛用の剣を回収、そっと抱き上げて馬型四足歩行魔道具、軍用アイヴォウに跨り屋敷に向かった。

「んぅ・・・お父様ぁ・・・」

目を閉じたまま私の胸にゴロゴロと頬を付けて甘える娘、先程の恐ろしい戦闘が嘘のように愛らしい仕草だ。

「もうすぐ屋敷だ・・・」

屋敷に到着すると妻が出迎えてくれた、息子はまだ騎士達と共に現場に残っている。

「ミリアちゃん!、・・・あぁ・・・いやぁ・・・私のミリアちゃんが!」

「落ち着け・・・」

「・・・お母様ぁ・・・ただいま・・・」

「ミリアちゃん・・・」

「私、・・・お父様を守ったよ・・・褒めて・・・」

「よくやったね、おかげで助かったよ、可愛い私の娘・・・ありがとう、ミリア・・・白銀の大魔導士様に連絡しないとな、一人でベンダル・ウルフを17匹、・・・我々の予想以上に凄い戦闘力だ」




「白銀の大魔導士様から返信か・・・戦闘モードを解除して、様子を見てほしい、・・・だが・・・そんな事をしたら痛みが・・・、いやこれも重要なデータになるのか」

私は部屋に寝かされているミリアのところに行った。

「ミリア、戦闘モードを解除するよ、痛みがあると思うが我慢してね」

「え、・・・痛いの?・・・いや・・・」

「戦闘モード解除」

「あ・・・あぁ・・・、いやぁ!、痛い!、痛いの!、腕が・・・お腹が、・・・やぁ・・・お父様助けて痛いよぉ!・・・わーん」

「ミリアちゃん!・・・ひぃっ」

娘は床を掻き毟って痛みに耐えている、悲鳴を聞いて妻が駆けつけてきたか、これを見せるのは酷だな。

「白銀の大魔導士様からの指示だ、痛がっている状態を見て気付いた事を報告せよと」

「お母様ぁ、痛い!、うわぁぁん!・・・すごく痛いの、お願い助けて、・・・ぐすっ・・・痛いのいやぁ・・・」

「でも、ミリアちゃんが・・・こんなに痛がって」

「大丈夫だ、バックアップは30日前、この「痛い」という記憶は消されて残らない筈だ」







「・・・で、量産型の「リン」初号機を誰かに預けて実地検証したい・・・と」

「・・・はい、「リン」の一般販売は考えていないのですが・・・、元々の目的である・・・子供を亡くした親のために、・・・という需要があれば貸し出しという形で対応したいと・・・考えています」

「売るのではなくて、貸し出しか、・・・悪い事に使おうとしていた奴らからは不満が出そうだね」

「はい、・・・なので販売もします、貸し出し価格の1000倍の値段で、・・・貸し出しの子は行動全て私が把握できます、販売された子は把握できないようになりますから、・・・文句があるなら買ってくれれば好きにできますよって・・・」

「ははは、やるなぁ、考えることがえげつない、1000倍だと王家の財力でも買えないよ、中規模の国が買える値段だ」

「定期的に必要になるメンテナンスの値段も消耗品の価格も1000倍です、なので誰も買わないかと、・・・貸し出しなら私の管理下の子達なのでメンテナンスも安価になり、どのような使い方をされたか分からない販売の子は高くなって当然です、何しろ開発に100年以上かかったのですから、・・・と公表する予定です」

「買えると喜んでいた奴らがどんな顔をするか楽しみだな」

「プロトタイプの子にあった問題点も解決しています、その点はあまり気が進まなかったのですが・・・」

「人間らしくし過ぎて、自分が消されそうに・・・殺されそうになると、死にたくないから相手に危害を加えるっていうやつだね」

「はい、一般の人達に使ってもらうので、危害を加えるというのは絶対にあってはならないのです、だからかわいそうだけど、人間に危害を加えようとした時に激痛を与えるようにしています、痛覚も人と同じにしていますので、・・・のたうち回って泣き叫びます、痛いって・・・」

「リィンたんも同じように痛がるの?」

「ううん、お父様、私とリンちゃんの身体はプロトタイプだからその機能はないよ、量産型の子達だけ、でも試験的に私が量産型に入って機能チェックしたんだぁ・・・もうありえないよ!、リゼちゃん事前に何も言ってくれなくて、私を思いっきり殴ってって・・・リゼちゃんは腕輪あるから大丈夫だろうって思って殴ろうとしたら、・・・もうやばいの!、痛いなんてもんじゃなかったよ、涎と涙と鼻水ダダ漏れで泣き喚いちゃった、おしっこする機能があったら漏らしてたよ!、あんな痛いのもう嫌、信じられない!」

「でもそれなら護衛には使えないね、人を攻撃できないんだから」

「そうですね・・・、でも普段から愛情を持って接していれば、主人に危険が迫った時には・・・多分自分の身体を盾にして守ると思います、耐刃、耐魔法に優れているボディなので、・・・それに壊れてもバックアップしていれば身体は新しくできますから、・・・でも痛覚があるからトラウマになったり・・・心のケアが必要になるかもしれませんが、その点は記憶から上手く抹消出来るかなって・・・それから・・・普段粗末に扱っていれば主人が危ないって思っても守らないかも・・・」

「その辺は人間と同じか・・・」

「私もお父様が危ない時は盾になるよー、痛いのは怖いけど、プロトタイプは痛覚遮断したりリミッター外せるからね、それに死なないし身体の替えがあるから大丈夫」

「いやリィンたんはそんな事しないで!、怪我したら私が悲しい」

「・・・えー、腕を切り落とされても大丈夫なのに・・・」
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